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龍の養い子と、恋の魔法  作者: ちゃむにい
始まりの邂逅編
8/18

8) 大変な事実に気がつきました





(待っている友がいる。この程度の逆境に負けてられるか……!!!)


軍に入隊した時は、もっと大きな壁があったのだ。前例が無かったわけではない。しかし、基本的に軍は男が入隊するものという偏見が蔓延っていた。私は何時も雑用ばかりで、己の研究が遅々として進まず、女を異様に蔑視する同僚から受ける嫌がらせの数々に、私は辟易した。

入隊前に期待していたものとの落差が大きく、上司の期待に答えたくとも同僚の妨害を前に結果を出せず、次第に気力を失っていった。


あまりにも泥々とした人間関係に私は疲れ果てて、落ち込みながら帰郷した際に、仲の良い侍女を捕まえて愚痴を零していたが、いきなり父が部屋に入ってきたことがあった。


『この馬鹿者が!』


頭蓋骨にヒビが入るのではないかと思うほどの強力な拳骨を食らい、部屋からつまみだされた。


『やるなら最後までやり遂げろ。それまで家に帰ってくるな!』


と、私を罵って家から追い出した父の言葉を思い出して胸が熱くなる。


まだ最後ではない。死の足音はそこまで近付いていない。私は手も動かせるし、足も動く。怪我もしていないし、何でも考えることができる。


私は、生きている。


可能性は無限大ではないか。


そこまで考えて気持ちを落ち着かせると、レティシアが悲しそうな顔で私を見ていることに気が付いた。






「許してもらえるとは思っておりません。本当に、申し訳ございません……」


そう言って、すすり泣くレティシアに私は必死の形相で慰めた。考え込む癖は、ほどほどにしないといけないとは思いつつも、考えねば先に進まない事項が多すぎるのだ。


「私は別に気にしていないよ」


泣きやませたくて、赤ちゃんに語りかけるように特別優しい声色でレティシアに囁きかける。

しかし、実際のところ、私の言葉には若干の嘘が混じっている。

気にしていないわけがない。龍の顔を見たら少しは殴りたい。何時かは殴りたい。でも今はそれよりも優先事項があるので殴らないし、そもそも実力の差があるので実行不可能なだけだ。


それに、おそらく殴ったところで、毛の奥に隠れている鱗に阻まれて、私の手が痛くなるだけだと思う。龍の鱗は、いかなる飛び道具でさえ貫くことができない、鉄壁の防具だからだ。


「ミゼア様は、お優しいのですね……」


「今回の事は龍が暴走したことの様だしな。貴方も気にしなくていい」


いったい何年、ここで過ごしているのかは分からないが、龍は彼女の心を理解していない。レティシアの、触れれば壊れてしまいそうな繊細な雰囲気を作り上げた原因は、人の心に鈍い私でさえ察することができるというのに。


(やれやれ……)


人と接することを望んでいるのに、私と視線が合うと怯えたように瞳を揺らして視線を外そうとする。

人間に対してトラウマになるような過去が何かあって、それが彼女を臆病にさせているということは、すぐに分かった。

そうでなければ龍の養い子とはなっていない。何があろうとも、親の居る場所に戻ろうとするはずだ。


『友達が欲しい』


それは彼女の本心かもしれない。しかし、それと同時に、友達になることを恐れているようにも私は見えた。

だからこそ、レティシアは龍が傍にいれば、それだけで満足していたはずだ。人にとって、愛する者と一緒にいるということは、とても大切なことなのだから。


(しかも、龍め。よりによって私を選ぶというのが恐れ入る)


あまりにも人選が悪く、人を見る目がなっていないことは一目瞭然だ。

レティシアの友人となるにしては年齢が離れているし、気性だって筋金入りの軍人気質だから普通の女に比べると荒々しい。


龍は私のことを気に入った、とも言っていた。


(ってことは龍の気に入った人間を捕まえてきただけじゃないか……!!)


捕まえてきた人間と、彼の愛し子が友人になれるかどうかなんて、ちっとも考慮していなかったのだろう。人間同士だから、仲良くなるに違いないと思い込んでいるのかもしれないが、それは間違いだ。


とっても気まずくて、しょうがない。


そもそもな話、私の持論としては、


『友達になれ!』


と言われて、なれるものではないのだ。互いに好意を持って、少しずつ交流をして心を交わし、それからようやく友達と呼ばれる関係になるのだと思っている。

ちょっと昔風の考え方なのかもしれないが、少なくとも友達とは即席に製造されるものではないと、思う。


(まぁ、ひとまず、命の心配は無さそうだな……)


後は、どうやって王宮へ戻るか。


(うん。それが大問題だ)


少なくとも、龍を説得しなければならない。そうでなければ、この地の果てから、無事に森を抜けて戻れるとは思えない。

着の身着のまま追い出されたら、それこそ凍死するか魔物に襲われて一巻の終わりだ。


(あの龍を説得かぁ……)


前に立っているだけで足が震えるような気迫を思い出す。龍が私の言葉に機嫌を悪くしたら、命は風前の灯火となるだろう。私は耐炎性の装備を何1つ着ていない。

治癒の魔法は万能ではない。広範囲の皮膚壊死でも、治すことはできるが、瞬時に溶けてしまえば復活の魔法をかけなければならない。


それは天上人の奇跡であって、人間が行使できる権利はない。


『龍を説得する』


それは、とても険しく困難な道に思えて、私はゲッソリとした。






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