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龍の養い子と、恋の魔法  作者: ちゃむにい
始まりの邂逅編
9/18

9) 時には果断な決断も必要です






「ところで、肝心の龍は、今何処にいる?」


「魔力切れで、昼寝をしているかと思います。呼んできましょうか?」


「いや、いい……」


寧ろ、居ないほうが好都合だ。そう思って、立ち上がった彼女を牽制する。


「……白龍が私を連れ攫ったことで発生する問題を解決するには、いくつか難点があってね」


「難点……?」


「私は軍の中でも特殊な立場なんだ。先ほどの光。見ただろう?こう見えても、私は『治癒師』として名を馳せていて、研究者としての地位は高いんだ」


「そう、でしょうね。私も、噂には聞いておりましたが、まさかこの目で見ることが出来るとは思ってもおりませんでした……たしか、治癒の魔法を使うことが出来る者は、世界に数えるほどしか居ないと言われているそうですが……素晴らしいです!万人を癒すことが出来る力を神から与えられているだなんて、まさに神使と言っても過言ではないですよね」


「まぁ、治癒師は夭折することが多いからな……」


主に過労死で、と言いたくなるが、純粋無垢な生物を失意のどん底に突き落としたくなくて言葉を濁す。


(言い方によって、こうも違うとは)


普段、勇者にぼろくそに言われているから、裏の無い率直な褒め言葉に、背中がむずがゆくなってきた。


私が、この力を初めて使った時、みるみる内に怪我が治っていったので、気持ち悪く感じたものだ。親に披露したら、泣かれた。幼い心ながらに、これは使ってはいけない力なのだと思い、とある事件が起きるまでは封印して使えないようにしていた。

だから私にとっての『治癒』の力とは、自然の流れに反した悪いものでしかなく、そんな力を持って生まれてしまった自分自身を疎ましく思ったこともある。


その力の恩恵を受けている今となっても、そのイメージが拭いきれていなかった。


(考え方にもよるのか……)


神から授かった力だと考えるなら、神聖なものとも受け取ることもできる。私の考えとは異なる意見に触れ、目から鱗が落ちるような心地がした。






「…………『治癒師』は稀少な能力だ。それ故に、国の保護下に入る。『治癒師』の能力を持っていると認定された者は、エルフに預けられて育つ」


「エルフ?」


「需要と供給のアンバランスさ。死期の近い者が、噂を聞きつけて波のように押し寄せてくる。そのため、『治癒師』は能力を開眼した直後から親に売られたり誘拐されたりして、成人前に死ぬことが多かったんだ。国によって教会という場所も提供されていたのだが、それも不正や賄賂が蔓延して使える人材が育たなかったらしいな」


レティシアでも理解できるように、専門用語をいっさい使わずに、喋っているが、それでもやはり難しい話になってきた。

だが、賢い子だ。年齢は14~5ぐらいだろうか。同い年ぐらいの子であれば、眠くなってしまうか、興味も示さない話だと思うのだが、頑張って私の話に耳を傾けてくれる。


「それに警鐘を鳴らしたのが、エルフたちだ。『治癒』の力を持つ人間は、魔物との戦いで重要な位置を占めるのに、使える人材が未熟なまま死んでいき、『治癒』の力を持つエルフが頻繁に駆り出されるのでは、たまったものではない、ということなのさ」


「なるほど……」


「そのため、私はエルフと共に育てられたと言っても良い」


部外者には冷たいエルフだが、それも仲間を守るための方策なのだ。時間を経て、慎重に人となりを見極め、仲間と認めた者に対しては、礼と義をもって歓迎する。

それがエルフであり、私が愛する種族だ。


「ところが私は、何とも間の悪いことに……懇意にしている人間の姫君とエルフの長が見ている目の前で龍に連れ去られた。わかるね?……人間とエルフの、白龍に対するイメージは地に落ちたと言ってもいい。私に、わざわざ奪還するほどの価値はないと思うが、それを名目に白龍を討伐しようとする若者が現れても不思議ではない。国王もエルフの長も、そうなってしまったら止めないだろう。民に害を成す魔物を放置しておくわけにもいかないだろうからね」


白龍は希少種だ。エルフの長老でさえ、その居場所さえ掴めていないのだから冒険者どもが赴く可能性は極めて少ないが、あの『勇者』が、この件で私というストレス発散の機会を失い、暴走化する可能性がある。

私が危険視するのはそれだ。龍が飛び去った方角ぐらい、少し調べればわかるだろう。

ちょっとやそっとで見つかる場所でも無いし、辿り着ける場所にも無いが、奴なら……あの勇者なら、単独でも乗り込んでくるかもしれない。もとより龍嫌いで有名なのだから、討伐の話が出たら一も二も無く賛同するだろう。


むしろ、嬉々として徒党を組む奴の姿が思い浮かぶ。


「そ、そんな……!」


ちょっと脅かしすぎただろうか?

肩を小刻みに震わせている。しかし、この話は近い将来、起こり得ることなのだから、彼女は当事者として知っておかねばならない。

彼女の龍は、あまりにも無知だった。無知では済まないことを仕出かしてしまったのだ。その尻ぬぐいは今しなければならない。


(それに、本題はここからだ)


この件は、遅くなれば遅くなるほど不利になり、私の立場も悪くなる。

へっぴり腰な部下では、傍若無人な勇者を止めることは出来ないだろうし、姫も宰相に小言を喚き散らすだろう。

哀れなお人良しの宰相は、神経衰弱で髪が白くなるかもしれない。

後々の禍根を残さないためにも、一刻一秒を争うのだ。レティシアに、この窮状を速やかに理解してもらわなくては、龍の説得も叶わないだろう。


愛らしいレティシアに辛い現実を教えて、その瞳を曇らせたくはなかったが、やむを得なかった。






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