chapter27 隷従者
敵を仲間にする。それは数あるゲームに於いて使い古された、或いは伝統的とも呼べるシステムの一つだ。俺が今まで制覇してきたゲームの中にも、当然そのシステムを全面に押し出していた作品はあった。
まぁ、イベントで強制的に仲間になる奴を除けば、誰1人仲間にせずクリアするとかいう変態プレイをしてたわけだが……。だってヌルいし。
そういう事情もあって、俺は自ら敵を仲間にするという選択肢は極力取りたくない派なのである。
とは言え、それはゲーム全体の難易度が低ければの話。高難易度であればその拘りは少し緩くなる。
シャドダンはソロ討伐自体が名誉とされているから例外として、やはりそのゲームを十全に楽しむならば組み込まれたシステムは活用していくのが正解。
ではアノマスは? もちろん後者だ。
今のところ理不尽な難易度ではないから、仲間という選択肢はあまり取りたくないのは変わらないものの、やはりネックとなってくるのは恐怖デバフやリアル過ぎる痛覚。
恐怖や痛みによる一瞬の硬直で、別の敵から入った邪魔に被弾する……なんてことになれば目も当てられない。そういう時に「仲間にしておけば……!」と後悔しても時既に遅しってやつだ。
楽しく激しく快適にプレイして行きたいのであれば、やはり使える仲間は確保しておくべきだろう。
たとえ隷従の指輪が一度しか使えない物だったとしても、ダムドを捨て置くのはあまりに惜しい。奴の戦力を身を持って体験したから尚更だ。
(まぁ、ボスキャラを仲間に出来るとは正直思わねーけど)
「それでナナシ様、まだ此処でやることが?」
「ん? あぁ、まぁ見てろ」
再び教会内に戻り、ダムドが着ていた鎧の前に陣取った俺達一行。怪訝な表情で俺を見てくる2人は置いといて、指輪を装備した手を掲げた。
すると、視界内にウィンドウが現れる。
『 隷従の指輪を使用しますか? YES/NO 』
(ダメで元々。出来なきゃ鎧も掻っ払って、教会内を隅々まで調べてアイテム回収。それで終わりだ)
迷わずYESを選択した瞬間。指輪から黒い影のようなものが複数本飛び出し、そのままグルグルと鎧を包み込み始めた。
(うげ……もっとこう、パーッと光が降り注いだりするもんかと思ってたのに、演出キモいな)
「こ、これは……!」
「長老から聞いた話の中に似たような現象があった気がする。確か、支配の御技だっけ?」
「ロロも聞いていたか。話の通りであれば、まさかナナシ様は……?」
何か意味深なこと話してるけど、やめな? 失敗するかもしれないのだから変に話盛らないでほしい。出来なかった時どんな顔すりゃいいんだよ。
失敗時どう誤魔化そうか。などと考えているうちに影に変化が現れた。鎧の形だったものはやがて人型へ。弾けるように影が霧散し、その場に残されたのは。
「よう、さっきぶり」
「……?」
戦った時と変わらぬ姿のダムドが其処に立っていた。ご丁寧に破損していた鎧も元通りだ。錆も無くなって新品同様である
正直無理だろうな~と思ってただけに、この結果には内心マジで驚いてる。悟られないように平静を装って手を挙げて見せれば、しっかりとこちらに反応を見せてくれた。
『 処刑人ダムドの蘇生、及び支配が完了しました 』
システム側からのお墨付きだ。どうやら本当に上手くいっちまったらしい。隷従の指輪は……壊れていない。それに。
(なるほど。こいつもクールタイム式か)
隷従の指輪を調べてみると、再使用時間まで残り72時間と表示された。長ぇ! とは思わない。ボスキャラまで仲間に出来ると考えれば、むしろ破格だろう。
とは言え3日間ただのアクセサリーに成り下がるのは事実。今後使用する場合も使う相手を吟味するべきだな。
「ダムド……!」
「ほ、ホントに復活しちゃった……あのっ、闇人様。安全なんですよね? 一応戦闘はいつでも出来ますけど。むんっ!」
「ぶっちゃけ安全かどうかは今から確かめる。戦闘になった時は悪いけど頼むわ。流石にコイツと連戦はキツい」
システム側から支配完了と言われてるし、ほぼほぼ大丈夫ではあるだろうが……忘れちゃならないのが、これはゲームだってことだ。
バグという不確定要素がある以上、楽観視は厳禁。うわーい強キャラゲット~! なんて無邪気に近づいた途端ブスリとか笑えないからな。場合によっちゃトンズラも視野に入れておかなければ。
「さて、支配は出来たとして。問題はコイツがどういう働きをしてくれるかだが」
移動すれば勝手について来てくれるのか。戦闘に入れば勝手に戦ってくれるのか。それとも俺からの指示が無ければ単なる木偶なのか。
一応パーティメニューを開いてみるが、そこにダムドの名前は無かった。あくまでも支配しているだけの一時的な仲間だからか。それとも……?
まぁ試してみれば分かるだろうってことで、一つ簡単な命令を下すことにした。正座でもさせてみるかなぁ、などとふざけ半分に考えていた矢先。
「よもや、三度貴様の前に立つことになるとはな、影人」
「っ!!? お、おいおいマジかよ……」
教会内に響いた低い声。俺の聞き間違いでなければ、今の声はダムドのものだ。てっきり物言わぬ状態だと思ってたのに、まさかの意思疎通可能とは。
「驚いたな。喋るのか」
「我には意志がある。当たり前だろう」
「そりゃそうなんだが……。とりあえず一つ答えろ。大事な質問だ」
「何だ」
「今のお前に、俺と事を構える気はあるか?」
言いながら、いつでも武器を取り出せるように意識を集中。最大限の警戒をしながらダムドの返答を待つ。
「無論」
「っ……!」
「……そう答えるべきなのだろうが、不思議と貴様を害そうという気にはならない。また怪しげな術でも使ったか」
「お、おぉう。ビビらせんなよ。言葉遣いはどうあれ支配自体は出来てるっぽいな。
おし、ちょっとそこに正座してみ?」
「……」
「あぁ、マジでするんだ」
「やれと言っておいて何だその言い草は」
相変わらず尊大な態度ではあるものの、こちらの命令に素直に従う辺り隷従の指輪の効果は完璧に発動しているらしい。
一先ず戦闘にならないことは確定した。小さく息を吐いて安堵する俺を余所に、未だ警戒している様子のケルファ達の方へ振り返る。
「警戒解いていいぞ。コイツはもう襲ってこない」
「……服従させた、ということですかな?」
「そんなとこ」
「ふひゃあぁぁぁ~。生きた心地がしませんでしたよぉ。流石の私でもダムドを相手にするのはちょっと……」
「ケッ。生贄を欲してるアホをとっちめるとか言ってた奴が、骸骨如きに尻込みすんなよ」
「それとこれとは別ってやつですよ~。……それにしても、ホントに凄いですね。あの悪魔を従えるなんて流石は闇人様ですっ」
「誰が悪魔だ。我より影人の方がよほど悪魔ではないか」
「は……? 上等じゃない。私の前で闇人様を貶すなら、いくら処刑人が相手でもやってやるけど?」
「貴様等犬共が逆立ちしようが我に敵う道理無し。挑みたくば挑むがいい。その愚かな行動に見合う結果を突きつけてやろう」
「言ったなこのクズ骨やっっわっ、わわっ、キャン!!?」
「フッ。無様だな毛玉。這いつくばるのが似合ブッ――何故殴る影人」
さっきまで内心ビビってたロロが、俺を悪く言われた程度でキレ散らかしながら駆け出した。それを見て即座にインベントリから槍を取り出し、足に引っ掛けてロロをすっ転ばせる。
そんなロロを煽り始めたダムドの方にも、槍の柄で脳天を強打。
「何故も何も無ぇよアホ共。くだらねぇ理由で争ってる暇があるなら、手分けして教会内を散策しろ。
ってかダムド。お前此処にずっと居たんだから、アイテムがある場所くらい分かるよな?」
「あいてむ……? 何だそれは」
「おいマジかよ。あー、何だその、とにかく役に立ちそうな物だ。体力を回復する物なら尚良し」
「ポーションの類か?」
「そうそれ! そういうやつ!」
「ふむ……此処に縛り付けられている間、そういった物を見かけた記憶は無いが」
まさかの返答に膝をつきそうになっちまった。
回復アイテムが無いだと? 元々此処へはそれ狙いで来たってのに肝心の物が無いとか……マジかぁ。
「ナナシ様。一通り探してみてはどうですかな? もしかするとダムドが見落としているだけやもしれませぬ」
くっ、NPCのケルファの方が前向きだと? 屈辱だ。
「……まぁ、そうだな。俺にしか価値が分からねぇ物もあるかもだし、探すだけ探してみるか。
よっしゃ、それならちゃちゃっと探すぞ。いつまでも牙剥いてないでお前も手伝えロロ。ダムドもな」
「はぁい……」
「貴様がそれを望むのならば、致し方あるまい」
ぶつくさ言いながらも立ち上がり、誰よりも早く探索してくれる従順なダムド。あれだけ激しい戦いを繰り広げたってのに凄ぇ変わり様。恐るべし隷従の指輪。
というかダムド倒したから成仏しとけ~って死霊達に言ったくせに、秒で復活させてんのなかなかに屑では? ……まぁいいか、ゲームだし。
「ガルル……気に入らないわ。いつかスープの出汁にしてやるんだから」
「んなこと勝手にしたらぶっ飛ばすぞロロ。ダムドに関しての決定権は全て俺にある。人の物には手ぇ出すな。常識だろ?」
「ですが闇人様ぁ」
「しつけーぞ。おいケルファ、ロロと2人でそっち探せ。俺は1人でいい」
「承知。ほらロロ、今は抑えよ。何れ無念を晴らせる時も来よう」
「ぐぬぬ。わ、私は諦めませんからねー!」
不吉な言葉を背に受けながら、俺も俺で教会内の探索を始めることにした。
ダムドとロロの仲については今後の課題だな。せっかくケルファと良い感じになったってのに、今度は骨との和解かよ。
やはり軽率だったか。いやぁでもダムドの戦力は貴重だしなぁ。
(はぁ……ソロならこんなことで悩まずに済むのに。無心に強敵とやり合ってた頃が懐かしいぜ)
何だか無性にシャドダンが恋しくなった、今日この頃である。
で、あらかた探索した結果だが。
「あったじゃねーか回復アイテム」
「むぅ……?」
俺達の前に並べられたアイテム。量はそこまで無いにしても、回復系のポーションが数本に現状では超貴重な蘇生石が1個。
宝箱みたいな如何にもな物の中にあったのではなく、その辺の棚に乱雑にぶち込まれてた。
『 ヒールポーション 』
"体力を100回復。渇き値を20回復"
今の体力の最大値が大体300。それを考えたら結構デカい回復量だろう。ついでに渇き値も回復できるのは非常にありがたい。どのゲームでもサバイバル要素は結構忘れがちだからなー俺。主に戦闘に夢中で。
それはそうと、アイテムは無いと言っていたダムドにジト目を送る。しかし、何やらダムドだけでなくケルファやロロまで不思議そうに首を傾げていた。
「ナナシ様ご所望の品が見つかったのは良いことではありますが、どうも不可解ですな」
「何が?」
「同意だな。此処は長年放置されていたも同然の場所だ。にも関わらず、何故ここまで真新しい状態で保存されていたのか。棚の中に放置されておきながら埃すら被っていないのはどう考えてもおかしいだろう」
「えぇ……? アイテムってそういうもんじゃん」
イベントアイテムならまだしも、通常アイテムで埃被ってるとか普通なくない?
「そもそも、これ等の品を我は見たことが無い。暇つぶしがてら教会内を飽きるほど歩き回ったのだからな」
「暇つぶしで探検するボスとか何か嫌だな」
「此処に閉じ込めた張本人がそれを言うのか」
「へいへい。そりゃ悪うございました」
うーん……ゲーム用語に反応してたケルファ然り今回みたいなアイテムの見た目然り、いちいち反応されるのちょっと面倒くせぇな。
そりゃリアルを追求した世界観ならNPCが細かい部分を気にするのも分かるが、限度ってもんがある。支配したダムドが喋るのも想定外だし……あーソロプレイしてぇ。
「闇人様。これが回復ポーションなのは分かりましたけど、こっちの石ころはなんですか? そこら辺に転がってる物と大差無いように見えますけど」
「光ってんのに大差無いはないだろ」
「光って……?」
「ふむ……?」
「貴様の目は節穴か影人」
「だからお前! 私の前で闇人様を侮辱するな!」
「知ったことか子犬風情が」
「殺すっ!!!」
「お、落ち着かぬかロロ。ダムドもそれくらいにせよ。ナナシ様の配下となったのならば、相応の態度というものがだな――」
「それこそ知ったことではない。弱き駄犬如きが我に指図するな」
「ふ、ふふふ……いやいや我慢。我慢だぞぉ某」
あーもう、また始まったよ面倒くせぇ。
にしても妙だな。ポーションの見た目は俺と同じ認識なのに、何で蘇生石は違うんだ? NPCには使えないアイテムだから、その辺が関係してるとか? バグにしろ仕様にしろ面倒だなぁ。統一しろよヨハネ。
「もういいや。その辺考えるのもダルい。考察は専門外なんだよ~っと」
ヒールポーションと蘇生石をインベントリに突っ込み、後ろでギャンギャン騒いでるアホ共をほっといて、俺はそそくさと教会を後にした。付き合ってられん。
「影人」
「うおっ、びっくりしたぁ。ついてきてたのか」
教会からしばらく歩いていると突然背後から声がした。
振り返るとそこには当たり前のように教会の外を歩くダムドの姿。どうやら外出禁止の呪いは隷従の指輪の効果によって打ち消されたっぽいな。
まぁそうでなくちゃ困る。せっかく復活させたのに教会から出られませんじゃ馬鹿過ぎるからな。
今は骸骨の頭は晒しておらず、ダムドは俺が蹴っ飛ばした兜を被っていた。わざわざ拾ってきたのか。
「不服ながら今は貴様が主だ。付き従うのは従者として当然のことだろう」
「従者って柄じゃないけどなお前。あ? ケルファ達は?」
ふと、2人の姿が見えないことに気づいた。隠れて追うような奴等でもなし、十中八九原因はダムドにあるだろうと見てみれば、案の定ダムドは得意気に鼻を鳴らした。
「あまりにもしつこい故黙らせてきた」
「殺して、はいないみたいだな」
「ふん」
パーティメンバーにはしっかりと2人の名前が表示されている。少しばかり体力が減っているのは……たぶん1発2発殴ったとかそんなとこだろう。
「犬共は鼻が利く。じきに目を覚まして追って来るだろう」
「やっぱ気絶させたのか。全力で俺を殺しにかかってきた奴にしちゃお優しいことで」
「叶うならばそうしてやりたかったが、今の貴様に襲い掛かる気が起きないのと同じく、奴等への過剰な対処もする気にならぬ」
「ほーん」
まぁ、その辺は指輪の効果だろうからな。とは言え説明すんのも面倒だから、コイツの前であんまり話すのはやめておこう。
「ところで影人。我の槍をどうした?」
「先に言っとくが返さねーぞ? お前のせいで一番の鉄の長剣ぶっ壊れちまったからな。当分の間は俺のメイン武器だ」
「……そうか。貴様がそう言うのならば致し方ない」
「そうヘコむなよ。丸腰で戦えなんて言うほど俺も鬼畜じゃないからな。お前が操ってた他の槍しこたま回収して持って来てるから、戦闘になったらそれ使え」
「ふむ、そうか。……で、それは何処に?」
「ほれ」
あれだけの槍を操作してたんだ。きっと丸腰の状態じゃ手持ち無沙汰で落ち着かないのだろう。
インベントリから槍を一振り取り出してダムドに投げ渡す。苦も無く受け取ったが、しかし何やら不思議そうに首を傾げていた。
「我と戦っていた時もそうだが、何処から取り出した……?」
「あー……ノーコメント。説明がダルい」
「……そうか」
ケルファと同じく、やはりダムドもゲームシステムに関しての知識は無いらしい。本当にこの辺りの反応はどうにかならないもんかね。
きっと今後もNPCと関わっていくことになる。その度にあれは何これは何と聞かれてちゃテンポもクソもあったもんじゃない。
ある意味でリアルな反応ではあるが、現状ではただ煩わしいだけだ。戦闘は面白いだけに惜しいなぁ。
そこから暫く無言の時間が続き、戦う意味の無いスケルトンやらグールやらを避けつつ只管歩いた。
パッシブスキルの闇ノ衣の効果で、割と近くを通ってもバレないのはなかなかに快適だ。やはり覚えて正解だったか。探索する上では必須スキルだな。
「お、ナイフ発見……って刃こぼれエグ。こりゃダメだな」
道を逸れて、フラリと入った建物の中を物色中。朽ちかけた棚の中を泥棒の如く漁ってみるものの、出てくるのはガラクタばかりだ。
もしかしてアイテム自体がそこそこレアなのかもしれない。他のゲームなら結構ポロポロ見つかったりドロップする印象だし、たぶん合ってる。
あのシャドダンでさえレアな物以外は腐るほど見つかってたもんなぁ。となると影の王を倒した時みたいにアイテムを惜しげもなく使ってゴリ押し、なんて戦法もアノマスでは厳しいのかも。
「此処を襲った我が言うのもなんだが、荒らすことに躊躇すら無いのはどうなのだ」
「ゲームで躊躇や遠慮なんざして何の得があるってんだよ。おっ、蘇生石――ぽい見た目の瓦礫かい。はぁチクショウ」
「何を探している」
「使えそうなものは何でもだ。高難易度ゲーに於いてアイテムを制する者は全てを制す。常識だ。
ま、俺は基本的に真っ向勝負派だから、よっぽどの相手にしか使わねーけど」
「真っ向勝負……確かに、貴様はそういう奴だ。戦闘方法は前に比べてかなり変わっていたがな」
「ソウダネー。ってかボケっとしてないでお前も探せよ。指示待ち人間か」
「元、人間だ。誰かさんのせいでな」
皮肉たっぷりな言葉を吐きつつも、指示通りダムドは建物内の探索を始めた。
……しっかし、冷静に考えてみると変な状況だよな。ついさっきまで命の取り合いしてた相手と、こうして雑談しながらアイテム探索。まさにアノマスだから実現してる不思議展開だ。
もしかしなくても、ダムドにも絆云々は有効? 信頼度を上げていけばステータスが強化されるとかそういう感じかもしれない。
一定の信頼関係を築けばアイテムを貰えたり新技を覚えたりってのもゲームでは定番だ。
「影人、これはどうだ?」
「どれ――フォークかい」
ダムドとの信頼関係をカンストさせたら、ワンチャン例の槍操作が出来るようになったりしないかなぁ。
と、そんな可能性の低い妄想を垂れ流している俺の元へ、1本のフォークを握り締めたダムドが戻って来た。
「真面目にやれよ」
「至って真面目だが?」
「はぁ……」
「貴様が使えば立派な武器だろう」
「そりゃそうかもしれんが。あー、でも食事のことを考えたら食器や調理器具類は回収しておいても損は無いか」
「そうだ。我もそれが言いたかった」
「嘘つけ」
それにしても、話せば話すほど戦っていた時のダムドのイメージが崩れていく。おそらくこっちが素ではある筈。思いの外普通だし意外とノリが軽い。
どんな理由があったにせよ、無闇に住人を虐殺するような奴とは思えない。それほどの違いだ。
NPCとの絆がダムドにも適用されていると仮定した場合、それについてももう少し深く聞いた方がいいだろう。
「探しながらで構わないねーけど、一ついいか? ダムド」
「何だ」
「お前、どうして此処を襲った?」
回りくどい言い方はせず、直球で疑問をぶつけた。さてどんな反応が返ってくるやらと視線を向けると、何てことはないと言わんばかりに作業を続けながらダムドが答えた。
「教皇様より受けた命令だからだ。貴様等が他種族に対し非人道的な行いをしているとして、全ての騎士に出動命令が下った。
目的は闇の精霊、及びそれに連なる者、崇拝者の殲滅。謂わば虐殺だ」
「分かっちゃいたがエグいことしてんなー。俺のこととやかく言えないだろお前」
「教皇様の御言葉は絶対だ。貴様の悪逆非道な行いの数々も事細かに説明を受けた。殲滅して然るべきだと当時の我は信じて疑わなかったが……今は違う」
「心境の変化ってやつか?」
「いや、そんなものではない。思えば、教皇様から下される命令はおかしい部分も多かった。
本来であれば首を傾げ、異を唱えるべき場面でさえ、あの頃の我は従順に従っていたのだ。考えられぬことだ……貴様や精霊だけでなく、罪無き子供まで手にかけよなどと。
にも関わらず、我は槍を振るうことを疑問にすら思っていなかった。そう、まるで――」
「操られてた。或いは洗脳の類っぽいな」
「……やはり貴様もそう思うか」
なるほど。これまた定番のパターンだな。
要するに、ダムドは元々虐殺などとは縁遠い騎士だったが、その教皇様とやらが何らかの方法でダムドを支配……いや、思考の支配? たぶんそれに似た何かで命令に対する疑問を抱かせないようにしてた感じだろう。
俺が一度ぶっ倒し、隷従の指輪で復活させたことによりその支配が解除され、正常な状態に戻ったといったところか。
「もしそうだとしたら……我は取り返しのつかないことをしてしまったのだな」
「そりゃな。見ての通り此処は廃墟化。出歩けば敵だらけの有り様だ。まぁ少なくともスケルトンは俺の仕業っぽいけど、初めからお前等が襲撃してこなけりゃこんなことにはなってなかっただろうよ」
「……この街の有り様が我の――いや、我等の罪か」
「はぁ? あのなぁ――」
そこは教皇って奴が悪いだろ。そう訂正してやろうと振り向いた先で、作業を止めて自分の両手をジッと見つめているダムドの姿に言葉を詰まらせた。
深い後悔の念。NPC相手にそんなものを感じて、俺は黙って見ていることしかできなかった。
どれくらいそうしていただろう。やがてダムドは顔を上げると、不意に俺へと視線を送る。
「影人、頼みがある」
「頼み?」
「鉄のスケルトンの元へ案内してくれ」




