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龍の養い子と、恋の魔法  作者: ちゃむにい
始まりの邂逅編
5/18

5) どう対処しろと、言うのですか






手放した意識を取り戻して、まず私が思ったことは、


(まだ、生きている)


その一言に尽きた。



私を寝かせるという目的にしては、まるで不釣り合いな天蓋付きのベットの中で、私は目覚めた。

これではまるで、私が王侯貴族の捕虜にでもなった気分になる。

鼻孔をくすぐる花の香りが漂っており、体を右に動かしてみると、金糸と銀糸がふんだんに使われた、ゴージャスなレースが見えた。


あまりに豪華すぎて、気遅れするぐらいだ。手を伸ばしてレースを引っ張ってみるが、その触り心地の良さといったら。


私は混乱した。


(何が、どうして、こうなった?)


私の置かれた立場からすると、不気味なぐらい待遇が良い。


できれば夢オチを期待したかったが、この滑らかなレースの感触は現実であるということを主張していた。あれだけ外は寒かったというのに、この部屋は人間が生活するに快適な暖かさだった。


(地面に降下する前に、『我が住処』と龍は言っていた)


つまり、此処は龍の住処ということになる。

の割には、やけに人間的な住まいだが、稀少な白龍の住処など、誰も見たことはないので、龍の住処でないとは断言できない。


(何を、企んでいる……?)


手足は欠けているところなく、正常のようだ。


私は、きっと餌ではない。餌だというのなら、連れてくる意味も無い。私を食べたいなら、すぐにでも食べれば良いのだ。

わざわざ、遠い人間の街にまで来て連れ攫う理由はない。よりによって王宮で騒動を起こすなど、人と龍の間に、これ以上溝を作ってどうするつもりなのか。


手をぎゅっぎゅと握っては開ける。恐れていた凍傷の後遺症はないようだ。頭はズキズキとするが、それは心当たりがあった。

あの龍が唐突に落下した反動で頭を強かにぶつけたからだ。おそらく、この痛みではタンコブでもできているだろう。


そっ、と後頭部に手をもっていくと、やはり、というべきか、卵の半分程度の大きさのタンコブができていた。

触っても感覚がない。

出血はしているだろうか。とりあえず治癒の魔法をかけようと、手の平から鈍い光を発現した。その光が収束すると、タンコブはみるみる内に消えていった。


(痛みがひいた……)


このような時に、治癒師で良かったと思う。万に1人の確立で生まれる極めて珍しい職業の素質を私は生まれながらにして持っていた。

このような見知らぬ土地でかすり傷一つ負ったとしても病に陥る可能性はある。切り傷や凍傷と言った類いの治療に『治癒』の魔法は有効だが、足が膨れ上がるだの、『風土病』とでも言うべき未知の病に関しては、魔法は無力だ。


そのような病気が発生した場合、人は今でも魔法ではなく、『薬』に頼らざるを得なかった。






(私は、龍に生かされている)


まだ生きる可能性があるとするなら、何としてでも希望に縋りたい。私の死は同時に、私が治療している、もう1人の死も暗示していた。


(まだ可能性があるなら、それに賭けたい)


安堵と共に疑問が生じていた。私は、かろうじて、この世に生を繋げている。

龍の言った『頼み』

それが生きているという事に他ならないだろう。だが、私の身で最も価値があることと言ったら、この血肉が、まさにそうだ。


人間は知らないことだ。


後世のためにも知られてもいけない。


『治癒師』の血肉は万能の薬の素となる。

ただし、それには調合の知識が無いと宝の持ち腐れということになるが、龍ほどの生物であれば人間よりも進んだ技術と知識を持ち合わせている可能性がある。


魔物にとって、私の血は甘く感じるらしい。それで昔から魔物に襲われ、酷い目にあった。もし、私の血肉を少しずつ得る目的で、この私を飼うつもりだというのなら、交渉の余地が残る。


より多くの血を長く、多く採取するつもりなのなら、『私』をうまく飼い殺すことが必要だからだ。






「あの…………」


「……ッ!?」


いきなり声をかけられて、私は跳ね起きた。気配なんて感じなかった。超警戒モードで、ギリ、と声のした方向に睨みつけて。


気が抜けた。


背の低い、可憐な美少女がそこには居た。聡明そうなエメラルドの瞳に、見事な白金の髪。窓から差し込む太陽の日差しに眩しいほど輝く。

女である私の目から見ても、神々しいほど美しくて、その姿は私の心に鮮やかに焼き付けられた。


初対面だというのに、目が離せない。

どこかの令嬢と言っても差し支えないほどに、美しい。その瞳の色に、魂が吸い込まれそうなほど惹かれた。

彼女が嫌がらないことを良いことに、マジマジと見詰めてしまう。


(あれ……?)


私が、すぐに警戒を解いたのは、昔から知っているような、そんな雰囲気を感じたからかもしれない。

彼女は、とても普段着とは思えないほど、それだけでひと財産になりそうなドレスを着用している。そのような知りあいはいないと言いきれるほど、低い身分でも無かった。

私は貴族でもあり、治癒師として国内の重要人物を治癒して回ったりもしている。その際に、見た顔なのかもしれない。


(もしかして、私と同じで龍に誘拐されたと、か?)


見た感じ、血色の良い健康体そのものだが、私は龍に対して、怒り心頭だった。こんなに可愛い子を、親から引き離すなど、どのような理由があろうとも言語道断の行いである。


(どんなに親御さんは心配しているだろう!)


子を想わない親はいない。

私の想いを余所に、女の子は私の後頭部をチラチラと見ながら心配そうに眉を下げた。


そして、ピンク色の、ふっくらとした唇を動かす。






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