episode_6 ショッピングデート 前編
今日はいよいよ日曜日、青葉ケ丘のショッピングセンターに出かける日だ。
俺は朝からウキウキだった。人間を始めてかれこれ16年経つが、これまで同い年の女の子と2人きりでショッピングセンターに出かけるなど一度もなかったからだ。
さあ、どんな服を着ていこうかな〜、こんな機会なかなかないからなぁ、やっぱこのシャツっしょ。いや、こっちも捨てがたいなぁ。
洗面台の鏡の前でそんなことを考えていると、お母さんが洗面所に入ってきた。
「航、おはよう。あら、このジャンバー買ってからクローゼットにしまってあったやつじゃない。急にどうしたの?」
「いやぁ、この服を着るのにふさわしい日がついにやってきたんだよ。」
俺はここぞとばかりにキメ台詞かのごとく言った。
「へ、へぇ。そうなんだ⋯」
お母さんは少し困惑しながら出ていった。
時間を見ると10時20分、そろそろ出発の時間になった。
俺は2時間かけて選んだ服とカバンを身に着け、意気揚々と出発した。
青葉ケ丘までは電車で2駅。あっという間に到着した。
時刻を見ると10時40分。待ち合わせの時間まではあと20分あった。うむ、完璧な時間。
”出来る彼氏というのは20分前行動は当たり前”と、昨日読んだ「初めてのデートにおいて彼氏が気をつけることまとめ」というネット記事に書いてあった。
10時55分、西田さんがやってきた。
「おはよう佐藤くん、今日はよろしくね 」
西田さんは一昨日の朝と同じ様子で、もう怒ってなさそうだったので俺は少し安心した。
「おはようございます。さぁ、行きましょう 」
俺と西田さんは早速ショッピングセンターに向かって歩き出した。
ショッピングセンターまでは歩いて2分ほどだ。駅をでて大通りを少しだけゆく。
西田さんが車道側、俺が歩道の内側を歩いていた。
俺は思い出した。デキる彼氏というのは、万が一車が車道に乗り上げてきた時に女の子を守れるようにあえて車道側を歩く⋯とネット記事で読んだことを。
俺は西田さんの後ろを回り込み、むりやり車道側をあるこうとした。
「ちょっと、佐藤くん急にどうしたの⋯? 」
すごい不審者を見るような目で、西田さんが俺を見つめた。
俺はとっさに、「いや、ごめん。ちょ、ちょっとさっき通り過ぎた車が珍しかったから気になっちゃって。」
と誤魔化した。
すると西田さんはすこしホッとした様子で、
「なぁんだ。よかった⋯、でもお願いだから今日は、あまり変な動きしないでね。」
と言った。
今日は変な動きしないでって⋯俺そんなにいつも変な動きしてるか?それとも俺という存在が見つかってほしくない事情があるのか⋯?多分このどっちかだと思うが⋯
俺は思い出した。そういえば昨日、西田さんの事をよく思ってなさそうな5人組が、ここへ俺らのことを見に来るかも知れないことを。
俺は変な動きなど全くしていないので、やっぱり西田さんは5人組に俺と西田さんが一緒にいるところを見られたくないのだろう。
ま、そもそもこのショッピングモールはとてつもなく広いから、多分見つかることなんてないと思うけど。
暫く歩くと、ショッピングモールの中にある服屋さんに着いた。
「ちょっとここで一着服を買ってもいい?」
「い、いいっすよ 」
「そしてその服を佐藤くんに選んでほしいんだけど⋯」
「ま、マジっすか?!」
「お、お願いしてもいいかな⋯?」
「ま、任せてください!!」
西田さんも、初っ端から突っ込んだことするな⋯。まさかそんなに俺の美的センスを当てにしていたなんて。燃えるぜ!
しばらくすると、西田さんが4種類の服を持ってきた。全部カーディガンだった。
この4種類か。正直どれでも似合う気がする、西田さんなら。というか、基本誰が来ても似合う気がする。そもそも店に並ぶ商品なんだから。さて、ここからどうやって一着に絞ればよいのだろうか。
ものは試しだから、とりあえず四着全て着てもらって決めるか。
「うーん、どれも似合いそうですからねぇ、ちょっと全て一回ずつ着てみてほしいです 」
「わかったわ 」
俺は早速カーディガンを着てもらうために、いま西田さんが着てるコートを脱いでもらおうと、左袖を引っ張った。
「ちょ、ちょちょ何よいきなり 」
西田さんを見ると、キモいもの見ているかのように俺を見ていた。
「え、だってこれ着てたらカーディガン試着できないじゃないですか。だから脱いでもらおうと 」
俺は淡白に答えた。俺はただ、試着の手伝いをするためにやっただけだから。
「そっ、そういうのは全部試着室で一人でやるから!!」
西田さんは顔を真っ赤にして俺に言った。
⋯そうだ。試着室があった。俺はずっとお母さんに服を買ってもらっていたので”試着する”ということを完全に忘れていた。これは俺の盲点だった。
マイナートラブル(?)はあったものの、その後ちゃんと一着カーディガンを購入した。
昼時になったので、俺たちはフードコートにやってきた。
席を見つけてから、お互い食べたい店に並ぶ。
俺は醤油ラーメンを食べようと思い、ラーメン屋さんに並んだ。
西田さんはサンドイッチを食べるらしい。
サンドイッチ屋は混んでいて、俺のラーメンのほうが先に来た。だが決してここで先に食べ始めたりなどしない。
”デキる彼氏は勝手に食事を始めたりなんかせず、二人とも頼んだものが揃ってから食べ始める。あとは彼女の頼んだ料理を取ってきてあげられたらなお理想的。”と読んだからだ、昨日ネット記事で。
醤油ラーメンを自分の席においたら、西田さんが並んでいるサンドイッチ屋さんの列を探した。
見つけた。あと一人で会計だ。ここで俺が登場して、サンドウィッチを持ってあげたらきっと⋯
「荷物を持ってくれるなんて、♡なんて佐藤くんステキなの♡」きっとこう言うに違いない。
西田さんのところへ向かう。ちょうど会計していた。なので並んでいる列の横から割り込んで、小声で言った。
「それ、席までもつよ」
そう言ってサンドウィッチを席まで運ぼうとした。
すると店員さんが
「すみませんお客様、その商品、あの⋯ 」
と俺に話しかけてきた。
なので俺はここでかっこいいセリフを言おうと思って
「いや、テーブルに運ぼうと思って。俺この子の彼氏なんで。」
俺は、澄んだ顔で店員さんに言った。
しかし店員さんは「い、いや⋯そうじゃなくて、まだお会計済んでないんです。なので⋯」
「えっ」
俺のプライドというミルフィーユの1層目が剥がれ落ちたような気がした。
周りの人が「この子彼氏さんなんだ〜」「いや、今のは流石にダサくない〜? 」と小声で言っているのが聞こえた。
⋯そして何よりも恐ろしいことに、横で西田さんが鬼のような形相をしていた。
取ってあった席に二人で戻ってきてから、西田さんは静かに言った。
「⋯もういい、ごめん。私帰るから 」
「え⋯ちょ、さ、さっきのは俺が早まってしまいすみませんでした。こ、今後はき、気をつけますので⋯ 」
「今後は、って⋯⋯。もう何回言ったと思ってるの?」
西田さんがこれまで見たことないない様子で怒りだした__
デートで西田さんの怒りが爆発してしまうというまさかの展開に。
果たして2人の関係はどうなってしまうのか?
次回へ続く__
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