始まりの日、七月二十二日
始まりの日、七月二十二日
夏本番を控えた猛暑日、終業式を終え、明日になれば夏休みが待っている。明日になれば自由の時間が多く作られているとしても、学校が午前で終わってしまえばその時点で夏休みのようなものだった。
だから、火村蛍と杉原太陽は着替えをするわけでも、荷物を家には持ち帰るわけでもなく、近所の山の中腹にある湖に来ていた。
暫くは使われなくなる制服が濡れる事など気にせず、上半身を日差しに曝し二人は躊躇わずに湖に飛び込んだ。
地元では有名な湖のスポットは人の手が入っておらず、水は底まで透き通っている。山の中腹ともあって子供は親なしでは来られないし、蛍と太陽の年代でも登ることに抵抗を感じない時しか来ないため、この猛暑では誰もいない貸切り状態となった。
水面から先に顔を出した蛍の後に太陽が顔を出す。
「明日の朝から夏休みアニメ特集が始まるな」
そんな第一声に蛍は呆れた顔を作った。
杉原太陽、いわゆる幼馴染にあたるこの少年はオタクと呼ばれる人間だった。家族ぐるみで付き合いが深い親友なのだが、会話の節々にアニメの会話が含まれる。蛍も幼いころは一緒にアニメやら漫画を一緒に見たりしていた。だけど、年齢が重ねるにつれ自然と離れていった。
だからアウトドアで外に遊びに来ている時にもインドア、しかも、ただ眺めるだけのTVの話をされるのは気分を害される。
「またか」
蛍はただ呆れるだけ。別にオタクに軽蔑も偏見もない。それはオタクのイメージが太陽にあったからなのが大きい。太陽は肉付きのいい身体を作り、身長は平均よりも少し高く、程よく日焼けに短髪で一見してスポーツマンにも見える。加えて明るい性格のおかげか、友人は男女問わず多い方だ。
当然と言うべきかオタクとしての認識がある太陽は学校でもアニメの話をする。でも、それは誰もが知っている国民的なアニメだったり、会話の糸口として使われたり、人と接する上で必要最低限にしかされない。あまりに一般的ではない話しは誰も着いて来られないのを知っている太陽は決してしないし、ファッションに興味もあるからアニメの他にも交流の糸口を使う。むしろ若干人見知りをする蛍の方が会話は下手くそな部分があるくらいだ。
そんな太陽も蛍と一緒にいる時は気遣いもなく、自己愛の発表を抑え込まない。それに蛍は鬱陶しさを感じる事が多々ある。
似たような環境で育ったせいか蛍の身長も体格も太陽とそう変わらないのだが、蛍は、自分は自分、他人は他人とはっきり分けて考える性格をしている。社会の世界を生き抜く上で他人との交流はできるのだが、一方的に興味のない熱弁は興味の欠片も持てないでいた。
「うぜ」
親しい仲だからこそ悪意はないけど、素直な気持ちを伝える。
「ちょ、ひどくね」
相変わらずの関係だなと蛍は思い、笑いながら岸部まで泳ぐと太陽は後ろから着いてきた。一旦湖から出ようと手を突き、足を上げたところで、もう片方の足を掴まれ引きずれこまれる。
「うわっ」
ぼちゃんっ! と背中からぶつかった水は大きな水しぶきと波紋を広げ太陽の笑いを誘う。
「油断大敵~」
暴言の仕返しと太陽が先に岸に上がろうとする。もちろんこれだけでは終わらない。引きずり込まれた蛍は水中から顔も出さずに、太陽に近づいていくと足を掴み取った。
「げっ、両足はマズイって――ぶふっ」
水を飲みこんだ太陽は水中から顔を出し、吐き出すと怨敵を見つけ出す。
「やられたらやり返す!」
お互いに潜り込んだ水中で睨み合う。
蛍が挑発的に掌で「来い!」と合図をするとプロレス技だったり、鈍く動く拳を振るった。
そんな遊びを繰り返し、時間は過ぎていった。
岸に上がって息を切らしながら遊び疲れた二人はそろそろ下山の事を考える。
「そ、そろそろ帰るか?」
「あ、ああ、日が落ちるまで一時間もないはずだな」
山を下りるのに日が落ちてからでは遅い。人の手が入っていないと言うことは街頭があるどころか道すらない。完全に暗くなってしまったら、遭難も冗談ではすまなくなってしまうのだ。
濡れた服は下山途中にある程度乾くだろうから、濡れた体に地面に投げ捨てたワイシャツを着こむのを気にしない。どちらかといえば着辛いことへの不快感の方があった。
蛍がボタン締め始めたところで、
「ほれっ」
「おっと」
太陽が小袋に入った飴玉を投げ渡してきた。
「アメちゃんで糖分摂取っ!」
疲れた体には糖分と言うぐらいで、貰ったのはありがたいはずだったのだが蛍はその袋を開けない。
「食わないのか?」
「いや、お前これズボンのポケットから出しただろ。感触で溶けてるのが分かる」
暑い夏、小袋に入っていたとはいえ溶けた飴玉は無残にも変形している。溶けたところで湖の水温によって固形物には戻ったようだ。
「気にすんな」
「ん」
と、蛍は飴玉を自分のズボンのポケットにしまった。
「っておい!」
「遭難したら食うよ」
「なるほどね……、ってもっと早く言えよ! 俺食っちまったじゃねぇか!」
「なら、遭難する前に帰りますか?」
「ですよねぇ~」
着替えも終わり濡れない場所に置いていたカバンを手に取り下山を開始した。
暫くしてから、届かなかった電波を携帯が拾いはじめ、いくつかの纏まったメールを受信する。着信音で気づいた二人はカバンの中から携帯電話を取り出して確認していく。
すると、その内容を確認していた太陽から「げっ」という声が漏れた。蛍は大した要件でもないメールをいくつか返信し、事情を尋ねる。
「これからバァちゃん家に法事に行くの忘れてた」
馬鹿か……、と蛍は思う。普通は年間行事の中でも先祖の墓参りは簡単には忘れない。
「やべっ、今年は七月中に行くって言ってたんだ……」
太陽のオヤジさんは自営業を営んでおり、基本的に休みはない。それでも法事などの行事があれば張り紙を出して休みを出していた。特にお盆の時は人の出入りが多くなりそれが売り上げに繋がる。地元の人間はもちろん、地方からきた集客は欠かせないもんだから、その時期をズラして早めに休みを取るのだ。そして今年は、夏休みに入ると同時に行くようだった。
「悪い、走っていくぞ」
「ったく」
疲れている所に足場の悪い道を走るのは中々骨が折れる。走るのはもちろんのこと足場を気にして集中力を使うもんだから、下山した時には呼吸が荒れるに荒れる。前もってして解けば早めに下山できたのに。
いつものことか、と蛍は文句も軽く済ませ、いざ走り出そうとした時だった。ふいにしまったばかりの太陽の携帯が鳴った。同時に蛍の携帯にメールが入る。
蛍のメールの内容は、
【陽君に家に電話するよう伝えてあげて】
さっきのメールで太陽と一緒にいることを伝えた結果。
そして、
『ごらぁっっっ太陽今どこにいるぅうんだっ!』
それが太陽家の大黒柱に伝わった。
ぶちっ、と通話を太陽は切る。
「ふぅ、気のせいだな」
蛍はリアクションに突っ込みは入れない。まだ汗も掻いていないのに汗を拭う仕草もまた、アニメなどで表現として使われる仕草を真似したものだからだ。
そしてまた携帯が鳴る。
しかし今度はメールだ。
【シニテェのか?】
変換を失敗したそのメールは怒りを表しているように蛍は思う。さっきの電話では巻き舌で怒鳴っていたから、おそらく間違いない。
太陽と目が合った。
「電話する?」
「なんで俺が?」
「頼む」
沈黙の末、蛍が出した答えは。
「走ろう」
昔はよく太陽と一緒に怒られた。それがトラウマというわけではなかった蛍だったが、やっぱり太陽の父は怖い。例え、この件で怒られる理由がないにしろ、怒鳴った声すら聴きたくはなかった。
それからは急勾配を落ちる様に下山し始めた。太陽は時に叫びながら、蛍は落ちる恐怖と体に掛かるGに集中して声すら出ない。このまま進めば二十分と掛からず平地に付ける。
と、その前に獣道が終わり正規の登山ルートが見えた。
人の手が加えられた山道の横は草が一層生い茂っている。そのまま突っ切ってもよかったのだろうが、山道を引き立てる草の根が足に引っかかるのを恐れ二人はタイミングを計り跳ねた。
着地は見事に成功したものの、後から膝まで来る痺れで二人は悶絶する。声を出すよりも歯を食いしばった方が、痛みが緩和されるような気がしてか、そのまま十数秒の時間が過ぎた。痛みが治まり走れると思っていても、急激に掛けられて脚への負担と、走り続けた体力の問題もあって顔を見合わせる。
「す、少し歩くか」
「そ、そうだな。さすがにきついわ」
意見の同意にお互いが安堵しつつ、それでも早く帰る事は尊重された。そのまま歩きやすくなった道を進み、呼吸を整える為に無駄な話はされない。息切れが酷く会話にならないのも理由にあったのだろうが、具体的な時間は考えてはいないものの急かされた気持ちでそうなった。
湖で体が冷え、気温がちょうどいいぐらいだった体も今では汗だくになった。それでも息切れが収まり始め時間にして一分か二分が過ぎたところで、蛍がそろそろ休憩を終らせることを提案した時だった。
「蛍」
呼ばれた名前に太陽も同じことを考えていたと疑わなかった蛍だったが、次に発する言葉で裏切られる。
「悪い、しょんべん」
一瞬文句を言いそうになった蛍だったが、出るものはしょうがない。無駄な口論で時間を使うよりも一秒でも早く帰ることが考えられた。
「行って来い」
木陰に太陽が姿を隠し、蛍は先に少しでも歩いていようか考えたが、結局太陽に合わせて追い付かれるなら体力の回復に努める。一人になった休憩に座ることだけは拒否し、その過程で膝に手を突き故障が無いか軽く屈伸運動をしておく。
「蛍っ!」
すると、突然焦ったような声色で太陽が呼んだ。蛍は疲れで余裕が無いせいか何かの冗談である可能性は考えなかった。むしろ、何か大変な事が起こったのかと太陽が隠れた木陰の方へと急いで駆け付ける。
「どうしたっ!?」
そこには太陽が地面に指さし何かがあることを示している。蛍は太陽の後ろからズレその場所を確認する。そこにはコンビニ袋があり、中から黒い物体の端が見えていた。蛍がその中身を尋ねるよりも早く太陽が言う。
「中見てみろ」
太陽は一度も振り向くことなく袋の中身を凝視している。恐る恐る蛍はその袋に親指と人差し指で取っ手の端を摘まむと持ち上げた。案外中身は軽い。
そして中を覗いてみた。
「DVD?」
長方形の黒いケースは紛れもないDVDケースの物だった。袋から出し、蓋を開けてみると案の定DISCが入っている。誰かが捨てて行ったものだろうが、なんで山の中なんかに捨てて行ったのか疑問に思いながらも、DISCをケースから外し傷があるか確かめてみる。表はインクジェットタイプの物で色はくすんでもいなければ、裏にも傷一つないようだ。捨てられたのは最近の可能性がある。
ふと、蛍が単なるDVDを片手に気が付いた。
「っていうか、これだけ?」
少なからず心配して疲れている体を走らせたのに、待っていたのは捨てられたゴミ。思わず蛍はイラっとした。疲れ何て無視して太陽の尻を蹴り上げる。
「いっだっ、なんだよ?」
心配した何て恥ずかしくて言えない蛍は誤魔化しつつ、文句を言う。
「紛らわしいんだよ!」
「は? ああ、悪い悪い。ちょっと大げさにリアクションしたくなった。それよりもさ、この中身興味ないか?」
話の方向性が変わり、蛍は元の気恥ずかしい話を続けるよりも太陽の話に乗っかることにした。実際、太陽の言うとおりDVDの中身が気になる。言われなければ元の場所に捨ててしまっていただろうが、一度興味を持てば想像が膨らむ。
「AVか……、はたまたホラー映像か……」
DVDに視線を送りながら年齢的にも前者の方が良いと思う気持ちと、怖いもの見たさに世にも恐ろしい映像を誰かに話したいという好奇心に選択肢など初めからなかった。
「どっちがいい?」
「おいおい、それを訊く? このドスケベ!」
「ま、やっぱそっちの方がいいわな」
「早く帰って確認しようぜ!」
「んだな、帰るかっ! ってお前は法事だろ」
「あ、本気で忘れてた」
「先祖が泣くぞ」
お互いに笑みを零すと変な期待でテンションが上がる。とりあえずDVDケースごと蛍がカバンにしまい込み、走り出すとどうするかを話し合う。
太陽が法事から帰ってくるのは本格的なお盆突入の数日前、つまり一週間以上は帰ってこない。その間蛍が悶々と過ごすことになる。お互いにお互いが同じ立場だった時の事を考え、蛍が先に見ることが決まった。内容は言わないまでもそれをメールで伝える条件を加えて。
――それが事件のきっかけにもなるとは知らず、その時は動き出す。
DVDの行く末が決まると今度は走ることだけに集中されて会話はほとんどなくなった。おかげで随分と早く山道下の歩道へとたどり着いた。そこからは大した距もなく帰宅できる。蛍と太陽の家はすぐそばだ。歩道に出てからも走れば五分と掛からず家は見えてきた。
「やばっ」
小さなコンビニのような雑貨店を営む太陽父の店の前、自家用車が太陽の帰宅だけを待って親父さんがイラついた様子で立っている。そして、太陽と蛍の姿を捉えられた。親父さんの目が笑ってはいない。
二人して乾いた喉が鳴る。
思わず言い訳の口裏を合わせる為に蛍がおざなりの提案をすると、太陽はそれよりもいい案があると口にした。
「DVDの中身がなんであれ、帰ってくるまでに女医物を用意しておいてくれ。それで交渉してみる」
あまりの事に最低な親子だなと思った蛍だったが、本当にそれで大丈夫なのか確認する暇もなく太陽は親父さんに近寄り、交渉が始まっていた。太陽の親父さんは店に居ることが多く。レンタルショップに行く暇もなければ、会員証を作れば太陽のお袋さんにバレる。その事を考えれば簡単には入手できないだろう。
しかし、一階をお店で構築されている家では、太陽、そして太陽の妹の部屋はあっても夫婦の部屋は一つしかない。仮に手に入れてもどうやって見る気なのか不安はあった。最悪自分の部屋が使われるのではないかと。
そんな不安を余所に交渉途中、怒りで溢れていた親父さんの顔がみるみる綻んでいるのが確認できた。さすが太陽の父親だと思いながら、向けられた視線に漢にしか分からない結束が生まれる。
とりあえず一番の問題が解決できれば、蛍はどうやって女医物を入手するか考えなければいけなくなった。残念なことに蛍も太陽も年齢制限のあるDVDをレンタルするにも年齢が一つ足りてない。
いつのまにか一番被害を受けている事にため息を吐くと、後ろから声を掛けられた。邪な考えで思考がいっぱいの所に声を掛けられたせいで思わず驚いて声が出る。
「そんなに驚かなくても……、ただ声掛けただけじゃん」
居たのは太陽の一つ下の妹で、蛍とも兄妹のような存在の杉原月だった。後ろから出てきたところ、太陽を探す目的で蛍の家に行っていたのだろう。蛍の家から自分の母親と、太陽のお袋さんが出てきて目的の人間を見ては罵倒が飛んでいる。
「長くなるよ、あれ」
世間話にまで発展した母親二人を見て同感だと思いながら、蛍はついでに訊いてみた。
「月ちゃんの友達にレンタルショップで働いている男友達っていない?」
「は? いたと思うけど、なんで………」
すると疑問から何かを掴んだらしい。急に険しい顔になると理由も聞かず蛍の横を通り過ぎる。そして小声で「最低」とだけ残して、太陽が声を掛けるのも無視して車に乗り込んでしまった。
太陽から「機嫌悪っ」という声が聴こえると、妹同様勘が鋭いようでその理由に気が付くと、口だけを動かして「バカ野郎っ!」と伝えられた。悪いとは思う蛍だったけど、仕方ないと伝えた。自分だけ楽するな、と思うからだ。
これでとりあえず問題は解決したものとして、母親二人の世間話が終わると蛍と蛍の母親が見送りに車の横に立った。道中の安否を口にし、車内で外の風景に視線を向けて徹底的に無視を決め込む月を隣に、太陽と蛍にしか分からない会話を一つ。
「じゃ、メールするから」
「はいはい、待ってるよ」
それ以上は月が勘付く恐れから会話は続けられず、杉原家を乗せた車は、一週間は掛かる旅に出かけて行った。残されたような形になった蛍を見て蛍の母親が言う。
「さびしい期間に入ったわね?」
「いや、別に他の友達とも約束あるし」
「そう? じゃ夕飯にするから家に入りましょうか」
「出来たら呼んで自分の部屋にいる」
「下に居たらいいじゃないの?」
母親の鬱陶しい言葉を無視して家の中に入ると二階の自分の部屋へと蛍は上がっていった。鞄を下ろすとカツンと音がする。その場で座り込みカバンの中に手を突っ込むと例の物を取り出した。
と、急に部屋の扉がノックもなしに開かれた。悪い事をしているわけでもないのだけど、怪しいと自分でも思う行動に体がビクンと跳ね上がる。
「蛍、陽君と電話するのはいいけど、料金には気を付けてね。先月高かったから」
「分かったって! 急に開けんなよ!」
「怒ることないじゃない」
確かに、と蛍も思う。けど、怒りで怒鳴る事で誤魔化したつもりだった。蛍はカバンに手を突っ込み、見るからに怪しい。それに追及が来ないのは母親が気付かなかっただけなのか……、いや、優しさだったのだろうと感じる。でも、怒鳴ってしまったからでは遅い。
「出来たら呼ぶから降りてきてね」
「ん」
素っ気ない言い草で言い捨て、とりあえず感謝はする。そんなことを思うと気恥ずかしさと情けない気持ちとで体は熱く熱った。なんとなく伸ばした手を引込め、何が映っているかも分からないDVDを見る気が失せた。見るのは何時でもいい、我慢さえできれば太陽が帰って来てからだっていいのだ。そう思うことで忘れようとした時だった。
携帯にメールが届いた。差出人は確認するまでもなく太陽だった。
【中見たか? どんな感じ?】
気が早すぎると思いながら、一度は消し去った思いを戻すこともできないまま、放置もできず投げやりな態度で乱暴にカバンからDVDを取り出した。ケースを開け、DVDを抜き出すと、DVDプレーヤーに入りっぱなしになっていたDVDと入れ替えをする。TVの電源を入れ再生させる間に手に取ったDVDを元のケースへと戻す。まだ読み込みが続いている間に太陽へ【今、確認中】とだけメールを打った。
プレーヤーから何度も読み込みの刷り込み音が聴こえ、
「やっとか」
――その時は来た。
高校二回目の夏。
まだまだ空白の予定はこの時を持って全てが埋まる。
近いようで遠い世界へと身を移し、火村蛍は現実世界から姿を消した。