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龍の養い子と、恋の魔法  作者: ちゃむにい
始まりの邂逅編
3/18

3) 予想は覆されました




再び眼下を見渡すと、森は深い雪に覆われており、川岸には氷が張っている。この寒さでは、川全体が凍結するのも時間の問題だろう。

風は吹き荒れ、凍てついた大地は地平線の彼方まで続く。

白龍が何時まで飛び続けるのかわからないが、流石に周囲が真っ暗闇になったら地面に舞い降りるのではないだろうかと思われた。


雲ひとつない空。

天候は穏やかだが、今宵は新月だ。かぼそい星の光を道しるべに暗闇の中を飛び回るというのは、龍といえども危険極まりない。

しかし、何から何まで想定外の事ばかりなので、過度に期待は出来ない。期待をして裏切られるのは、もう勘弁だ。





『我慢しないで、人間?』


『僕らの羽根はね、保温性が高いんだ』


『雪が降っても、へっちゃらだよ』


そっ、とドレスの裾を嘴で挟んで、優しく引っ張る鳥たちに、視線を向ける。全長2メートルほどで、ほぼ人間と変わらない大きさ。

全身が白く、頭部は柔らかな青色で楕円状に染められている。目と嘴は黄金色で、白と青のコントラストが見た目にも美しい。


(エバーグラフィ)


人の言葉を話す知能の高い鳥と言えば、エバーグラフィという名の鳥がいたなと、ふと思い出す。性格は温厚で争いごとを嫌う。人の住まない孤島、ローデットの固有種と聞いた。


(つい数年前に、最後の1羽が死んで絶滅したと聞いていたが生き残りがいたのか……)


研究用として買い求めた事がある。市場には数多くの羽根が出回っており、実物が絶滅した今でも金さえ積めば手に入る。

それだけ犠牲になったエバーグラフィは多い、ということだ。困っている生物がいたら居てもたってもいられなくなる。なんて、生存競争に弱い種族だろうか。優しさの影で、どれだけの犠牲が出たのだろう。


人間のせいで一度は滅んだ鳥が、人間のために暖を与えようとしているなんて、感慨深いものがある。


「…………ありがとう。お言葉に甘えるよ」


そう言って鳥の傍に寄ってみたが、いざ彼らの羽毛に触れようとすると、若干、抵抗感を感じた。これが何も喋らないぬいぐるみであったら、飛びつくだろうが、彼らは人並みの思考能力がある鳥である。私が今やろうとしていることは、人間に飛びつくのと何ら変わらない行為だ。


どうしたものかと躊躇っていると、彼らは、のそのそと近づいてきて鉤爪と鉤爪の隙間に腹を押しつけた。その途端、風がピタリと止む。


(いい子たちだな…………)


私の気持ちを察してくれたのだろう。私が彼らに触れるという選択肢以外で、彼らに出来る最善の方法を選んで実行してくれた。


風の直撃を受けないだけでも、かなり違う。


『いい匂いだね、人間』


『何の匂い?』


気が抜けて、心安らかにヘタリ込むと、鳥たちが口ぐちに騒ぎ立てる。そういえば、白龍の子供を不安がらせないように、私特製の香水を振りまいてきたことを思い出す。


(まだ匂いがするのか……香水が無駄にならなくて良かった……)


ありがたいことに、どうやら龍だけではなく、鳥たちにも有効だったようだ。これだけ喜んでくれると、作ったかいがあるというのものだ。

白龍の子供を治療するという任務を強要され、部下に当たり散らしたが、これでも私は22歳の乙女だ。可愛いものに目が無いのは万国共通の乙女の証。


味気ない軍の指令に同封された姫の絵と手紙に私は感涙した。情に脆いのは、私の良いところであり、悪いところでもあると思っている。

心の奥底に仕舞い込んでいた乙女心が刺激されて、高い材料を惜しみなく使い、エルフに伝わる作り方で香水を精製したというのに、こんな化け物だったなんて、詐欺だ。


『人間?』


『まだ寒い?寒い?』


まるで同族を心配するような目で私を労わる複数の鳥たちに、胸が熱くなった。

彼らの気が変わってしまわない内に抱きしめたくて、おそるおそる彼らの居るところに体を動かそうとして、ビクリと立ち止まった。


龍の腕が、ゆっくりと持ち上がったのだ。





『人間。そろそろ、我が住処に着く』


あの耳触りな低い声が、キンキンと頭の中に響く。


(つ、ついに、食べられるのか!?)


頭から丸飲みにされる映像がフラッシュバックのように脳裡に蘇り、恐怖のあまり、膝がガタガタと震えた。





『人間、白龍様は怖くないよ』


『怖くないよ』


『優しい方だよ』


『なんでも、知ってる、すごい方だよ』


私の怯えっぷりに、鳥たちが私を慰めようと首をもたげ、私の頭やら腹を突っつく。


痛い。


痛いったら。


私の着ている服は、白衣でもなければ軍服でもない。姫様にお逢いするために軍の予備費を借用してレンタルした夜会用のドレス姿だった。

彼らにしたら優しく突っついているつもりなんだろうが、薄い生地を何度も突っつかれては痛い。


痛すぎる。


(というか胸を突っついたエロい子は誰だ!)


私は龍の事も忘れて、ギロリと鳥たちを睨みつけた。








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