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chapter05 記念すべき初遭遇

 どこまでも暗いロード画面。何の飾りっ気も無いそれを無感情に眺めること数秒、ブワッと一気に視界が明るくなった。


 どうやら俺は横になっているらしく、目の前に映り込んでいるのはやたらと光を放つ岩の天井だ。


 体を起こすと、横になっていた場所が一種の台座みたいな物だと分かった。


 「察するに目覚めの祠みたいな? RPGではお馴染みの展開だな。……ん? あーあー、マジかよおい」


 よくあるゲームの始まり方だなぁと少しだけ落胆していると、自分の声がおかしい事に気付いた。

 俺の普段の声よりも数段高いじゃないか。それこそ少年かってくらい。


 しかし台座から立ち上がってザッと体を見ても、子供と呼ぶには身長が高い。細身かつ鍛え込まれた肉体に、あと何故かクソ長い黒髪。邪魔だなぁこれ。

 服装は動きやすさ重視の軽装備か。上はフードが付いた黒と金の上着、下も同じく黒をベースに金の刺繍が施されたズボンに黒のブーツ。

 ビックリするくらい黒黒黒。中学生男子が大好きであろう色合いだ。


 これはあれだな、キャラクリが無かったことを考えても、自分のボイスさえランダム仕様或いは決められたものしか無い感じか。クソ過ぎん?


 「うへぇ、変な気分。せめて声くらい好きに設定したいもんだな」


 グチグチとゲームの仕様にぼやきつつも、慣れた手つきで空間をタップ。この辺りはシャドダンとそこまで変わらないらしく、メニュー画面が表示された。


 「ステータスステータスっと、これか。うぅわ、引くレベルの美青年……いや美少女? いやいや男か」


 ステータス画面を開くと自キャラの外見も表示されたのだが、これがまた現実離れした見た目のイケメン美少女。たぶん男ではあると思うけど、言われなきゃ気付かないレベルで整ってる。


 何か、嫌だなぁ。現実の俺と剥離し過ぎててさ。これならオッサンの方がよっぽどマシだったぜ。


 まぁなっちまったもんは仕方ない。早々に受け入れてメニュー画面を閉じ、少しばかり辺りを歩いてみる。


 歩いて、走って、跳んで。更にはもっとアクロバティックな動きまで。現実の俺がやれば確実に怪我をするだろう動きの数々を試してみても、どれもそつなくこなせた。


 流石は物理特化型の身体能力。最初のポイント割り振り分があるとは言え、初期ステータスでこれなら破格と言っていい。……そして何よりも驚いたのが。


 「なんつー滑らかさだ。これホントにゲームの中か? 現実と同じ感覚で体を動かせる」


 あのシャドダンでさえ動きに多少のラグがあり、それに慣れるまでそこそこの練習を要したってのに。

 この体は動きたいと思った通りに動いてくれる。それだけじゃない。


 「グラフィックまでリアル過ぎだろ。見た目の質感もとんでもない作り込みじゃないか。しかも極めつけはこの髪。完璧過ぎる物理演算だ」


 長い髪を掴んでサラサラと弄ってみるが、見れば見るほど完璧な仕上がりだった。髪の毛1本1本に至るまで変態的なまでに作り込まれており、重力に従って落ちていく様はリアルよりもリアル。


 間違いなく俺が今までプレイしてきたVRゲームの中でも文句無しでトップの作り込みと言っていい。それを確信しただけに、やはりインストールとアップデートがバカ早かったのが引っかかるが。


 「……ま、考えるだけ無駄か」


 そう、考えていたって仕方のない事だ。俺はプレイヤーであり開発者ではないのだから。

 アノマスが期待できるゲームと分かった以上、細かい事は気にせずに楽しむのが一番ってな。


 「えーっと武器武器。ほっ」


 手のひらに意識を集中させて、剣をイメージ。すると、瞬時に初期武器の片手剣が現れた。

 どうやらここもシャドダンと同じみたいだ。新たな操作方法に慣れなくていいのはかなり助かる。


 だが武器を出してみてシャドダンとの明確な違いも分かった。それは武器の重量だ。

 あっちに比べてアノマスの武器はしっかりと重さを感じる。これもまた現実さながらの再現度。


 「ふっ! ふっ! ……うし、まぁこんなもんだろ」


 何度かその場で素振りを繰り返して片手剣の重さに慣れる。いざ実戦で振るって重さに体を振り回されましたじゃ目も当てられないからな。


 納得の行く形になるまで練習して、いざ台座から離れて歩き出した。

 目指すはこれ見よがしに空いている岩壁の穴。周りを見ても他に出入り口らしきものは見当たらないから、間違いなくルートは合っているはず。


 その予想は正しく、狭い通路を抜けた先には広大な街が眼下に広がっていた。


 ……街の前に荒廃したって言葉はつくけどな。


 「廃墟。ってかどう見ても地下だよなここ。最初の街が地下の廃墟街ってマジか」


 俺が今立っているのは、街を見下ろせる崖の上。ここからどれだけ目を凝らしても、街の中に人が居る感じはしなかった。何か動いてはいるが……たぶん人間じゃない気がする。

 まさしくゴーストタウン。電灯、いやこの世界じゃランプだろうか? そういった人工的な灯りも見えない。


 地下なのにぼんやり明るいのは、ここを覆っている岩壁そのものが淡く光っているから、か。



 『 闇精霊の墓所 』



 「おん?」


 ふと視界にそんな文字が浮かび上がった。どうやらここを示す名称のようだ。街じゃなくて墓所……そりゃ誰も居ないわけだ。どう見ても街だけど。


 「うーん。もしかして種族によってスタートする場所もバラバラだったりするのか? 仮に人間で始めたとして、いきなり此処だったら違和感半端ないもんな」


 俺が選んだのは人間と闇の精霊のハーフ。だからこそこの場所という考察は、あながち間違ってはいないと思う。

 もしそうだとしたら面白いじゃん。スタート地点から人によって違うってのも新しい。


 「次の目標が出てくるでもなし。どう進めるかはプレイヤー次第のタイプっぽいな。

 んじゃ、さっそく街――じゃなくて墓所に下りてみるか」


 墓所って名前かつこんな雰囲気の場所だ。当然(エネミー)も居るはず。俺が何よりやりたいのは戦闘体験だ。

 シャドダン以上のヌルヌル快適操作で超リアルグラフィックな環境での戦闘。くぅぅぅ! こんなの心躍るだろ!


 ワクワクが溢れ出しそうになるのを必死に抑えながら、軽やかに且つ慎重に崖を降りていく。

 一気に飛び降りるなんてのは論外な行動だ。このゲームに落下ダメージがあるのかどうかも分かっていない状況で、そんなアホな選択をする奴はそう居ない。


 そういや昔、VRゲーム始めたての小春が足を滑らせて落下死したこともあったっけな。あれには腹がよじれるくらい笑ったわ。


 「よっと……。おぉ~、こりゃまた壮観。建物の質感も石畳も、どんだけリアルに作ってんだよ。凄ぇなヨハネ。マジでキモい」


 褒め言葉である。視界に映るどれもこれもがリアルとの区別がつかないレベルの完成度。ちょっとした観光目的でもプレイする価値があるなこれ。


 まぁ、そんな平和なプレイなんてしないけども。いつだって俺はゲーム内では戦いを求めるのだ。


 「おっと、早速お出ましか」


 路地を曲がった所で(エネミー)と遭遇。外見的な特徴から見ても、まず間違いなくスケルトン。ゲームじゃスライムに並んでお馴染みの存在だ。


 武器の類は持っていない。狭い路地をゆらりゆらり、カシャカシャと骨を鳴らしながら彷徨っている。


 どうぞ斬ってくださいと言わんばかりに獲物が背を晒しているこの状況。当然、見過ごす手は無いよな?


 「記念すべき一体目だ。悪く思うなよ骨野郎」


 即座に片手剣を呼び出して駆け出す。身体能力に物を言わせた超スピードで一気に間合いを詰めて、スケルトンを袈裟斬りで一刀両断。

 特に反撃を受けることもなく、一撃でスケルトンの体はバラバラになってしまった。


 同時に、3ptという表記が死体の上に浮かび上がって直ぐに消える。経験値か? いや、それよりもだ。


 「おいおいおいおい、マジかよこのゲーム。リアルだリアルだと思ってたけどここまでやるか普通」


 俺は心底驚いていた。何に? 当然、さっきから言ってるリアルさにだ。

 シャドダンでも無かった要素がこのアノマスにはある。剣を使って物を斬った感触が、あまりにもリアルに手に伝わってきたのだ。


 骨を斬り、砕く。その感触がハッキリと。とてつもなく変態的な再現度。感動を越えてもはやドン引きレベルである。


 「は、はは……神ゲーの予感」


 こういった部分を完全再現するのは今の技術では難しいと言われている中で、当たり前のようにそれを成し遂げているアノマス。これを作った連中が「自分達は未来から来た」と言っても俺は信じる自信がある。


 それだけこのアノマスに使われてる技術は凄まじい。こんなの体験したら他ゲー全てが凡作になっちまうぞ。


 いいのかよ、こんなオーバーテクノロジーの塊を一個人にクリアまでやらせて。他にやってる奴も居るかもだけど。


 「報酬はこれまでに無いゲーム体験って言ってたな。マジでその通りだぜヨハネ」


 これはこの先が楽しみで仕方ない。……ただ、少しだけ懸念点があるのもまた事実。


 あの時ヨハネはハッキリと言ってたはずだ。シャドダン以上の難易度だと。

 だが、今倒したスケルトン。あまりにも呆気ないではないか。シャドダンにもスケルトンは居たが、あいつ等はこんなに生易しい存在じゃなかった。


 斬っても斬っても、極小サイズの核を的確に砕かなけれは何度でも復活しやがるし、それが群れで息吐く暇もなく襲い掛かってくる様はまさしく地獄。

 しかもそれで雑魚敵扱いだぜ? 戦闘状況によってはボスよりボスとさえ言われてた程だからな。


 それに比べてアノマスのスケルトンときたら……やる気あんのかよ。


 「ま、まぁ序盤も序盤。そのうち歯応えのある奴も出てくるだろ」


 一先ずは前向きに考えておく。もしかしたら奇襲ではなく真正面からの戦闘なら強いかもしれないからな。


 そうと決まれば次の獲物だ。さっきの数字は経験値だと仮定して、今のうちに狩れるだけ狩ってレベリングしておこう。


 時間も限られているので直ぐに駆け出し、勢いをつけて壁を蹴る。そのまま何度か壁蹴りを繰り返して建物の屋上に辿り着き、グルリと辺りを見渡してみた。


 「居た居た」


 ほど近い場所、広場だろうか? そこに複数体のスケルトンが集まっている。片手剣を構えて建物の屋上を駆け抜けて接近し、落下ダメージは入らないであろうと予想した高さから飛び降りて集団の真ん中へ着地した。


 「よお。遊ぼうぜ」


 実力を確かめておきたかったので今度は奇襲無しの真っ向勝負。スケルトン達も俺を認識した途端、ガチャガチャと骨を鳴らしながら殺到してきた。数では圧倒的に不利……だが。


 「核の無いスケルトンなんざ障害にもならねぇってな! おぉらぁ!!」


 1体ずつ確実に。ただ力任せに斬るのではなく、シャドダンの時と同じ要領で正確に足を壊す。

 いや、これはもはや癖と言ってもいいだろう。動き回るスケルトンの核を砕くには、まず足を破壊して動けなくしてからってのがセオリーだったからな。


 こいつ等に核が無いのは先程の1体で実証済み。なら深く考えずに斬りまくればいいのだが、一度染み付いた癖はなかなか取れないものだ。


 「どうしたどうした! 追い付けてねぇぞ!」


 身体能力に物を言わせて縦横無尽に駆け回り、時には跳び越え、時には股を潜り、次々にスケルトンを薙ぎ倒していく。

 思い通りに動く体の何と素晴らしいことか。


 しかしそんな楽しい時間も、斬り伏せた数が20を越えたところで表示された文字にストップをかけられてしまう。


 『 残り武器耐久値50% 』


 「うげ、やっぱりあんのか耐久値」


 シャドダンにもあった武器破損の仕様。まぁ、これだけリアルに作り込んでんだから、それくらい当たり前に実装されてるよな……。


 見れば既に片手剣は刃こぼれしており、無茶すればいつ折れてもおかしくない状態になっていた。流石は初期武器、脆いね。


 残りのスケルトンは10体ほど。全て一撃で倒せば十分間に合うか?

 最悪間に合わずとも、拳で戦えばなんとかなるだろう。攻撃した感じじゃ、スケルトンはそこまで頑丈って訳でもなさそうだし。


 このまま押せ押せで終わらせるぜ。


 「遅いっての!」


 横合いから飛びかかってきたスケルトンの攻撃を難なく躱し、すれ違いざまに背骨を断ち切る。バラバラになる骨を一瞥して、ふとある事に気付いた。


 (あれ? 数字が出ない?)


 そう、倒した時に表示されていた3ptという表記がいつの間にか出なくなっていたのだ。どういうことだと考察する暇もなく、次々にスケルトンが襲い掛かってくる。


 だけど思考は冷静に。染み付いた戦い方に身を任せて片手剣を振るい続け……そして、残り2体というところで新たな異変が起きた。


 「っ!!!?」


 ゾクリと、背中を走り抜ける悪寒。いや、そんな生易しいものじゃない。本能ってやつか、体が勝手に逃げの動きを取った。

 その場から大きく跳び退き、深く腰を落として正面を見据える。


 (何だ今の。VRゲームやってて初めて感じたぞあんなの)


 基本的にVRゴーグルを付けてゲーム内に居る間は、リアルの体調や感覚は反映されない。だから、急に具合が悪くなって寒気を感じるだとか、そういう事も起こり得ないものだ。

 にも関わらず感じた謎の悪寒。どことなく懐かしさすら覚えるそれを必死に思い出そうと唸っていたその時、ズドン! と何かが目の前に落ちてきた。


 さっきまで俺が居た場所に突き刺さったそれは、剣。あまりにも長大な剣だ。


 新手? じゃあさっきのはゲームのシステムが発した警告的な感覚なのか? いや、そんな風でもなかったが。


 「……親玉登場ってか?」


 建物の奥。何者かが暗がりから静かに歩み寄って来る。スケルトンだ。しかし他の奴等とは明らかに雰囲気が違う。

 骨の色も黒に近いもので、何よりも印象的なのは怪しく光る赤い眼光。極めつけは暗がりに浮かぶ『 (くろがね)のスケルトン 』の赤表記。


 やがて全体像が顕になり、突き刺さった剣をそのスケルトンが引き抜く。雑魚敵とは思えない所作で剣を構えたその瞬間、再び俺の体を謎の悪寒が走った。


 そこでようやく俺は思い出した。この感覚の正体を。


 幼い頃、1人で留守番を任された日のことだ。その日は酷い雨で、朝からゴロゴロと雷が鳴っていたのをよく覚えている。

 買ってもらったゲームもクリアして、やることが無いからと学校の宿題をこなしていた夜間近の夕方頃。近所の電信柱に雷が落ちて、家中が暗闇に包まれたあの日。誰もおらず、何も見えない状態で幼心に抱いたあの感情。


 「これ、恐怖ってやつか。うっそだろ、そこまで再現するかよ普通」


 まさしくこれは恐怖心に他ならない。それにあの頃感じたものより遥かに強い。そんなものまでこのゲームは実装してやがるのか。こんなにもリアルな感覚を。


 足が竦む。シャドダンでどんな強敵を前にしても止まることをしなかったこの俺が、たかだかスケルトン相手にビビってる。なんという屈辱だ。


 だけど、少し分かってきたぜヨハネ。お前が言ってた言葉の意味が。


 「リアル過ぎる恐怖心によるデバフ。確かに難易度高ぇわこのゲーム」


 だが、だから何だというのか。その程度で足踏みをしているほど、俺は物分りがいい方じゃない。恐怖? 知るかよ! 全部喰っちまえば一緒だろうが!


 ボロボロになった片手剣を構え直し、強がりとも思える笑みを浮かべて俺は宣言した。


 「来いよ骨野郎! お前の前に立ってるのは影の王すら越えた存在だぜ!」


 その言葉を合図に、戦いの火蓋は切って落とされた。


解説コーナー


 『スケルトン(シャドダン製)』


 言わずと知れた雑魚モンスターの定番格。どんなゲームに於いても序盤でお馴染みの敵ではあるが、ことシャドダンに登場するスケルトンは雑魚の皮を被ったボスである。

 核を破壊しない限り何度でも蘇り、且つ基本的には集団で行動。1体1体はそこまで脅威ではないものの、前述した通り核があれば無限に蘇り数の暴力でプレイヤーを死に追いやる嫌がらせの化身。


 必然的に足を破壊して動けなくしてから対処するプレイヤーが増えた。

 が、終盤では足を破壊されたら逆立ちで迫ってくる個体、核が複数存在する個体、一定範囲に入ると猶予すら与えず爆散する個体、合体して巨大化する個体(雑魚敵扱い)etc……。

 様々なクソ個体が登場することから、一部のプレイヤー達がスケルトンを削除しろというデモまで起こしたとか。


 シャドダンでムカつく敵と言えば? ランキングに於いて、常に上位帯に君臨する程度にはクソである。

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