#3///The past and the current link
過去と未来を繋ぐ世界
僕と君が繋がる世界。
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「・・・まぁ確かに、私は8年前、3年6組の担任だったな」
放課後、みんなの代表として私とさくらは職員室にいる原口先生に事の真相を聞きに行った。私達がメッセージを書いたことは言わずに、8年前の事故について話し出したところ、先生の顔が徐々に苦くなっていった。多分、辛いんだと思う。話を始めたさくら本人も、これ以上は話したくないといった面持ちで言葉を綴っていた。
「あの事故は本当に突然だった・・・」
少しばかりの沈黙の後、そう先生は口を開いた。
「元々吉村は寡黙なヤツでな、今の阿部の真逆と言っても過言じゃないだろう。でもとことなく気品というか、人を惹き付ける雰囲気があったんだ。いつもみんなの中心に居てな、アイツに助けられたっていうクラスメイトもいっぱいいたんだ」
「助けられたって、何からですか?」
さくらは躊躇無く、先生に尋ねた。
「なんというか・・・。元々アイツは頭が切れて、とても優秀な学力を持っていたんだ。それでクラスメイトからは時々勉強を教えていたらしい。いつも喋らないヤツがよく頑張ったと思うよ。まぁそれが高じてかは分からんが、悩み相談なんてのをしていたらしい」
「悩み相談ですか・・・」
「そう、勉強から部活から恋愛まで・・・、おまけに哲学的なことも相談されていたって当本人は言ってたな。その中でも吉村の名を最も広めたのが、“将来について”の質問だった」
一瞬、胸がドキンとした。その悩みというのは、私も持っているモノだったからだ。
「アイツは本当にすごかった。今も生きていたなら、きっと相当の高みまで上れていただろうに・・・、人生とは非常なものだと、痛烈に思ったよ」
「そう・・・ですか・・・」
・・・そんなにすごい人だったんだ。
「・・・まぁこれもなんかの縁なんだろうな」
原口先生は、さっきまでの苦々しい表情から一変して、いつもの“何を考えているかその目を見ればすぐ分かりますから”の表情にチェンジしていた。うん、多分、先生が何を考えているか分かる気がする。どうせお前達も吉村みたいになれるように国語の課題をワンサカ出してやるとか―――
「お前らに吉村のクラスメイトを紹介してやろう」
―――・・・。今回は少々違ったようだ。
『今週の土曜日は夏期補習も無く全部活動の定休日だしな、丁度よかった。どうせあいつらのことだから暇を持て余してるだろうし、1年4組の教室に直々に来てもらうとするか』
原口先生は、そう仰った。
私とさくらは、そう伺った。
そして、私達はちゃんと来た。
だが、私達はイライラしちゃっていたりする。
それは何故か?
「さーくらちゃーん・・・暇いじぇ~、ジャンケンしよーじぇ~?(ルパン風に)」
「あんたはうるさいから帰っていいわよ」
「そーんな事言って~、てーれやなんただから~(ルパン風に)」
「ホントに来るのか?藤野?」
「あたしに聞かれても・・・」
「いいんちょ~~、さーくらちゃんが僕ちんをシカトする~」
「はいはい、楽しそうでなによりね」
・・・ここは1年4組の教室、そして現在所属中の生徒が5名。
右から、隣の阿部くんに殺意を抱いているさくら・ルパン気味の阿部くん・The平常心の沙希さん・The平常心Part2の恒くん・不貞腐れている私、となっている。
・・・なんでこうなったのか、ご説明しよう。
原口先生に話を聞いた翌日、クラスのみんなから内容を聞かれた私達は、次の土曜日のことを話した。そしたら、なんと阿部くんもその話を聞きたいと言い出したのだ。
「ふ~ん・・・さくらが行くなら俺も行く!」
と、阿部くん。
「はぁ!?あんたが来たら教室から秩序が無くなるわ!」
と、さくら。
「幸久が行くなら、俺も行こうかな、丁度暇だし」
と、恒くん。
「あ、なら私も一緒にいいかな?」
と、委員長の沙希さん。
・・・そして、今日に至るわけだ。
かなり大雑把に説明したが、そこら辺はあえてスルー。それが人生だぜ(?)。
他の人たちは用事があるらしく、今日ここに集まったのは私達5人だけ。本当は夏紀くんも行きたいと言っていたが、前日、風邪を引いてしまったらしく、あえなく断念したそうだ。
「・・・それにしても遅いな」
不服そうに、恒くんがそう言った。
「まぁ別に良いんじゃない?どうせ今日暇だったんでしょ?」
恒くんの左隣に座っている沙希さんが言ってきた。
「毎日毎日サッカー中心の生活で、ちょっと気が張ってんでしょ?今日くらい時間にルーズでもいいじゃない」
「ソレとコレとは話が別だと思うんだが・・・」
自分でも分かっている所を的確に付かれたからか、恒くんは顔を右下に傾けて、すこし拗ねてしまった。
「あはは、ごめん。いじめちゃった」
「うっさい」
・・・この二人って、いい雰囲気だな・・・。素直にそう思った。まぁ反対側の席でまだ口喧嘩を続けている二人も、いい雰囲気と言ってしまえはキレイだが・・・。
恒くんと沙希さんは、なんかこう、優しい感じがする。静かでゆったりとした・・・そんな感じだ。
それに変わって、あちらの二人は、まるで活火山の如き交戦を繰り広げている。喧嘩するほど仲が良いって、多分この二人のことを指すんだと思う。
大人びた雰囲気の恒くんと沙希さん、子供じみたさくらと阿部くん。対照的な二組だけど、どちらもキラキラ光っているように見える。
・・・私は一人ぼっち?
そう思ったとき、不意に夏紀くんの顔が浮かんだ。
もしも、夏紀くんが今日来ていたら、私は夏紀くんとどんな話しをしていただろう?実際のところ、私は夏紀くんのことをあまり知らない。ただ同じ教室で、同じ授業を受けているだけの存在としか、私のことを見ていないのだろうか?
そうだとしたら、ちょっとだけ悲しいな。
夏紀くんは、明るくて、みんなに優しくて、私が持ってないものを沢山持っている。
・・・すこしだけでも良いから、話をしたい。
そう思った瞬間、胸が“とくん”となる感覚がした。すると、たちまち顔が火照ってきた。自分でも訳が分からなく、火照りを収めようと意識すればするほど、胸の高鳴りは高まるばかり・・・。まさか、私・・・。
不意に、教室の扉が開いた。
「っちわ~っす!いやー遅くなってすみまソーリー・・・」
いきなり現れた人は、いきなりなテンションで挨拶をしてきたが、途中、ピタリと止まってしまった。視線の先は私・・・の隣の恒くん。見ると、恒くんも目を開けたまま固まっている。
「「ああああ!!弟(兄さん)!?」」
二人ともそう言うや否や、ビシッと指を付きたて、そう言ってきた。
・・・早速秩序が崩壊してしまったようだ。
「おい、翔、お前そんな意味わかんないテンションで言ったらみんな置いてけぼりになる・・・・ってあれ?なにこの状況?既に置いてけぼり?」
と、テンションが高い人のあとから、ちょっとポッテリとして、背中にギターケースを背負ったメガネの人が現れた。
「どしたの?」
と、ギターの人の後ろから数人の女の人が現れた。
そのうちの一人の人が、
「あら、恒くんじゃない?」
と言ってきた。
・・・一体なんなんだ??