第十五話
私の武器と戦士の武器で、恐怖の『スイカ割りっぽい大会』が始まった。
選手は当然、僧侶様オンリーだ。
矛が勝つか盾が勝つか……
まぁ、どちらも武器として使ったことは一度もないのだが。
僧侶は、
「目隠しなんて、まどろっこしい! 」
と、言って、目隠し無しで始めようとしている。
それって、ただの破壊行為ですよね。
僧侶は目の前の獲物に興奮しているのか、殺人蜂ハンタースーツの顔部分が曇りだした。
お。いい感じで目隠し代わりになりましたな。
我々は、二つの武器の行く末を固唾をもって見守った。
武器に愛着があったからではない。
破片などが飛んできて、二次被害にあわないよう、備えるためだ。
「フゥ~……、シュコ~……、フゥ~……、シュコ~……」
もう、ラスボスみたいな迫力。
もう、どんな経緯で僧侶を選択したのか、親御さんに聞いてみたい。
「デェェイ! 」
ぱっかーん…… 。
鉄球が見事真っ二つに割れ、勇者の武器は無事であった。
そりゃ、そうだ。
スイカケースなのだから、もともと二つに割れている。
僧侶は、やりきったようで満足げだ。
蜂ハンタースーツを着ているから、表情は読み取れないが。
旅芸人も機嫌を直したようで、それを見た戦士も、ほっと胸を撫で下ろしている。
『モリタシゲゾウステッキ』が無事生還したことを一番喜んでいたのは、チャラ男だ。
一通り、出したり引っ込めたりの確認をしたあと、またソイソイやっている。
私も忘れっぽいので、今一度言っておこう。
それは、勇者の武器だ。
そんなに気に入ったのなら、家に帰って通信販売で買い求めるがよい。
そんな感じで、しばらくソイソイやっていたチャラ男が、
「フゥ~、アッチィ~」
と、言いながら、金ぴか鎧を脱ぎだした。
そりゃ、夏だもの。
この炎天下に、そんな鉄板身に付けて、今までよく死ななかったな。
いるのか、いないのか知らないが、チャラ男好きの
皆さん、サービスタイムですよ。
私は全く興味がないが、チャラ男は一応、イケメン要員だ。
ぜひ、細マッチョなイケメンが、半裸でキラキラしているところを妄想し、ご堪能いただきたい。
あ、ちなみに私もイケメンの設定であることは、言わなくても良いかも知れぬが、言っておこう。
チャラ男は海パンで海に飛び込み、
「ソイッ、ソイッ」
と、我々に向かって海水をかけだした。
「キャッ! ヤーン」
このセリフ、女子力の高いムチムチプリンな女子が言ったのならば、多少テンションが上がったが、ここまでご愛読頂いた皆様ならば、お気付きだろう。
オッサン戦士だ。
ここにいる、本物女子の僧侶様は、
「魔法使い、マジでヤメロ! 」
と、今にも突進しそうな勢いだ。
「ソイッ、ソイッ」
まだやるか、懲りないチャラ男よ。
パシャッ。
チャラ男の海水攻撃が、私にもヒットした。
だが、ここはあえて無言を貫こう。
この手の輩は、相手をすると調子に乗る。
僧侶が、こちらを見て
「何だ? シゲゾウ、ピンクのパンツ履いてんじゃねーよ! 」
と、叫んでいる。
「ぬ? 」
下半身を見ると、海水を浴びた部分が透けて見えた。
白いステテコだから、透け透け感がハンパ無い。
そして、僧侶の攻撃が止まらない。
「勇者のくせに、何、ピンクのパンツ履いてんだよ! 」
失敬な! この下着は、ピンク地に小さな白猫の模様が沢山施された、私のお気に入りの一枚である。
受験の日も、試合の日も、バレンタインデーの日も……、ここ一番の時に履いて、長年苦楽を共にした、いわば私の『勝負下着』である。
「どんな心構えで、このキャンプに参加してんだよ! 」
その言葉、そのまま、ここにいらっしゃる皆さんにお返ししても、いいですか?
おネエ戦士は、
『マァ。アナタもコチラの人? 』
みたいな、困惑した顔で、私を見ている。
「ぬぉぉぉ~! 」
もう、堪忍袋の緒が切れた。
この怒りはチャラ男にぶつけるしかない。
痛恨の一撃をチャラ男にお見舞いしてやる。
私はチャラ男目掛けて走り出した。
「ぎゃっふぅ~! 」
突然、浅瀬にいたチャラ男が倒れた。
チャラ男には、一ミリも触れていない。
……私は、未知なる力を手に入れたのだろうか。




