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龍の養い子と、恋の魔法  作者: ちゃむにい
始まりの邂逅編
4/18

4) 食べちゃいけません




『ふふ、人間よ。そんなに心配するな。危害は加えぬ』


白龍は好奇な視線を、ギョロリと私に投げかけた。深海のように青い目が、白い体毛に埋もれながら、垣間見える。

それほど大きくもない目を細め、何かを企んでいそうな悪い目付きで私を値踏みするように見ていた。腹に一物を抱えていそうな印象を受ける。


なぜだろう。背筋にゾクリと寒気が走った。


(こ、怖っ!!!)


笑っているのだろうか。

それは楽しげに口角を上げ、鋭く巨大な白い歯を剥きだし、くぐもった笑い声を発する。

それと同時に、龍から吐き出された息が凄まじい風と化し、私の壁となっている鳥たちに襲いかかった。


私は、吹き飛ばされないように這いつくばるのに必死で、強風の直撃を受けた鳥たちを、見守ることしか出来なかった。


「…………ッ!?」


手も足も出ない状況に、私の胸を突っついた犯人探しなど、している場合でないことを思い知る。

今私が対峙している相手は犬猫ではないのだ。

彼は誇り高き龍であり、その存在感は今まで遭遇した魔物よりも遥かに凌駕していた。





『ねぇ、白龍様。今日なに食べた?』


『いやな匂いだよ!』


『食べちゃいけない草、食べたね?』


鳥たちは、この程度の強風には慣れているのか、平然と受け流して、やり過ごす。

ただし、龍の吐いた匂いに辟易でもしたのか、目を白黒させながらバサバサと翼を羽ばたかせた。龍に向かって何やら指摘し、首を屈めて全身を使って猛然と抗議を始めた。


『それはだな』


白龍はバツが悪そうに、そう言ってから沈黙した。心なしか龍の手が、ほんの少しだけ暖かくなってきたような気がする。

会話が途切れ、鳥たちは言葉の続きを促すように、騒ぎ立てた。


『レティシア様、駄目って言ってた』


『約束、って言ってた』


おや。龍の手が、しっとりとしてきたような気がする。露骨な変化に、私は笑いだしそうになった。なんて人間みたいな龍なのだろう。

焦りと不安の入り混じった感情が、その瞳にありありと浮かんでいる。


私は、そのことに非情な驚きを感じた。

以前に、仕事で出会った龍は、感情を殺したような喋り方しかしていなかったような気がする。正式な場であったというのもあるかもしれないが、酒宴の席でも同じ態度だったので、龍とはこのようなものなのか、という認識をしたのだが、それは早計だったのかもしれない。


『う、うるさい。これは不可抗力だ!』


『嘘だね』


『嘘だよ』


『ほんのちょっっぴり、だぞ!』


『レティシア様、悲しむよ』


『悲しむね』


最初の第一声は、ふてぶてしさ全開だったのに今では、まるで悪戯がバレた時の子供みたいな声色だ。

威厳もヘッタクリも無い。


龍は、もどかしそうに尻尾を動かした。


『とッ、とにかく人間!』


世話好きな鳥たちに怒りの矛先を向けることは出来ないのか、どうやら作戦を変更したらしい。しかし、失った威厳と尊厳は戻ることはない。鳥たちの憐れむような視線が彼に集まっている。


『以前からお主には注目していたのだ!』


「そ、そうなんですか」


他に何と言えばいいのか。気のきいた言葉の1つも浮かんでこない。私は引きつった笑いを浮かべた。

自慢ではないが、私は口下手である。

そもそも、研究畑の人間に、そのような芸当を求めるのが間違っているのだ。


『今日も観察していたが、見事なものだな』


「はぁ……」


色々と説明が抜けていて、言わんとすることが分からない。


『20回だ』


「20回?」


『癒しの魔法を行使しただろう?王宮の神官長でも10回が限度だというのに、単純計算でお前は悠にその2倍近い魔力があるということになる。その若さで、たいしたものだ』


「あぁ……」


そしらぬ顔で、何気に使用回数を数えていたのか。

怒鳴りたくなったが、言葉を喉元で飲み込む。何せ、何度呼びかけても反応が無かったので、子供の龍から大人の龍へ変化する時に聞こえた声は、錯覚で、言葉が通じないのではないかと半ば疑問視していたところなのだ。


なぜ、今になって私に喋りかける気になったのだろうか。


『昨日も黒龍の長老が患っていた病気を回復させただろう。その帰り道に小人に頼まれて子供を無料で治療したとか』


「私の行動筒抜け!?」


『その他にも知っていることは、まだまだあるぞ。子供の掘った穴に落ちて全治2週間の怪我をしただの、借金取りを撃退したとか』


「ろくでもない噂ばっかりですね」


聞けば聞くほど白い目で見てしまう。


(私への宣戦布告だと思っていいですよね?)


と、言いたかったのをぐっと堪えて龍に言う。元の場所へ戻るためにも、この龍の助けは必要だ。

龍の気分を害するような地雷は、出来るだけ踏みたくない。


「ひとつ、そのお主のお人よしっぷりを見込んで頼みがある」


とっても頼みがあるような言い方ではないのだが、これだけ大きい龍だったらプライドだって高いだろう。


だが、もとより、私はそれほど気が長いほうではない。少々気分を悪くして、上目遣いで龍を見る。


「人間を滅ぼしてくれとか、悪いことは死んでも嫌ですよ」


『何を勘違いしているかわからんが、馬鹿なところも含めて、俺は人間、好きだぞ?』


龍は、そう言うと、急降下した。


そう。私の了承も得ず、地面にまっさかさま。


「ぎゃー!!!!」


後方に身を投げ出されて、頭をぶつけたと思ったら、あっという間に目の前が真っ暗になった。




きっと、今日は厄日に違いない。







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