chapter04 新世界へ
「どうすっかなぁ……」
あの後、待たせていた小春、清鷹と合流し、少しばかり遅れたが予定通りラーメン屋へ。
俺が頼んだトロチャーシュー麺の肉を小春が掻っ攫う事件こそあったものの、特に問題もなくこの日は解散となった。
もちろん、何があったのか根掘り葉掘り聞かれたが、ヨハネとの約束通りアノニマス・オブ・ヒーローの情報は一切漏らしていない。
にしても長ったらしい名前だ。縮めてアノマスでいいだろう。
まぁそんな事はいいとして、現在。
自室のベッドに寝転がって左手にはアノマス、右手にはVRゴーグルを持ってにらめっこ状態だ。
知っての通り昨日はシャドダンのおかげで寝不足である。ヨハネの言うように、アノマスがシャドダンを越える神ゲーならば、ぶっちゃけ夜更かししない自信が無い。確実に日を跨ぐことになるだろうし、下手をすれば徹夜だ。
悲しいことに明日も学校である。流石にそんな状態で登校すれば、授業中に爆睡かますのは想像に難くない。
「現在時刻20時31分。……しゃーない。ゴーグルのタイマーを3時間に設定して、鳴ったらやめよう」
VRゲームのやり過ぎ防止のため、そういう機能がゴーグルには標準装備されている。やり過ぎて脳に異常が――なんて事件が少なからずあったりするのだ。
まぁ、そんな症状が出るのはよっぽどの廃人ゲーマーにのみだけどさ。
「また今度な、シャドダン」
ゴーグルに挿入していたシャドダンのチップを取り出して、代わりにアノマスのチップを挿入し、そこからしばらく待たねばならない。
インストール作業やらデータのダウンロードやらで、最低でも20分は待つことになるだろうと予想。
……そう、思っていたのだが。
「え、早っ」
ピピっとデータのインストール完了を通知する電子音が鳴り響いた。
おいおい大丈夫かよ。そこらのインディーズゲーム並みにデータ量が少ないと言ってるようなもんじゃないか。
いきなり不安になってきちまった。シャドダンはインストールとアップデートに1時間はかかったってのに……。
「はぁ……まぁいいや。やれば分かるか」
百聞は一見に如かず。実際に自分で体験しなければ本当の評価は下せないもの。生憎とエアプムーブをするつもりはないのだ。
手早くゴーグルを装着してベッドに寝転がり、タイマーを3時間後に設定。
「期待はずれ、なんてことは勘弁してくれよ。さぁ行こうか」
ゲーム起動。
途端に薄れていく意識。ああ、この意識が溶け込んでいく感覚、ゲームの世界に落ちていく感覚。何度体験しても最高だ。
視界が暗転し、体の感覚が無くなる。
数秒の後、暗黒に染まっていた視界が一気にクリアになった。どうやら無事にメニュー画面まで辿り着いたらしい。
(ふーん。メニュー画面はぶっちゃけ普通。シャドダンみたいな拘りは無い、か。頼むぜヨハネ)
ま、あっちはあっちで拘り過ぎだったけど。
とりあえず始めなければ何も分からないので、先に進む事にした。
(スタート)
他のVRゲームと同様に、メニュー画面は視線を移動させて素早く2回瞬きをすれば決定ボタン扱い。
直ぐに次の項目が映し出され、その中からニューゲームを選択。オプション関連は後々調整すればいいだろう。
特に視界に変化は訪れず、単調な文字列が空間に浮かび上がるのみ。
(種族選択。それにパラメーター……あぁ、初期ボーナスポイントをステータスに振るお決まりのやつね)
よくあるシステムだ。ここの選択によって序盤の育成方針、装備ビルドが決まってくると言っても過言ではない。
ある意味で一番慎重にならないといけないポイントだ。ここの選択を間違えると、ゲームの序盤で強い装備を手に入れても最悪装備できないとかザラにあるからな。
(となれば種族選択は吟味して……お? ハーフ設定まであるのか。これは新しい)
様々な種族がある中、ハーフとして始められるのはゲームとしてもそれなりに珍しいことだ。どうやらハーフにすると、それぞれの良い部分を引き継いで始められるみたいだが、こういうのには大体デメリットもついてくるものである。
例えば、人間で言えば技能のパラメーター、竜人であれば魔力と筋力のパラメーター。ハーフにすればどちらの恩恵も得られるが、純血に比べると伸びが悪いとかな。
どっちも伸びっぱなしではハーフ以外の選択肢は無いと言ってもいい。理由はもちろん強過ぎるからだ。
となれば特化させる為にも純血を選んだ方が得ではあるが、せっかくのハーフシステムなのだから、色々と組み合わせを試してみるとしよう。
(うーん。でも特別感がある感じではないんだよなぁ。大体が予想通りの数値で――ん?)
モンスターを配合させて新しいモンスターを生み出すゲームをやってる感覚で、あれこれハーフにしまくってたら気になるものを見つけた。
どうやら特定の種族同士を組み合わせると、特殊な種族になるらしい。例えば、人間と魔物で魔人とか、人間と竜でドラゴニュートとか。ってか種族魔物やら竜やらで始めることも出来るのかよ……想像つかねぇ。
まぁいい。そしてこの特殊な種族システム、特に顕著なのは片方に精霊を組み込んだ場合だ。
火、水、地、風、雷、闇、光。それぞれの属性に対応した精霊と他種族を組み合わせた場合の結果は、そのどれもが同じ種族となり、かつパラメーターも同数値で固定されている。
そして特殊な種族はご丁寧に特性の説明まで下の方に記載されていた。
火の精霊✕他種族=【猛る焔】。
炎熱系魔法の扱いに長け、身体能力が高い。炎熱属性の攻撃を大軽減し、状態異常「やけど」を負わない。
水の精霊✕他種族=【無限の癒し人】。
水冷系魔法の扱いに長け、主に回復に特化した種族。全属性攻撃への微量の耐性を持つ。全ての状態異常が回復するまでが早い。
地の精霊✕他種族=【大いなる地母神】。
地殻系魔法の扱いに長け、大地に自生するあらゆる植物を操る事が可能。動物や魔物と心を通わせ、従える。
風の精霊✕他種族=【渦巻く嵐】。
旋風系魔法の扱いに長け、主に隠密行動を得意とする。風と共に行き風と共に生きる。身体や武器による攻撃力こそ低いものの、素早さはトップレベル。
雷の精霊✕他種族=【憤怒の招雷】。
雷轟系魔法の扱いに長け、肉弾戦、魔法戦、共にバランスの良い種族。魔法によって他者の体を無理矢理に動かし傀儡とする。雷轟属性の攻撃を大軽減し、状態異常「麻痺」を負わない。
闇の精霊✕他種族=【強欲なる支配者】。
魔力を一切持たず、宵闇系統の攻撃を吸収、及びあらゆる属性の即死攻撃を3回無効化し、また全状態異常への高い耐性を持つ。
高い戦闘能力を誇るが、魔法攻撃に弱い。
光の精霊✕他種族=【無慈悲なりし天人】。
全属性魔法を行使可能。光刃系統の攻撃を吸収、及びあらゆる属性の即死攻撃を3回無効化し、また全状態異常を反射する。
高い殲滅力を誇るが、物理攻撃に弱く、魔力の消費も激しい。
(ほー、こりゃまた優遇種族だねぇ。この組み合わせ見つけたら誰でも精霊とのハーフ選ぶだろ)
そう言う俺も、既にこの組み合わせ以外の選択肢を除外している。これを見つけた後に他を選ぶのは単なる縛りプレイと同じだ。
楽しく激しくプレイしたい俺としては、そんなものは足枷に過ぎないからな。
となればこの7種族のうちどれかを選ぶ事になるわけだが、悩む――ことはなく候補は二択にまで絞った。
除外した種族は、無限の癒し人、大いなる地母神、渦巻く嵐、憤怒の招雷、無慈悲なりし天人。
回復特化の水はそもそも論外。動物と仲良しこよしで攻略する気も無いから地も除く。
風は素早くても攻撃力が低いんじゃお話にならない。バランス型の雷は良くも悪くも中途半端に育ちそう。
光は破格と言ってもいい性能だが、近接戦闘メインの俺には全くと言っていいほど向いてない。魔法ペシペシ撃ってて何が楽しいんだかってのが一番の理由だけど。
さて、残ったのは猛る焔と強欲なる支配者。
うーん……どちらも捨て難いが、俺の好みとしてはやはり闇か。いや別に患ってるとかではなく性能的に。
おそらく火に関しては初心者でも扱いやすく設定されてると思うんだよな。でもだからこそ、どこかで頭打ちになりそうで少し怖い。
対する闇は清々しいまでの物理特化型。魔力が無い=魔法は使えないと解釈した場合、自ずと育成は超接近戦を目指したものとなるだろう。
シャドダンに限らず、俺のプレイスタイルは基本的に小細工なしの近接戦闘メイン。いつも通りの感覚で戦えるならば――。
(種族決定)
種族は強欲なる支配者に決めた。ここには記載されていないデメリットが存在している可能性も捨てきれないが、それを補って余りあるほど俺のスタイルに合っている種族だ。
こいつを選ばない理由は無いだろう。
さて、次に現れたのは初期武器の選択と、ユニークアクセサリーの選択。どちらも一つずつ選べるらしい。
武器については特に迷うことなく、一覧から片手剣を選択。どうせゲームを進めていくうちに腐るほど武器は入手することになるだろうし、最初は扱いやすい物を選ぶに限る。
アクセサリーの方については少し悩んだが、隷従の指輪にした。効果は、倒した相手を1体まで支配した状態で復活させる。
要するに仲間として一緒に戦わせるってことだろう。ソロプレイにはかなりありがたい効果だ。どうしても1人じゃキツいって時だけ頼らせてもらおう。
ここまで特に大きく悩むことなく進み、初期ボーナスポイントも身体能力が向上する項目に全振りした。
俺の予想ではそろそろキャラクリ画面が来るはず……そう思っていたが。
(え? もうプレイヤー名の記入?)
予想は外れて現れたのはプレイヤー名記入画面。
珍しいこともあるもんだ。プレイヤー名は初っ端か最後の最後に決めるのが大体のゲームのお約束。むしろこの手のゲームでキャラクリが無いとか有り得るのか?
それとも完全ランダム? それはそれでどうなんだろう……。
(まぁいいや。特にキャラクリ拘ったりもしないし、仮にどれだけ変態野郎な見た目のキャラを作ったとしてもゲームの進行に支障は来さない。そういうもんだ。普通はだけど)
キャラクリに関して一抹の不安は残るものの、とりあえずプレイヤー名はいつも通り【名無し】で。
決定すると視界が暗転。すぐに明るくなったかと思えば、今度は何やら意味深な文字が浮かび上がっていた。
そこで俺はヨハネの言葉を思い出した。
(ああ、これがヨハネが言ってたテキストか。読まなきゃ最悪詰むらしいけど……流石に言い過ぎだろ。ナメられてる感じで気分悪いぜ)
とは思いつつもしっかり読んでいく。本当に詰んだら嫌だし。
(えぇっとなになに……アノニマス・オブ・ヒーローの世界では、NPCとの絆が攻略の鍵となる。どんな道を進むもプレイヤー次第。しかし、道を外れれば孤独な結末が君を待っているだろう。
命も人生も一度きり。悔いの無い選択をし、そして蘇生手段を確保せよ。死ねば君は、文字通り全てを失う。何もかも)
攻略の鍵はNPCとの絆ぁ? なんだギャルゲーでもやらせようってんじゃないだろうな? 嫌だぞ俺……。
後半は、要するに死ねばペナルティが発生するってことだろう? シャドダンでも死んだらレベルダウンに加えて所持アイテム、所持武器 所持金、その他諸々全ロスだったし、普通だな。
蘇生手段なんて言われるまでもなく可能な範囲で最優先確保するわ。シャドダン脳ナメんなよ。
『 物語を始めますか? YES/NO 』
どうやらこれで初期設定は終わりらしい。
さぁ、あれだけ大口を叩きやがったんだ。クソゲーだったら承知しないぞヨハネ。
(YES)
『受諾しました。ようこそアノニマス・オブ・ヒーローへ。貴方を歓迎します』
解説コーナー
『ヨハネ』
三春にアノニマス・オブ・ヒーローを託した、何やら企んでいる様子の女性。
美人過ぎる容姿に反し、言葉遣いはどこか紳士のそれであり、不思議な雰囲気を纏っている。
謎に怪力で神出鬼没。気付けばそこに居る不思議な女。苦いものが大好物。




