第三話
「皆さん、お疲れさまです。現地に到着しました」
私はバスのアナウンスに起こされ、バスをヒラリと飛び降りた。
辺り一面銀世界。
山と言えば、つい叫びたくなるあの言葉。
「ヤッホーゥ……! 」
私は即座に村人Aと村人Bに取り押さえられた。
「む。何事ぞ!
勇者を縛り上げるとは失敬な! 」
私は後ろ手に縛られた縄と格闘しながら叫んだ。
まさか村人Aと村人Bが悪の権化だったとは……!
これから魔王の城に連れて行かれ、殺され、転生して、物語がスタートする的な、ストーリーを重視しました的な、アレですか?
やりますな。運営さん。
「あー。だからね、雪山では叫ばないで下さいよ。
雪崩がおこりますからね」
村人Bが呆れ顔で私の縄をほどき、旅のしおりを手渡した。
私、赤面。
「お! しげぞう! 」
遠くから、耳慣れた声がした。
振り返ると、殺人蜂用のハンタースーツに身を包んだ者が、遥か彼方から猛突進してきた。
女僧侶だ!
私は咄嗟に、ヒラリと華麗で鮮やかに身をかわそうとした。
が、しかし、相手も直前で方向転換をしたため、結局私は五メートル先へ吹っ飛ばされた。
まあ、正確に距離を測った訳ではないので、五十センチ程度だったかもしれないが。
この小説を初めて読まれる方なら、
『お互いが道を譲り合って、結局ぶつかってしまう、思いやりが生んだ、素敵なハプニング』
と、頭の中で想像してしまうかもしれないが、第一章から、ご愛読いただいている読者様なら、彼女がわざとぶつかってきた事ぐらい、お察しいただけるだろう。
彼女は明らかに、私を狙っていた。
あな、恐ろしい。
僧侶はフルアーマーを脱ぎ、キュートな笑顔で
「あ、ゴメーン。このスーツを着てたら、いまいち距離感が掴めなかった」
と、悪びれもせずに言い放った。
人と挨拶をする時や、人のお宅に上がり込む時は、装備を外しなさいと、親御さんに習いませんでしたか?
だが、災いもって福と成す。
彼女の視界が悪かったのならば、先ほどの勇者の失態を見られずに済んだだろう。
女とは、どんなに小さな失態でも一生をかけてネチネチと言ってくる生き物だ。
くわばらくわばら。
「ところで、しげぞう。
何で縛り上げられていたんだ? 」
あ。今回の旅、リセットできませんか?




