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2014年/短編まとめ

十五夜

作者: 文崎 美生

「だぁぁぁ、疲れた」


ぐーっと体を伸ばせば凝り固まった筋肉が程よく伸ばされていく。


気持ちいい。


今日も頑張った。


横では相棒でもある友人が手首にぐるぐると、真っ白な包帯を巻いている。


ワイシャツの袖から覗く白い肌。


利き手の右手には包帯と同じ位白い湿布。


腱鞘炎だ。


まぁ、私もだが。


生徒会は意外と雑務が多くて、書類整理とかがあるんだよね。


ひたすらペンを動かした結果がこれだ。


事務業か、っての。


まぁ、役に立つのは好きだからいいけど。


「でも、折角十五夜なのに、月見ができなかった」


溜息混じりに空を見上げるアキ


十五夜…と私も空を見上げた。


大きな丸い月が私達を見下ろしている。


「……十五夜って十月じゃなかったっけ?」


私が首を傾げると秋は底冷えする瞳を向けてくる。


え、何。


秋の説明によれば十五夜とは旧暦の八月十五日を指すようで、毎年十五夜と呼ばれる日はズレていくそうで。


今年は今日、九月八日だそう。


「十五夜、または中秋の名月とも言うわね」


何それ聞いたことない。


『中秋の名月』とは秋の真ん中に出る満月の意味で、旧暦では一月〜三月を春、四月〜六を夏、七月〜九月を秋、十月〜十二月を冬としていたことから、八月は秋のちょうど真中であり、八月十五日の夜に出る満月ということから付けられたそう。


わぁ、意味わかんない。


大体何、旧暦って。


「今使われている新暦だと、一ヶ月位のズレがあるのよ。だから九月七日から十月八日の間に来る満月の日を十五夜、中秋の名月って呼ぶのよ」


流石です。


我らが生徒会長様は博識でいらっしゃる。


「今日日本史で話してたけど?」


……私は黙って空を見上げた。


月が綺麗だ。


日本史とか寝てましたけど。


横で深い溜息が聞こえたけど気のせいだね、きっと。


「ついでに言っておくと、月灯アカリの言う十五夜は今日から一ヶ月後の十三夜だと思うわ」


十月半ばくらいに来る十五夜の二度目みたいなものだそうで。


似たの作る意味がわからない。


一ヶ月後もまた綺麗な月が見れるって言われても。


見てる人なんて極わずかじゃない?


私達含めて。


十五夜って事実いつか微妙だったし。


うーん、と唸っていると制服のネクタイを引かれた。


結構強めだったので首が絞まった。


息が…っ!


そのまま私は体を倒して連れ去られる。


もう少し優しく丁重に扱って頂きたいものですな。


十代は壊れやすいガラス細工みたいなものだから。


コンビニの前で待たされる私。


コンビニ寄りたかったなら言えばいいのに。


肌を撫でる秋風が季節の変化を感じさせた。


ぼうっと月を眺めていると、頬にむにょっと当てられたスチール缶。


あ、コンポタ。


「簡易月見」


そう言って自分の分のコンポタと袋に入ったみたらし団子を掲げた。


コンポタとみたらし団子ですか。


変わった組み合わせだと言えば、なら食うなと言われたので素直に謝っておいた。


「来月は私が奢ってやろう」


感謝を込めて、と言えば団子を咀嚼しながら秋は「なら、帰って直ぐに京都の老舗の団子取り寄せといてね」と言った。


感謝なんてなかったよ。


鬼だよ。


幾らかかるかな、なんて考えながら金色に輝く月を見上げるのだった。

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