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玄狼衆 第七棟の空気
三階への階段を上った。
踊り場に、もう一人立っていた。
さっきの男と同じ黒い上着。同じ短剣。
こちらも、何も言わずに横へ退いた。
この建物には、普通の学生が来ない。
それは二年間で肌感覚として知っていた。
しかし実際に中に入ってみて、理由がわかった。
来られないのではない。
来ようとする気が、起きないのだ。
廊下に窓がなかった。
ランプが等間隔に置かれているだけで、自然光が入らない。
昼でも夜でも、この廊下の明るさは変わらないはずだ。
時間の感覚が、少し狂う。
三階の突き当たりに、一枚の扉があった。
飾りも、表札も、何もない。
ただの木の扉だった。
俺はノックした。
返事はなかった。
十秒待った。
もう一度ノックした。
沈黙が続いた。
30秒は経ったと思う。
「入れ」
声は低かった。
扉の向こうから聞こえたはずなのに、すぐ耳元で言われたような感覚があった…




