村に果実を届ける魔王
お久しぶりです。初めまして。ダラダラ王こと間歇泉です。
このお話は本来長編としてプロットを製作していた物のプロローグ部分を、あっさりさらり喉越し爽快な感じに纏めた短編です。
妙にフラグを撒いたりしているのはそのせいです。
暇つぶしに読んでやってください。
「魔王様ー」
「何?」
「今日は何を送るんですかー?」
「カイスがたくさん採れたから、それをメインに。
後ルプッナイパと、イウキも送っとこうか。
暑さで駄目にならないように、ちゃんと冷却魔法かけといてくれ」
「はーい」
俺は長時間複数の食物を保存できる巨大な倉庫に、ラルと二人でいた。
魔法で貯蔵しておいた果物を倉庫の外に放置した馬の荷台に積んでいく。
それを箱詰めし、氷の魔法である程度の簡易保存魔法をかけるのがラルの役目。
月に2回の事だからもう慣れた。
とは言え魔法を使うのは集中力を凄まじく削る。
おまけにこの暑さは結構しんどい。
汗びしょびしょだ。
…こんなオッサンが濡れ濡れでも何の需要も無いんだろうな…。
「魔王様ー。次運んでくださいよ。
冷却が切れちゃったらどうするんですか?」
「あぁ、悪い。
これで最後だから、勘弁してくれ」
「了解」
指先で空気をなぞる様にすると、それと同じようにたくさんの果物が飛んでいく。
それをラルが魔法を使い、果物の所有権を自分の物とする。
空中の紙飛行機を息で旋回させるような見事で繊細な技術で、果物等を荷台の籠に入れた。
おー。
「随分丁寧な魔法が使えるようになったじゃないか」
「そうですか?」
「うん。
精密度なら俺も負けるくらいに」
「…魔王様、魔法のセンスなかったですもんね」
グサッ、と自分の胸に何かが突き刺さる音がした。
黒い猫耳をぴょこぴょこやりながら、ホロリと涙を拭く(フリをする)ラルを見て、更にグサグサ。
「初めて会った時なんか、「え、こんなに威厳の無い人が魔王なの?」と思ったし」
グサ。
「魔力も他よりちょっと多いくらいだったし」
グサグサ。
「しかも趣味が家庭菜園と知った時はもう私が責任とって自殺しようかと思いましたもん」
グサグサグサッ!
「ってソレ関係無いだろ!
しかも何で家庭菜園全否定!?」
「少々草食系男子っぽい感じが眉をひそめさせるなぁ、って」
「草食系男子の使い方間違ってるよ!?」
まぁ、間違いなくダメージは受けたが。
因みに俺の胸板がハリセンボンのようになっている気がするが、完全に幻覚である。
…幻覚でも胸は痛かったけど。
「ほら、準備終わったしさっさと行く…ってあっちぃ!?」
「…日の光を浴びるのが苦手なほどインドアだっていうのを知ったときも失望しましたね」
「ほう、いいのかな?
それ以上言うと、お前の給料が人質だぜ?」
「じゃあ今月から仕事の合間のおやつタイムは無しで」
「申し訳ございませんでした」
深々と土下座させていただいた。
何て弱いんだろう、俺。
たぶん今の俺を誰かが見たら借金抱えた農民かなんかだと思うんだろうな。
頭の上から振ってくるのは嘲笑と哀れみの視線。
「ぷぷぷーw何時になったら口論で勝てるんでしょうね」
「くそ…。
あの“モンブラン”とかってスイーツさえ無くなれば、俺の権威は取り戻せると言うのに…!」
「ケーキ一つで部下に優位に立たされる魔王が何を言いますか。
ほら、顔上げてください」
言われたとおりにすると、ラルがこちらに手を伸ばしていた。
大人びた顔たちも逆光で見えないが、きっと笑っているだろう。
…そうだよな、こいつ、根は優しいんだよな…。
俺は仲直りの意を込めて握手をするように彼女の手を握りしm
「えい。」
パシン。
「断られた!?」
差し出した手を思いっきり叩かれました。
――ん゛ー! 結構本気だったー! いってえぇぇ!
その場にごろんごろんと転がりまわる俺。
もうこうなったらヤケだった。
「ちくしょう! やってらんねぇ!
もう魔王なんて辞めてやる!」
「全く…しょうがないなぁ。
ほら、行きますよ魔王様。みんな待ってますし」
「え、やめろよその慈愛と母性に溢れてるっぽい目!
俺が駄々こねてるみたいじゃん! 大人の余裕に涙目になるじゃん!」
「はいはい。後でお菓子作ってあげますから」
「餌付けされてるーー!!」
そのままラルにズリズリと引き摺られて、馬車の荷台に積まれる俺。
俺、荷物扱いなのか…。
変わっちまったな魔族…。
「…さて、鍵も閉めた事だし、そろそろ行きましょうか」
倉庫の重い扉を自慢の魔法でちょちょいと閉じたラルは、馬に乗りながらそう言った。
「…魔王様、いつまでいじけてるんですか。
早くいつものやってくださいよ」
「俺なんか、所詮貧乏魔王とかそのうち呼ばれるんだ…。
他の魔族にも示しが付かなくなって、即実家行き…」
「はぁ、まぁ、私がやってもいいんですけど。
でも、ここで魔王様がやらないと今回見せ場無いですよ?」
「!」
そ、それは困る!
ただでさえ既にツッコミキャラが確立されているというのに!
このままだと本当に何も出来ないイメージが植えつけられてしまう!
いや誰にとは言わないけど!
「…帰ったらちゃんとモンブラン作れよ…?」
「はいはい。相変わらず言う事が小さいんですから…あ。」
「――」
「…くすくす」
もう罵倒も耳に入っていなかった。
それほどの集中。
俺は荷台から見える、大きな倉庫に向かって、
小さく呪文を唱えると同時に、
右手で左手を織るようにつないだ。
目を閉じる。
祈り。
食物に対する、生きている者達への感謝。
それこそが、何よりも強い守り。壁。防御。
最強の、魔法。
目を開ける。
認識できるのはほんの一握りの魔術に長けた者のみだが。
必然と近寄れないようになる、心を干渉する結界。
愛の魔法。
倉庫を囲うように展開された魔法に、ラルが呟く。
「…魔王様は、さっき私を褒めてくれましたけど…」
「ん?」
「やっぱり私は、まだまだだと思います」
「? 何で?
お前だって精神や心関連の魔法得意だろ?」
確かにこの魔法は上級魔術師でも扱えないような、それでいて誰にでも出来る不可思議な魔法だ。
それでも、俺とほぼ同等の実力を持っているラルなら、そこまで難解な魔法じゃ…。
これくらいの精度の魔法、朝飯前だと思うが。
「そうじゃないですよ」
「???」
よく分からん。
しかも荷台の屋根のせいで、ラルの顔が一向に見えない。
普段から分かりにくいラルの言動が、余計に分かりにくい。
「『自然と自然が出来ている』」
「……『それこそが感情。それこそが魔法』…?」
魔法の基本原理だ。
確か賢者ドレイクが言った言葉だっけか。
「もしかしたら、魔王様みたいな人の事を指してるんじゃないんですかね」
「まぁ、俺人じゃないけどなー。悪魔だし。魔王だし」
「揚げ足取らないでください。死ね」
「あれ!? さっきまでのほんわりとしたムードは!?」
一瞬で消え去りました。
そして上下関係も復活です。
まさか部下にdeathを要求されるとは思いもしませんでした。
ラル、恐ろしい子っ…!って、うをッ!?
「ちょ、まっ」
「さぁ、行きましょうか」
「行くのはいいけど何でこんなスピードオーバー!?
荷台揺れまくりだぞ!? 魔法掛けてるから中の物は落ちないけど…」
「ムカついたからです」
「現代の若者か!」
「む。その言葉は私が若くないみたいなイントネーションを感じます。
ダメですね。
やっぱモンブランは無しの方向で」
「理不尽すぎる!」
夏の日差しの中、俺達はガタガタと音を立てて突き進む。
ラルと口喧嘩しながら、ふと横に積んである果物の籠の中を見る。
下り道に揺れる果物は、瑞々しく、元気一杯で。
まるでこの8月の空のように…いや。
空だけじゃなく。
空気も、風も、草も、木々も、虫も、鳥も……世界が。
全てが爽やかだ。
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