王の執務室
入学式から数日が過ぎた頃、王宮の執務室に報告が届いた。
執務長官ヴォルフが、1通の書状を手に控えた。
「陛下。第二王子オスカー殿下より、献上品が届いております」
エドワード三世が顔を上げた。
「何だ」
「絵画でございます。ただ…」
ヴォルフが言葉を選んだ。
「大変大きな作品でございまして。執務室の壁一面を、ほぼ覆う大きさかと」
「運んでこい」
絵が広げられた。
それは、模擬戦の絵だった。
丘陵地。旗。1000対1000の兵士が動く戦場。
そして中央に、小さな影。
最も小さく、しかし最も鮮明に描かれた、軍師の姿。
その目が、絵の中から、こちらを見ていた。
エドワード三世は、しばらくその絵を見た。
「大義であった」
一言だけ言い、ヴォルフに向いた。
「この壁に飾れ」
「……執務室の、でございますか」
「この壁だ」
その日から、エドワード三世は執務室に一人になる時間を作るようになった。
毎日、決まった刻に。
誰も入れない時間が、しばらく続いた。
廊下を通る者が、時折、扉の向こうから聞こえる声に気づいた。
笑い声だった。
低く、しかし確かに楽しげな、笑い声が。
それがなんの笑いかを、知る者はいなかった。
しかし聞いた者は皆、同じことを思ったという。
「陛下が、あのようにお笑いになるのを、初めて聞いた」
絵の中の小さな影は、今日も執務室の壁から父王を見ている。




