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龍の養い子と、恋の魔法  作者: ちゃむにい
始まりの邂逅編
7/18

7) 厄介事に首を突っ込みました






「ミゼア様。私の名はレティシアと申します。」


私の名前を呼ばれたので、鎖から視線を外して声の主である少女を見た。彼女には名前を明かしていないので、龍にでも教えてもらったのだろうか。


(レティシア、ね)


その音の響きに、なぜだろう。

不吉な予感がした。


真剣な眼差しにつられて、真顔になる。


「此度の事は私のためを思って、ヌルが先走ってしてしまったことなのです。こんな手荒なことをさせるつもりは、ありませんでした。父上に代わって、お詫び致します。何なりと、お申し付け下さい」


レティシアの言葉により、多くのことを推察することはできるが、認めたくなかった。

私は謝罪されるほどのことを人間にされた記憶はない。連れ去られてから今までに遭遇したのは、人語を解するエバーグラフィと、でかい白龍のみ。


(そもそもヌルって何だ……)


なんともヌメヌメとした気味の悪い名前ではないか。どのような理由で軟体生物の名を授かったのか、という経緯には興味があるが、そんな事を聞く雰囲気でもないし場合でもない。


ともかく、白龍とは比較にならないほど可愛いエバーグラフィがヌルなどと言う名称を冠するのは納得できない。

そうなると、あの憎たらしい白龍以外に該当するモノはいない。根性の悪さで名づけられたのだろうか。

なんとも、ぴったりな名前だ。


(しかし、ヌルという名前が、あの白龍なら……彼女の言う『父上』も白龍なのか?)


じんわりと脂汗が出る。


どうやら私は、とんでもないモノ達に関わってしまったようだ。

あの白龍は、どこからどう見ても純血種だ。

そして、レティシアは人間に他ならない。

龍と人間の混血種を見たことはあるが、龍の強すぎる優勢遺伝子を色濃く受け継いだ者ばかりだった。誰1人として、街で生活できるような容姿をしていなかった。


(龍が、人間の子供を育てる、だと……?)


少し前の自分であれば、そんな馬鹿なことがあってたまるかと、一蹴してしまいそうなことが、現実となっていた。

だが確かに、最後に聞いた龍の捨て台詞は、他の龍とは一線を画しているものだった。


『何を勘違いしているかわからんが、馬鹿なところも含めて、俺は人間、好きだぞ?』


聞き違いでなければ、そう言った。


(人間が、好き……?)


今更ながらに、その言葉に仰天する。


少々見下しているところはあっても、なんとも人間に対し友好的な龍だ。

実際のところ、大半の龍は自然を破壊する人間を良く思っていない。嘘であっても、そのようなことを口に出す者は、1匹もいない。


(なるほどな…………)


あの龍は、おそらくは龍の中でも異質な存在なのだろう。白龍は何処か人知れぬ森に『群れ』で生活していると聞いたことがある。


レティシアは龍に育てられたのだ。龍が無理矢理『お父様』と言わせている可能性も残るが、レティシアは親しみを込めて『父上』と言っている。

この件もレティシアのために龍が暴走した結果のようだ。動機だけを見れば、可愛いものだ。養い子を喜ばせようとして人間を捕まえてきたのだから。


私が、彼女の大好きな『父上』を嫌ってしまったら悲しむだろう。未だに龍に対しては沸々とした怒りを感じていたが、彼女のために我慢するのなら悪くない。


そこで本題を口にした。






「白龍も言っていた。私に頼み事があるようだが?」


その頼み事やらを見事、解決すれば無罪放免されるかもしれない。一縷の望みを賭けてレティシアに説明を求める。


「それがその……」


とても言いにくそうに口ごもる美少女。


ちょっとドキドキする私は変態だろうか。


「私、此処が大好きなんです。此処に住んでいる、みんなも大好きです」


「うん?」


それと、白龍の望みがどう繋がるのだろう。とりあえず相槌を打っておく。


「でも、時々、寂しくなるんです。人間の、お友達とおしゃべりしたいなって……独り言のつもりだったんですけど、ヌルが聞いてたんです」


「ははぁ……」


読めた。それで暴走したわけか。あの図体ばかり大きくて、子供っぽい白龍は。


「気が付いた時には、ヌルがいなくて。私の誕生日プレゼントに人間の友達を捕まえてくるって書き置きだけ、置いて……この1カ月、本当に気が狂うんじゃないかと思うぐらい辛かったです。私が、友達が欲しいって言ったばっかりに……」


声が震えている。


(可哀想に。こんな北の果てに、たった1人ぼっちだなんて、寂しかっただろうな……人が人である限り、人を求めるものだ……)


本はある。遊ぶ道具もある。衣食住も足りており、穏やかで平和な日々。

きっと何ひとつ不満なことはないだろう。

しかし、次第に外の世界に憧れを持つようになるのは、ど田舎に住んでいた私にも良く理解できる。そして胸に抱いた憧れや希望は、強くなることはあっても弱くなることはならないということも。


憧れは時に残酷なまでに周囲を傷つける。親に何を言われようとも自身の論理が正しいと思い込み、実行しなければ気が済まなくなる。

私が軍人という道を選択した事も、今の惨状を考えれば後悔の念しか沸いてこなかった。軍人でなければ、龍の治療なんて命じられなかっただろうし、こんな場所に連れてこられることもなかった。


(いやいや気弱になってどうする……!)


鬱々となってきた心を奮い立たせて、私は手の平をつねった。










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