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龍の養い子と、恋の魔法  作者: ちゃむにい
始まりの邂逅編
13/18

13) 美味しい食事が台無しです





龍とは、生きとし生きるものの中でも、屈指を誇る長寿だ。頭を刎ねられなければ、数千年の時を生きる。けれども、眼の前の白龍は体も小さいし、どう見ても生を授かってから4、5年ほどにしか見えない。

だが、両親が50年前に死んだとなると、この龍は悠に50歳を越えるのだろう。と、なると、私よりも遥かに年上だ。

たしかに以前出会った龍族の者は、200歳まで幼体だと言っていた。脱皮を繰り返して、龍は大人へと成長していく。


「白龍って現存している個体はボクとおじいさましか居ないんだって。おじいさまが、そう言ってたよ。ボクは誇り高き白龍の王子さまなんだって……」


嬉しくないけどね、と言いながら、その誇り高い龍が、ケーキを頬張って口元の毛を汚す。レティシアにフォークで口に運んでもらって、幸せそうに食べているが、もっと多く食べたいのか、ちょっとだけ不機嫌そうだ。


レティシアの、あっ、と言う叫び声が聞こえた。私の視線は自分の皿に盛りつけられたケーキに向いていたので、その現場を見ていなかったが、なるほど。せっかく汚れないようにフォークでレティシアが食べさせてくれてたのに、少量ずつなのが辛抱ならなかったのかケーキを鷲掴みにしたようだ。

なんという惨事だ。あちこち生クリームだらけ……レティシアに手を拭いてもらっているが、いやいやしている。


間違っても王子様だなんて呼びたくない。眉間に皺が寄っていることを自覚しながら、私は龍に話しかけた。


「そういえば、私を連れ攫った時は、やけに大きかったが、あれはどうしたんだ? それが本来の姿か?」


「あの時の姿は、おじいさまだよ。……かっこいいでしょ! 尊敬してるんだ!」


今は魔力切れだから、ボク本来の姿に戻ってるけどね、と言う。自信満々に言っているところ悪いが、レティシアに生クリームを拭ってもらっている姿は、かっこ悪い。


それでも、おじいさまとやらの自慢をする龍に、ちょっとだけ羨ましくなる。

孫に優しかった私の祖父が亡くなったのは、10年も前になる。その頃の記憶がよぎって、キリリと胸が締め付けられた。

けれどそれとこれは別だ。そのおじいさまとやらは、孫が仕出かしたことを知っているのだろうか。


「ボクも大きくなったら、あんな風になるんだよ」


「そうか……大きくなるといいな……」


50年以上も、こんなに小さいのなら、私が生きている間は大人になりそうにもない。そう思ったのが伝わったのか、白龍は憤慨したように澄んだエメラルドグリーンの瞳を輝かせた。


「あと10年ぐらいで大人になるんだよ! ボクは神様の使いなんだから、敬え、人間!」


私の言外の意味を感じたのか、ぷりぷりしながら言う白龍。


「ふぅん」


思わず白けた目で見てしまう。自称ほど怪しいものはない。胡散臭さは倍増だ。


白龍は天候を司るとされ、大聖堂でも白龍神として祀られている。そのため敬虔な信者が多い。たしかに、あの威厳溢れる姿は、神々しいぐらいだった。あの騒ぎの中でも、泣いて拝んでいる人がいたぐらいだ。

白龍は、人間によって『神の使い』と定義されている。


おそらくは、白龍討伐の最大の壁となる。幾多もの龍を滅ぼしてきた勇者が今まで手を出せなかったのも、宗教的な意味合いが強い。それに人里離れた僻地に住む、温厚な種族だったため討伐を訴える勇者の言い分は弱かった。

しかし、今回の騒ぎで勇者は『私』を救出する、という目的を得た。きっと勇者は、この千載一遇の機会を逃さないだろう。


そのことを知っているからこそ苛立って、意地の悪い質問をしてしまう。


「ならば、雨でも降らせてもらおうか? さぁ、してみろよ」


「そ、それは無理な相談だよ……大人にならないと出来ない……」


「ならば意味がない。今、ここに居るのは、ただの白龍の子供だ。だろ? だからこそレティシアの言うことを、ちゃんと聞いて従うんだ」


実際、すること成すこと、子供でしかない。という言葉が出かかったが、かろうじて喉元で留める。

残念なことに、この白龍は物分かりが良くない。

私の言葉に、白龍は反発を強めた。


「ボクのほうが、レティより年上だよ」


「生きた年数と、精神的な成長の度合いは比例しない」


「……子供扱いしないで! これでも交尾は出来るんだから!」


奇妙な沈黙が流れた。レティシアに視線を向けると、耳たぶまで赤くなるほど赤面し、やや俯き加減に頭を下げて、顔を手の手で覆っていた。

うん、私がその立場に代わったとしても、穴があったら入りたいとでも感じるだろう。


「ふふん。鳥の交尾を見て、覚えたんだ!」


その沈黙を何だと思ったのか、白龍は自慢気に、そう言った。


「ぬ、ヌル!! お願い、ですから……それ以上、喋らないで下さい……!!」


「はぁい。……ね、だから、そんなに怒らないでよ、レティ?」


怒られるとは思っていなかったのだろう。それとも、レティシアが怒るという行為が、極めて珍しいのか。

レティシアの叫びに、白龍は目を丸くしてから、椅子から飛び降りた。


「それじゃあ、水浴び……、してくるよ」


彼女の様子を、そっと伺いながら、急ぐようにペタペタと歩いて部屋から退場した。






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