敗北者の末路
「ーーンス、ランス」
頭の中で誰かの声が響く。
高く、暖かい。聞いたことのあるような声
「ランス、」
脳内に、1人の少女が現れる
淡い栗色の毛をカールにした女の子
「おまえがころした。」
「…ッ!!!!!!!」
その一言と共に、勇者ランスは飛び上がる、そして勢い良く状態を起こした瞬間に首に何かが引っかかり、強引に寝たきりにさせられる。
目をやると首には鎖が巻かれていた。
(…魔王に負けて、拘束されたか。
ただ、牢のベッドではないな、これは)
ランスは首に付けられた鎖を撫でながら
冷静に状況を分析した。
見慣れない部屋。赤と黒で毒々しく
彩られているが、医務室のようだ。
見ると首にだけでは無く足にも鎖が
ベッドに括り付けられており
(皆は…)
「おや、3人より傷の治りが良いですね
流石勇者と言うべきでしょうか。」
すると、医務室のドアが開いて
ティーポットと共にメタフィスがやってきた
「破壊の魔界でしか採れない黒血草を
煎じて入れたハーブティーです。
臓器の損傷に効きますがいかがです?」
「…よくわからんドス黒い物を飲む気は無い。それに、どういう風の吹き回しだ」
ランスがそう聞くと、メタフィスは
自分で自分の入れた茶を飲み干し答える
「まぁ、簡潔に言うのであれば
あなた方を特別戦力として戦争に駆り出す事をエリュシオン様が決めたのですよ
他3人も以上の理由で無事です。」
「戦争だと!?」
ランスが怒りのままに上体を起こし
繋がれた鎖が激しい音をたてる。
「お前ら舐めるなよ…
付き合ってられない、さっさと殺せ。
俺たちは命をかけて魔王討伐にきた
死ぬ覚悟はできて」
「それは、貴方だけでしょう。」
ランスの話を遮ってメタフィスが言う。
「この提案を持ちかけてきたのは、
貴方のパーティの幼子ですよ。
自分を、皆を殺されることを恐れて
涙ながらに訴えてくれました
その提案をエリュシオン様が呑んだのです。
下等な人間の意見を、です。」
「フォズ…が…。」
「まぁ、それにしても…」
ここまで言うとメタフィスは
腰の刀を抜いてランスの額に押し当てた
途端に薄皮一枚が切れて、血が滲む
「私たちエリュシオン軍…ならびに私を頼らずに人間に頼るのは、少々舐められた気がして憤りですがね…」
グググ…ッ…
ランスどんどん刀が額にめり込んで
血が顔面に垂れて視界が真っ赤になる
メタフィスの目は怒りを孕んでいて
このままランスを殺さんとする程だ。
「その辺にしておけ、メタフィス。」
突然音もなく背後からエリュシオンが現れ
力が入ったメタフィスの手首の関節をバキリと音を立てて外す
「グ…ッ…申し訳ありませんエリュシオン様。出すぎた真似でした。」
手首を外され苦悶の表情を浮かべる
メタフィスだったが、すぐに顔色を戻し
いつもの調子に戻っていく。
「よい、ところで小僧。他の3人も目を覚ましたぞ。そしてこの戦争に参加することを承諾した。やはりあの幼子を過酷な旅に連れていくことに負い目があったのだろうな。奴の提案だと言ったら二つ返事で呑んだぞ。で、お前はどうなんだ?」
ニィと不敵に笑いながらエリュシオンは
力任せにランスの首の鎖と足の鎖を
引きちぎって問いかける。
「そうだな、俺は…」
ランスは上体を起こし、近くにあった
適当な布をバンダナ代わりに頭に巻き
出血を止めると、
ダンッ!!!!
ベッドを踏み台に加速して
エリュシオンの目を狙って指を伸ばす。
だが
「…な、んだ…?から。だが」
ランスの体はエリュシオンに
たどり着く前に急激に固まり動かなくなった。
「忠誠魔法〈リードコントロール〉
対象に命を助けられたり、恩義を感じた者に
かけることが出来る限定魔法だ。
無論お前だけではない。他3人にも
同様の魔法をかけてある。」
「貴様…!エリュシオン様!
やはり人間を戦争に使うなど…」
怒りのあまりメタフィスが刀を抜き
ランスに切りかかろうとするのを
エリュシオンは制止してこう言った。
「小僧よ、お前がこの状況にどう思うかは勝手だがな、お前以外はこの状況を承諾しているのだ。今奴らは各々が俺の部下の元で戦争の準備として修行をしている。」
身体が固まったランスのバンダナを剥ぎ取り
切り傷に爪を差し込んで更に言う。
「俺の一声で奴らは死ぬぞ。
最も、破壊の魔界は血の気が多い。
今頃、半殺しにでもあっているかもな」
〜破壊の魔界 歩兵軍訓練所〜
ドボッ!!!!バキィ!!!!
ゼイルスが自身に向かってくる
有象無象の魔族たちを殴り、蹴っている
「人間だァ!殺せ!血肉を撒き散らせ!
骨まで食い殺じ…」
「久々のにぐっ“”」
似たようなことを叫びながら飛びかかってくる化け物たちをノックダウンさせながら
ゼイルスは考えていた。
「ハァ…ハァ…」
(こいつら俺が姿を見せた瞬間に
襲いかかってきやがって…
でも、魔王の後に戦ってみりゃ
てんで雑魚だぜ…あの内部を抉るような
魔王の打撃に比べたならな)
「オラァ!死にてぇヤツから
かかって来やがれ!俺は勇者一行
最強の前衛。ゼイルス様だァ!!!!」
叫びと共にゼイルスは
地面を踏み抜き、風圧で周りの魔族たちを吹き飛ばし、急加速して飛び上がり
前方にいた小柄なグレムリンに
メタフィス戦でも使った踵落としを
全力を出して打ち込んだ。
だが、ゼイルスの目は
信じられないものを見てしまう。
ボゴボゴッ…
グレムリンの右腕の筋肉が隆起して
片手一本でゼイルスの踵を止めた。
そしてその流れのままに
ゼイルスに右ストレートを打ち込む
ドボォンッ!!!!!
「ごば゜。ぁ…」
この打撃を、ゼイルスは知っていた
臓器を直接殴られ悲鳴をあげるような、
エリュシオンと同様の性質の打撃
「全体、気をつけ。魔流拳を怠るんじゃねェ。
そして、新人イジメはオレの特権だ。」
隆起した筋肉をしゅっと戻して
吹き飛んで蹲るゼイルスに向かっていく
この男こそが、エリュシオンの部下
【エリュシオン軍歩兵長 撲殺のレオル】




