表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら第5王子で兵法(孫子)と法家(韓非子)で、無双王を目指す  作者: ひょっとこ、とことこ
富国強兵

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

188/190

死走の兄弟

 北西の山道は獣道と大差ない。細く、ぬかるみ、馬の足が沈むたび泥が跳ねる。冬前の乾いた風が山肌を撫で、遠くで鳥が鳴いている。


 ルークは馬上で地図を閉じる。


 王都を出て十数日。ようやく掴んだ"死走の兄弟"の噂は、どれも胡散臭い。


 野盗を狩る兄弟。


 味方すら囮にする兄弟。


 死体の山を歩く兄弟。


 だが、その全てに共通しているのは、"少人数"という一点だ。


「本当にいるんですかね」


 護衛が疲れた顔で言う。


「山賊崩れの作り話じゃないですか?」


「かもしれません」


 ルークは短く答える。


 しかし馬は止めない。


 有名な将なら王都へ呼べばいい。だが、本当に欲しい人材ほど、表には出てこない。泥の中や敗北の中に埋もれている者こそ価値がある。


 ルークはそれを北伐で学んでいる。


 夕方近く、先行していた斥候が戻ってくる。


「殿下、見つけました」


「どんな場所です?」


「山奥の集落です。ただ……妙です」


「妙?」


「子供しかいません」


 ルークの目が少し細くなる。


…………


 山を越えた先に、小さな集落がある。


 粗末だ。


 木柵は歪み、家々は傾き、畑は痩せている。貧しい山村そのものだ。


 だが。


 しかし── そこには妙な緊張感がある。


 バシィッ!!


 木剣の音が響く。


「遅ぇ!!」


 怒声と共に、十歳ほどの少年が転がる。泥まみれになりながら、それでもすぐ立ち上がる。


「戦場で寝る奴は死ぬぞ」


 低い声だ。


 巨漢だ。


 異常に大きい。肩幅は二人分あり、腕は丸太みたいに太い。上半身には無数の古傷が走っている。


 その男が、子供たちに木剣を振るわせている。


「もっと腰を落とせ!」


 ドゴッ!!


 木剣で叩かれた少年が涙目になる。


「泣くな。腹切られても泣くな」


「う、うぅ……」


「泣きながらでも前出ろ」


 乱暴だ。


 だが、そこに妙な優しさがある。


 横では別の声が飛ぶ。


「そっち、飯前に走り込み十周」


「えぇぇ!?」


「嫌なら飯抜き」


「走ります!!」


 細身の男だ。


 病人みたいに青白い顔をしているが、目だけが異様に鋭い。


 子供たちが慌てて駆け出す。


 その様子を見ながら、ルークは黙っている。


 遊びではない。


 訓練だ。


 しかも、生き残るための訓練だ。


「……軍隊ですね」


 側近が呟く。


「えぇ」


 ルークも同じことを思っている。


 子供たちの動きに無駄がない。火の管理、水運び、見張り、食事の配分まで、全員が役割を理解している。


 まるで、小さな軍営だ。


 その時、細身の男がこちらへ視線を向ける。


「何者だ」


 一瞬で空気が変わる。


 子供たちが黙る。


 巨漢もゆっくり振り向く。


 ルークは馬を降りる。


「旅人です」


「嘘だな」


 即答だ。


「旅人にしては護衛が強い」


 ルークが少し笑う。


「あなた方も、野盗狩りにしては強すぎます」


 細身の男が黙る。


 その横で、巨漢が泣きそうな子供の頭を乱暴に撫でている。


 妙な光景だ。


「何しに来た」


「見に来ました」


「何を」


「死走の兄弟を」


 空気が止まる。


 子供たちまでこちらを見ている。


 やがて、細身の男が笑う。


「悪趣味なガキだ」


「よく言われます」


「で、見てどうする」


「決めます」


「何を」


「あなた方が、本当に必要かどうか」


 側近が青ざめる。


 だが、細身の男は笑ったままだ。


「面白い坊主だ」


…………


 夜だ。


 山の見張り台から鐘が鳴る。


 カン、カン、カン!!


 集落の空気が一変する。


「野盗だ!!」


「数は!?」


「80以上!!」


 子供たちが一斉に動く。


 誰も泣かない。


 誰も慌てない。


 矢を運ぶ者、火を消す者、水桶を並べる者、全員が決められた場所へ走っていく。


 完全に訓練されている。


 ルークは、その様子を静かに見ている。


「……凄いですね」


「子供ですよ?」


「だから凄いんです」


 普通なら混乱する。


 叫び、逃げ惑う。


 それが子供だ。


 だが、この集落は違う。


 まるで、小さな軍だ。


「兄者」


 巨漢が大斧を担ぐ。


「どうする」


「いつも通りだ」


 細身の男が地図を広げる。


「谷へ引き込む」


「了解」


 それだけだ。


 長い説明も確認もない。


 だが、呼吸みたいに噛み合っている。


 ルークの目が細くなる。


 野盗たちが山道を駆け上がってくる。


 松明。


 怒号。


 粗雑な槍と剣。


 数だけなら圧倒的だ。


「殺せぇぇぇ!!」


 だが。


 細身の男が手を振った、その瞬間。


「右、退け」


 直後、ズドォン!!と地面が崩れる。


 先頭を走っていた野盗たちが、そのまま谷へ落ちていく。


「なっ!?」


 混乱。


 叫び。


 そこへ巨漢が突っ込んだ。


 ゴォン──ッ!!


 大斧が振り下ろされる。


 野盗がまとめて吹き飛ぶ。


 骨が砕け、血が飛び散り、悲鳴が山へ響く。


 だが、ただ暴れているわけではない。


 押し込みすぎない。


 敵を散らさない。


 流れを作っている。


「左へ寄せろ」


 細身の男が言う。


 巨漢が動く。


 それだけで野盗たちの流れが変わる。


 押される。


 谷側へ。


 そこへ矢。


 さらに落石。


 野盗たちが崩れていく。


「前へ出るな!押し込め!」


「後ろ詰まってるぞ!!」


「退けぇぇ!!」


 完全に混乱している。


 そこへ、兄弟の仲間6人が動く。


 槍。


 短剣。


 弓。


 全員が役割を理解している。


 敵を殺すためではない。


 敵を"流す"ために動いている。


 逃げ道を限定し、恐怖を与え、崩壊を誘っている。


「……凄い」


 側近が呆然と呟く。


 ルークは答えない。


 見ている。


 兄。


 弟。


 そして6人。


 全員が別々に動いている。


 なのに、一つの生き物みたいだ。


 目配せだけで動く。


 声だけで流れが変わる。


 互いの呼吸を、完全に理解している。


 野盗の一人が、子供たちの方へ走ろうとする。


 その瞬間。


 細身の男が短く言う。


「3歩」


 巨漢が振り向きもしない。


 だが。


 3歩目で斧が飛んだ。


 ドゴォッ!!


 野盗が吹き飛び、木柵へ叩きつけられる。


 ルークの目が細くなる。


 今の一言だけで通じている。


 距離。


 位置。


 タイミング。


 全て共有している。


「兄弟だから、ですかね……」


 側近が呟く。


「違います」


 ルークは静かに言う。


「積み重ねです」


 長い時間を共に戦い、生き残り、死にかけながら積み上げてきたものだ。


 だから、ここまで噛み合う。


 戦いは十五分で終わる。


 野盗が逃げる。


 残ったのは死体だけだ。


 巨漢が斧を肩へ乗せる。


 細身の男は死体を見下ろしながら数えている。


「5人か」


「今回は少ねぇな」


「上出来だ」


 その会話を聞きながら、ルークは静かに思う。


 強い。


 だが、それだけではない。


 この兄弟は、"軍"を作れる。


 しかも。


 生き残る軍を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ