第七話
我々が案内役から授かった地図を頼りに、歩を進めると、目の前に大きな川が立ちはだかり、そこに一本の橋が架かっていた。
橋近くの看板には『魔物の橋』と記されている。
この大きな川に魔物が住んでおり、橋を渡る者たちを引きずり込んで食らいつくそうとしているのか。
あぁ、恐ろしい!
私が武者震いをしていると、チビッコ賢者が現れて
「あれれ~? おかしいぞ~? 」
と、妙ちくりんな声をあげた。
「どうした? 賢者。何かひらめいたのなら、言ってみるがいい」
私は勇者だ。
チビッコの前では、常に堂々としていなくてはならない。
「何だ? しげぞうのくせに偉そうだな」
チビッコ賢者よ。
お前も私の事を、しげぞうと呼ぶのか。
賢者は看板に近づき、看板に貼っていた紙をベリベリと剥がしだした。
下から現れた文字には、
『アスレチックその1 グラグラ橋』
と、記されていた。
「なーんだ。ただのアスレチックコースの使い回しかよ。運営も手を抜いたなー」
チャラ男がチャラい顔でチャラい事を言っている。
「待て。魔物の橋が、グラグラ橋だったとしても、危険なことに変わりはない。グラグラ橋はグラグラするのだから」
「何言ってるの? さっさと渡るわよ」
クッ!
僧侶の目には、もはや私が勇者として映っていないのか。
突然、旅芸人が叫んだ。
「オイラ、高い所、苦手なんだなー」
旅芸人、そんなしゃべり方だったの?
「アタシも苦手ー」
戦士のオッサン、アンタもそんなキャラなの?
「もういい! 私が先に渡るから、アンタ達はついて来なさい」
僧侶がスタスタ行ってしまった。
「フゥ~! 俺は平気さ」
チャラ男が続く。
「もう! 必用以上に揺らすんじゃねーよ! 」
僧侶、グラグラ橋の上でチャラ男に体当たり。
『カラーン……』
チャラ男が持っていた黄金の剣が吹っ飛ばされ、奈落の底に。
「あぁー。あの剣、結構高かったのに……」
「ゥルサイ! 」
愚か者のチャラ男よ。チャラチャラしていたことを、少しは悔いるが良い。
次に渡ったのは、チビッコ賢者。
「こんなの、朝飯前ですよ」
さすが賢者。
何やら難しい言葉を繰り出して、スタスタ歩いていった。
残るは、私とオネエ判定Bのオッサン戦士と、旅芸人。
三人は力を合わせ、手を握り合って渡る。
オネエ判定Bのオッサンと手を握るのは、少し複雑だったが、そんな事を言っている場合ではない。
「しげぞう! ステテコ姿でヨロヨロしてんじゃねーよ! 本物のジジイかよ!」
僧侶がヤジを飛ばしていたが、これは彼女なりの応援なのだろう。
ありがたく頂いておこう。
三人とも、渡りきった。
三人とも、頑張った。
三人の心の中で、あたたかい何かが生まれた。
それが恋心でないことだけは、ここで断言しておきたい。