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chapter08 暗躍する者

 再有力候補者、鷹島 三春。アノニマス・オブ・ヒーローでの種族は闇の精霊とのハーフ。


 彼のプレイスタイルから考えると、この組み合わせを見つけ次第選ぶだろう事は予想できた。

 現実そのものの世界に戸惑いは見せつつも、初の戦闘に於いてすぐさま順応。墓所の支配者の1柱であった鉄のスケルトンを未強化状態で撃破という快挙を達成。


 身体能力、反射神経の良さもそうだが、相手の弱点を見抜く観察眼に、スケルトンの一部だった骨を瞬時に武器として使用する柔軟性。


 シャドウダンス及び他のゲームにおいても数々の偉業を達成しながらも無名。その手の界隈では名無しとは何者なのか、本当にプレイヤーなのか、そんな話題が飛び交う事も珍しくない。


 現時点での彼の評価は、コミュニケーション能力以外は満点。いや、期待以上の働きぶりだ。


 「これは、ひょっとしたらひょっとするかもしれないね」


 気分が高揚する。注文したコーヒーを一啜りして、手の中に収まるスマホを操作していた、そんな時。


 「あの、お客様。相席をご希望の方がいらっしゃるのですが、よろしいでしょうか?」


 ファミレスの店員が申し訳なさそうに話しかけてきた。別に店内が混んでいる訳でもなし、それで相席を希望とはいったいどんな変わり者だと顔を上げて、私は1人納得した。


 店員の後ろで柔和に笑いながら手を振るスーツ姿の男。なんてことはない、知り合いだ。


 「ああ、構わないとも。彼は友人だ」

 「あ、はい。ありがとうございますっ。ではお客様、どうぞこちらへ」

 「ありがとうお嬢さん。あ、それと僕にも彼女と同じ物をお願いするよ」

 「畏まりました。コーヒーですね」


 店員の背を見送り、彼が向かいの席に座り込む。突然現れるところは昔と変わりないね。


 「良い店を知ってるね、ヨハネ。隠れた名店ってやつかな?」

 「大通り沿いにある店を隠れたとは言わないと思うがね。それで、どんなご用向きかな? エイデン」

 「忙しないね。もっと会話を楽しもうとは思わないの?」

 「君が用も無く私を訪ねて来ることなんて無いだろう? それに、君との世間話は存外つまらないものだ」

 「はははっ、昔と変わらず手厳しい。なら遠慮なく聞くけど……何を企んでいるのかな? 理由によっては君を拘束することもやむなしと理解した上で発言してほしい」


 エイデンの口から飛び出した言葉は概ね私の予想通り。いつかはバレると思っていたのだが、こうも早いと笑ってしまうね。やはり彼に隠し通すのは無理らしい。


 私の企みは、管理者としての職務を大きく逸脱しているものだ。ここで誤魔化すのは逆効果だろう。でも少しくらいは試してみようかね。


 「ふむ、そうだね……うん、あぁそう! 正義の味方さ。滅び行く世界を救う、ただそれだけだよ」

 「嘘だね。本当だったとしても別の世界、だろう? あそこは君の管轄外だ。手出しをする事は許されていない。

 滅び行くのならばそれがその世界の運命であり限界。他世界の管理者が関与するべき事じゃあないよ」

 「正論だね。でも穴がある」

 「穴?」

 「そう、大きな穴さ。確かに私達管理者は他世界に関与、干渉してはならない。だけどそれは、あくまでも直接的な干渉が禁じられているのであって、間接的な干渉は規制されていないのだよ」

 「ふむ、まぁ確かにそうだね。一理ある」

 「私はこれまで一度だって直接他世界に干渉した事は無い。罪に問われる筋合いは無いというものだよ」

 「では、その具体的な方法と目的は? 納得の行く説明を頼むよ」

 「エイデン。君もこの世界で生きてきたなら一度は触れたこと、聞いたことがあるのではないかね? ゲームという存在に」

 「それはもちろん。ドット絵とやらで描かれていて、テレビで遊ぶ娯楽の事だろう? あぁ、ボードゲームというのもあったね。あれはなかなか楽しいものだ」


 あまりにもな発言に、思わず飲んでいたコーヒーでむせてしまった。今時子供でもVRの方が主流だというのに、流石に呆れるね。


 「けほっ……いつの時代の話をしているのだね。今やゲームをプレイするのにモニターは不要な時代だよ。

 それにボードゲームの類も昨今では衰退の一途を辿っている。遅れているにも程があるよ、君」

 「なんだってっ? はー、技術の進歩とは末恐ろしいものだなぁ。それで、そのゲームが君の企みにどう関係しているんだい?」


 本当に驚いているのかどうかも怪しい態度だ。まぁ、彼のこういう部分は今に始まったことではないから、特に指摘するつもりも無いがね。


 「簡単な話さ。私達が直接手を下せないのなら、誰かにやらせればいい。管理者ではない普通の誰かに。

 代行者とでも呼ぼうか。彼等に私の代わりとして目的を達成してもらえば、私の行いは規制には引っかからない」

 「異世界人か。古い手法であり危険な選択だ。あれを乱用して他世界のバランスがめちゃくちゃになった大事件を忘れたとは言わせないよ?」


 異世界人……懐かしい言葉だ。今より少しばかり昔、故意に人を殺して異世界へと転生、或いは生きたまま転移させる変わった神が居た。

 その意図は依然として不明なままではあるが、その馬鹿な神の行いで他世界同士のパワーバランスが崩壊し、大災害一歩手前まで追い詰められた事がある。


 他世界へ異世界人を送り過ぎた結果、こちらとあちら側が強く引き合うようになってしまったのが原因だ。

 そのせいで2つの世界がお互いを同じ存在だと勘違いして、世界そのものが引かれ合い、危うく融合しかけた大事件。もしそんな事が現実に起きれば、どれだけの被害を生むのか私にも分からない。


 エイデンはその事を懸念しているのだろう。……だが、そんな心配は杞憂というものだね。


 「私を愚かな神と一緒にしないでもらいたいものだね。そも奴等の尻拭いをしてやったのは、他でもない私達管理者ではないかね」

 「異世界人ではないと?」

 「半分は合っている。謂わば半異世界人」

 「……? でも、異世界人なんだろう?」

 「半だよ、半。ゲロカスゴミクズな神様のように、そのままあちら側へ異世界人として送れば最悪かつての悪夢を繰り返す事になってしまうけれど、そうならない為のVRゲームさ」

 「うーん? 分かるような、分からないような……」

 「お待たせしました、こちらコーヒーになります」

 「あぁっ、ありがとうお嬢さん」


 まぁ、ゲームという知識が大昔で止まっているエイデンに、VRがどうのと言ったところで通用しないのは当たり前である。


 お互いにコーヒーを啜って一息吐く。一から口で説明するのは流石に面倒なので、VRゲームとは何なのか。それを事細かに説明している記事をスマホで検索し、エイデンに見せた。


 しばらく無言の時間が続き、私がコーヒーを飲み終わる頃にエイデンが小さく息を吐く。


 「なるほど。大体想像がついたよ」

 「ほう? 聞こうか、時代遅れ君」

 「はは、酷いな。……神のようにあちら側へ送りっぱなしにすれば、第二次世界融合を引き起こしてしまう可能性がある。

 しかし、VRゲームを通しての一時的な送り込みであれば、それが起こるリスクを極限まで減らせる。

 新たな命、新たな人生を享受するのではなく、半異世界人はあくまでもゲームとしてあちら側へ介入。疲れたり、やる事が無くなれば自発的にログアウトしてこちら側へ戻ってくる、と。まさしく半異世界人だ。こんなところかい?」

 「聡いね。理解が早い者は好きだよ」


 そう、ゲームとして。それが一番大事な部分だ。

 プレイヤーはあちらの世界……アノニマス・オブ・ヒーローをゲームだと思い込んでプレイする。当然、ゲームなのだからいつまでもその世界で暮らそうなどという思考には至らない。


 いつものように、いつもの時間を遊び終えて、皆自然と帰ってくる。


 「だけど、他世界へ渡ったとして肉体はどうするのかな?」

 「そこは直接干渉できない私の代わりに神に協力してもらったよ。以前の神が犯した罪、過去のやらかしをチラつかせて無理やりにだけれど」

 「……性格悪いね」

 「ありがとう。肉体と言っても一から新しい物を用意したわけじゃない。それだと結果的に影響が大きくなるかもしれないからね。

 だから、かつてあちらの世界に存在していた者の肉体を神の力で再構成し、その中にプレイヤーの魂を一時的に定着させる手法を取った。これもまた、世界融合のリスクを避ける為だ。

 もちろんゲームであると信じ込ませる為に、色々と魔改造してはいるけれどね。システム面やらアイテムの配置やら、色々と」

 「ふぅむ、魂を……ん? それじゃあ、向こうで万が一死んでしまった場合はどうなるんだい? 自動的に戻ってくるとか?」

 「ゲームをプレイ中は新たな肉体と完全融合する事になる。だから当然、あちらで死ねば魂も死ぬ。こちらの肉体も魂が死んだ反動で当然死ぬ。一心同体、一蓮托生。素晴らしいね」

 「まるで捨て駒だ」

 「そう捉えてもらって構わないさ。それに、彼等にはしっかりと忠告してある。助言を守らなければ詰むぞ、とね。

 それを無視して突き進み、結果死ぬことになってもそれは自己責任なのだよ」

 「気の毒に。彼等(・・)ということは、既に複数人を送り込んでいると捉えても?」

 「手始めに100人ほど。と言っても、既に半分以上が死んでしまったよ。たかがゲームと舐めてかかったのが運の尽きさ。

 まぁ、最有力候補()に比べれば所詮塵芥。当然の結果と言えるがね」

 「まるで悪魔だね君は。昔と変わらずお腹の中は真っ黒で一切のブレが無い。……では、そんな君がそこまでして達成したい目的とは何なのかな?」


 エイデンの鋭い眼差しが私を射抜く。嘘を吐けば此処で事を構えるのもやむなしと痛い程に伝わってきた。


 まぁ、元より嘘を吐くつもりも無いがね。仮にそれで止められたとしても、おとなしくそれを受け入れるほど私は聞き分けが良い方ではないのだ。

 全力で抵抗し、友を殺してでも強行する。私の覚悟は生半可なものではない。そんな事をしたくはないのが本音ではあるけれど……。


 「目的、ね。大した事ではないよ。少なくとも君にとってはくだらない事のように映るだろう」

 「さて、それは聞いてみなければ分からないよ」

 「……単なる私的な復讐さ」


 そう、復讐。これは私の、私だけの復讐。それに他人を大勢巻き込んでいるだけのはた迷惑な行いだ。


 命を手駒として扱い、ただただ復讐したいだけの、愚かでちっぽけなゴミのような目的。


 私が他世界にちょっかいをかける理由は、たったそれだけなのだ。


 「君らしくないね。でも嘘ではなさそうだ。なら、君をそこまで駆り立てる復讐とはいったい――」

 「生憎だけれど、今詳細を語る気は欠片も無いのでね。これでも私は多忙の身だ」


 そう言って立ち上がり、エイデンの傍まで歩み寄る。通り過ぎる際に肩へと手を置いて、エイデン以外の誰にも聞こえない声で囁きかける。


 「これは私の個人的な復讐だ。罪も無い人間を大勢巻き込んだ身勝手極まりない行いなのは間違いないだろう。

 だが、出来ることなら友人である君を巻き込みたくはない。だから傍観していてくれたまえ。

 全てが終わった後で、君は素知らぬ顔で私を断罪すればいい。命を弄んだ度し難いほどに愚かな魔女としてな」


 これは私の復讐劇。誰にも邪魔はさせない。誰にも口出しはさせない。何がなんでも成し遂げなければならない事なのだ。


 背負った罪の精算は後でいくらでも引き受けよう。だが今は、この消えることの無い憎悪の炎に薪をくべさせてくれ。

 燃やして燃やして、何もかもが無くなるまで燃やした果てに……私を裁くといいさ。




 エイデンは私を引き止めなかった。理解――……いや、きっと我慢してくれたのだろう。彼も存外、友人には甘いからね。





 「友人、か。頼ってくれないのもそれはそれで寂しいものだというのに、君は本当に相変わらずだ。

 まったく、君を断罪だなんて。そんな酷な役目を押し付けられてもね。……願わくばそうならない事を祈るよ、ヨハネ()よ」


 解説コーナー

 『エイデン』


 ヨハネと同じ管理者の1人であり、ヨハネ唯一の友と呼ぶべき存在。

 目立ち過ぎる見た目のヨハネとは違い、社会に溶け込めるように一般サラリーマンの姿を心掛ける。

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