現実(リアル)と空想世界(アニメ)の狭間
現実と空想世界の狭間
「え?」
人間、何が起きたか瞬時に判断できない時には、声を出すか瞬きが多くなるらしいと蛍は後になって気付く。今はそんな自分の反応よりも目の前に突然広がった風景に呼吸すら忘れて思考が停止した。心臓が、目の前に広がる風景に不安と恐怖で伸縮されていくのが分かる。
「嘘だろ」
ありきたりに蛍は、これは夢かと思う。しかし、いつもの風景に、いつもの感情、いつもの感覚を過ごし、今に至っている蛍はどちらも疑う。そして見た目も恥じらいも感じられなくなってできた最初の行動は頬を抓る事だった。
頬は痛みを感じる。離してから次第に熱を帯び、それ以上の痛みが必要なのかと手加減を抜き取り本気で力を入れてみてもそれは変わらなかった。
生まれて初めての体験に、腰を抜かすというさらなる初体験を得て腰は地面に付いた。地に付いた時、手も同時に地に触れ、改めて違和感が増える。砂が知っている感触ではなかったのだ。ざらざらでもなければ、さらさらでもない。言葉にするならば、ガラス細工のように表面に凹凸が少なくつるつるの感触。それは周りに生えそろっている草木も同じだった。
蛍は空を眺め呼吸が荒れていくのに、その知っている場所を言葉にすることで自我を保とうとした。
「アニメ……?」
友人に太陽という人物がいるからでもなく、子供の頃に蛍もTVを通してみたことがある世界。言い方を変えれば『二次元』とも言えるその世界は、画像ではなく、空気もあれば風が起こり、動きがあるからこそ辿り着いた答え。
「はは……」
その笑いは、あり得ない、という意味での笑い。自分が壊れてしまったのかと唐突に思うのと同時、太陽の存在で正気に戻される。壊れるにしても最初にこういった空想で脳がやられるとしたら、まず太陽が先だと思えた。
太陽から話を無理やり聞かされることはあっても、蛍は自分からアニメ番組を見ることはほとんどない。せいぜい蛍の部屋に太陽が訪問し、勝手にTVで見ているのを付き合うくらい。その間にしたって、集中しているわけでもなく、雑誌だったり睡眠だったりと、横道に反れてしまう。嫌いではないけど、純粋に興味が薄い所為で起こるごく自然な事だった。
原因を突き止めようと元の現実での過去を振り返ってみても、不可思議な行動はなく、全世界を探せば似たような人間は蛍以外にもいる。だから、蛍は起きている現象を否定した。
突発的な病気で意識を失ってしまってこうなっている可能性や、やっぱり夢か、それこそ、TV番組でドッキリに素人が掛けられたかと色々考えた。
その中でTVという、現実で非現実を作り出せる技術と人員を確保できる、今一番考えられる有力な可能性に蛍は考えるのを止め、活動そのものも止めた。一時間か二時間か、もう少し先か、何もしない素人にいつまでも時間も資金も使っていられないだろう。TV局側の狙いで行動を起こしてみるのもよかったのだろうけど、完全には無くならない不安と恐怖を晴らすのに一番簡単な方法を蛍は選んだ。
蛍はその場で寝っころがる。何もしないことで時間が過ぎるのを待ち、誰かがネタばらしに来ることを待っていた。
そのうち携帯で時間を確認し一時間が過ぎた。
その時、携帯の電波が圏外になっているのも確認し、電波妨害までしているのだと蛍は手の込みように感心する。最近のTV番組はドッキリにでさえ一か月を簡単に越えて仕掛けてくることがあるからまだ序の口な時間だった。
そして二時間が過ぎた。
焦りが生まれ始めた蛍だったが、心を支えていたのはやっぱりTVという存在があったからだ。だから、その時間を使って、ネタばらしをされた時の感想やら、頬を抓った時の言い訳やらを考えた。
三時間が過ぎ、怒りが込み上げてきた。
芸能人ならまだ仕事になるからまだ分かる。なのに、なぜ素人にこんな非現実的なドッキリを仕掛けてくるのか、どれだけの緊張感を過ごしていると思っているのか、もうわけが分からなくなっていた。それでも、撮られているならと思うと蛍は感情を抑え込み、この仕掛け人を考える。都合の良いタイミングで法事だと例年よりも早く蛍の前から姿を消し、加えてこんな悪戯を仕掛けてくる友人は一人しかいない。
絶対に殴ってやる、そう思ってから四時間、五時間が過ぎた。
湖から自宅の往復で疲労と緊張感から、いつのまにか蛍は眠りについていた。
人間の体は水なしでも一週間は持つ。しかし、どんなサバイバル番組であったって最低水は与えられている。たった一日にしろ、それだけは絶対。身体に変調を来す様な真似をしてはいけないのが常識で、それをしてしまうとヘタすれば命に関わる可能性を上げてしまうからだ。仮にそんな過酷な設定をしたとしても事前通告もせず、さらに素人にやらせることは非常識だった。その所為か、非常識に非常識が認識を超えた。目覚めて朝を迎えた蛍は、起きている非常識で非現実的な現状を受け入れなくてはならなくなった。
「マジかよ……」
いつもより早く起床してしまった蛍の頭に、あるたった一つの言葉が浮かぶ。
【事実は小説よりも奇なり】
物語で進む裏工作は、こう上手くいくもんかと思っていても、現実でうまくいっていれば表舞台にすら立つことはない。物語で起こる偶然は、人間の考えられる偶然を超えて現実で起きている。ただ、それは人間の目で見えていないだけでしかない。物語で起こる事象の全ては、人間の思考で考えられる範囲に留められているに過ぎないのだ。
これは現実に自分に降りかかってしまっている。
――火村蛍はアニメの世界へと紛れ込んでしまった。
「あのDVDか……?」
一つ認めれば、原因が姿を現した。だが、解決策には繋がらない。仮にDVDが原因でこうなってしまったとしても、現実の世界にあるDVDを手に入れることはできないからだ。
まだ疑いはあるものの、蛍は本気でアニメの世界にいることを前提に今後を考える。目的は帰る事、そのために生き延び続ける。最低でも食料と水の確保、その為にこの世界の事を知る必要があった。できる事ならば、今いる場所を動きたくはない。どんな理由であれ、最初に辿り着いた場所がこの場所であるなら、帰りもこの場所の可能性が高いからだ。
だが、動かないと言うのは無理だ。だからその場所を出来るだけ記憶に留めておく必要がある。目印にワイシャツを脱ぎ適当な木に結びつけ、その場所の特徴を覚える。周りは森で木々が覆っているが、蛍がいるその場所は円を描くように雑草が生え揃い、人の手が入っているのかと思えるほどの広場になっていた。水場が傍にあることを願い、その場所を拠点に使うつもりで、蛍はこの世界に来て初めて動き出した。
当てもなく森を歩いていく中で、徐に太陽がよく見るアニメが蛍の頭には浮かんでいた。アニメなら主人公がどんな異世界に行こうと誰か人と出会う。ところが現実は誰も迎えに来なければ、人の気配すらない。それでも変な戦いなんかに巻き込まれるよりはずっとマシだと思いながら、人里も考慮に入れて進んだ。
暫く歩いていくと、期待というよりも想像していた以上の恐怖に蛍は襲われることになった。
どこかも分からない世界の人間でも怖いのに、前方から喉を鳴らす獣らしき生き物が近づいて来ていた。まだ距離はある。だが姿も見えない、存在すら知らない獣相手に逃げて勝てるとは到底思えなかった。
咄嗟にその場で伏せ、姿を出来るだけ隠す。
「(頼む気が付かないでくれ……)」
目を瞑り祈り続ける側で獣が近づいてくる。どんな音でも拾われたら終わりだとできるだけ息を止め、唾を飲む事すら我慢する。ところが、我慢も空しく獣は足を止めた。
視覚でも聴覚でもない獣特有の嗅覚までは、蛍は隠せなかったのだ。一足遅れてその五感の一つを思い出した蛍は、タイミングを計るしかなくなった。獣が足を動かし触れた草の音で、地面を押しその反動で立ち上がった蛍は獣の姿を確認することもできずに逃げ出した。
一瞬で、呼吸が荒れた。心臓が破裂しそうになるほど鼓動を速めている。山を下山した時にみせた集中力はどこに行ったのか、足場も前方も、肌に当たる枝も全て無視して走る。不思議なことに、森の中は走りやすかった。確かにぶつかるモノはあるはずなのに、どれも蛍の走行を邪魔するものが無い。大木は確かに避けて走っているのにそれは不自然で幸運な出来事。しかし、それも終わるのに時間は掛からなかった。
「ビューイ、行けっ!」
誰かが声を出した。
それは女の声。
蛍が人らしき存在に気を取られると同時、一陣の風が通り過ぎ目の前に獣が現れた。ライオンの身体の大きさを数倍は越え、その獣はいる。そしてその上に跨る人間の少女もいた。
狩り、そう思うも瞬間的に蛍の思考が別なものにすり替わる。確かに獣に跨っていたのは人間の少女だった。しかし、見た目には皺も毛穴もない、『二次元』で描かれる、アニメのキャラと呼ばれる存在だった。
「ぅえぇえええええええええええっ!?」
ただあくまでそれは蛍が住む現実での呼び名。少女は蛍の姿の方に驚いたようで変な声で叫び、じっと眺めていた。
「創られた存在……本当にいたんだ」
そして、少女から気になる呼び方をされる。なによりも、『本物がいた』という発言、すなわち、蛍以外の現実世界の人間がいるという事に繋がる。
蛍は初めて希望に触れた気がしていた。
「いいお金になりそう」
だが、すぐに蛍は警戒を強めることになった。
◆◆◆◆◆
むかし、むかし、ある少女の前にある男が現れた。
その男は、姿、形は同じなのに、全てが違っていた。
少女は驚き隠れ、質問をする。
「あなたは誰ですか?」
言葉は通じているようだったけど、男は質問には答えない。一人何かを喚き混乱しているようだ。
少女は暫く様子を窺い、力なく座り込んだ男に近づいていった。
「あ、あの」
男は力なく顔を上げ、少女を見る。
「なんでこんなことに……」
悲しそうな表情に少女は手を差しだし、男の頬へと伸ばした。ところがその手は頬に触れることはない。
少女……、いや、その世界の全ては男に触れてはいなかった。
◆◆◆◆◆
「っていう絵本があるのよ」
勝手に話し出した内容は蛍にとって意味のあることだった。獣に跨る少女が話している絵本の主人公は、紛れもなく蛍の世界の人間だ。表現する人間の部位は同じなのに見た目の存在感が圧倒的に違う。それは蛍が体験しているものそのものだったからだ。おそらく、絵本というだけあってその絵を見ればそれも表現されている事だろう。だから、蛍はその絵本が帰るために役立てる気がして、その絵本が欲しかった。
しかし、蛍はその絵本を手に入れるどころか、少女と会話すらできていない。なぜなら、絵本で表現されている、『男は世界に触れていない』、という実験をさせられていたからだった。何度も石や枝が蛍を狙い投げられ、蛍は恐怖で無駄だと分かっていても再び逃げていた。
「……すごい。ホントに当たらない」
少女はバランスを崩している蛍がどれだけの恐怖を抱いているか知らず、剰え蛍もこの状況を楽しんでいるとさえ思っている。その理由は投げている物体が蛍にあたるはずなのに、反発するように回避しているからだ。それを蛍自身も理解していると思い込んでいた。
確かに、蛍も少女が言う言葉の意味は理解していた。走っていた時に感じた幸運も、投げられて回避できている投擲物も蛍には不自然に当たらない。それがこのアニメの世界と現実世界を隔てている壁だと蛍自身も認識し始めていた。だからと言って、知っている世界の動物よりも大きい獣を目の前にして、さらに攻撃されれば恐怖を感じないはずが無かった。
「あ、諦めた」
投擲が終わり、再び獣が蛍の進路を塞ぎ前に出る。少女が蛍の行動を言葉で確認し、体力と精神力が限界に近づいた蛍はそうするしかなかった。
「言葉は通じているよね?」
呼吸を乱した蛍は頷く。
「よしよし。わかっているとは思うけど、絵本に描いてあることが本当か確かめたかっただけだからね」
蛍は少女の声を聴きながら仕掛ける隙を窺っていた。悪意が無いように言ってくる少女の言葉は信用がない。一度でも金銭の話が出てから、この少女は金目的で何かをするはずだからだ。見た目の違う蛍。思いつくだけで見世物に使われるか、実験に使われるか、どちらにせよ、いい結果は生むはずがない。
だから、少女が獣から降りる姿を大人しく見つめ、近づいて来た途端反撃が始まる。相手が女の子だろうと、その腕を掴み押し倒すとマウントポジションを奪った。
勝機はあった。いくら投擲が蛍に当たらなくとも、蛍は砂を掴み木に触れることができていた。だから、蛍からなら少女を掴むことができると踏んで、見事的中した。
それでもすぐに暴力に出ないのは、太陽と兄弟喧嘩のような殴り合いぐらいしかしたことがなく、普通の生活を送っていれば相手を痛めつける喧嘩はしないという常識からだった。むしろ、少女を押し倒すことすら非常識なぐらいで、余裕のない蛍の精一杯の行動でもある。
「その本がある場所を教えろっ!」
初めて少女の前で出す言葉。怒号を発すると獣が少女を護ろうと飛びかかってきた。蛍は思わず目を瞑り動けなくなる。が、獣も石や枝と同じで反発が起きると弾かれ、バランスを崩して倒れ込む。呼吸を乱しながら安堵した蛍は、獣もこれで大丈夫だと目の前の目的に視線を戻した。
ところが、下になっている少女と視線が合った瞬間、有利に立っていたはずの蛍の方が圧倒された。
「うっ……」
演技ですら見た事のない少女の睨みは、半端な覚悟しかない蛍を委縮させる。元々殴り気はない、殴れない、蛍にはこの後の手段を持っていない。それでも、心を支えているものが蛍を奮い立たせた。
たった一つの願い――元の暮らしに帰りたい。
その思いだけが蛍の瞳に戻る。ある意味で正気に戻ったのかもしれない。蛍は少女の上から立ち上がり、一定の距離まで離れると頭を下げた。
「お願いします。その絵本を俺にくれませんか?」
きょとん、とした少女は立ちあがり服に付いた汚れを手で振り落す。
「ふーん、あんたみたいな存在って皆、絵本の男みたいな行動をするのね。いいわよ、でも条件がある」
仕方ないと蛍は思う。あれだけの行動を起こして、少女の感情に怒りがないだけマシだった。仮に飲めない条件なら勝手に起こる現象で蛍は逃げ切れる。
「私の仕事って、困っている人とかろくでなしを見つけて、人手を探している場所に売りに行くの。その対価で私は報酬を得る。つまり、あんたを売り飛ばして収入を得るわ。ここまで言えばわかるわよね」
蛍は首を傾げる。少女の言葉はまるで人身売買でも行っている言い草だが、それは単なる仕事の斡旋をしているだけなのだ。
「あんたの存在ってこの世界では有名だけど、半信半疑の存在なの。でもそれが実在していたって、その姿を見せれば相当な高値で取引できるのよ!」
蛍はその絵本を手に入れたからと言ってすぐに、帰る方法が見つかるとは思っていなかった。それまでは飲み食いは必要で、お金は絶対に必要になるのは明らか、だから少女の提案は願ったりかなったりだった。
「ふっふっふ、さらにあんたも自分の世界に帰りたい。だからあの絵本がみたい」
その言葉で蛍はこの世界の人間はそこまで理解できているのかと、不思議に思いつつも期待が膨らむ。帰る道は必ずあるのだと。
「隠していてもすぐに分かることだから言うけど、その絵本は誰でも見たことがあるし、購入できるものなの。だったら、その絵本の原本がどこにあるのかも教えてあげるわ。それでどう?」
勝手に話されることで、さらに可能性が出てきた。少女の言い方から、絵本には帰り方まで書かれていないようだった。しかし、絵本が簡略された話でもその元になる話の中に帰る方法が書かれている可能性がある。全てが好転的に回っているならば、その話に乗らない手はない。蛍にはあまりに当てがないのだ。
そして、たった一つだけ気になる蛍は質問をした。
「なんで俺が訊かないのに、君はそこまで教えてくれるわけ?」
ニヤっと少女は笑った。
「どうやら契約は成立ね。質問の答えはね。働く人材を買い手に渡しても、苦情が来るようだと困るからよ。でも、私が教える原本を見るにしてもお金がいる、つまり働かないといけない」
「(なるほどね)」
「それじゃあ、よろしく。私の名はノーシ」
伸ばされた手に多少の不安と疑いを持ちながらも蛍からノーシの手を掴んだ。
「俺は火村蛍」
ひとまず、蛍はなにかしらの流れに身を任せることにした。すると、少なからず薄らいだ緊張感からか、蛍の腹が鳴った。
「売られる立場の割に厚かましいわね」
生理現象なのだがどことなく恥ずかく、蛍の体温は上がった。
「ほら、これぐらいしかないけど今は我慢してよね」
ノーシは全く気にしている様子もないので恥ずかしさもあっという間に無くなり、投げられた物を蛍は受け取る。何かしらの葉で包まれた中には、御萩のような形のおそらく食べ物が入っていた。それをじっと眺める。
「別に毒なんて入ってないわよっ、失礼ね」
蛍はそんな事を気にしているわけではなかった。そもそも、これから売りに出そうとしている人間をいきなり毒殺はしないと考えなくとも分かる。それでも手に持った食べ物が薄緑色をしていたら蛍が戸惑ってしまうのも当然だった。
「これは食べるものだよな?」
そう聞くと「当たり前でしょ!」と怒鳴られた。御萩も見た目は泥団子のようだ。つまり見た目で味は分からない。蛍は意を決する。
この先、アニメの世界で少なからず生活するならば、食べ物への抵抗は失くすしかない。アニメの世界で初めて見る食物がこれだったとしても、主食だったら食べるしかないのだ。
蛍は薄緑の物体を口に放り込んだ。
「……うっ!」
その一言で蛍の手は喉を抑えた。お決まりのギャグではない、口に含み喉を通った瞬間、体が悲鳴を上げ、夥しい熱が全身を駆け巡った。
耐えられず蛍は倒れ込み、途絶えそうになる視界にノーシが入る。騙されたと思う。もっと慎重になっていれば、と後悔に包まれながらノーシの慌てる声が届いた。
「ちょ、ちょっと、な、なにっ!? もしかして腐ってた!?」
どうやらノーシを疑ったのは間違いだった。それでも苦しいのだから、原因はノーシ。だから疑ったことへの罪悪感はないまま、投げやりに蛍は苦しみから逃れたい思いで全身の力を抜いた。
……死んだ。
――と、思った。
ところが、突然急激な解放と共に蛍の体調が回復していた。
「なんだ? なにが……?」
すぐそばでノーシが口をぽかんと開け呆けている。何が起きたのかと立ち上がった蛍の側でバサっと何かが落ちた。
妙な解放感にごく自然な動作で蛍は掌を見る。
その手は綺麗に指紋や皺が薄くなり、昔よく見ていたアニメの映像がそこにある。
「はぁあああああああああああああああああああああああああっっっ!?」
俺の身体はアニメ化していたのだった――――。