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夏色の机  作者: 春暉
5/6

#5///Small love


君は小さな恋をした


僕は小さな故意をした。

*****




「「「ありがとうございました」」」


 翔さん達のお話(おしゃべり?)が終わって、私達は席を立ち、御礼をした。


「なに、久々に昔を思い出せて俺達も良かったよ、な?」


「えぇ、ホントに」


「にしても、結局、恵美めぐみは来なかったね」


「あぁ、宮辺みやべのことか。・・・って、今は有瀬ありせだっけか?」


「無理もないでしょ?だって・・・」


 中島さんが言いにくそうな表情で口を開いた時、教室の扉が開いた。

 このタイミングって・・・、まさか・・・。

 誰もが予想した、誰もがそう来ると思った。


「おーい、そろそろ時間だ」


・・・現実はそんなに甘くなく、扉からひょこっと顔を見せたのは原口先生だった。


「・・・今、みんな期待したよな?」


 翔さんが振り向きながら、唖然とした顔で言ってきて、私たちはみんなして笑ってしまった。

 そして、翔さんの言葉の真意が分かるはずもない先生は、怪訝そうな顔をしながら言った。


「どうだ、藤野?スッキリしたか?」


「はい、大分」


 私がそれだけ言うと、原口先生はフッと笑った。そして、高校教師とは思えない発言を翔さんたちにした。


「よーしお前ら、この後用事ないだろ?みんなで飲むぞ」


「流石先生!分かってるじゃぁありませんかぁ!もちろん、奢りで!」


 と、翔さんが言った。結構現金なところがあるようだ。

 すると、隣の恒くんが私のほうに身体を傾けてこっそり「実は兄さん、お酒全く駄目なんだ。自覚してないんだけどね」と教えてくれた。

 ・・・無知ほど怖ろしいものは無いってよく言ったものだ。

 翔さんたち一行はそのまま原口先生に引っ付いていき、教室から姿を消した。

 教室に残された私達は、暫く口を開かなかった。みんな、それぞれ思うことがあるのだろう。私も、あえてなにも言わず、ただ、時間が過ぎていくのを感じた。限りなく静かで、だけど、どこか優しくて・・・。そんな時間の流れに、身を任せていた。

 と、いきなり阿部くんが口を開いた。


「・・・俺、さくらちゃんのお婿さんになろうかな」


「・・・は?」


・・・私は(恒くんと沙希さんも含めて)あえてなにも言わず、ただ、時間が過ぎていくのを感じた。限りなく静かで、どこか不自然で・・・、そんな時間の流れに身を任せて・・・。


「~~~~!!!なに言ってんのよ!!?」


 と、さっきの一言に硬直していたさくらは、みるみる顔が赤くなっていった。それはそうだろう、あんなプロポーズじみたことを、私達の前で言われたんだから。

 沙希さんはそれに苦笑しながら、「私達、邪魔者みたいね」と、二人には聞こえないように恒くんと私に言って来た。まぁそう言わずとも、既にさくらの罵声でなにも聞こえてはいないだろうが・・・。


「じゃ、私達は帰るとしますか」


 と、沙希さんはしれっと二人に告げた。


「ちょ、こんな変態と二人っきりにしないで「分かった~、また明日ね~」」


 さくらの言葉を遮り、阿部くんは爽やかな笑顔で手を振ってきた。

 恒くんが扉の方へ向かったので、私もその後について行った。後ろのほうでさくらがギャアギャア騒いでいたが、今日は気にしないことにした。

 二人を残して教室を出た私達は、ついついにやけてしまう顔を隠すのに必死になった。


「幸久って、あんなに大胆なヤツだったんだな。知らなかった」


「ホント、こっちも赤くなっちゃう」


「だね・・・、二人とも付き合うのかな?」


「わからんなぁ・・・」


 もし二人が付き合ったら、次からさくらに会う度ににやけてしまいそうだ。

 ・・・付き合う・・・かぁ・・・。


「二人ともこれからどうする?」


 恒くんが聞いてきた。


「あのさ、ちょっと私行きたいトコ出来たから・・・」


 そう、行きたいところが出来てしまったんだ・・・。




 私の行きたい所。目の前には3‐6の教室のプレート。翔さんたちからあんなにも想われていた悠季さん・・・。会ってみたい、そう思っても、もう会えない・・・。私とは違う世界に行ってしまった・・・。だけど、繋がれないわけじゃない・・・。そう思うと、一刻も早く、あの机に行きたくなった。

 そして、扉を開けた。

 開けた先には、いつもの教室と、見知らぬ女性が、あの席に座っていた。


「・・・あ、ごめんなさい。ここの生徒さん?」


 透き通った声は、静かな教室に響き、私に届いた。


「いえ、そういうわけでは・・・」


 女の人はキレイに笑いながら、座っている机を愛しげに撫でた。

・・・そういえば、さっき翔さんたちが言っていた・・・。

 私は勇気をだして聞いてみた。


「あの・・・宮辺・・・じゃなかった、有瀬恵美さんですか?」


 そう言うと、女の人はこちらを向きながら、くすっと笑った。


「私の旧姓も知ってるってことは、琴音や翔たちに会ったのね」


 やっぱりそうだ。この人も、悠季さんの同級生の人だ。

 そう思うと、この人からも、悠季さんの事を聞きたくなった。

 少しでもいい、ほんの少しでも、悠季さんのことを知りたい。


「あの、悠季さんとはどんな・・・?」


「あー・・・一応、彼女だったよ」


 ――えっ?――


「あの・・・お付き合いをなされてたんですか?」


「まあ・・・言うほどのものじゃないけど」


 そう言いつつも、その表情はどこか懐かしさと愛しさが混ざっていた。

 ズキン。と、私の心から音がしたような気がした。

 なんでかな・・・?

 有瀬さんの顔を見ると、悲しいというか、切ないというか・・・。そんな感情が湧いてきた。湧いてきたそれは、将来への不安にも似て、私の心をかき乱す・・・。

 有瀬さんは空を見ながら、口を開いた。


「悠季が死んだのは、付き合い始めて1ヶ月もしない時だった。因みに告白したのは私ね。もうすぐ悠季の誕生日でもあった。でも、死んじゃった。人ってこんなに簡単に死んじゃうのかって、あの時思ったなぁ。私ね、誕生日の日のプレゼントも、その日になんて言ってプレゼント渡すかも、全部、全部、考えてたのよ・・・。でも、あの日・・・」


 いつの間にか有瀬さんは泣いていた。声が震えることも無く、嗚咽をすることも無く・・・・、ただただ、瞳から涙が流れていた。まるでそれは、空から雨が降るような・・・。

 有瀬さんは、頬を伝うそれを拭いもせず、話しを続けた。


「言いたかったこともあるし、言わなきゃいけないこともあった。ほんと、掴めない人よね・・・。近づいたかと思ったら、遠くに行っちゃう・・・。悔しいなぁ」


 空を見ていた有瀬さんは視線をこちらに戻した。


「・・・なんで貴女も泣いているの?」


「・・・ぇ・・?」


 頬を触ると、濡れていた。私もいつの間にか泣いていた。

 何故泣くのか、分からなかった。いや、分かっていない振りをしているだけなのだろう。目を背けたいだけなんだろう・・・。

 有瀬さんはゆっくりとした足取りで私の前まで歩いてきた。そして、自分の涙も気にせず、私の目から涙を拭ってくれた。


「ごめんね、こんなこと関係ないのに」


 優しく、頭を撫でてくれる。その手が、とても優しくて、温かくて・・・。


「大丈夫だと、思います・・・」


 頭を撫でてくれる手を掴み、胸元に寄せた。


「きっと、分かってると思います・・・悠季さん。有瀬さんが伝えたかったことも・・・全部・・・伝わってると思います」


「・・・っ。・・・ありがとう・・・」


 さっきの心の痛みは無い。多分、いやきっと、空に解けてしまったんだ。あの人がいる、この、どこまでも続く真っ青な空に・・・。

 その後、有瀬さんは教室から出て行った。私はというと、悠季さんの席に座って、空を見ている。

 空はどこまでも続いている。この星のどこに行っても、私達の上には空がある。そんな、空。清々しいくらい青くて、限りなく透き通っている。私は、まだまだそっち側には行けない。だけど、心だけなら届きそうで・・・。

 目を閉じる。セミの鳴き声がする。そして、あの人の声が聞こえる気がする。

 あの空の下の教室で、私は小さなコイをした。



Fin.

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