最終話
我々はラスボス……、もとい、バアさんを人間に戻し、無事、ゴール地点に辿り着いた。
帰りのバスが待つ駐車場には、色画用紙で作ったであろう王冠を頭に乗せた、七三分けのオッサンが立っていた。
もう、何もかもが雑すぎる。
王になりきった七三分けのオッサンは、
「アー、勇者たち。エー、長旅ご苦労であった」
と、かなりの棒読みで、台本を読み上げている。
遠足後の校長の話のように、苦痛な時間が流れる。
頼むから、クーラーがガンガンに効いたバスに早く乗せていただきたい。
「ウー、勇者たちよ。エー、長年村人たちを苦しめ続けてきた山賊を、オホッ、みごと倒し……、げほっ、げほっ……。あー、あー」
どこかで野焼きが始まったようだ。
辺り一帯が煙たい。
それよりバアさん、山賊設定だったの?
ここらへんの住民に、かなり迷惑をかけていたようだな。
七三分けのオッサンは、一旦ペットボトルの水を飲み、適当に台本を飛ばした。
「オー、ここに、エー、勇者の証を授ける」
七三分けのオッサンが、指をパチンと鳴らすと、バスの運転手が、バスから『宝箱』と書かれた段ボール箱を持って降りてきた。
七三分けのオッサンが、バスの運転手に千円札を渡すと、バスの運転手は、のそのそとバスに戻っていった。
「アー、勇者よ。ウー、開けるが良い」
「ホラッ。勇者、開けろよッ」
チャラ男がウインクしながら、肘で私の肩をつついてくる。
黄金の鎧が高温になっているので、やめていただきたい。
「いや。私は勇者などではない。一瞬、皆を捨て、逃げようとした臆病者だ。
それより魔法使い、お前のステッキさばきは見事なものであった。お前こそ、真の勇者に相応しい」
「なーに言ってるんだよー」
チャラ男が照れながら、私の肩に手を乗せた。
『じゅぅぅ……』
だから熱いんだよ。その鎧。
「もう! アンタたちが開けないのなら、私が開けるわ。金目のものなら、全部私がもらうからね! 」
僧侶様が山賊になりあそばした。
バアさん同様、僧侶は山賊になる運命なのか。
『パカッ』
宝箱から、キラキラ輝く黄金の剣があらわれた。
「……あ。俺の」
チャラ男がグラグラ橋で落とした剣だ。
段ボール箱の内側に、マジックで『落とし物』と書かれている。
「なーんだ、いらねー」
僧侶、さっさと段ボール箱を閉じる。
「勇者、これはお前の物だ。最終的に、この俺がラスボスを倒したとしても、俺の方が格好良かったとしても、俺の方が勇者っぽい姿をしていたとしても、勇者は、お前しかいない」
チャラ男よ。少し感動的に盛り上げようとして言っているのかもしれないが、お前の言葉は一ミリも響かない。
しかし、これ以上熱々の鎧で私のもち肌を焼かれる訳にはいかないので、しぶしぶ黄金の剣を手に取り、天を突いた。
『パラパラパッパーン』
旅芸人がファンファーレを鳴らし、戦士のオッサンは、レースのハンカチで涙を拭った。
賢者は、また何やらメモを取っている。
仕方がない。
賢者のために、もっと格好良いポージングをとってやろう。
私は剣を構え、私の中で最高に格好良いポーズをとった。
「勇者さん、そこ、退いていただけませんか?
珍しい蝶がいるので観察したいのです」
「……さぁ、帰ろうか」
私は黄金の剣を腹巻きに挟み、バスに乗り込んだ。
チャラ男もシゲゾウステッキを畳んでバスに乗る。
それ、チャラ男のものになったのね。
バスは皆を乗せて出発した。
「結構楽しかったよね。今度は、もっと遠くへ行かない? 」
私の隣に座った僧侶が、笑顔で言った。
ハンタースーツを脱いだ、ポニーテール姿の彼女は、やはり可愛い。
「あら、それ良いわねー」
私の後ろに座っていた戦士のオッサンが、身を乗り出して会話に加わる。
オッサン、加齢臭がひどいので、おとなしく座っててくれませんか?
まぁ、何だかんだ言っても楽しい思い出にはなったので、また行ってみても良いかな。
バスは一人、また一人と降ろしていき、とうとう私の家に到着した。
私はナップサックを背負い、バスを降りた。
さぁ、明日から新学期だ。
夏休みの宿題は、まだ終わっていない。
あ、バアさん連れて帰るの忘れた。
まぁ良い。またいつか、仲間たちと助けに行こう。




