第十話
チャラ魔導師・チャ魔は、気力と体力とファンタジーの力で無事、生還を果たした。
どうせなら、ついでに向こう岸に上がれば良かったが、我々のいる側に戻って来たので、無駄に体力を消耗しただけだった。
無駄の極み。
「うぅ……。寒い。死んじゃう」
当たり前だ。
真冬の川に入水したのだから。
「おい、シゲゾウ。何とかしろよ」
えぇ~? また私ですか?
アナタ、アウトロー・のび太ですか?
傷付いた者の手当ては、僧侶様の役目では……。
ハッ! いかん!
僧侶様のフルアーマーから湯気がっ!
「魔導師よ。私の着替え用のパンツを貸そうか?
言っておくが、新品だから安心したまえ」
そう。私はクリスマスのために、とっておきの赤いパンツを買い求めていたのだ。
ドテラの赤、ジャージの緑、パンツの赤! メリークリスマス!
ちなみに、今履いているのは『ピンクの猫パン』である。
『ピンクの猫パン』? 何それ? と、思った方は、第一章から読み返していただきたい。
「勇者。気持ちだけいただいておくよ。俺、トランクスは苦手なんだ……」
え? チャ魔って、ブリーフ派なの?
「ボクサーパンツでないと、落ち着かなくてね」
え? ボクサー? 何それ格好いい……。
「あー、分かるわー 。私もトランクスは、ちょっとねー……」
オネェ戦士の意見は求めていない。
「拙者は、越中ふんどしでござる」
忍者の下着事情なんて、正直どうでも良い。
私は赤パンをナップサックの中にヒラリと収めた。
「おい、お前ら。女子の前で、パンツの話で盛り上がってんじゃねーよ。セクハラか? 」
僧侶様の湯気が半端なく噴き出している。
怒りの沸点が……! アワワワワワ……。
「本当にアウトよッ! 」
健全なストーリーを目指す私としては、オネェ戦士の方が完璧アウトだと思うのだが。
「あ。何か体がポカポカしてきた! 」
チャラ魔導師は、僧侶様の怒りのエネルギー熱によって体が温まったようだ。
僧侶様、レベルアップ。『怒りの保温』を覚えた。
そろそろ川のくだりを何とか解決せねば……。
Bチームから離されていくばかりか、読者も離れていくだろう。
さて、ボロボロ橋は渡れないという事だけは分かった。どうしよう。
「拙者、水蜘蛛の術が使えるでござるよ」
おお。さすが忍者。
ところで『水蜘蛛の術』って何?
「水蜘蛛の術。木で作られた丸い板に足を乗せ、アメンボのように水上を歩く術ですね」
おお。さすが賢者。解説ありがとう。
でも忍者、アンタ一人しか渡れないよね?
我々は、どうすれば良いのだ。
「お先に失礼するでござるよ。ドロン」
わー。酷いなー。
忍者は賢者の説明どおり、丸い木の板に足を乗せ水上に浮かんだ。
「助けてでござる~」
忍者、流される。
川だからね。流れるよね。
戦士、トゲトゲボールを投げる。もう助けなくて良いと思うのだが。
「寒いでござる。死ぬでござるよ」
ござるござる、うるさいでござるよ。
「シゲゾウ、何とかしろよ! 」
何? また私?
先程と同じ展開ですよね?
これってデジャヴ? それとも私、未知なる世界の扉を開いた? ここから奇妙な物語が始まる?
はッ……! 僧侶様のオツムから湯気が……!
「寒いでござる。この程度の熱気では、装備がびしょ濡れでポカポしないでござるよ。もっと熱気を出して欲しいでござる」
「シュー……、コー……、シュー……、コー……」
やめてー。
忍者、これ以上僧侶様を怒らせないでー!
僧侶様、今にもマグマを噴き出しそうな勢いですよ。
はわわわわ……! 何とかせねば!
私は今一度、ナップサックの中を引っ掻き回した。
あ。マッチ発見。ジイさん、ありがとう。
私は、そこら辺の小枝をかき集めてマッチを擦った。
何故、勇者が皆の尻拭いをせねばならぬのか。
「あれ? 火が点かない」
「当たり前ですよ。雪のせいで木が湿っているうえ、先に種火を作らなくては火はおこせません」
解説サンキュー、賢者。
言っている意味が、一ミリも分からなかったが。
「シゲゾウ、マッチとドテラをよこせ」
え? 何? 何? キャッ!
私は僧侶様からマッチとドテラを強奪された。
僧侶様がドテラの袖を引きちぎり、それに火を点けた。
私のドテラの袖は勢いよく燃え上がり、僧侶様はその火の上に木の葉や小枝を置いた。
「おお。温かいでござるよ。生き返るでござるよ」
哀れ。私のドテラは忍者の命と引き換えに、チャンチャンコに姿を変えたのであった。




