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降雨(七)

 耳に入ってくるのは、相変わらず砂を流すのに似た雨音だけだ。

潘少爺はんさん

 膝の上でぎゅっと手を組み、目を落としたまま、彼の名を呼んでみるが、耳の中では、自分の胸の鼓動の方が大きく聞こえてくる。

 耳を澄ましても、嘲る様な雨粒のざわめきしか入ってこない。

 あんな蚊の鳴くみたいな声音では、彼には聞こえていないのかもしれない。

 もう一度言い直そうか?

 顔を上げた瞬間、暗闇に仄白く浮かび上がっただぶついたズボンと、そして黒い影になった節高い指の大きな手が一度に目に飛び込んできた。

 梔子くちなしの香りで感覚が利かなくなっていた鼻を、つんと金臭い匂いがかすかに刺す。

「あ……」

 声にならない驚きを飲み込むと、すぐ真向かいに男は座っていた。榻床(ベッド)の木枠が新たにまた軋んで止まる。

 改めて相対すると、服よりも蒼白く浮かび上がった男の顔は、小さな黒目が震えるように潤み、薄い唇はもの問いたげに僅かに開かれていた。漏れ出る息は、音を押し殺そうとするだけに早まっていく。

 その様子は、欲望や期待よりも、むしろ緊張や恐怖を色濃く示しているかに映った。

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