第五話「黒騎士は溜息をついた」
さて…どうすればよいのでしょう。
僕は無情にも閉められてしまったドアを見つめ、状況を整理すべく頭を働かせた。
まず、勇者様は見つけた。あの金色の髪と瞳を持つあのお方こそ勇者様に相応しい。相応しいが…今代の勇者様はとても意志がお強い。ああも頑なに拒まれてしまっては、あのお方を護る身としてとても堪えますね…。
「まずは…団長に報告すべきか」
しかし、この報告の内容は団長にとっても頭を悩ませるものには違いない。ならば、もう少しでも状況の改善を試みるべきであるかもしれない。
しかし、あのお方の言うことがもっともなだけに耳が痛いことになりそうです。
僕はそこでもう一つ気になったことを思い出した。
代々の勇者様たちは皆男性だったのに比べ、今代の勇者様は女性…これには何か意味があるのでしょうか。それとも、考え過ぎか…どちらにしろ、このことも団長に報告して損はないでしょう。
「団長」
『どうした』
これでも平静を装ったつもりですが、少し困惑した声色になってしまったことに団長に気付かれてしまったようです。団長も緊迫した雰囲気の声色で聞いてきました。
「…少々厄介なことになりそうです」
『そうか、とりあえず報告が聞きたい。勇者様はお側にいらっしゃるのか』
「いえ…追い出されてしまいました」
『…………どこが少々だ、馬鹿者』
僕の言葉に団長は頭を抱えそうなほど低い声を出した。これは確かに僕のミスであり、予想外の出来事でした。
「申し訳ありません…まさか今代の勇者様が女性で、それもあれほど意志がお堅い方とは思いもしませんでした」
『確かに今代勇者様が女性だということにも驚愕だが、意志の固さだけなら二代目勇者様もそうだっただろう』
二代目勇者様…確かに同じようなことを仰っていました。「他のやつにやらせろ!もしくはそのまま滅びろ!」などと心痛い苦言をこれでもか、というほど漏らしていらっしゃいましたね。
僕はつきたい溜息を飲み込んで団長へと話を進めることにしました。
「これからは慎重に今代勇者様をお守りするつもりですが…少し気になることが」
『なんだ』
「確かに今代勇者様が女性だという事実に疑問もありますが、それ以前に我々はまだ魔王の位置すら掴めていません」
その言葉に、団長はしばし沈黙をつくり、数秒程の時間を有して僕の懸念にお答えになられました。
『そのことなんだが…まだ確定ではないから滅多に口にはしたくないんだが』
そう言葉を区切り、いつもの団長にしては勢いのない口調に僕は思わず問いかける。
「何かあったのですか?」
「………本当にまだ未確定だ。それを踏まえてこれから言うことを理解しろ。もしかすると、魔王は<人間界>にいるかもしれん」
……………はい?
僕は思わずそう漏れそうな言葉をなんとか押し留めて団長の言葉も理解しようとする。まず今までの例として、<下界>にいるその魔王は<人間界>と<光界>を我が手中に収めんとするためにこの二つの世界へと侵攻をしてきた。しかし魔王にも二つ同時に世界を相手にする力はないらしく、まずは僕が仕える国である<光界>に侵攻をし始めた。それと同じくして、<光界>には特別な力を授かった、後に勇者様と呼ばれる者が誕生した。しかし生まれたての勇者様にその力を自由に扱えることはなく、そんな勇者様をお守りするためだけに作られたのが護衛騎士団。団は主に3つに分かれているのだが、今考えるべきなのはこのことではない。この国は元々王国であり、国と王をお守りする騎士団がすでに存在していたため、そこに新たに騎士団を作ったのが始まりとされている。
そして騎士団が力を合わせて魔王の放つ魔物と交戦しつつ、国と勇者様をお守りすることで<光界>を守ってきたけれど、時を経て勇者様は覚醒なされた。正直、僕はこのとき産まれておらずこの覚醒をよく知ることはない。覚醒なされた勇者様は長期に渡りお仲間と共にまずは<光界>に蔓延る魔物を消滅させ、魔王のいる<下界>へと向かわれた。魔王と最後の戦いの時、僕は決まって勇者様の邪魔をする魔物が現れないよう勇者様のお側を離れて残党狩りをしていたため、勇者様の最後を知ることは叶わなかった。それは初代勇者様の時から3代目勇者様の時まで変わることはなかった。残党を狩り終わり、急いで勇者様のお側に行くと決まってそこには水晶に封印された魔王と息の無い勇者様の躯があった。僕はそれを<光界>へと持ち帰り、国中でその死を悼のだ。
それは初代勇者様から3代目勇者様まで変わらない。変わったことがあるとすれば2代目勇者様の時は今代勇者様の時と同じように<人間界>でご誕生なされたというだけだ。そう、魔王はいつも<下界>にて封印されていた。それが何故、今代勇者様の時に限って<人間界>に……?まさか3代目勇者様は魔王封印に失敗なされたのか?それとも魔王の封印に綻びが?
今回は異常事態が多すぎる。今代勇者様の性別にしても、魔王の所在にしても…それに今代勇者様の記憶がないことも懸念しておくべきことの一つ。
「…団長。何故、今代勇者様はこのような宿命を持ってご誕生なされたのでしょうか」
僕は、今回の異常事態よりも、さまざまな問題を持ってご誕生なされた今代勇者様の身を案じた。何故、あのような美しい方がこんなにも絡みあった因果に身を置かなければならなかったのか。しかし騎士団には勇者様を同情、もしくはそれに準ずる行為は禁止事項とされている。そんな僕の言葉を団長は声を低くしました。
『ラン。あまりあのお方の身を案じることはするな。我らには何年かかろうとも理解することは出来ないのだ、あのお方に少しでも使命に専念していただくため、我ら騎士団はあのお方を護るためだけに存在していることを忘れるな。兵に偏った心は無用、時にそれはあのお方への邪魔にしかならないときだってある』
団長の厳しくも正しい言葉に、僕は「はい」と短く返事だけをして通信を切った。目の前の問題は、魔王がいつ復活するか、ですね。魔王が復活すればその場所を特定することは可能ですが、もし団長の未確定事実が正しければ魔王復活の際、今代勇者様を危険へと巻き込む可能性が一番高いことを示しています。これは早急に、今代勇者様へのご報告と考えを改めてもらわなければ…しかしあの意志のお堅い今代勇者様にどうやって…。
僕は策を巡らせるべく、今代勇者様のご自宅からあまり離れていない公園のベンチに座ってそこにいた真っ白い猫を抱えて溜息をついた。
今回はヒロイン抜きで話が進みます。
ランくんには説明に回ってもらいました。
前にM疑惑の浮上したランくん、これでも副団長の騎士なんです。
そして少し出てきた団長が苦労気質っぽい匂いでしたね。
まあその原因はヒロインとランくんですが、
さて、ランくんはどうやってヒロインを納得させるのでしょうか。