第七話
「さあ! いざ参ろうではないか! 」
私は腹巻きに挟んでいた黄金の剣を抜き、天に向かって突き上げた。
黄金の剣が太陽の光を反射して輝きを放った。
私、今、とてつもなく格好いいですよ?
「……」
チッ! 誰も返事すらしない。
「えいえいおー」とか「ふんがー」とか、何か掛け声があるでしょうよ。
私は黄金の剣を腹巻きに収め、何事も無かったように歩き始めた。
「ところでさ、勇者」
チャラ魔導士が、声をかけてきた。
何が「ところでさ」なのだ。
先程の私の勇姿を華麗にスルーするとは、生意気な。
「俺の魔法の杖がバージョンアップしたんだぜ? 」
何ぃ? 『シゲゾウステッキ』からバージョンアップしただと?
チャラ男のくせに生意気な。
「シャッキーン! 」
ぷぷ……。自分で効果音出してる。
「シャッキーン! 」とか、口で言ってる。
「黄金の杖~」
チャラ男が振りかざした武器は『シゲゾウステッキ』を金色に塗装しただけの、ただの金色の『シゲゾウステッキ』であった。
直前に慌てて塗装を施したのか、シンナー臭いし、塗りムラがあるし、チャラ男の手のひらも金色だし。
「うむ」
私は大人の対応をしてやった。
それにしても、AグループもBグループも皆同じ場所に向かっているので、和気あいあいとしていて遠足状態だ。
おネエ戦士など、旅芸人と酢コンブと飴玉を交換しているし。
地図通りに歩いていると、早速魔物が現れた。
今回、魔物の登場が早くない?
運営、張り切っているな。
魔物は突然、勇者であるこの私目掛けて突進してきた。
私はヒラリと身をかわした。
魔物め。一番に勇者を狙うとは、なかなかの強敵とみた。
「み……、ミノタウルス! 」
ヘッポコ魔導士が叫んだ。
ミノタウルス? ……て、何だ?
「これはミノタウルスではありませんよ。ミノタウルスは、頭が牛で体は人間の化け物です。
これは、頭も体も牛だから、ただの牛です。真っ黒い牛だから、乳牛ではなくて、黒毛和牛あたりかな……? 」
サンキュー賢者。
後半あたりの説明は、どうでも良かったが。
それにしても何故このミノタウルスは、私ばかりを狙ってくるのか?
ヒラリヒラリとかわしても、何度も私に向かってくる。
あ! Bグループが、その隙に逃げていく。
酷い!
旅芸人に至っては、薄ら笑いを浮かべながら逃げているし。
昨日の友は、今日の敵!
「クッ……! 」
いくら身をかわすのが得意なこの私でも、さすがに体力の消耗が……。
「勇者! これを食すでござるよ」
忍者が何かを投げてきた。
私はそれをキャッチし、口の中に放り込んだ。
素早さがアップする的なアレですか?
「ぐはぁ! 不味い! 」
「それは、お腹が空いた時に食べる忍者飯でござる」
私、今、そんなにお腹が空いていません。
何ならミカンの食べ過ぎで、尿意をもよおしているぐらいです。
「クッ……! 無念……! 」
私が意識を失いそうになった時、
「シゲゾウ! その赤いドテラを脱げよ! 」
と、僧侶の声が聞こえた。
え? 赤いドテラを着ているから狙われていたの?
「そりゃ! 」
私は僅かに残された力を振り絞り、ドテラを脱ぎ捨てた。
黒毛和牛は、ドテラに向かって走っていく。
私は雪の上に倒れた。
壮絶な戦いは、ピリオドを打った。
多分、レベルが上がったよね。レベル5相当上がったよ……ね……?
「花子~、花子~、ここにおったのか~」
村人Dが現れた。
何? 脱走した牛だったの?
「花子~、帰るぞ~」
牛は村人Dに引かれ、帰っていった。
残された赤いドテラは、花子のヨダレでベタベタだ。
「うわっ! 臭っ! シゲゾウ、近寄るな! 」
僧侶様のおかげで一命を取り止めた私は、何も言わず赤いドテラを羽織った。




