#6///Desk of color in summer
この限りない青空のような
8年越しの僕の恋のような
そんなカンジの、夏色の机。
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夏の炎天下の中、校庭では野球部やサッカー部など、野外の部活動に所属している人が走っている。見るからにキツそうな彼らにとって、将来を考える余裕なんてものは無く、今現在のことでいっぱいいっぱいだろう。今年は受験の年である3年生の人たちは、将来のことで頭がいっぱいいっぱいのようで、家に帰って勉強をしている。セミの声は五月蝿く、彼らを励ましているようにも聞こえた。
窓からの景色には絶、そんな風景が写っていた。
アレから数日が過ぎた。
あの日を境に、私の身の回りでは以前と少々違うことある。
何から話そうか・・・、先ずはさくらと阿部くんのことから話そうか。
あの日、私達が教室を出た後、さくらは阿部くんのプロポーズ(?)のような告白にOKしたらしく、めでたく二人は現在お付き合いという仲にランクアップした。なぜかその事をクラスのみんなは知っていて、今ではからかいの的になっている。多分、恒くんか沙希さんがバラしたんだと思う。
そうそう、恒くんと沙希さんも付き合っているという事を、先日さくらから聞いた。
事の真相は知らないが、二人とも教室では何食わぬ顔で過ごしている。対照的に、さくらと阿部くんは見るからに“私達、付き合っています”という雰囲気が出ている。授業中よく見つめ合ってるし、ちょっとしたことでお互い赤面になるし・・・と。とにかく幸せの絶頂だそうだ。
それから、これは私自身のことなのだが、将来の夢が決まったのだ。とても口に出して言える事じゃないから、今は内緒という形で私の胸の内にしまってある。
私は窓の外から視線を外し、後ろを振り向いた。
目の前には、お決まりのプレート。私は扉に手を掛けて、ゆっくりと教室の中に入った。今日は、伝えたいことがあった。
教室は相変わらず静まり返っていた。迷うことなく、私は歩いた。そして、目的の場所に着き、そこにある席に座った。
「・・・お久しぶり・・・とまではいかないかな」
誰もいない教室で、一人、ポツリと呟いた。
「・・・私、ずっと忘れていました・・・。私と悠季さんって、ホントは出会ってたんですね・・・」
そう、コレも先日知ったことの一つ。母から聞かされた。悠季さんは元々ウチの近所に住んでいて、私が小さい頃、よく遊んでもらっていたということ。そして、8年前の事故は・・・。
「私を助けて、死んでしまったんですよね?」
お兄さんに会いたい。その一心が小さな身体を動かしていた。が、結果から言えば、それはただの独り善がりだった。事実、私のせいで悠季さんは死んでしまった。
「・・・謝っても謝りきれませんね・・・」
多分、翔さんたちは知っていたはずだ。私がその時の子供だって。それでも、何も言わずに、初めて会ったように接してくれたんだと思う。そう仕組んだのは、恐らく原口先生。本当に、どう謝っても、どう感謝しても仕切れない。
「・・・ホントに悠季さんって・・・」
そこでフッと笑ってしまった。
私は鉛筆を取り出し、机に文字を描いていく。
そして、鉛筆を置いて、一度、空を見た。
手を伸ばし、大きく広げて、青空に重ねてみる。
「この手のひらに収まらない、この空のような貴方が好きです」
そうして、私は教室を後にした。
一人の命と引き換えに生き永らえたこの命。絶対に捨てたりはしない。
小さな決意と小さな別れが、青空の下の教室で混ざり合った・・・。
真央が出て行った後、教室は再び静寂に包まれた。しかし、教卓の下から手がにゅっと出てきた。
「はぁー、バレなくてよかったぁ・・・」
そこにいたのは吉村夏紀だった。
彼は扉を名残惜しそうに眺めて、真央がいた席に近づいた。
「ごめんね、兄さん。勝手に名前とか色々借りちゃって」
席に座りながら、彼はそう言った。
「ずーっと前から知ってたんだけどなぁ・・・、でもあの頃の俺ってなんか根暗だったし、憶えているわけも無いか」
自嘲気味に言ったそれは、どこか哀愁を漂わせていた。
机の文字を見た彼は、クスリと笑いながら、その隣に文字を連ねた。
書き終わると、彼は立ち上がり、外を見た。
「結局兄さんには勝てないままか・・・。でも、真央ちゃんの瞳にも写れるような男になるつもりだよ、兄さん。絶対に、いつかこっちを振り向かせてみせる」
空に手を伸ばし、ゆっくりと握り締めた。
何も掴めはしないが、夏紀は満足そうに笑って、教室から出て行った。
8年前と変わらないそれは、清々しいほど青くて、限りないほど澄み切っていた。
セミの声が空に響き、みんなの声が、空に解けた。
沢山の悲しみも、幸せも、いつかは空に解けてなくなる。
だけど、その一瞬一瞬を、大切に・・・。
太陽の光に照らされているそれは、夏色の机だった。
Fin.
ここまで読んでくださった皆様に、感謝です♪