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第十二話

 我々は、暖を取り鋭気を養った体で今日の宿へと向かった。


「こ……、これは!」


 目の前にそびえる巨大な館に、我々は驚愕した。


「ホテル竜宮城……」


 何故、雪山に竜宮城?


 いや。爺さんが言っていた。

 その昔、千年の眠りについた伝説の竜の祠が、この地上の果てにあると。


 ついに我々は、その世界へ足を踏み入れようとしているのだ。


 これぞ冒険ファンタジー。

 皆さん、お待たせいたしました。


 私は武者震いと寒さで震える足を、一歩、また一歩と進め、おぞましき竜の住まう館の扉を開こうとした。


「シゲゾウ、へっぴり腰でノロノロするんじゃねーよ。

 早く部屋に入らないと寒いだろうが!」


シャラップ! じゃじゃ馬娘。


 竜の生け贄になっても良いのか。

 古今東西、竜神様の生け贄はピチピチの生娘と決まっている。

まあ、こんなじゃじゃ馬娘。竜神様の方からお断りされるだろうけど。プププ。


「シゲゾウ! ニヤニヤするんじゃねーよ!」


 じゃじゃ馬娘、勇者に体当たり。


『ガー……』


 体勢が崩れ、扉の前に倒れ込むと、扉が勝手に開いた。

 あ……、自動ドアだったのね。


「ようこそ、お越しやすー。

 勇者御一行はん(Aチーム)どすか?」


 館の奥から、着物に身を包んだ女が現れた。

 

 さては竜の使い魔か?

 それとも生け贄として捕らえられた村人Eなのか?


「さあさあ。Bチーム様はんは先に到着して、お食事を召し上がっていらっしゃいますよ。

 Aチームはんも、お部屋にご案内するぞなもしー」


 何だ? この妙ちきりんな言葉遣いは?

 これも竜神の仕業なのか?


 我々は、妙ちきりんな言葉遣いの着物の女に導かれ、館の奥へと足を踏み入れた。


「隊長はん。赤と青やったら、どっちがお好みざんす?」


「え? 赤でっせ?」


 私は隊長ではなく勇者なのだが、この妙ちきりんな着物女の唐突な質問に、つい妙ちきりんな返事をしてしまった。


「ほな、こっちや」


 我々は着物女に促されるまま、扉の前に立った。


『赤まむしの間』


 さすが竜神の館! ネーミングが斬新!


 この先、何が待ち構えているのか……。

 ワクワクしますよ、お父さん。


 私が勇気を振り絞って『赤まむしの間』の扉を開くと、目の前に畳の間が広がっていた。


「ちなみに『ブルーマウンテンの間』は、洋室でござんした」


 わー、何それー。聞いてないよー。先に言ってよー。

 和室と洋室だったら、絶対洋室を選んでいたよー。


 何を隠そう、私は一度もフカフカのベッドで眠ったことが無いのである。


 私の部屋には、万年床の煎餅布団が敷かれている。

 ベッドに憧れて、漫画雑誌を重ねた上に布団を敷いた『なんちゃってベッド』で眠ったことがあるが、翌朝、腰がやられるわ、


『ベッドの上で飛び跳ねてみたい』


という衝動に刈られ『なんちゃってベッド』の上でジャンプをしてみたら、雑誌が崩れて滑って転んで股間を強打するわ……、とにかく苦い思い出しか無いのである。


 はぁ? どういう体勢で股間を強打するんだよ?

と、疑問に思われた方は、一度試してみるといい。

 約三パーセントの確率で股間にヒットしますから。


 ああッ! 悔しいッ!


 私が畳に向かってジャンピングパンチをお見舞いしていると、


『シュー……、コー……、シュー……、コー……』


 大変ッ! 僧侶様の怒り警報発令中!


「何故私が、この、むさ苦しい男どもと同じ部屋で寝なければならぬのくわー!」


 はわわ……。僧侶様、滅茶苦茶ご立腹!


「女将さーん。ブルーマウンテンの間、プリーズ!」


「すんまへん。

 他に空き部屋がありまへんので、これで堪忍しとくれやす」


 えぇー? ブルーマウンテンの間は何処へ行った?

 こんな大きな金屏風を渡されても……。


『ズガガガガ……』


 何と言うことでしょう。

 僧侶様、金屏風で十二畳の部屋を、あっという間に六畳六畳に間仕切りました。


 いや。人数的に可笑しくないですか?

 僧侶様一人と、男ども五人ですよ?

 ちゃっかりしっかり、マウンテンビューな窓とテレビがある側を陣取っているし。


「お前ら、こっちに入って来るなよ!」


 いえ。絶対入りませんけれど。


 それにしても、この金屏風。やたらめったら眩しいな。

 芸能人などが、結婚記者会見する時などに使うやつだよね。

 チャラ魔導士の黄金の鎧に挟まれると、全然落ち着かねー。


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