親子の家にて4
お風呂から上がると入れ替わるように水羽達がお風呂に誘導された。
私達2人はリリアスに二階の、さっきまでいた部屋とは違って毛布の敷かれた部屋に連れてこられた。
お風呂に入る前に言われたように、この家で過ごしてもいいみたい。
私達の事も迷惑とは思ってないらしくて、それでも急なのと遠慮があって口ごもっていると君たちが決めてねと優しい台詞を残していった。
行く宛はないから、できればここでお世話になりたいけれど本当にいいのだろうか。
疑問ばかりが渦巻くなか、立っているのも辛くなってひとつの毛布に膝をついて水羽達が戻ってくるのを待っていた。
しばらくして戻ってきた水羽達も話を聞いたらしく、五人で円を作ってひそひそ相談を交わした結果申し出に甘える事になった。できうる限り迷惑をかけないようにと決めて。
「あっ、日記」
話が終わり、眠気も疲れも限界まで募ってきたからもう寝よう、というところで紘が口を開いた。
何故か声を聞いて安心したのは、トリップしてから口数も元気も全くと言っていいほどなくいつもと違ったから。
……異世界に飛ばされて普通で居ろと言われても出来る人なんてそうそう居ないけど。
「日記?」
「う、うん。仮にトリップした時のために色々バックに詰めた……よね。その中にオレ、日記入れてたんだけど」
聞き返してきた水羽の視線を苦しそうに避けて歯切れを悪くして答える、暗い声のトーンを聞いて私は目を瞬いて眠気を振り払う。
帰る場所のない、行く宛のない不安はとりあえずなくなったのに紘は今にも潰されそうな声をしてた。
「大丈夫だよ紘、バックなら持ってきたよ……多分別の部屋に置きっぱなしかもだけど」
「そう……?」
「そ、だから元気だして」
元気づけるように水羽が紘の肩を叩き立ち上がる、紘もゆっくり水羽に続いた。
白くなった顔の色からして日記とはそんなに大事なものだと感じる。その姿が儚くて、何があったら支えられるようにと私も立ち上がっていた。
扉を開けて部屋から抜ける前に残りのふたりを確認すると、横になった結一に咲良が毛布をかけているところだった。
視線に気付いて顔をあげた咲良が顔を綻ばせて指を口元に寄せてしーの形をつくる。それだけで言いたいことかわかり頷いて部屋を出る。
先に歩いてたふたりの元まて進み、立ち止まって首を傾げてるのに気付く。
寝室といって提供された部屋から抜けて真っ直ぐ歩いた先に扉がひとつ、左にもひとつ。ちなみに右側には階段とこちらは引戸式の扉がある、隙間が開いてたから中が覗けてトイレだとすぐにわかった。
「どっちだっけ……」
先頭の水羽が振り向いて助けを求めてきた、申し訳ないけれど家に訪れて落ち着くまでの出来事を思い出そうにも靄がかかって思い出せない。
リリアスかルークスのどちらかが出てくれば大丈夫だろうが父親が出たらどうすればいいのだろう。
「ルーク……」
口を開いて、もう夜遅いことを思い出す。最後に見た時間でもう10時近かったような気がする。
「紘、本当に今日必要? あしたでも」
「必要なんだ」
確認の言葉を聞く前にしっかり断言された、強く言いきった横顔は。多分今まで見た中で真剣なもの。そして震えてるもの。
「なに?」
視線をふたつの扉にさまよわせ、どちらかの扉を叩こうとしたところで左の扉から不機嫌そうな声と開閉音。びっくりして出そうになった悲鳴を呑み込んで返事を返す。
「ルークスさん、ごめんなさい……部屋にバックありませんか」
「……敬語、いらね」
怒らせないように本題を言ったら一言ぶっきらぼうに返されて部屋の奥にひっこんだ、怒った?
敬語がいらないって言ってくれても怒らせたら普通に話せないじゃないか。
「これ?」
部屋を覗こうとしたら竹で編んだバックを片手にルークスが戻ってきた。
顔にはまだ不機嫌さがくっついてて、ごめんなさいとありがとうを言ってすぐに扉を閉めようと手を伸ばす、
「めずらしいね」
「えっ」
「作りが」
「そうか、な……そうだよね」
ドアノブに触れたところで声が飛んできて動作が止まる、言われた言葉が一瞬理解できなかった。
千幸たちのところでは容器はほとんど草編みだから、でも世界が違えば文化も違う。
質問は、まだ続いた。
「なんて材料なの?」
「竹って……ここにもあればだけど。編めるよ。」
「へぇ……素敵」
受け取った竹編みのバックを見るルークスの頬はわずかに上気して瞳の奥はきらきら輝いてるように感じられた。
育ての義理の親から生活に必要だから教われと言われた時私は凄く嫌だったのにルークスからは編んでみたそうな雰囲気が凄く伝わってくる。
「編んでみる?」
だから自然とそう言葉が出てしまった、弾かれたように顔を戻したルークスの瞳は丸くなって、顔は時間が経つ事にかあっと赤くなる。
どんな返事をしてくるのだろうと期待してると勢いよく扉を閉められた。
「……おやすみっ!」
拒絶ではない。どういう気持ちで扉を閉めたのか確信できたから逆に胸の奥が暖かいようなむずかゆさに包まれる。
戻ろうとふたりに声ではなく視線を向けると訳のわからないと言った視線を返された、何故か楽しくなってなんてやり取りしたのか黙って部屋まで戻って行った。
「……おやすみ、ルークス」
多分だけど、明日からすこしずつ笑えるかもしれない。