表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍の養い子と、恋の魔法  作者: ちゃむにい
始まりの邂逅編
6/18

6) 可愛い女の子には弱いんです





小鳥のように愛らしい声で、少女は私に質問を投げ掛けた。


「お怪我の方は、大丈夫でしょうか……?」


澄んだエメラルドグリーンの瞳が私を見上げる。宝石よりも深く、神秘的な色合い。これほどまでに美しい少女が実在したのかと関心してしまう。

世の中は広いものだ。絵で見る絶世の美女と謳われる女性よりも、遥かに魅力的な少女だ。大人と子供の境目にある、無垢な美しさは何者でも蕩けさせるだろう。


きっと大人になったら、その瞳で、その髪で、その声で、男どもを虜にさせるに違いない。そのような予感をさせる、男好きのする顔立ちをしていた。


(か、可愛い…………)


心が震える。


手を差し伸べて守りたくなるような儚げで柔らかな雰囲気は、彼女の魅力に華を添えている。さらさらとベットに零れ落ちる光の粒子を紡いだような白金の髪。きっと手触りは良いだろう。ぐしゃぐしゃと頭を撫でまわしたいが、人並み外れた美貌とは言え、この子は人の子だ。

一刻でも早く研究所に戻らないといけないのに、こんなことを思っているだなんて、私の治療を待ち侘びている親愛なる友人に知られたら、ど突き倒されるに違いない。


可愛いモノは正義と、常々主張しているこの私だが、今の哀れな顔を見れば皆笑い死にするだろう。おそらく、顔はだらしなく歪んでいる。

冷静になろうと必死で頭を切り替えようと黙り込む私に、少女は怯えたように両手の指を交互に絡めて、神に拝むように頭を屈めた。


「私に、出来得る限りの治療はしましたが、未熟な独学で御座います」


……そういえば、タンコブに触れた時に、ぬるりとした感触があったことを思い出す。もしかすると、彼女が患部に軟膏でも塗ってくれたのだろうか。

お礼を言おうと思って彼女を見ると、


(わぁお……)


このままだと泣く。


「怪我は治したから問題ないよ」


目に涙がたまっているのを見て、返答を急いだ。意地悪をしたくて、無言でいるのではないのだ。

心配そうに私を見ている少女を目の前にして少々、無作法だったかもしれない。

これが私ならきっと、

『何処が痛いんだ、さっさと言え!時間の無駄だ!!』

と、怒鳴っているところだ。


もっとも、単に私が短気な乱暴者なだけなのかもしれないが。


「先ほど光は、やはり……」


「治癒の魔法だ。ほら、私の頭を触ってごらん」


「……あ……!」


「治ってるだろ?」


「す、凄いです……!」


暗く淀んでいた少女の瞳に、きらきらとした輝きが戻る。そうすると、さらに幼く見え、あどけなく子供らしい興奮した様子に、私の顔も綻ぶ。


(だが、やはり、この少女は貴い身分の出だな)


そう、再認識せざるを得ない。気分が高揚している時でさえ、控えめで上品な言葉遣いと、訛りのない正しい言語の発音は、平民階級では成せる業ではない。

貴族階級と、それ以外の者では、住んでいる世界が違う。成人後に学ぶこともできるが、発音の違いを修正することは極めて難しく、何かしら違和感を感じるものだ。その生まれを隠し通すことはできない。


改めて部屋の中を見渡してみる。


ぬいぐるみが至る所にあり、木目の残る小さな机の上には、雪の女王とも呼ばれる濃い水色の花が一輪、活けられている。

机の上には、本が3冊散らばっている。傍らには羊皮紙が置かれ、羽根ペンが転がっていた。少々散らかってはいるが、生活感のある部屋だ。


可愛らしい小物で飾り付けられたこの部屋は、もしかすると、彼女の部屋なのかもしれない。どうやら彼女は龍に愛されており、不当な扱いは受けていないらしい。

と、思ったが、


(待てよ。彼女の、この鎖は何だ?)


突如として目に飛び込んできたのは、彼女の両手の間に垂れ下がっている、窮屈そうな銀色の鎖。先ほどまでは存在していなかった代物だ。


(光が無くなると消える仕組みか。魔法や、呪術の類か……?)


雲が太陽を遮り、太陽光が無くなると消え、光をを浴びると具現化するようだ。左手を顎に付けて思考に耽る。

その物体が現実に存在するのか立証したくて、消えた鎖に手を伸ばす。そこには何も無い筈なのに、じゃらりと重い金属の音がした。


(こ、これは……!!)


見間違えるわけがない。勇者の野郎に何度か悪戯されたことがあるからわかる。この質感に重量。これは軍用の鎖じゃないか。

主に魔物を封じ込めるために使う拘束具だ。どのように入手したのか分からないが、王宮に上手く潜入していたのだから、その際に盗んだのか。


まさかこの少女、龍の奴隷とでも言うのか。


そうだとしたら、何て羨ましい――いや、違った。龍なんて恐ろしい種族だということになる。何を考えているのかわからない奴らだったが、まさか人間を奴隷にして閉じ込めるような奴らだったとは。


憎き白龍のことを思い出し、自然と表情が険しくなってしまった。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ