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第十二話

私たちが出発したのも束の間、旅芸人が大蛇に襲われた。

『大蛇』といっても、この辺りにアナコンダやコブラなどの危険生物はいない。

まぁ、その辺の適当な蛇を想像していただきたい。

『襲われた』といっても、旅芸人が調子にのってチョロチョロとしたステップを繰り出していたので、たまたま現れた蛇のしっぽを踏んでしまって、噛みつかれたまでだ。

いわゆる自業自得というやつだが、ハプニングイベントとしては、なかなか良い仕事をしてくれたと思う。

私の心の中で、ハプニング大賞を贈りたいぞ。旅芸人。


「ぅわぁぁ、これも、運営の仕業か? 」


愚か者のヘッポコチャラチャラ魔法使いめ、昨日も似たようなセリフを吐いたな。

もう、おそらく旅も終盤だ。思う存分チャラチャラしているがよい。


「これは日本中、どこにでもいる、アオダイショウという蛇ですよ。毒などありません」


賢者、早速スケッチブックを繰り出し、スケッチし始める。

素早く判断するその頭脳と、仲間を切り捨てるその潔さには、毎度脱帽させられる。

噛みつかれた旅芸人と、加齢臭出しっぱなしの戦士は、慌て過ぎて、賢者の言葉など耳に入っていない様子だ。


「イヤァァ! 旅芸人ちゃん、死なないでェェ! 」


いえ。死にませんから。

私の中で、既におネエ判定確実の戦士よ。


「ハワワワ。ブヒッ、ブヒィィ」


作者の中でもキャラ設定が充分定まっていない旅芸人よ。もう何言っているのか分からん。


私が高みの見物をしていると、僧侶登場。


「お前ら、それでも仲間かァ! 早く旅芸人を助けろ! 」


聞きました?

僧侶様から『仲間』という言葉を頂きました。

僧侶、レベルアーップ!

僧侶の優しさが1上がった。


「しげぞう! 何ぼさっと突っ立ってンだ! 早く、このうるさい旅芸人を黙らせろ! 」


あ。僧侶の優しさ、早くも3ダウンです。

というか、負傷した者の手当ては僧侶の役目では?


ギロリとにらむ僧侶に逆らえず、私はしぶしぶナップサックを開いた。

私はナップサックの中から、手書きで『薬草』と書かれた、茶色の小瓶を発見した。

小瓶の中の『薬草』とやらは、黒くて丸く、異臭を放っている。


「えぇい、ままよ! 」


私は旅芸人の口の中に、薬草を封じ込めた。


「ぐはぁ。臭いィ~、苦いィ~」


旅芸人、さらに叫びだす。

何これ?薬草じゃないの?

手書きのラベルを剥がすと『腹痛、食あたり、腹下しによく効く!』と、表示されていた。

ジイさん愛用の、ただの腹薬ではないか。


「苦いよぉ~、臭いよぉ~」


旅芸人が、ますますうるさくなってしまった。

旅芸人よ、頼むから静かにして。

もうこれ以上、僧侶様を怒らせないで。


「しげぞう、退きな」


仁王立ちの僧侶は、いつの間にか、蜂ハンター用のスーツを脱ぎ、一升瓶を手にしていた。

僧侶はおもむろに、一升瓶に入った液体を口に含み


『ブシャー!』


旅芸人が噛まれた傷口めがけて、毒霧のように吐き出した。


「消毒完了!」


エッ? それって焼酎ですよね? 僧侶様、未成年ですよね?

冒険ものから恋愛ものにストーリーが展開していくことを期待している私でも、さすがに健全さは残しておきたい。

何やらアウトローな話に発展して『R18指定』になるわけにはいかぬ。

全国のPTAも、敵に回したくない。


「私は、我が武勇伝を全世界のチビッコたちに発信しなければならぬ宿命を背負っているのだ! 」


私は天に向かって、己の堅い拳を繰り出した。


「ハァ? 馬鹿か?ただの水だよ」


「ぬ?」


よく見ると、僧侶が手に持っていた物は一升瓶ではなく、ペットボトルに入った、ただの水だった。

恐るべし僧侶様。

気迫だけで、ペットボトルを一升瓶に見間違えさせるオーラを放っているのだ。

僧侶は絆創膏を取りだし、旅芸人の傷口に貼った。


「はい、完治。行くよ」


そう言って再び、蜂ハンター用スーツを装着した。

何これ。勇者より格好いいんですけど。

もしかして、スピンオフとか狙ってる?

その時は是非、私をゲストに呼んで頂きたい。


そんな男前な僧侶だが、持ってきた絆創膏が、ひそかに『ゆるキャラ』であったことは、男性読者獲得のため、記しておこう。


ちなみに旅芸人は、すっかり回復したようで、またチョロチョロと動き出した。

旅芸人よ。そのキャラ設定で最期まで頑張るがよい。

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