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chapter09 我等が住処

 さてさて、初ボス? 撃破を達成してからケルファに案内されることしばらく。墓所からも完全に抜けて、歩けど歩けど続く石の道。

 道中スケルトンを何体か倒しつつ、連れられるがまま只管に歩いてきたが……。


 「なぁケルファ」

 「はい、何でしょうか」

 「お前、道に迷ったとか無いよな?」

 「とんでもない。たとえそうであったとしても、某の嗅覚で目的地には確実に辿り着きます故」

 「そうか、そりゃ安心だ。でもな、かれこれ1時間近く歩かされてると思うのは俺の気のせいかね?」

 「まぁ、最短と言っても里までそれなりに距離はありますし」

 「それを早く言えよ!」

 「いだだだだっ! な、何をなさるか!」


 ほど近いやら最短とか言ってたから、てっきり歩いて直ぐくらいだと思ってたのによぉ。思わずケルファの毛を引っ張っちまった。


 本当に何の為のアラームだったのだろう。


 「ご心配なさらずとも、あともう少しです。そろそろ里の入口が見えてくるかと」

 「さっきもそれ聞いた気がするけどな。

 ……と言うか、何で穴蔵生活なんかしてるんだよ。地上の方が何かと便利だろうに、人狼族ってそういうもんなのか?」

 「はっはっはっ、ご冗談を。生きとし生ける者、皆生まれた頃より地下生活ではないですか。

 地上に出るなど自殺行為そのもの。興味本位で覗きに行って無事に帰ってきた者は居りませぬ」


 生まれた頃からって……あぁ、そういう世界観ってことか。何かしらが原因で、地上は生物が住めない環境になったとかそんなとこだろう。もしくはヤベー化け物が居るとか。


 ゲームとして最終的には地上にも出ることになるんだろうけど、それまで地下ってのも気が滅入るな。いくらリアルに作り込まれてるとはいえ、行けども行けども同じような光景ばかりでいい加減飽きてきたし。


 なんてことを考えていたら盛大に腹が鳴った。チラリと見た空腹ゲージも残り少ない。無くなったら代わりにHPが減るみたいな仕様だと困るんだが……。


 「里に着けば食事を振る舞いましょう。これでも料理は得意な方なので」

 「だから、まだお前の頼みを引き受けるとは言ってないだろ。食後に「飯を食ったからには働いてもらうぞ! 馬車馬のようになぁ! ケケケケッ!」なんて言ってみろ。ぶっ飛ばすぞ」

 「某を何だと思っているのですか!? この名に誓ってそんな事は言いませぬ!」

 「どうだかな」

 「……ナナシ様はもう少し信用というものを学んだ方がよろしいかと」

 「馬鹿言え。こちとら不必要に信頼したせいで何度も痛い目に遭ってきてんだ。NPC相手だからってそう簡単に信用できるかよ」


 ゲーム自体始めたばかりの頃に悪質プレイヤーからアイテムを騙し盗られたり、信用して所属したサークルが男女のもつれで泥沼化したり。

 挙げ句の果てには仲良くなったと思ってたオンラインの知人に、勝負に負けた腹いせにマジ口調で「探し出して殺す」とまで言われる始末だ。これは通報して対処してもらったが。


 とまぁゲームをやってるといろんな人間と出会うわけで、俺が知り合った奴等の多くがヤベー奴等ばっかりだったから、そりゃ今更簡単に誰かを信用できる筈もなく。


 何だかんだ一番に信頼してんのは小春と清鷹だけだなぁ。我ながら寂しい青春を送っているよ。


 (やはり、ナナシ様はそれだけの修羅場を潜り抜けてきた御仁か。甘い期待を捨てざるを得なかった生活とは……フッ、期待ばかりの某とは根本から違うのだな)

 「あ? 何笑ってんだよ」

 「いえ、己の未熟さを再認識しただけのこと。さぁ、見えてきましたよナナシ様。あれが人狼族の里です」


 意味深に笑うケルファを怪訝に思う暇も無く、指し示された先の光景に息を呑んだ。


 里って言うくらいだから、てっきり村的な作りのものだと思ってたんだが、視界に飛び込んできたのは壁。まさしく壁。


 もっと正確に言うなら、壁をくり抜いて通路やら何やらを作ってる感じで……いや蟻かよ。もしくはモグラか。


 「家建てろよ。こっちの方が万倍労力かかるだろ」

 「そうでもありませぬ。人狼族は穴掘りが得意故」

 「穴掘り得意のレベル越えてるだろ。岩盤ぶち抜くって発想になるのが恐ろしいわ」


 まぁ、そういう種族なんだと無理やりに納得する他あるまい。人間だって洞穴で生活する人達も居るのだから、別におかしくはないだろう。変わってるだけで。


 「む? 止まれ止まれ!」

 「止まれー!」


 そうして謎のモヤモヤを感じながら里に近付いていき、入口っぽい大穴の前まで辿り着いたところで別の人狼達に止められた。


 見るからに警備兵みたいなポジション。ケルファよりもずっと体格が良い。


 「ケルファ貴様! 何を素知らぬ顔で他種族を招き入れようとしている!」

 「している!」

 「今はただでさえ微妙な時期なのだ。余所者を入れる事は断じて承服しかねるぞ!」

 「しかねるぞ!」


 わー、明らかに歓迎ムードじゃない。微妙な時期ってのはやっぱり生贄云々が関係してるんだろうなぁ。

 まぁ、こんな展開も大体予想通りだ。使い古されたテンプレだし、驚くほどの事じゃない。


 「そういう時期だからこそお連れした。もしかすると、この方は我ら人狼族をお救いくださる方かもしれぬのだ」

 「寝言も寝てから言え!」

 「言えー!」

 「そもそも人間ごときに何ができると言うのだ! 俺達の飯になるくらいしか脳は……そうか! 食料という意味か!

 何だそうならそうと言わないかまったく。ならば通っても構わん!」

 「構わん!」


 あ、さてはこいつ等バカだな? 自己判断で見知らぬ奴を自分達の領域に招き入れるとか警備兵失格だぜ?

 これで俺が人狼族を利用しようとしてる大悪党だったら、お前らが責任取らないといけなくなるのに、そこら辺分かってる?


 ……いや、分かってないからこその発言だよな。率先して吠えてる如何にもな人狼の方もそうだが、もう一匹は見るからにアホそうだし。真似しか出来んのかおのれは。


 「馬鹿を言うな。この御仁はまさしく強者。それだけで里に招き入れるだけの理由になる。食料などもってのほかだ」

 「いやお前も馬鹿なの? 強いから入れますって、ガバガバ警備にも程があるだろ。馬鹿なの? 毛毟っていい?」

 「な、ナナシ様は少々辛辣過ぎます……」

 「すまん。馬鹿過ぎてつい。たぶん本心じゃないから安心しろ」

 「たぶんって……」


 強けりゃ誰でも通ってよしな里があってたまるかよ。無法地帯になる未来しか見えねーわ。


 「くだらん! 人間が強者? 弱小種族ごときが強者なわけがないだろう! おい貴様!

分かったならとっとと失せろ! 本当に食うぞ!」

 「食うぞー!」

 「貴様等……無礼もいい加減に――いや、ここで争ったところで不毛だ」


 ケルファの毛が逆立ち始め、あわや戦闘になるかと思いきや、直ぐに落ち着きを取り戻した。

 変な奴のイメージが強かったものの、どうやら警備兵2匹よりは物事の分別はつくらしい。少しだけ見直した。


 「お前達は長に取り次ぎをしてくれ。(くろがね)のスケルトンを打倒した者をお連れしたとな」

 「なっ、そんな馬鹿な話誰が信じるか!」

 「お前の判断など求めておらん。長に伝えろと某は言っている。それとも貴様……本物の強者を無下に扱い貶める気か?

 我ら人狼族は力こそ全て。それに反し強者を蔑ろにするのであれば、相応の報いを受ける覚悟あってのことだろうな。どうなのだ」

 「うぐっ……!」


 えぇ……人狼ってそういう種族なの? 力こそパワーってやつか。分かりやすいけど、めっちゃくちゃ危うい考えだ。

 つまりそれって大悪党でも強ければ歓迎するって事だろ? ダメだろ。やっぱ残念さんかなこいつ等。


 俺の為に言ってくれてるケルファには悪いけど、正直ドン引きである。


 「お、おいコロっ、俺は長に報告してくる。貴様はこいつ等を見張っておけ」

 「あいさー!」


 どうやらケルファの脅し(説得)が効いたようで、警備兵の片割れが大穴の中へと消えて行った。

 戦闘になる可能性も考慮してたけど、結果オーライ。さっさと入ってログアウトしないと、このままじゃ本当に2日連続で寝不足だ。


 「ナナシ様、しばらく待ちましょう」

 「へいへい。んじゃ、その間にいろいろと確認作業とポイント使ってキャラ強化しますかね」

 「……?」

 「あー、ケルファは気にしなくていいぞ。こっちの話」


 辺りを見渡して手頃な岩を見つけ、腰を下ろす。もう慣れてしまったメニュー画面の操作。手早くスキルツリー画面を開いて、改めて現在の所持ポイントを確認した。


 (130pt。初めに取得できるのはステータスアップ系の物ばかりか。まぁ想像通り)


 全部で6択。とは言え迷いはない。これ系なら最初から筋力を選択すると決めていたので直ぐに習得した。


 このスキルツリー、基本的にどんどん上へと習得しながら進めていく感じなのだが、同じタイミングで習得できるスキルやステータスアップ系の物を複数取得することは出来ないみたいだ。


 例えば、筋力アップ、俊敏アップ、技量アップが横並びあった場合、この中から筋力アップを選ぶと、他2つはもう選べず、そのまま上へスライドして次の候補に移るって感じだ。


 だからよく考えて選ばないと、後々後悔するのは間違いない。

 しかも初っ端の項目から一つ習得するだけで30ptの消費だ。当然、この先必要なポイントはどんどん増えていくだろうし……こりゃ早急に敵を倒して稼ぐしかないな。


 「次はステータスアップ系と……おっ、攻撃スキルか。1個くらい習得しとかないとこの先ヤバそうだからなぁ」

 「ナナシ様、先ほどから何を?」

 「ん? 見ての通り強化中」

 「某には何も無い場所を指でなぞっているようにしか見えないのですが……」


 あー、NPCにはメニュー画面も見えないのか。ってかこの作業にまで反応してこられても困るだけなんだから、スルーしてくれよ面倒な。

 そんなとこまでリアルに作んなくてもいいだろヨハネ。ここもマイナスポイントだな。


 「気にするだけ無駄だぞ。ケルファにはまず理解できない作業だって事を覚えておけば問題ない」

 「な、なるほど?」


 首を傾げているケルファはほっといて、今は何よりも強化だ強化。


 候補は攻撃スキル2つに耐久アップ。現状急いで欲しい訳じゃないから耐久アップは捨てるとして、前者の攻撃スキルはどちらを取るべきか。


 「闇ノ一閃。黒刺(こくし)。どちらも捨てがたい程度には使い勝手が良さそうだな。こりゃ悩む」


 習得に必要なポイントも100ptとかなりの出費。あの黒スケルトン1体分と考えたら余計に慎重に選ばないとって感じがする。


 闇ノ一閃はシンプルに斬撃系のスキルみたいだ。説明文には闇の精霊の力を刀身に集中させ、前方広範囲への薙ぎ払い攻撃を放つと書いてある。

 威力は使っている武器のグレードによって増減するようだが……要するにレアな武器、或いは強化を施された武器ならシンプルに威力が上がるってことで良いのだろう。


 このスキル、凄い既視感。シャドダンで影の王が連発してた超広範囲薙ぎ払い攻撃みたいなもんかな。流石にあそこまでぶっ壊れてはないだろうが、おそらく近しいものだと仮定しておく。


 黒刺は少しだけ特殊な攻撃スキルだ。手で触れた場所へ闇の領域を配置。範囲内に入った敵を暗黒の(とげ)にて貫く。任意発動も可能と。

 直接攻撃というよりは罠に近い。使いどころを考える必要はあるが、真正面から戦って勝てそうにない相手にはかなり有効的だ。


 「うぅ~~~ん……どっちも捨て難い。いつも通りの戦闘スタイルを考慮すれば前者一択。でもこれだけリアルなゲームだと不測の事態も起こり得るだろうし、保険的な意味でも特殊スキルを取っておくのは有りだよなぁ」


 だぁぁぁぁぁぁ!!! 悩ましい!! 何で1個しか選べないんだよ! いいじゃん別に2つ選べてもさ!


 こちらも良い、あちらも良い。そんな感じで悩みまくって体が捩れそうになる。こんな序盤でここまで悩むとは流石に予想外だ。


 「……よし、決めた」

 「ナナシ様?」

 「保留!」

 「はい?」


 結論、習得は保留とした。別に無理して今選ぶ必要も無いからな。必要な時、最適な方を選べばいいだけの話である。


 焦って覚えて、いざ敵とエンカウントしたら技の相性最悪でしたじゃ目も当てられん。

 幸いにもメニュー操作は既に慣れた。ここぞというタイミングで素早く習得する方向で行こう。うん。


 これでとりあえずポイント振り分けは完了した。早々に暇になってしまったので、何となしにケルファの方へ視線を送ると、何故かそわそわした様子で俺を見ている。


 しかも何かキラキラっつーか、妙に期待してるような目で見られてるし……食事を前に待てと指示されてる犬かお前は。


 「何だよ」

 「あっ、いやこれは失敬。ふとあれだけの強さを持つナナシ様は、これまで一体どれほどの死線を潜り抜けて来たのであろうと気になってしまい。

 ご不快であれば壁の隅で待機しておきます故、いつでも言ってください」

 「余計気になるわっ。

 はぁ……さっきの人狼が戻ってくるまでなら話してやってもいいぞ。どの道まだログアウトも出来ないっぽいし、暇を潰せるなら何だっていいさ」

 「おお! 是非とも!」

 「で、何から聞きたい? 数千の軍勢を相手にした時か、山並みにデカい人形と殴り合った時か、はたまた反則技を連発してくる理不尽大魔王こと影の王様とバチクソにやり合った時か。他にも選り取り見取りだぞ」

 「で、ではまず、軍勢の話をお願いしたく! あ、少々お待ちを! ……っと、はいいつでも!」

 「いつでも!」

 「いや何でお前まで正座してんだよ。見張る立場だろお前」


 何がそんなに楽しみなのか、正座までしてキラキラ増し増しな眼差しを向けてくるケルファ。

 しかも警備兵の片割れまでいつの間にやら正座して同じく待ってるし。暇かよ……ああ、暇だからか。


 それに人狼族は強さ至上主義っぽいから、どうしたってこういう話題には興味津々なのだろう。


 やれやれまったく。ふ、ふはは……話し甲斐があるじゃねぇか! いいだろうならば聞くがいい! あの2時間にも渡る死闘を事細かに説明してやるよ!

 同じくこの話を聞いた小春と清鷹が戦慄した、無謀も無謀の1対6000の戦いをな!

 解説コーナー

 『1対6000』


 シャドダン中盤の戦いに於いて、プレイヤー達が必ず通ることになる山場。

 文字通り6000の軍勢と戦うことになるのだが、頭のおかしい三春はこれにソロで挑み、数時間の激戦の末に制覇している。ソロ討伐のランキングは世界3位。


 遠巻きに見ていた他プレイヤーの証言では「人をやめてる」と言わしめるほど変態的な戦闘を繰り広げていたらしい。

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