episode_3 初めての下校
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10分後くらいに、西田さんは俺のいる教室に入ってきた。
「ごめんね〜〜、遅くなっちゃって」
息を切らして入ってきた。部活だったのだろうか。
この教室には今、俺と西田さんしかいない。
そう思った瞬間突然緊張してきてしまった。
「ぜ、全然大丈夫ですよ。さぁ、帰りましょうか。」
俺は自分のリュックを背負った。そして右手に西田さんのカバンを持とうとした。
「ちょっとちょっと、それ私のなんだけど。」
「いやいや、君さっき急いで入ってきたし、疲れていますよね。荷物ぐらい持ってあげますよ。」
「ありがとね。でもそんな気を遣わなくていいから。」
西田さんはそう言って俺の左肩からカバンを取った。
・・・俺の行動、なんかおかしかったか?いやいや、そんなことはないはずだ、たぶん。西田さんは可愛い女子ランキングで絶対学年TOP5に入るほどの人だから、きっと他人にカバンを持たせるなどといった人任せにする行為をしないのだろう。
学校の外に出た。そういえば西田さんの最寄り駅はどこなのか知らなかったので、聞いてみることにした。
「そういえば、西田さんは最寄り駅、どこなのですか?」
「鷹沼よ。この学校からだとまずバスに乗って紅葉台まで出て、そこから電車に乗るの。急行電車に乗れると早いんだけど⋯。」
(注: ↑は二人の最寄り駅と学校までの位置関係を示した図です。)
鷹沼、、、だと…?俺の住んでいる尾田と同じ方向じゃないか。しかも紅葉台からだと鷹沼のほうが尾田より遠いから、俺が最寄り駅に着くまでずっと一緒ってことになるではないか。これは放課後電車に乗ると2日に1回は見かける、カップルでお互いが頭をくっつけてすやすや眠るなんてシチュエーションも期待できるのではないか。最高じゃないかこれは。流れは俺に来ているぞ。
「ところで、佐藤くんはどこに住んでいるの?」
俺は一瞬返答に迷った。俺が尾田駅で降りてしまったならば、そこから鷹沼までの3駅間、西田さんは一人になってしまう。これは大きなロスだ。1週間でこのカップル関係ががなくなってしまうかもしれないとなると、電車の中にいる時間も無駄にできない。だから俺は本来住んでる尾田ではなくて、
「あ、お、俺は宮後坂に住んでますよ 」と答えてしまった。
「本当?それ鷹沼の隣だよね。そしたら結構近くまで一緒に、か、帰れそうだね」
⋯なんだろう、少し西田さんの返答がぎこちないような気がした。なにか思惑があるのか⋯?
西田さんの頭の上をみると、やっぱり吹き出しから言葉が出ていた。
[えっ⋯こんなに近いの?どうしよう、これだと⋯]
これだと⋯の後に何が書いてあるのか俺にはわからなかった。何かマズイことでも言っただろうか。
もしかして、、俺が本当は尾田に住んでいるのを知ってて今嘘をついたのがバレたのか?だとしたらマズイぞ。嘘は人間同士の信頼関係を破壊する要素ナンバーワンである。ましてや今のようなまだ信頼関係の基礎のキ゚の部分を構築している段階で嘘をついたなどと言うのがバレてしまったら、これ以上信頼関係が気づかれることはなくなってしまうに違いない。
どうしよう。カップル生活開始15分でもうおしまいかなのか??そんな、、嘘だろ。
俺は色々考えているうちに、体の隅々が冷えていくような感覚がした。
「あの、、佐藤くん大丈夫?なんか顔色悪そうけど。」
ハッ、我に返った。
「だ、大丈夫です。すみません急に。」
「そう?それならいいんだけど…」
西田さんの吹き出しの文字は、[これは信じて大丈夫かな⋯]に変化していた。
どうやら西田さんは俺の顔色が悪いことを心配しているらしい。ということは俺が嘘の最寄り駅を伝えたことはバレていないっぽい。多分、西田さんは俺のほうが長く電車に乗ることを心配しているようだ。
そう考えると、さっきまでの冷や汗が一気になくなった。
バス停に着いた。バスはもう来ていて発車しようとしていたので、俺たちは急いで乗り込んだ。
バスはそこそこ人が乗っていた。座席は2人1組の席一つしか残っていなかったのでそこに座った。
俺の心がまた踊り始めた。俺がカップルになって彼女の隣の席に座ることが出来るようになるなんて、、、昨日までは誰からも見向きもされない存在だったこの俺が⋯。こんな大逆転、実際に現実世界でおこるもんなんだなぁ。
この後バスの中では、一体どんな展開が待っているのだろうか。
きっと__
なんか色々あって手を繋いじゃうとか、バスが揺れたはずみでお互いくっついちゃってそのままハグしちゃうとか、夕陽がさした窓を前にしてキスなんちゃって。これは決してただの願望ではない。いつもとはひと味も二味も違う今日の俺なら、絶対何かしら起こるに違いない。
「あ、あの⋯、さっきから佐藤くん大丈夫?やっぱり、どこか調子わるい?」
西田さんから話しかけられて、一気に白昼夢から引き戻されて、一瞬放心状態になった。
「い、いやその、、何でもないです」 俺はしどろもどろに答えた。
「そ、そうなんだ…」 西田さんも、どこかぎこちなさそうに返した。
⋯⋯結局、その後はお互い気まずい雰囲気のまま、無言になってしまった。
紅葉台でバスを降りて電車に乗り換える。
電車でもまた、座席は念願の隣同士だった。
そうだ、せっかくだから、明日学校に一緒に行けないか聞いてみよう。西田さんは7時20分の電車にいるとかさっき誰かが言ってたよな。多分鷹沼を7時50分に出る
そこからなにか会話が生まれるかもしれない。
「あ、あの西田さん」
「どうしたの? 」
「えっと、いつも西田さんは鷹沼を7時20分に出るやつ乗ってますよね。も、もしよかったら、い、一緒に行きませんか?」
「え、えっ…? 」
俺は西田さんの困惑したような反応に、逆に戸惑ってしまった。
仮に俺への告白が本命じゃないにしても、放課後一緒に帰ることは、西田さんが提案してきたことだ。
だったら一緒に登校することに困惑する理由はなさそうに思えたからだ。
「い、いや。ダメなら別にいいんですけど。ダメだったりします⋯? 」
とりあえず凍りついた場を取り繕おうと俺は恐る恐る聞いた。
「…いや。大丈夫よ!ありがとね。私が乗っている電車でいい? 」
「大丈夫ですよ。待ち合わせは一番うしろの車両で良いでしょうか。」
「うん」
「わかりました」
結局それ以上の会話は特に生まれなかった。
西田さんの頭を見るとまたも字幕テロップが見えた。[どうしよう。バレないかな⋯?]とかいてあった。
もしかして西田さんは自分が付き合っているのがあまり他の人にバレたくないのだろうか。
電車は西田さんが住んでいる鷹沼駅に到着した。
西田さんは、「じゃあ、また明日ね〜」とだけ言って電車を降りていった。
⋯⋯ぎこちない。会話がぎこちなさすぎる。そして、そもそも喋れない。
俺の想像していたことは、何もおきることがなかった__
カップルになったものの、想像していた事が全く起こらず、1日目が終わってしまった佐藤航。
ここから2人の関係は一体どうなるのか?
次回へ続く__
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