chapter07 人狼の願い
スケルトンとの戦闘を終え、墓所を探索する片手間に色々と試して分かったことがある。
まず初めに、やはりこのゲームにはレベルの概念が無いこと。だからシャドダンみたいに、場面によってはレベル差でゴリ押すなんて戦法は通用しないと考えていいだろう。
次に、敵を倒した際に発生したポイントについて。
敵を倒して得たポイントを用いて、メニュー画面のスキルツリーからキャラクターの強化を行えることが分かった。
レベルが無い以上、やはりステータスに直接ポイントを振るシステムなのかもと思ったが、どうやらそれはキャラクリ段階でのみの話らしく、基本的に全ての強化はスキルツリーで選ぶ感じだ。最初のステ振りは本当にオマケって感じだな。
スキルツリーと言っても好きな物を選べるって訳でもなく、しっかりと道筋を選んでポイントを使わないとマジで詰む可能性がある。
他ゲーによくある、金やら何やらを使ってスキルツリーを一旦リセット! よし振り直すぞ! なんて仕様が無い可能性もあるからな。ここら辺は本気で厳選しなければ。
次に、サバイバル要素だ。
アノマスには空腹値と渇き値なる物が存在しており、文字通り食事をしなければならない事が判明した。
ご丁寧に食欲や喉の渇きすらリアルに感じる始末。こちらもこちらで優先的に確保しなければならない。
最後に破損した武器や防具についてだが、修理には鍛冶師に頼むか専用スキルを覚えて自分で直す他に道は無いらしい。
うん、やる事だらけだ。まぁ始めたばかりなのだから色々と不便なのは当然か。
「蘇生手段も確保しつつ、あとは予備の武器だな。今回は骨が武器代わりになってくれたから何とかなったものの、この先の事を考えると武器はあればあるだけ困らない。
幸い一部のスケルトンが武器を持ってるのは分かったから、狩りまくってればワンチャン拾えるか」
「ぐぬぬぬ……!」
「……はぁ」
とりあえずの方針は固まった。問題は、あれからずっと俺の足にしがみついて引きずられている毛むくじゃらことケルファをどうするかだ。
ストーリーを進めるには正直早すぎる気もするし……あの黒いスケルトン、絶対今倒すべき相手じゃなかったっぽいんだよなー。
ある程度キャラを強化してから挑むボス、或いは中ボス的な立ち位置だと仮定した場合、俺は色々とすっ飛ばして倒しちまったわけだ。
このままNPCとのイベントに臨むべきか否か。くっそ悩む。
「お前、そのままだと腹の毛全部禿げるんじゃね?」
「そう思うなら止まってはくださらんか!?」
「何でそんなに必死なんだよ。感服しただの何だの言ってたが、それでも他人なことに変わりはないだろ。
そんな相手に妹をやろうとか頭おかしいぞお前。それともそうしなきゃいけない程の理由でもあるのか?」
「それを説明いたしますので止まっていただきたく!」
「嫌だ。効率的に攻略を進めるには立ち止まって会話するよりこっちの方がいい」
「噛みつきますよ!?」
「そうなったらその毛皮剥いで有効活用してやるよ」
「ぐぬぬぬぬぬ……!」
「……はぁ。わかったよしつこいな」
既にイベントの進行フラグは立っちまった。たぶんこのままだとケルファはずっとついてくる事になるだろう。
さっさとイベントを進めて、1人になるタイミングで再び探索する方が早い気がしてきた。
立ち止まってやると、ようやくケルファが離れてくれた。腹の毛は……少し減ったかも。そこはすまん。
「ぜぇ……ぜぇ……何という御仁だ。普通頼みごとをしている相手にこのような仕打ちしないであろうに……!」
「俺基本的にソロプレイだから自分優先なんだよな。って言っても流石にNPCには分かんねーか」
「その、えぬぴーしーとは何なのですか?」
「気にしたら負けだ。そんな事はいいから用件を言ってくれ。そして俺に早く自由行動を与えてくれ。早く、今すぐ、迅速に」
「う、うむ……小さき体躯であるのに何と凄まじい圧。やはり歴戦の戦士か」
「なにボソボソ言ってんだ」
「あいや申し訳ない! どこから話すべきか……まず、妹との結婚についてなのですが、端的に申し上げますとロロを助けていただきたいのです」
あ~、救出系のメインクエストか。ありきたりだな。まぁどんなゲームも最初はそんなもんだろう。
でも結婚て。考えられる可能性としては男女のもつれか、家庭内の問題か、或いは――。
「たちの悪い雄にでも捕まったのか?」
「いえ、そういう訳では。ただこのままでは、ロロは無意味に命を落としてしまう事になるのです」
「何だそりゃ。……ん? あー待て……原因が男じゃないなら恋愛関連は除外。家庭内も妹想いっぽいケルファが居るから然程問題があるようには思えない。親がクソの可能性もあるが……お前、親は?」
「某の両親は既に亡くなっておりまする」
「んじゃ除外か。それ以外だとすると人狼族特有の何かが関連してると仮定して……ここからほど近い場所に住んでる人狼。そんでここは墓所……墓と言えばアンデッドや死霊系。命を落とすかもしれない女性……生贄?」
「な、なんとぉ!!? たったあれだけの情報でそこまで行き着いたというのですか!?」
「うるせーよ吠えんな!」
というか別に驚かれるほど凄い事でもないんだわ。いろんなゲームやってると、大体テンプレが分かってくるだけなんだよ。
ケルファの反応から察するに、予想通り生贄の線は濃厚だろう。人ならざる存在、例えばスケルトンみたいなアンデッド系のヤベー奴の怒りを抑えるために、若い女性を生贄に捧げて鎮めるとかよくある話だ。
生贄が人間とかじゃなくて人狼のパターンは俺も初めてだけど。
「どうせ結婚してない若い女が生贄に選ばれるとかそんなだろ?」
「然り! 然り! まさしくその通りなのです!」
「なら俺じゃなくて同じ人狼の雄に頼めよ。別種族に頼み込む意味が分からん」
「それが出来れば頼んではおりません!!!!!」
「あ、うん。何かごめん」
何故か絶望した様子で崩れ落ちてしまった。このまま地の底に沈んでいってしまう勢いで負のオーラを垂れ流してる。
なるほど、藁にも縋る思いってやつか。俺に頼まなければならない事情があるのは確定として、じゃあその理由は? って話だが……ぶっちゃけこれも何となく予想は出来てる。
アクションRPG系のゲームでこの手のクエストは、大体が荒事絡みだ。それを考えればこの先の説明も予測は可能。
「人狼の雌は自身より弱い雄と結婚してはならないという掟があり、婚前に決闘し、そこで雄が敗れればたとえ恋人同士であろうが別れねばなりませぬ」
「わー、面倒くさい掟だこと」
でもやっぱり、うん。予想通りな展開。だよね~って感じ。
「決闘は長や他の同族達の前で行われる故、手を抜くことも許されず、望む相手と番になれなかった者達は数多く存在します。
某も同じく、かつて愛した雄を決闘にて叩きのめしてしまい、未だ独り身。あいや、某の事はどうでもよいのですが、問題は妹のロロです」
「要するにケルファの妹ちゃんが馬鹿強くて誰も勝てないって事だろ」
「然りぃ!! 我が妹ながら某を遥かに越えた戦闘力は人狼として誇るべき素晴らしい事なのですが! 今回に限っては完全に裏目に出ており某もうどうしたらいいか分からずじまいでありまして! 幾度となく旦那候補をぶつけても尽く蹴散らされてしまい! 挙げ句の果てにはロロはロロで皆の為に命を捧げられるなら本望と生贄に前向きな始末!!! 認められる訳がありません!!! 何故死に急ぐのか!
生贄に捧げられる日は間近! 打てる手も無くなり途方に暮れながら警備に勤しんでいた今日この日、某はナナシ様と出会った!!!
まさしく運命と呼ぶに相応しいかと! どうかあの馬鹿者を叩きのめして目を覚まさせていただきたく! どうか生贄などという愚かな選択を止めていただきたくぅぅぅ!!!
っはぁ、ぜぇ……ぜぇ……! どうかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「言いたいことは分かったから落ち着けよ。死ぬぞお前」
妹ちゃんの前にケルファが酸欠で死にそうになってる。まぁでも、それだけ必死って事だろうな。
俺も同じ立場ならこうなるのかもしれない。例えば俺の姉貴が生贄に……あー、いや、止めはするけどケルファほど必死になるくらい好きって訳じゃないからな。
本人の意志ならいいんじゃね? で終わりそう。我ながら薄情である。
「で、その生贄にされる日はいつなんだよ」
「3日後」
「早っ。そりゃお前も焦るわけだ」
「もう時間が無いからこそ、某はどこまででもナナシ様に付き纏います。たとえ腹の毛が全て抜け落ちるほど引き摺られても、斬り捨てられ首だけになったとしても、気合いで付き纏います。絶対に」
「いや怖ぇわ! ストーカーよりたち悪っ!」
この発言……やはりメインクエストを無視するのは難しそうだ。仮にそれが可能でも、このままケルファの頼みを突っぱね続けたとしたら、アノマスが言うところのNPCとの絆は損なわれるだろう。
少なくとも人狼族との繋がりは途絶えると考えていい。
それで本当にゲームが詰むのかどうかなんて分からないが……リスクを考慮すると受けるべき、なのか。
「うーん……お?」
悩んでいると、ふと聞き慣れた電子音が頭の中に響いてきた。アノマスを起動する前にセットしておいたアラームだ。
いつの間にか3時間が経過していたらしい。楽しい時間ってのは本当にあっという間だな。
ちょうどいい。一旦メインクエストは置いといて、また明日の俺に託すとしよう。
「話の続きはまた今度聞いてやるよ。え~とログアウト、ログアウトと」
たぶんオートセーブ式だろうし、ログアウトする際にもセーブはされるだろうから、このままやめても問題はないだろう。
メニュー画面から手早くログアウトの項目を選択して終了。……しようと思ったのだが。
『 セーフエリア以外でのログアウトはできません 』
「は?」
まさかまさかの仕様に間抜けな声を出してしまった。
安全な場所じゃないと無理とかマジかよ。シャドダンでさえ戦闘中じゃなければどこでもログアウト出来てたんだぞ? そのせいでログインした途端に敵のド真ん中で、為す術なくボコボコにされる事も多々あったが、いつでもやめれるシステムはかなり良かったのは事実。
これは大きなマイナスポイントだぜヨハネ。
というかセーフエリアってどこだよ! 最初に居た祠は間違いなくそうだろうが、今からあそこまで戻るのダル過ぎるだろ。はー萎え。
「ナナシ様?」
「はぁ……ケルファ」
「何でしょう?」
「ここから一番近い安全な場所って何処か分かるか?」
「でしたら、人狼族の里が最短かと」
ですよねー! 分かってた! 何かそんな気はしてたんだ! 行ったら確実にメインクエスト進んじゃうよね! しばらく拘束確定! アラームの意味! クソかよ!
しかし背に腹は変えられない。祠に戻るにしても時間はかかるし、というか祠の詳しい位置なんておぼろげな上に本当にセーフエリアかどうかも分からないのだ。
骨折り損をするくらいなら、多少の時間拘束覚悟でケルファに頼んだ方が確実だろう。
「案内してくれ」
「おお! つまり某の頼みを聞いてくださると!」
「そうは言ってない。勝手に話進めんな」
「いやいや! それでも構いませぬ! 歓迎いたしますのでどうか気を楽にしてついて来てください! こちらです!♪」
現金なもので、さっきまで沈んでいた様子からは一転、今にも鼻歌を披露しそうな勢いでケルファが歩き始めた。
尻尾なんて千切れんばかりに左右に振りまくってる。昔飼っていた犬を思い出したよ。
何だか流されてるようにも感じるけど、まぁ腹も満たさないといけないし、前向きに考えようかな。里なんだから食事くらい出来るだろ。
2日連続寝不足は避けたいので、どうか30分くらいでログアウトできますように。
と、そんな儚い祈りが通じると思っていた時期が俺にもありました。
解説コーナー
『ケルファ』
人狼族の戦士が1人。おっかない見た目に反して性別は雌であり、意外と乙女な面も秘める。
見ず知らずの三春に対して必死に頼みごとをする程度には何やら追い詰められている様子。
戦闘スタイルは武器を使用せず、肉体のみの脳筋プレイ。




