episode_1 何の変哲もない一日かと思いきや___。
眩しい光が窓から部屋に差し込んだ。朝だ。俺は目を覆っていた前髪をどかし、ベッドの端っこにおいてあるスマホをさわった。スマホの画面には「6:50」とかいてあった。
俺の名前は佐藤航
今日もこうして全く色も花もないフツーの高校1年生の一日が始まる。
いや、普通とすら言えるのだろうか。底辺ではないかとすら思えてくる。
高校生になったら彼女なんて自然にできるものかと思っていた。
しかし現実はそう上手くは行かない。俺みたいに何も取り柄のない人間には彼女はやってこない。
周りの友達は次々にみんな彼女ができはじめた。
最後まで非リアとして残ったのは俺だった。
「んーーー、起きるか」
俺はまだ毛布から足を出し、床につけた。すると一瞬で床の冷気が全身に伝わってくる。
とりあえず顔を洗おうと思い、俺は二階から一階へ降りた。洗面所では親父が顔を洗っていた。
親父が顔を上げると、「おはよう、航」と声をかけてくれた。俺も「親父おはよう」と返した。
親父が洗面所から出ていく時、親父の頭の上から吹き出しが出ているのが見えた。その吹き出しからは、文字が浮かんでいた。[今日の八菱商事との商談、たぶん成立しないのになんで行かなきゃならねんだよ]とかいてあった。
頭の上に浮かんでいる文字は、ゆらゆらと親父と一緒に移動していった。
八菱商事?商談?何のことを言っているのか俺にはさっぱりわからなかった。
俺は自分の頭からも吹き出しが浮かんでいるのか気になって鏡で自分の頭の上をみた。しかし何もなかった。俺はとりあえず身支度を整えて、リビングへ行った。リビングには母さんがいた。
「航おはよう。ご飯そこにあるから早く食べてね。あと、今日は学校終わったら何時に帰って来る?」
母さんの頭の上にも、父さんと同じように頭の上から吹き出しが出ており、文字が浮かんでいた。
[ゴミをださないと。そういえば今日は何曜日だったかしら。水曜だったら紙ゴミ、木曜なら生ゴミなんだけど…]
僕は母さんの吹き出しから出ている言葉が何なのか気になったので、わざと「今日は木曜日だよ」といってみた。
すると母さんは「ちょっと聞いてることに答えてよ。今日学校が終わったら何時に帰って来る?」
とさっきより少し強めの口調で聞き直してきた。
俺は焦って、母さんに「ごめんごめん、今日は部活ないからおそくならないよ」と返した。
母さんは「わかったわ。今日は私も父さんも遅くなるから、家の鍵を持っていってね。」とさっきまでの穏やかな口調に戻して言った。
一方、母さんの吹き出し上の文字は [あー、じゃあ生ゴミを外に出す用意しなくっちゃ] に変化していた。
母さんの頭の吹き出しから出ていた文字は、母さんが頭の中で考えていることなのか、、、?俺は人が言葉に出さずに考えてることが見えるようになったのか??
⋯いやいやいや、まさかそんなはずねーよな。ある日突然俺だけ特殊能力を持つとか、漫画の世界じゃあるまいし。
ひょっとしたら俺の頭の上にも、他の人には見える吹き出しがついているのではないかと思って、母さんに聞いてみた。
「あのさ、俺の頭の上、なにかついてる?吹き出しというか、字幕みたいなやつ」
「吹き出しって、何言ってるの。漫画じゃないんだから」
お母さんはそう言って、そそくさと外へゴミ出しに行った
朝ごはんを食べたらカバンを持って、学校に向かう。学校向かう途中にですれ違った人々もみんな頭の上に文字が浮かんでいた。
俺を一人のサラリーマンが抜かして走っていった。そのサラリーマンの頭の上には[急げ、会社に遅刻しそうだ]とかいてあった。
暫く歩くと、向かい側から、カップルと思われる二人組が歩いてきた。ふたりともそれぞれから吹き出しが出ていた。
彼女の吹き出しからは[明日で付き合って一周年! なんかサプライズしたいなぁ〜]とかいてあった。
一方彼氏の吹き出しからは[明日で付き合って一年… か。ずっとこのままでいいのかなぁ…]とかいてあった。
⋯俺はとんでもない修羅場の予兆を目にしてしまったのかもしれない。
それよりこのカップルは今平然と二人で歩いているってことは、お互いに吹き出しの存在に気づいてないのか⋯。どうやら本当に俺にしかこの吹き出しは見えていないらしい。
みんなの頭の上に浮かんでいる吹き出しの正体が一体何なのか、謎は深まるばかりだった。
学校についた。クラスメイトも先生も、みんな頭の上に吹き出しがついていた。
みんなの頭の上にある謎の吹き出しからは時々文字が浮かび上がるが、普通に話す場面とでは、特に気にすることもなかった。
「おっす佐藤」
「おう、須田。おはよう」
「いやー昨日はわりぃ一緒に帰れなくて。金田に呼び出されちまって、急遽放課後すぐ帰ることになっちゃって。」
「あぁ、別に大丈夫だよ。ところで昨日から始まったイベントガチャ引いた? 」
「引いた引いた。30連したけど全部最低保証だったよ。確率おかしくねぇか?⋯⋯」
須田の頭の上を見ると[女子の喧嘩の愚痴を聞くのは大変だよ]とかいてあった。
須田は1ヶ月前から隣のクラスの金田さんと付き合い始めた。それまでは学校へ行くときも帰るときも俺と一緒だったが、付き合い始めてからは基本的に金田さんと登下校するようになった。
さっき須田の吹き出しから出ていた言葉は一体何なのか…?あれは須田が思っていることなのか⋯?
でも果たして女子の喧嘩の話を聞くのは大変なことなのか?他の人がした喧嘩については、俺もたまに話を聞く。男の話ばかりだけど。少なくとも俺の聞く話はそんな聞いてる分には大変なことなどなにもない。だから何が大変なのかよくわからなかった。それに、まず女の子と話せている時点で須田はまだ俺よりはいい人生なはずだ。
六時間目終わって、帰る準備をしようとして机の中を見た、すると一枚のメモ書きが入っていた。
そのメモ書きには、「放課後16:00に屋上に来てください」とだけかいてあった。誰が書いたのかもわからなかったが、筆跡が丸字だったのでおそらく女の子だろうか。
これはひょっとして学園ドラマによくあるパターンの愛の告白か?俺はそう思った瞬間から胸が高鳴った。
でもそんなことしてくるのは一体誰なのだろうか。俺は別に異性との交友関係があるわけではなかった。
突然すぎる。だからそこまで期待せずに屋上へ向かうことにした。
16時になり屋上へ向かうと、屋上には西田さんが待っていた。
西田さんは学年の中でも可愛い女子ランキングTOP5に常連入りするような子だ。
なぜこんなところに俺を呼び出したのか。まさか告白か、 、?いやいやいや、そんなはず絶対ない。
相手は西田さんだ。特に何も取り柄もなくて喋ったこともない俺に突然告白なんて絶対ありえない。
だったらこれはどういう状況なんだ。
俺は少しの期待とこの異質な状況に対する疑問を抱えてゆっくりと西田さんに近づいた。
「あ、あの。 。俺のこと、呼び出しましたか?」
おそるおそる話しかけた。
「は、はい。 。 あ、あの…」
西田さんもだいぶおずおずとした口調だった。少し間を開けて、
「もしよかったら、私と…その、付き合ってくれませんか??」
と、すこし顔を赤くしながら言った。
西田さんがそう言った瞬間、どこからかクスクスと笑う声がした。
また、西田さんをみると、頭の上の吹き出しに、[お願い、、はいって言って。1週間でいいからどうか⋯!]と書かれてあった。
俺は呆気にとられた。そして状況理解が追いつかなかった。まさかこの流れで本当に告白されるとは⋯。でも、しばらくすると俺の体は熱くなった。俺は告白されたのだ。ここで俺が「はい」といえば、俺もリア充になることが出来るのだ。
「えっ、俺でいいの?ありがとう、よろしくおねがいします。」
俺がそう言うと、またどこかでクスクスと笑う甲高い声がした、、、ような気がした。でも多分気のせいだろう。
もう俺は昨日までの俺じゃない。リア充に進化したのだ。これで大手を振って世の中を歩けるようになる。
「あ、 、ありがとう。それじゃ、よろしくね。さ、早速なんだけど、今日これから一緒に帰らない?」
西田さんはまた恥ずかしそうに言った。
俺は心が矢で撃ち抜かれたような気持ちになった。
一緒に帰れる…だと?電車に乗るといつも一組はいる、彼氏の肩に彼女の頭を付けるムーブなんかが出来るのか?これはホントか?夢じゃないよな?人生ってこんなに薔薇色だったのか。
俺は高揚する気持ちを抑えて、冷静を装って西田さんに伝えた。
「わかりました。お、俺はこのあと暇なのですが、何時ごろがいいっすか?」
「す、少し待っててほしいかな。五時になっても大丈夫?」
西田さんの声は、さっきまでより少し安心した声で聞いてきた。
ふと彼女の頭を見上げると、吹き出しの中のセリフが変わっていた。
[まさかこんなすぐOKされるとは思わなかった。本気だったらごめんね] と書かれていた。
俺はセリフに違和感を感じたが、とりあえずスルーすることにした。
「わかった大丈夫だよ。じゃ、教室で待ってるわ」
俺はそう言って、屋上を後にした。階段を降りる途中、後ろからすごい笑い声がした。
俺は一人になって冷静になると、さっきの西田さんの吹き出しから出ていた字幕について考えた。
本気だったらごめんね⋯ってどういうことだろう。俺に対して西田さんは本気で恋をしていないのか?
しかもその前に、[一週間でもいいからって]って書いてあったのはどういうことか。
一週間ってどういうことなんだ、、、?ただの告白だったらそんな事言う必要ないよな…?
次々に沸き起こるさっきの場面への違和感で、俺は頭がパンクしそうになった。
教室についた。誰もいなかった。まだ約束の五時まで時間があるので、俺は頭を冷やそうと思って机に突っ伏して目をつぶった。
しばらくすると、隣の教室の会話が聞こえてきた
「さっき西田が告白するのチョーおもろかったよね」
「ねー最高だった。あいつもちょっとは恥を知ったかしら」
「いつも男子からチヤホヤされてるんだからたまにはあれくらい恥かいて当然よ。」
「てかうちの出した彼氏役を佐藤航にするって案。良すぎじゃない?あいつ、女慣れしてなさそうからすごくぎこち悪そう」
「えっわかる〜。天才だと思ったわ。逆にあの子本命で告られたと勘違いしてそうで可哀想、1週間経ったら振られるのに」
えっ、マジかよ。
俺はこれを聞いた瞬間、ガッカリした。一気に天から地に向かって蹴り落とされたような心地がした。やっぱりあの告白は本命じゃなかったんだ。だから違和感だらけだったんだ。そう思うと逆に納得すらしてしまった。
「一週間だけでいいから」と「本気だったらごめんね」は本当に西田さんが思ってたことだったんだ。西田さんの頭に浮かんでいた言葉は彼女の本音だったんだ⋯。
俺はモテていたんじゃなかったんだ⋯。
俺は自分の惨めさのあまり力が抜けてしまい、また机に突っ伏した。
⋯待てよ。ってことは今日俺に見えてるみんなの頭の上についてる謎の字幕は、それぞれの本音って言うことになるのか。てことは俺は西田さんのの本音がわかるんだ。だから西田さんの思いから先回りして行動すれば、本気で好きになってくれるのではないか。
これは、、、チャンスではないか?
むしろこんなチャンス、俺には願ったりかなったりの出来事だ。
多分今日俺に舞い降りてきた本音が読み取れる能力と西田さんからの告白は、神様からの贈り物にちがいない。神様は俺に本当のリア充になるためのチャンスをくれたんだ。
絶対にこのチャンスを無駄にしない。彼氏という肩書を失わないぞ!
俺に残された猶予は一週間、この間に西田さんのことを恋に落とさなければ__
俺はこれまでの人生の中で最大の覚悟を決めた。
果たして航はリア充になれるのだろうか。
次回へ続く___
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