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夏色の机  作者: 春暉
4/6

#4///That person`s legend


彼らは云う、それは昔話と


彼女は聞く、それは伝説と。

*****




「これ、ウチの兄さんの“如月翔きさらぎしょう”」


「やぁどうも!ウチのくそガキがお世話になってます」


「くそガキで悪かったな」


「そりゃもうチョー可愛い妹なら大歓迎だったんだが・・・」


 恒くんとお兄さんは再び睨みあいを始めた。

 今回、原口先生が呼んだお友達というのは全部で6人。そのうちの一人が恒くんのお兄さんだったなんて、世の中結構小さいんだなと思ってしまった。

 私達の机の前の席に6人、ちょうど私達と対立するように並んだ。

 一番右から、黒をメインとした服装で、黒魔術でもやってそうなオーラの女の人。

 その隣から順に、Tシャツにジーパンといった、あまり色気がない女の人・メガネとポッチャリした体型のでギターを背負っていた男の人・小麦色の肌で、如何にもサッカー少年って顔をしている恒くんのお兄さんの翔さん・パリッとしたスーツ姿で、とても凛々しいカンジの女の人・そして最後は、黒ぶちメガネで長袖といった、ちょっと謎な女の人。


「ちょっと、翔、ウチらのことを紹介しなさいってば」


 スーツの女の人が、これまた凛々しい声でそう言い放った。


「あぁ、すまんな、じゃぁ紹介すっか」


 そう言うと、翔さんは立ち上がって、黒魔術師(?)の女の人の後ろに立った。


「こちらは、現在霊媒師としてちょっとした有名人の“古寺香里こでらかおり”ちゃん」


「・・・よろしくね」


 暗いオーラの中から、優艶な笑みが零れた。・・・ちょっとだけ怖い。


「んで、次が夢を追いかけて早26年、未だにネバーランドの存在を信じている、現在フリーターの“夏目梓なつめあずさ”ちゃん」


「ちょ、止めてよ!なんか変な目で見られるじゃない!」


 ちょっと赤面して照れているが、信じているのは否定しなかったところを見ると、図星らしい。


「んでもって、隣のコイツは自称『最後のXJAPANメンバー』、ストリートシンガーの“大元晋太郎おおもとしんたろう”だ」


「実力は皆無なんだけどね」


 そう言いながら、メガネをくいっと持ち上げた大元さんは、古寺さんとは違う意味で恐怖を感じてしまう。


「こちらのクールビューティースーツウーマンは、ピアノの先生兼塾の先生兼弁護士の“中島琴音なかしまことね”さん」


「恒くん久しぶり。皆さん初めまして、中島です、今日はよろしくね」


 ・・・恒くんと面識があるんだ・・・。

 ・・・素直にカッコいいと思う。・・・大元さんより遥かに・・・。


「そして、最後は我等が姫君、“杉下美穂すぎしたみほ”様だ!」


「・・・お姫様じゃないよ?どっちかっていうと貧困の民です」


 ・・・なんかズレてると思うのは私だけだろうか?


「で、今さっき恒からも紹介されたように、日本のリオネル・メッシこと、元プロサッカー選手の如月翔だ、よろしく!!」


 ・・・常時、テンションが高い人だということが一番分かったと思う。


「それじゃ、始めるとしますか」


 紹介が終わり、翔さんは自分の席に戻り、こう切り出した。


「将来についての講演会・開催、悠季ズフレンズだっ!」


 なんだかんだで、お話が始まった。




「・・・って言ってもなにを話そうか?」


 ・・・まだ始まっていなかった。


「・・・私が司会やるから、翔は黙ってて」


 咄嗟に救いの手を差し伸べた中島さん。なんか憧れてしまうな・・・かっこよさに・・・。


「ちょっと待ってくれよ!ここは日本のメッシに」


「翔」


「・・・」


 翔さんは、顔を右下に傾けて、黙ってしまった。

 あ、拗ねた・・・。その仕草が恒くんそっくりで、少し笑ってしまった。


「私達、原口先生からの頼みで、貴方達に将来について少しだけお話することになってるんだけど、なんか、質問とかあるかしら?」


「はいはーい!質問です!」


 イキナリ、さくらの隣から・・・阿部くんが挙手をした。普段の授業では手をあげるなんてこと、一回もないのに・・・。


「あの・・・コレ真面目になんスけど・・・」


 阿部くんの真面目な顔。授業では一回たりとも見たことがない表情・・・。


「中島さんって、今現在お付き合いとかなさっていますか?」


 瞬間、世界が静止。

 まるで時間が止まる・・・それを体感してしまったかもしれない・・・。

 少しばかりの沈黙の後、怒号が教室に響いた。


「・・・こっの、バカアホスケベチカン―――――――――――!!!」


 バキンッ、ガラガラ、ドサッ・・・・。

 そんなファンシーな効果音が耳に流れてきて、目からはとんでもないスピードでアッパーを食らわされた阿部くんが宙を舞い、そのまま地面に堕ちた映像が流れてきた。

 自業自得ってヤツだよ・・・阿部くん・・・。


「はぁ、はぁ・・・、ったく、気の利いたこと言うかと思ったのに・・・」


 さくらをみると、顔が少しだけ紅潮している。


「・・・っはっはっはっは!豪快なヤツは大好きだ!」


 翔さんは、膝をバシバシ叩いて笑っている。


「す、すみません。急に取り乱しちゃって・・・」


 自分がやってしまったことに気づいたのか、さくらは益々紅潮した。


「・・・かわいいわねぇ・・・」


 と、夏目さんが言った。

 それに対して益々紅潮するさくら。こんなさくらは久しぶりに見る。


「・・・まぁいいわ、質問っていっても漠然としすぎたものを投げかけた私の失態ね、後でその子に謝っとかないと」


 困ったような笑顔で、中島さんは言った。


「さてと、じゃぁ方向性を変えて、私達から話しをしましょう」


「って言ってもどんなカンジでやるの?」


 杉下さんが聞いてきた。


「あ、じゃぁ俺がなんでストリートシンガーになったのか話そうか?」


 足を組みなおして、大元さんが言ってきた。


「俺、高校の勉強ほったらかしにしてずっとギターばっかり弾いてたんだよね。まぁそのせいで行ける大学はどこもなくて、この先どうすればいいのかなぁ~って悩んでてさ、その時、悠季から言われた言葉で、俺、これから先もずっとギターを弾いていきたいって思ったんだ」


「あ、それ知ってる。『お前の音楽はお前しか創れないんだよ?ギター弾き続ければ良いじゃん』でしょ?」


「そうそうそれそれ。俺、ホントビックリしちゃってさ、でも心にグッと来てね・・・、まぁそれが俺がストリートシンガーっていう金にもならないことをやり続けていることの理由かな?」


 大元さんは、とても満足そうに話をそう言い括った。


「・・・わたしも、言われた」


 自己紹介の時から喋っていなかった古寺さんが、口を開いた。


「私、ちっちゃい頃から幽霊が見えてて、それが人間なのか幽霊なのか見分けが付けられないくらい見えてたの。それで小学校の時いじめにあって、それ以来、なんで自分は幽霊なんて見てるのかなって、自分の人生を呪っちゃってた。でも、高校3年生の時、悠季くんと同じクラスになって、初めて彼を見た時、一瞬思ったのよね、『私達、一緒じゃないのかな?』って。私と同じ雰囲気を持っている彼に、初めて自分の考えが間違っていたことに気づいたの」


 古寺さんは、とても柔らかい顔で、淡々と語った。まるで、つい昨日の出来事のように、鮮明に。


「そういや香里は悠季とだけは親しげに喋っていたわね」


「うん。高校であんなにおしゃべりしたのは悠季くんだった。『あなたも見えてるんでしょ?』って聞いたときは、悠季くん、『見える見えないは問題じゃないよ。今現時点で、小寺は見えてるか目を背けているか、だよ』って言ってきたのを覚えてる」


「うはっ、悠季が言いそうだなー」


「うん。今の私があるのは、その時の言葉のおかげかな?見えるっていう特権を、人と違うからって放棄したら勿体無いって思ったの」


「そうなんだー、私はねー『夢をずっとみれる大人って、素敵だと思わない?』って言われたんだー。なんか、キュンってしちゃって今でも引きずってる」


「えっ!?なにお前、悠季のこと好きだったの!?」


「・・・翔知らなかったの?僕らの中ではみんな知ってたことだよ?」


「仕方ないわよ、翔はサッカーボールが恋人なんだから」


「う、うっさいわ!」


「えへへ、でも悠季くんが亡くなった時は悲しかったなぁ・・・。もっといろんなこと話したかったんだけど、私の中にある悠季くんはそれだけだから・・。だから今でも夢ばかり見て、自分の仕事決めきれずフリーターのまんまなのかな?」


「・・・お前って健気だったんだ」


「翔みたいにがさつに出来てるわけ無いじゃないから」


「・・・みんなしていじめるなんて・・・」


 翔さんが、また拗ねた。他の人たちはそれを笑っている。


「ほら、翔はなんて言われたの?『俺の心の友、悠季』くんから」


「・・・『サッカーって言ったら翔しか出てこない』って・・・」


「うゎぉ、そりゃまたすごいな」


「高校卒業したら、プロになるか大学行くかで迷ってたんだよね。親からは大学行けって言われたけど、俺自身としては、プロになってサッカーをしたかったんだ。んで、悠季に相談したら『頭脳プレイが出来るサッカー選手はカッコいいぜ』って言われて・・・」


「「「まんまと乗せられて大学に行ったわけだ」」」


「の、乗せられたって言うな!参考にしたって言え!」


「でも、翔くん結局大学卒業してプロのサッカー選手になったじゃん」


「あぁ、悠季と約束してたからな、『頭脳プレイ、日本のレオネル・メッシ、如月!』って言われるようなプロになるって・・・、アイツ、俺に約束を果させないで逝きやがって・・・」


 ポロリと、一粒の雫が、落ちた。


「私は逆に悠季の言葉を無視しちゃったなぁー」


 その涙を紛らわすように、今度は杉下さんが語り始めた。


「悠季にね、大学どこに行けば良いかな?って聞いたら『他人に薦められた大学なんて、行っても楽しくないぞ?』って、その言葉聞いて腹立って・・・。結局先生に薦められた大学に行ったんだけど、悠季が言ったとおり、全然面白くなくて」


 悲しみと懐かしみが交じり合ったような笑顔で、杉下さんは続けた。


「結局、大学中退してそのまま引き篭もり。ホント、悠季の言葉をもっとちゃんと受け止めとけば良かったなぁ」


「仕方ないわよ、あの頃の原口先生、まだ若くて至らない所があったんだし」


「それでも、悠季に顔を合わせられないな・・・。琴音はなんて言われたの?」


「え?私?・・・やりたいこと沢山有ったとしたら、悠季はどうするって聞いたら、『全部やる』って言われたわ」


「ははは、悠季らしいな」


 その後も、先輩方6人は、色んなことを話した。その話題の中心には、いつも悠季さんが居た。それだけ、存在が大きい人だったんだと、私は改めて実感した。

 床に倒れていた阿部くんもいつの間にか席に戻っていて、真剣にその話を聞いていた。

 そしてなにより、これからの人生にほんの少しの希望が見えてきた気がした。

 そう、ほんの少しだけ・・・。



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