chapter06 鉄の脅威
「とぉっ!?」
「……」
「あっぶね!」
「……」
「んなろ……! これもダメかっ!?」
スケルトンとの戦闘が開始されてから数分くらいだろうか。それだけで十分に分かった。うん、正直に言おう、勝てないと。
スケルトンの攻撃はまさに苛烈。恐ろしいことに剣を一振りする度に周りの建物がバターの如く両断されていく。既に周りは倒壊した建物の残骸でひどい有り様だ。
防御に回れば、それごとぶった斬られるのは火を見るより明らかだった。というか折れかけの片手剣で受けるなんて選択肢は最初からありえない。
奴の動きは決して速い訳じゃないが、正確に俺を認識する能力は卓越しており、どれだけ素早く動いても俺を見失うことはなかった。
回避しつつ奴の体を斬りつけてみたものの、傷一つ付かない頑丈さ。たった一撃で45%残っていた片手剣の残り耐久値は36%まで減ってしまった。
ならばと組み付いて関節技を決めてやろうとしたが、さっきも言った通り俺を認識する能力が飛び抜けているから、そんな隙も晒してくれやしない。
組み付けたところであのパワーだ。簡単に振りほどかれるだろう。
勝てない。……いや、もっと正確に言えば勝てもしないし負けもしない。
俺の攻撃は通用せず、また奴の攻撃も俺には当たらない。まさしく膠着状態である。
「こんな事ならもっと初期武器厳選するべきだったな」
後悔先に立たず。過去の自分を呪いつつも攻撃手段の模索は続ける。初期武器がダメなら? 簡単な話だ。新たな武器を手に入れればいい。
この状態を抜け出すにはそれしか無いだろう。リアルを追求したっぽいこのゲームには、敵のHPゲージも存在しないみたいだから、素手でちまちまゲージを削って勝利! なんてことも望めないと考えた方がいい。
とは言えそんな都合よく新たな武器がそこら辺に落ちている訳もなく。ならどうするか? ……ハッ、そんなの決まってる。
「よぉ、そろそろ振り飽きたろ長剣。俺のと交換しようぜ」
単純な話、奪えばいい。シャドダンでは相手を倒して初めて武器がドロップしていたが、アノマスならそれすらもリアルに作られている可能性がある。
俺はそこに賭けることにした。それでダメならまたやり直せばいい。幸いにもまだゲームを始めたばかりの超序盤。やられて全ロスしても実質的な被害はゼロだ。
なら試さない手は無い。
(奪うタイミングは奴が剣を振り下ろした時だ)
プランを固め即実行。逃げ回るのをやめて今度は真正面から奴に向かって駆け出す。
当然、俺を迎撃しようと剣を振るってくるが、そんなのは百も承知。理不尽大魔王な影の王に比べれば、避けるだけなら難しくない。
横、斜め、突き。長剣による広範囲攻撃を難なく躱し続け、一瞬の隙を突き滑り込む形で奴の懐に入った。
奴の目は俺を捉え続けてる。獲物は自分の足元。となれば――。
(ハッ、そう来るよなぁ!)
長剣が振り上げられ、真っ直ぐに落ちてくる。あとはこれを避けてしまえば作戦はほぼ完了と言っていい。
建物をぶった斬る腕力を有してるコイツが思い切り地面に剣を叩き付ければ、当然刀身は地面にめり込む。そうして出来た一瞬の隙に、タイミングを合わせて俺が上から腕を踏み付けて剣から手を離させれば、晴れてその長剣は俺のもの。
上手く行かなかったらその時はその時だ。ゲーマーはトライアンドエラーを繰り返してこそだからな。
さぁ、無様な姿を晒してみやがれ!
「タイミング完璧! もらっ――」
刹那、またもやその感覚に襲われた。振り下ろされた剣を文句無しのタイミングで横へ躱し、あとは思惑通り刀身が突き刺さるのを待つだけ。
そうなる筈だった。
一瞬にして全身を駆け抜けた恐怖。ゾクリという感覚が、俺の本能に最大級の警鐘を鳴らし続けている。直感で悟った。ヤバい、死ぬと。
ゲームオーバーになったらやり直せばいい。そんな考えすら吹き飛ぶ程の嫌な予感が……的中した。
あれだけの勢いで振り下ろされた剣が、ビタリと空中で動きを止めた。途端、刃先は横を向き、そのまま超スピードで俺の方へ向かってくる。
汗が一気に吹き出す感覚を覚えた。走馬灯すら流れた。それだけ感じた明確な死の形。
やり直そう。成功するまで何度でも死のう。序盤だし。そんな甘い考えは通用しないと嫌でも分からされた。
死んではダメだ。
"命も人生も一度きり"
開始前に読んだあの一文が、反射的に俺の体を動かした。
「っっっっず、ぅあぁぁっ!!!!!」
刀身が俺の体に触れる直前。シャドダンで魂にまで染み付いた防御術を発動。
片手剣を滑り込ませて、弾く!
けたたましい金属音が盛大に鳴り響き、片手剣の刀身に激しく亀裂が走った。同時に奴の剣も大きく上へ弾かれ直撃を何とか回避。
ジャストパリィ。シャドダン全編通してお世話になりっぱなしだった必須技術。ぶっつけ本番で成功だ。アノマスにこの仕様が無かったら今ので完全に終わってた。
しかし衝撃は完全に殺す事は出来ず、俺の体は派手にふっ飛ばされて建物の壁に叩きつけられた。
「がはっ! 痛ぅ~……ま、マジで死んだかと思った……!」
恐怖によるデバフ。想像以上にヤバい仕様だ。ありえない想像までさせられちまう程にリアル過ぎる。
死んだらリアルの俺も死にます。なんて事は流石に無いだろうが、何故かそう感じちまうのだからマジで怖い。
叩きつけられた事でこっちのHPは少しばかり減ったが許容範囲。まだ動けるし背中の痛みもそんなに気になら――……え? 痛い? は? いや、待て。待て待て待て!
(痛み!? ありえない! ゲーム内だぞここ!?)
そう、おかしいのだ。VRゲームにおいて痛みを再現する事は不可能とされている筈。いや、実際に再現を試みようとした結果、ゲーム内で過度な痛みを伴うと精神的な異常を来すという実験結果から、痛覚の再現は原則として禁止となったと記事で読んだことがある。
当然それを犯せば処罰の対象になるというのは今じゃ常識だ。にも関わらずこのゲーム、当たり前のように痛覚再現を実装してやがる!
こんなのが知れ渡ったら大事だ。そりゃ誰にも話すなって釘刺すのも当然だよなぁ。
(なんて悠長にしてる場合じゃねぇ。どうすんだよこれ)
痛覚がある以上、痛みで意識が飛べばそれまでだ。たとえHPが残ってたとしても、中身の俺が意識不明になればゲームオーバー。
高難易度の片鱗がここにもありやがった! ヤバい……ヤバいヤバいヤバい! 手が、足が震える……!
スケルトンに対する恐れと、痛みによる恐怖が蝕んできやがる! ふざけんなリアルに作り過ぎだろ! 首なんて飛ばされた日にゃショック死してもおかしくねぇぞこれ!
「……」
「んなろっ、容赦なしか!」
体勢を立て直す前に剣を突き出してスケルトンが突撃を仕掛けてきた。
慌てて横っ飛びでこれを躱し地面を転がる。しかし、壁に剣を突き立てた奴は、そのまま剣を横に振り抜いてきやがった。障害物など微塵も感じさせない圧倒的な腕力。
「どわぁぁ!?」
限界ギリギリまで上体を反らしてこれを回避。鼻先すれすれを掠めた剣は空を切った。
怖ぇ。マジで、ホントに、今までで一番怖い。常に死神の鎌を喉元に突き付けられてる気分でどうにかなっちまいそうだ。
……だけどな。
「生憎と、やられっぱなしでいるほど良い子ちゃんじゃなくてねぇ!!!」
「!?」
即座に片手剣をインベントリに収納。上体反らしの体勢から両手を肩上から地面につけ、膝を畳み、一気に蹴り上げる。
所謂跳ね起きと呼ばれる動作だ。跳ね上げた足でスケルトンの顎を蹴り飛ばし、即座に跳び退いて距離を取る。
そこでふと疑問に感じた。
(あ? 効いてる?)
そうなのだ。片手剣の斬りつけではけろりとしていた奴が、顎に一撃受けただけでその巨体を揺らして後退した。
顎が弱点なのか。それとも――。
「……試してみればわかるか。どの道、破損寸前の片手剣で戦い続けるのは無理だし」
痛みがある以上無茶は出来ないが、挑戦しなければ活路も見出だせない。
ほぼ賭けに近い行動でも、やらずにいるよりはずっといい。
「ハッ、そういや居たなお前ら。でもちょうどいい!」
最初に残っていた通常スケルトンの2体がここに来て背後から襲い掛かってきた。だが、奴に比べれば何の脅威も感じない。
むしろ、武器を持ってきてくれてありがとうと感謝したいくらいだ。
「配達ご苦労! んじゃあ眠れ!」
こいつ等の脆さは確認済み。1体はぶん殴ってふっ飛ばし、もう1体の腕を掴んで捻り上げてやれば、簡単に関節から骨を外せた。
そうして手に入れた新たな武器(使い捨ての骨)。
再びこちらへ攻撃を仕掛けようとしてきているデカブツを見据えて、俺も地を蹴り駆け出した。
「……」
「相変わらず怖ぇけど、大体覚えたぜお前の動きは!」
すべての攻撃が大振り且つ単調。さっきみたいな急激な方向転換にさえ気を付ければ、ただのデカい的。
気をつけるべき部分をしっかり理解さえしていれば!
「チョロい! おらぁっ!!!」
「!!?」
大振りの横薙ぎをスライディングで躱し、一気に懐へ。そのまま奴の胴体めがけて、さっきのスケルトンからもいだ骨の腕を全力で叩きつけた。
一撃で持っていた骨は砕けたが、確かな手応え。スケルトンが大きくよろめいて後退した。
「これでハッキリしたな。お前の弱点は打撃属性。逆に斬撃には高い耐性を持ってるってとこか。それが分かれば対処は容易だ」
「……」
「おいおいどうした。さっきまでの勢いが消えちまったぞ?」
効果的な攻撃を与えられた事で警戒したのか、打って変わってこちらを静かに見据えるスケルトン。
考え無しに攻撃して来ないのを見るに、コイツには他の雑魚には無い知能があると考えるべきだ。
だけどもう、それは脅威足り得ない。既にコイツのウィークポイントは理解した。こっからは俺のターン。
「遠慮すんな。まだまだたくさん骨は残ってるんだ」
「……!」
さっきぶっ飛ばしたスケルトンに加え、最初に斬り伏せまくった奴等の残骸がそこら中に散らばっている。
謂わばこの場所は現在、俺にとって無限の武器庫! 使い捨てだからこそ遠慮なく振るえるってもんだ!
「お前の体が保つか、こっちの弾切れが先か。勝負しようぜ」
両手に骨の残骸を持ち、ダッシュ! スケルトンの動きは完全に受け身。確実に俺への警戒を高めている。
攻め攻めだった行動から一転、迎撃に重きを置いた感じか。上等じゃねぇか。
「……!」
「遅ぇ!!」
雑に振るわれた一撃。さっきまでの攻撃に比べれば速さも威力も、そして恐怖も無い。余裕を持って回避して、体を回転させて横薙ぎに骨を振るう。
シャドダンで双剣の扱いにも慣れていたからこその動きだ。両手に持っていた骨は両方とも直撃。やはり一発で砕けたが問題ない。
しっかりと効いているみたいだからな。
「……!!?」
「見え見えなんだよ。攻めは慣れてても、守りはド素人だぜお前!」
何度も何度も、拾っては殴り拾っては殴り。
それを幾度となく繰り返しているうち、ついにスケルトンの体に変化が現れた。
集中的に狙っていた腕部分の骨に、ハッキリと亀裂が入ったのを確認! しゃっ、狙い通り!
「そんな腕でいつまでその大物を触れるかな? スケルトンさんよぉ!」
「……!」
「無理すんな! こうなっちまうからなぁ!」
ひび割れた腕で振るわれた大振りの一撃且つ、そこに俺からの攻撃がジャストで割り込んでくれば!
「1本めぇ!」
俺の一撃が奴の腕に当たった瞬間、頑強と思われたそれはいとも簡単に砕け散った。
宙に舞うは奴の骨と長剣。勢いそのままにぶっ飛んで、剣は家の壁に突き刺さった。
「……!」
「どこ行くんだオラァっ!」
「!!?」
獲物を失った奴の行動パターンは分かりやすかった。打撃に弱い奴が、武器を失ったからと言って自らも打撃戦に打って出るとは考えづらい。
読み通り、奴は一目散に壁に突き刺さった長剣を抜かんと駆け出した。
今言った通りその行動は読めていた。無防備に晒された背中を見せられちゃ、そこら中に転がっている髑髏を思い切り蹴飛ばして当ててくださいと言ってるようなもんだぜ?
「ガイコツサッカーと洒落込もうか! うぉらぁっ!」
奴に接近しつつ転がっている髑髏を蹴りまくり、時にはハンド上等と手に持ってぶん投げた。
頭、体、そして脚へと。次々にヒットさせて、長剣まであと少しの所でついに奴の体勢が崩れ落ちる。
この好機逃す手は無い。無様に地面へ倒れ込むスケルトンへ即座に追い付き、そのまま前へ躍り出た。向かうは当然、長剣の元!
「よぉ、下から見上げる気分はどうだ?」
突き刺さった長剣の柄を掴みつつ、立ち上がろうとしているスケルトンを見下ろす。立場は逆転。
勝ちを確信したくなるが、最後まで油断はしない。そうやって慢心した結果、他ゲーでやられたこと数知れず。
「斬撃耐性持ちっつってもよ、この状況でバカ重い長剣を脳天にぶち込まれたら、流石のお前も無傷ではいられねぇよなぁ!?」
「!!?」
「逃がすわけ、ねぇだろうがぁぁぁぁぁ!!!」
慌てて立ち上がろうとするスケルトンに、俺もまた渾身の力を込めて長剣を壁から引っこ抜く。
見た目通りクソ重たい長剣を、ただ全力で振り下ろすだけの簡単なお仕事! これでダメでも、何発だって殴りまくってやんよぉ!
「断骨!!! ってなぁ!!!」
凄まじい轟音を響かせて、長剣の刃はスケルトンの頭部ごと地面を穿った。ビリビリと手から全身へと衝撃が走り抜ける。
確実に決まったトドメの一撃。それでも万が一はあり得る。シャドダンと違って相手のHPゲージが見えない以上、ここで勝ちを確信するのはまだ早い。
無理やりに長剣を引き抜いてその場から飛び退き、衝撃で立ち昇った土煙の向こう側を鋭く睨み付けた。
待てど暮らせど奴が起き上がってくる様子は無い。やがて土煙が晴れると、頭部がバラバラに砕け散って力無く地面に横たわるスケルトンの姿が現れる。
同時に、残骸の上に表示された100ptの表記。
これは……つまりだ。
「すぅぅぅぅ……しゃっ!」
俺の勝ち。小さくガッツポーズを取って、初の強敵撃破に喜びを顕にした。
いやぁ、マージでヤバかった。強さ自体はシャドダンのボス達と比べるのも烏滸がましいレベルだったが、何よりも恐怖と痛みがこれ以上ないくらい足を引っ張ってくるもんだから笑えない。
長剣を手放させようとしたあの瞬間の感覚はしばらく忘れられないだろうな。ああ、怖いってこういう事なのかって、改めて思い出したわ。
安心したらドッと疲れた。心なしか長剣の重さも増したように思うし……ん?
「装備不可?」
何となしに長剣を見たら『 鉄の長剣 』という文字の上に、装備不可と表示されていた。どうやら筋力と技量のステータスが足らないらしい。
まぁさっきのは体勢的に何とか振り下ろしたって感じだし、今この状態で長剣を振り上げられるかと言われれば……。
「ととっ、とぉ……! あ、無理だわこれ」
足取りもフラフラと危なっかしく持ち上げるので精一杯。武器として扱うのはまず無理と言っていいだろう。
まぁいい。正直それは予想できた事だ。それよりも、もっと気にするべき点がある。
「いきなりあれだけの強敵を倒したってのに、レベルアップ表記が出てこない。どういうことだ」
試しにメニューを開いてステータスを見てみても、どこにもレベルアップしたような形跡は無い。
と言うより、俺のレベルを表す数字がそもそも無い……?
「まさかレベルアップのシステム自体無いのか? だとしたら倒した時の数字はいったい――」
システムを理解するのは大事だ。今後のプレイスタイルに直結すると言ってもいいので、詳しく調べようとした、そんな時。
「感服致しましたぁぁぁぁぁぁ!!!」
「おわぁっ!? な、なん、なんだぁ!?」
大声と共にどこからともなく毛むくじゃらの何かが現れて俺の前で見事な土下座をかましてきた。
敵か!? と即座に長剣をインベントリに突っ込んで、代わりに片手剣を取り出し構えるが、それは微動だにすることなく只管に額を地面に擦り付けるばかり。
てか言葉を喋ってなかったか?
警戒を緩めることなく構えていると、再び毛むくじゃらから声が発せられる。
「某、人狼族の戦士が1人ケルファと申します! 先程の見事な戦いぶり、感銘を受けました!
何卒、何卒お名前をお聞かせ願えないだろうか! どうか! この通り! どうかぁ!」
(な、何だコイツ……敵意は無さそうだけど、NPCか?)
声の高さ的に性別は女? いや、人狼族って言ってたし、この種族特有の可能性もあるか。
よく見れば頭の上に青文字で『ケルファ』という文字が浮かび上がっているし、NPC説が濃厚かな。
「……」
「あ、あの、気分を害してしまったのなら申し訳なく思います。されど、あれほどの戦いぶりは某の生涯において一度も目の当たりにした事が無い故、高揚してしまって……つい大声を出してしまったこと深くお詫び申し上げます」
「……」
「……や、やはり良い気はしない、ですか。であれば! ご納得いただくまで頭を下げる所存! どうかご容赦を!!!」
なにこれ。いつまで続くのこれ。何かもう石畳突き破って頭埋もれるんじゃないかってくらいの勢いで土下座されてんだけど。
早く選択肢出してくれよ。これまで色んなゲームに触れてきたが、NPCとのイベントは大体が選択肢を選んで進行するものだ。
だからそれが表示されるのを待ってるわけだが、一向に選択肢が出てこない。いつまでこの謝罪劇を見させられなきゃならんのだ。
「どうかこの通りぃぃぃぃぃぃ!!!」
「いやそうはならんだろ!?」
例え話だったのに本当に地面に顔面めり込ませやがった! つい反応しちまったじゃねーか!
「お、おおっ! お声まで凛々しく!」
「あーもうそういうのいいから。いい加減頭上げろよ鬱陶しいな」
「あいやこれは失礼。強者を前にするとどうも興奮を抑えられず……精進いたします」
「強者って……」
あの程度の戦いぶりで? 冗談も程々にしてくれ。デバフを加味しなけりゃ、さっきのスケルトンなんかシャドダンの雑魚戦の足元にも及ばないぞ。
ぶっちゃけあのレベルのスケルトンはゴロゴロ居たし、なおかつ漏れなく核持ちだ。1体1体弱点を的確に砕かないと倒せないのだから、頭砕いただけで倒せるこっちのはめちゃくちゃイージーだっての。
しかも今の俺はアノマス始めたてのペーペー。キャラも育ってない状態での戦闘を褒められても嬉しくなんかないわ。
……あれ? というか、なんか、選択肢すら出てきてないのにNPCと自然に会話できてね?
「お前、NPCだよな?」
「えぬぴ……? 何でしょうかそれは」
まぁ、当然の反応か。そう聞かれて「はいそうです」なんて答えるNPCが居たら色々と台無しだ。
でも、少なくともこれでコイツが他プレイヤーではない事が分かった。中身が人間なら俺の問いには「プレイヤーだ」と答えるだろうし。
ヨハネもあの時マルチプレイという言葉を口にしていた。つまりそれは他プレイヤーもアノマスを同時プレイしている可能性があるって事だ。
未だアノマスの全システムを把握した訳じゃない。もしかしたらPK行為も実装されてるかもしれないからな。プレイヤーの存在を警戒するのは当然だ。
「プレイヤーじゃない……てことはやっぱりNPCか。でもこんなに自然と会話が成立するもんか?
俺の言葉をしっかりと理解して最適な答えを導き出すAIが実装されてるとかならあり得るが……そこまでの技術をゲームに? ん~、だとしたらマジで凄ぇなアノマス」
「あ、あの~、ところでお名前の方は」
「ん? あぁ、名前……名前ねぇ」
失敗したな。自然な会話が可能ならちゃんとした名前を付けるべきだった。アノマスが言うにはNPCとの絆が攻略の鍵だってのに、初手でつまずく可能性あるじゃねーか。
仮にう○ちって名前にしたプレイヤーとかどうなるんだ。ずっとそれで呼ばれるの? NPCとう○ちの絆? 喧しいわ。
んー……まぁ決めちまったもんは仕方ないしな。試しに別の名前で名乗ってみようかとも思ったが、後々訂正するのが面倒だからいいや。
「名無しだ」
「おぉっ、ナナシ様ですか! しかと覚えましたぞ! 良き名前ですな!」
あれ? 何かよく分からんけどよかったっぽい。ちょい勘違いしてそうだけど……まぁいいか。
「改めまして、某はケルファ。ここよりほど近い場所に住まう人狼族の戦士が1人です」
「あーうん、よろしく。で? 俺に何か用でも?」
「いえ、用というか、役目である毎日の見回りの最中、戦闘音が聞こえて駆けつけた次第。
そこでナナシ様の見事な戦いぶりを目の当たりにして、居ても立ってもいられず無意識に飛び出していたのです」
「へー……要するに特に用事があるわけでもないと」
「然り」
それで俺が敵対者だったらとか考えないのだろうか。まぁNPCの思考にツッコミを入れるだけ野暮だから何も言わないけどさ。
「ふぅん。じゃあ用は無いって事みたいだから、俺行くわ」
アノマスの言う通りNPCとの絆は大事かもしれない。おそらく信頼度を上げていけばプレイヤーにとって大きな利があるのだろう。
でも今はそれよりも、アノマスのシステムやら何やらを検証するのが先だ。戦闘関連はスケルトン戦で大体分かったから、あとは細かい部分の検証と、それにスケルトンを倒した時のポイントっぽい物の使い方を確認しないと。
レベルの概念が無いのだとしたら、他に強くなる手段があるのは間違いない。そこら辺を把握しないままストーリーを進めるのは愚かだ。
現状シャドダンよりは優しいが、この先もっとやべぇ奴が居ると仮定した場合、準備不足と理解不足は死に直結する。
死と言えば蘇生手段の確保も急がなければならないな。こんな寂れた墓所に蘇生アイテムなんてあるのかよとも思うが、どれだけリアルでもゲームはゲーム。
探せばアイテムくらい用意されているだろう。検証兼探索という形で行動するのが一番かな。
ということで早々にケルファに別れを告げて離れようとした――……のだが。
「お待ちいただきたいぃぃぃぃぃぃっ!!!」
「おわぁビックリしたぁ!!?」
背を向けた途端にケルファが足にしがみついて来やがった。何なんお前!? さっきから奇行が目立つんだわ怖ぇな!
「嘘です! 正直に話します! 用はあるのです! 大事な用が! 切実な願いがぁぁぁぁぁぁ!!!」
「分かった! 分かったから這い上がって来んな! 怖ぇんだよお前!」
見た目が完全にワーウルフとかウェアウルフみたいな奴が足元から這い上がって来んの普通に怖いわ!
何か目つきもやたらとギラついてて血走ってるし、鼻の上にシワが寄ってんの威嚇してる時の狼の顔そのもの!
「おお! 某の願いを聞いてくださると!」
「そうは言ってねーよ! 話だけなら聞いてやるっつってんだ! いいから離れろ毛がくすぐってぇんだよ!」
「何と寛大なお方だ! やはり某の見立てに間違いは無かった!」
言ってる内容と剣幕が釣り合ってなさ過ぎる。ようやく離れてくれたものの、また直ぐに飛びかかって来そうな顔つきはそのままだ。
「おっほん! いやはや重ね重ね失礼した。長々と話してもナナシ様の気分を害するだけと判断し、単刀直入に話させていただきます」
「お前の物理的な引き止め方の方がよっぽど気分害するわ」
「はっはっはっ! ナナシ様はご冗談も上手いお方のようで!」
あ、どうしよう。ちょっと殴りたくなったコイツ。
とまぁそんな衝動も気合と根性で抑え込んで、建物の壁に背を預けた。さっさと話せと顎で促してやると、さっきまでの剣幕は何処へやら、ケルファは神妙な面持ちで頭を下げる。
この真剣さ……なるほど、おそらくストーリー進行に必須なイベントってところか。発生条件はおそらく鉄のスケルトンの討伐。
もう少しアノマスについての理解度を深めてから臨みたかったが、どっかのタイミングで確かめる時間くらい確保できるだろう。
ここは黙ってケルファの話を聞き、良さげな所でシステム面のチェックを――。
「某の妹、ロロと結婚して頂きたく」
「あ、じゃあ俺はこれで。達者に暮らせよ~」
「お待ちを! お待ちをぉぉぉぉぉぉっ!!!」
うん、後回しにしよう。そうだそれがいい。
解説コーナー
『鉄のスケルトン』
他スケルトンに比べて遥かに頑丈且つ怪力の持ち主。身の丈を越える長剣を自在に振り回す。
剣技等はそこまでの練度ではないものの、一撃の重さは十分にボスクラスと言えるだろう。
斬撃に対する耐性は高い反面、打撃にはめっぽう弱く、素手の攻撃でも怯む。




