第一話
私の家系は、代々勇者だ。
茶の間は歴代勇者の写真や、偉い人からもらったメダル、感謝状などが飾ってあって、ゴチャゴチャしている。
初代勇者の頃は、カメラなどなかったのだろう。教科書に載っていそうな、古い絵だ。
この絵を見るたび父さんは
「初代勇者は、こんな顔ではなかったそうだ。
もっと眉毛が凛々しくて……」
と、長い話が始まる。
あぁ、嫌だ。
五代目勇者も変なヘルメットをかぶって丸渕のサングラスをかけ、ツルハシを持って写っている。
一体何をしたんだ……。
十六才の誕生日、ジイさんと父さんが茶の間に私を呼んだ。
ちゃぶ台の上には唐揚げとチキンライス、ケーキが並んでいる。
ちなみに私は唐揚げが好物だ。
母さんが、ジイさんと父さんの前に熱いお茶の入った湯飲みを、私の前にオレンジジュースを置き終えると、ジイさん、父さん、母さんの三人がかしこまって私を見つめた。
はじめに口を開いたのは母さんだ。
「アナタも、今日で十六才ね」
知っている。
次に父さんが口を開いた。
「お前もそろそろ旅立たなくてはならぬ」
何を言っているのだ?
三人ともパーティー用のトンガリ帽子をかぶって。
ジイさんに至っては、パーティー用の鼻眼鏡までかけている。
「ジイさん、父さん。アナタたちは未だ勇者としての功績を残していないではないか」
私は身を乗りだし、唐揚げを1つ頂いた。
ジイさんと父さんは目配せして顔を赤らめた。
気持ち悪い。
父さんは軽く咳払いをし、
「まぁ、何だ……。
その……、父さんたちはとりあえず、死ぬ前に硬質検定にでも合格して、格好いい写真でも撮って飾っておけばいいだろう」
と言った。
「ちなみにワシは英検を取ろうと思っておる」
ジイさん。トンガリ帽子と鼻眼鏡で……。正気か?
私は立ち上がり、改めて茶の間に飾ってある賞状や感謝状のたぐいを見た。
今まで、難しい漢字がゴチャゴチャ並んでいたのでまともに見たことがなかったのだ。
フォークリフト免許? 子ども相撲準優勝? カラオケコンテスト参加賞? ……何でもアリなのか?
先々代においては、一年間休まず学校に来たで賞?
「バカな!」
私は愕然とし、ケーキを食べる気分が失せた。
「……それでさ」
父さんはケーキをほおばりながら話を続ける。
おい、オヤジ。それは私のバースディケーキだ。
まだ、ロウソク立てて、フゥーってしていないのだが?
「とりあえず、このサマーキャンプに申し込んでおいたから、行ってこい」
父さんが、紙ヒコウキにしたチラシを私に向かって投げてきた。
父さん、何度か折り間違えたな。
折り目が多すぎてシワシワになっている。
私はシワシワになったチラシに目をやった。
『この夏、みんなが主人公。さぁ冒険に出よう!』
小学生ぐらいの子どもたちが、救命胴衣を着けてイカダに乗ってピースしているが……。
「ホラホラ。下のほう、よく見てみろ!」
父さんが、鼻の頭にホイップクリームを乗っけて偉そうにしている。
オヤジ。お前こそ、鏡で己の顔をよく見るがいい。
チラシの端に目をやると、小さく
『この夏、勇者になりたい方、戦士になりたい方、魔法使いになりたい方、恋したい方、成績UPしたい方など大歓迎!』
と、書いてあった。
私が『恋したい』に興味を持ち始めた時、
「このキャンプで強くなって、数年前、魔物にさらわれた婆さんを助けてほしい」
と、ジイさんが拝みだした。
そう言えば最近バアさんの姿を見ていないと思ったら、魔物にさらわれていたのか……。
……と、言うか、ジイさん。いい加減トンガリ帽子と鼻眼鏡を外してくれ。