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chapter26 安らかなる眠り

 「寝てたんじゃなかったのかよ」

 「凄まじい轟音に叩き起こされまして。それよりそのお怪我は!?」

 「ちょいと無茶しただけだ。というかよく此処が分かったな」

 「無茶とは……あぁ、場所については――」

 「私が闇人様の匂いを追ってきました! えへん!」

 「え、俺そんな臭う?」


 慌てて嗅いでみたが血の匂いしかしない。まぁ、元の俺がどんな匂いかは置いといて、人狼だから犬みたいに嗅覚も鋭いのだろう。そう考えれば此処に来れたのも普通か。


 「匂いは分かったが轟音って……あぁ、もしかしなくてもアイツが飛ばした槍の着弾音か」

 「「アイツ?」」

 「ん」


 親指で後ろを差してやると、ケルファとロロが怪訝な表情でダムドの方へ歩みを進めた。そして十分に近づいたところで、ゴクリとケルファが喉を鳴らす。


 「こ、この鎧……まさか……?」

 「間違いないよ姉さん。鎧に刻まれてる槍の紋章……前に長老から教えてもらったものと同じだから」

 「っ……処刑人ダムド。かつて、闇の精霊様を信仰していた人々を次々に斬首した悪魔。言い伝えによればナナシ様によって呪いをかけられ、生身の肉体を失ったとされているが」

 「あ、やっぱそういうことか。そりゃ恨まれるわ」

 「まさか、まさかナナシ様……この悪魔を……?」

 「おう。きっちりぶちのめしたぞ。なかなかに楽しめた」

 「「……」」


 別に誤魔化すこともなし。正直に言ってやると、2人はあんぐりと口を開けてアホ面を晒して振り返った。何その顔。


 「お1人で……?」

 「見りゃ分かるだろ」

 「……」


 え、ホントに何なの? そりゃここまでに戦ってきた奴とは一線を画す程の強さだったが、そんな「こいつマジか」みたいな顔しなくてもよくない? 敵だから倒しただけだろうよ。


 「あ、まさか倒しちゃダメだったパターン――」

 「凄い凄いすっごーーーーーーいっ!!!」

 「ゲフッ!?」


 重要キャラと知らずに倒してしまい、後々後悔することは他ゲーでもたまにあったりする。実際、俺もいろいろと経験した。

 今回ももしかするとそれか? と考え始めた瞬間、腹に衝撃。異常に瞳をキラキラさせたロロが突っ込んできた。


 「いてーなバカ野郎! って地味に体力減ってるし! フレンドリーファイア有りかよこのゲーム!」

 「全然分かんないですけど闇人様! これは凄いことですよ! 快挙です! 長年この墓所に於いて最も脅威とされていた処刑人を倒すなんて! やっぱり闇人様は凄い!」

 「はいはいそうですかサンキュ……あ? 最も、脅威?」

 「然り。処刑人ダムドと言えば、かつてこの地に侵攻してきた敵の中でも突出した実力者。

 呪いにより弱体化していたとは言え、我等人狼が総出でかかっても勝てるかどうかという相手。

 あの長老でさえ最大限に警戒していた存在なのです。それを某達が寝こけている間に討伐してしまうなどと……いやはや、改めて感服致しました」

 「えぇ……?」


 ケルファの言葉に愕然とした。確かにダムドは強かった。それは間違いない。だがそれだけだ。

 最初のボスですら鬼畜理不尽難易度だったシャドダンに比べれば、ダムドなんぞミジンコである。苦戦とかそういうレベルの話じゃなくて、あのゲームは最序盤で当たり前のようにプレイヤーの命を刈り取ってきたのだ。


 アノマスに於ける高難易度とは、おそらくその大部分が度々感じる死の恐怖やら、痛みといったリアルな感覚込み込みでの話だろう。

 対してシャドダンは純粋に戦闘そのものが高難易度……いや、バグ難度。単純な強さを比べた場合、ダムドはシャドダンで言うところの雑魚敵よりちょっと強い雑魚敵くらいの立ち位置だ。中ボスならまぁ分かるかな程度である。


 そんな存在が、この墓所で最も脅威であったとロロは言った。それが意味するところは――。


 「じゃあ何か? この墓所にはもう、コイツより上は存在しない、と?」

 「某が知る限りでは、そうですな」

 「はぁぁぁぁ~~……」

 「何故ため息!?」


 そりゃため息も出るだろうよ。アノマスでの戦いで、心から楽しめた戦闘は今の所ダムドだけ。鉄のスケルトンとグールイーターは楽しいとはまた違った。

 だからこそ落胆した。ケルファの言う通りなら、つまりこの墓所にはもう、ダムド以上に俺を楽しませてくれる強敵は存在しないのだ。


 きっと理不尽ボスが待ち構えているに違いない。密かにそう思っていただけに、この事実は俺の心をこれでもかと抉った。


 「そかぁ、ダムドで頭打ちかぁ。やったぜ墓所攻略わ~い……クソがよっ!!!」

 「えぇ……?」

 「闇人様、どうしてそんなに悔しそうなんですか?」

 「悔しいとかじゃなくて……はぁ。こんなことなら、もっと戦闘を引き伸ばしてもよかったなぁ。いや結構ギリギリだったけども。

 ダムドもダムドだわ。自分此処のトップですって初めに言えよ……クッソ萎え。ケルファちょっとダムド以上の奴連れてきて。無理なら毛を毟る」

 「理不尽では!?」

 「バカ野郎、理不尽ってのはな……あぁもういいや。とりあえずドロップ品回収して一度戻っ……てそういや、お前等どうやって教会に入ってきた?」


 いろいろとやる気も削がれて、探索という気分でもなくなった。こうなったらもうサッサと戻るに限ると踵を返そうとしたところで思い出した。

 そう、こいつ等が此処に居るのはおかしい。何故なら、教会の周りは大量のレイスでビッシリだった筈。


 単純に上手いこと避けて入ってきたのか? いや、ロロはともかくケルファがそんな器用なこと出来るだろうか?


 「どうやっても何も、扉は破壊されていたのでそこから」

 「じゃなくて。レイスはどうした?」

 「レイス? はて……ロロ、お前は見たか?」

 「私が確認した限りじゃ居なかったと思うけど……」

 「マジ? あぁ、ダムドを倒してフラグが建ったから消えたのか。レイスもアイツの仲間だったとかそんな感じか……?」


 うーん……だとしたら奴等が中に入って来れないのは違和感凄いが、まぁゲームに細かいこと求めてちゃきり無いし、そういうことなんだと納得しておこう。


 「出れるなら何でもいいや。また鬼ごっこなんて嫌だし――」


 そう言いながら、なんとなく目を凝らして教会の入口を見てみると……あら不思議。2人が口を揃えて居ない居ないと言っていたレイスの大群が、来た時と変わらず敷地外でひしめき合っていらっしゃるではないですか。

 わぁギュウギュウ。とっても窮屈そう、フフ。……って。


 「居るじゃねぇか!!! 喧嘩売ってんのかオラァ!」

 「えぇ!!?」

 「キャー! 闇人様に乱暴されるー! えへへへへ!」


 思わず俺に引っ付いてるロロの毛を両手で掴み上げてしまった。割と本気で凄んでるのに、何でコイツちょっと嬉しそうなんだ。人狼のドMとか誰得だよ。


 いやそんなことはどうでもよくて!


 「お前等の目は節穴かよ! あれが見えねぇってか!? 俺だけに見えてるなら普通に嫌だから見えてろ! 見えてると言えぇ!」

 「ですからレイスなど何処にも……」

 「じゃああそこで出待ちしてる半透明集団はなんだよ!!?」

 「半透明? ……あぁ、もしや死霊(・・)達のことですかな?」

 「やっぱ見えてんじゃねぇか! そうだよ死霊――……しりょう?」

 「然り。彼等はレイスではなく死霊。かつてこの墓所にて穏やかに暮らしていた住民達の成れの果てですな」

 「……レイスじゃない?」

 「然り」

 「でも敵だろ?」

 「とんでもない。彼等はこの墓所を彷徨うだけの存在故。誰かを襲うなどということは」

 「実際、過去に死霊に襲われた人狼族は居ませんよ? 近付くとちょっと寒くなるくらいよね? 姉さん」

 「そうであるな。そういう意味では脅威ではありますが、あちらから何かしてくることなどとてもとても」


 いやいや……いやいやいやいや! あれが敵じゃないってんなら、此処に来るまでに追われてたのわい!? どう考えても集団で襲い掛かってきてましたけど!?


 「……お前等の言葉を疑いたくはねぇけど、俺あいつ等に追われたぞ」

 「なんと。それこそ何かの間違いでは?」

 「そうですよ~。ましてあの人達、生前は闇の精霊様と闇人様を信仰してたんですから、あり得ないと思います」

 「いや、でも追われたのは間違いねーし」

 「ふぅむ……認識の違いかもしれませぬな」

 「あ?」

 「どうでしょうナナシ様。ここはひとつ、真相を確かめてみるというのは。某としても、本当に死霊がナナシ様を襲ったのかハッキリさせたくもある故」

 「そうね。もし闇人様の話が本当なら、他の人狼族の皆にも共有しないといけない話だし」


 あ、これやらないとダメなやつだ。でもそうだよな……確かめないことには此処から出るプランも立てられないし。

 本当に襲ってこないならそれで良し。逆なら再び逃走劇だ。はーめんどくせ。


 ドロップ品回収と教会内のアイテム回収に逃げたい気持ちを必死に押し殺して、俺は渋々頷いた。


 面倒事はちゃっちゃと終わらせるに限る。





 「なんか微妙に増えてるし……」


 早々に教会から出て、相変わらず敷地の外でひしめき合っているレイス改め死霊達を見上げながら呟いた。


 見た目は半透明なガリガリのミイラ。こうして落ち着いて観察してみれば、細かいことに1体1体容姿が異なっている。こんなとこまで作り込まれてんのな。


 「で、どう確かめる?」

 「そうですな……」

 「見ててください闇人様」

 「あ?」


 止める暇も無く、何やら徐に歩き出したロロ。そのまま直接触れない程度に死霊達の中を縫って歩き、アッサリと反対側へ到達。振り返って直ぐに戻ってきたロロは、どうですか? と言わんばかりに俺を見上げてきた。


 「嘘やん……」


 思わず関西弁が出てしまった。ビックリするくらい死霊達ノーリアクション。むしろ道を譲る行動すら見せてたんだけど……これはいったいどういことだ?


 「よしケルファ、お前も行け」

 「それは構いませぬが、結果は変わりませぬぞ?」


 たまたまロロだったから……なんて淡い期待も虚しく、ケルファも同様に何事もなく往復して見せた。


 「絶対おかしい……」

 「まぁ確かに。これだけの死霊が1か所に集っているのはおかしいと言えばおかしいでしょうな」

 「うーん……この人達、生きてた頃は闇人様を強く信仰してたから、久しぶりに闇人様の姿を見れたことが嬉しくて追っかけたとかじゃ……?」

 「んなわけ」


 ない。とも言い切れないのが何とも。また追っかけられるのは御免なので、試しに敷地内から出ないように横へと移動してみた。すると――。


 「ありゃ~」

 「なるほど、ロロの予想もあながち外れているという訳でもないようであるな」


 死霊達は見事に俺の進行方向に合わせるように横へとズレた。反対側に移動してもそれは同じだ。ならばと全力疾走してみるも、結果は同じ。


 「何なんだよお前等! 熱心な追っかけか!」

 「ふぅむ……妙だな」

 「何が?」

 「いや、これだけ執拗にナナシ様を追っているにも関わらず、これ以上近付こうとしないのは何故だろうと思ってな」

 「言われてみれば確かに。特殊な障壁が張ってあるわけでもないのに、なんでだろ」


 他人事だと思って冷静に考察してるとこ悪いが、この状況マジで笑えない。どういう意図があるにせよ俺が追われてるのは事実なのだから、これを解決しないことには他に何も出来ねぇ。


 ログインし直せば消えてくれる、か? いや、もしそれでまだ居た場合余計に萎えるからやめとこう。

 ケルファ達が言うには死霊が俺を襲うのはあり得ないことらしいが……それが本当だと仮定して、じゃあこの状況は? 単純にバグか、或いはまだこの場所でやるべき事が残っているのか。


 「ま、これだけの完成度を誇るゲームだ。こんな分かりやすいバグは無いとして普通に後者だな」


 となると、何をすべきかだが……。


 「なぁお前等、そもそもこいつ等って何で死んだんだ?」

 「えっ……あ、そっか。闇人様は記憶が無いから覚えてないのですね」

 「某達も長老から聞かせてもらっただけ故、真実かどうかは定かではありませぬが――」

 「構わねーから話せ。どの道このままじゃ立ち往生だ」

 「……では。大昔、平穏に暮らしていたこの者達の元へ……つまり現墓所となったこの地に、突如として人間達が侵攻してきたそうです。それも大軍で」

 「ほー。資源目当ての侵略ってとこか」

 「それがそうでもないらしいんですよね~。ここを襲ってきた人間は、誰もが口々に「邪教徒に粛清を! 闇精霊死すべし!」てな感じで聞く耳持たずな状態だったらしいです。

 何かを奪うと言うより、殺すことが目的のように見えたって長老が」

 「邪教徒て……まぁ、()の精霊を崇めてりゃ、そう捉えられても不思議でもないのか。ん? そういやダムドも似たようなこと言ってたな。俺に与する信者がどうたらこうたら」

 「何を隠そう、その大軍を率いていたのがダムドなのです」

 「あー、ね」


 それを聞いた瞬間、いろいろと納得がいった。おそらくそういうことなんだろうとは思うが、ここは得意気に話そうとするロロを立ててやろう。


 「私達のご先祖様や、この人達、そして闇人様が一丸となって応戦したらしいですけど……力及ばず敗北。人々は皆殺され、私達人狼族も相当数を減らされたそうです。

 闇人様も最後までダムドと刃を交えた末に敗れたと……」

 「とは言えただではやられぬのがナナシ様。此処を襲った者達1人残らずに呪いをかけ、アンデッドへと堕とした。

 その呪いは奴等を縛る呪縛にもなり、この墓所より外へ出ることを禁じたのです。ダムドに至っては1か所に縛り付けたとか。まさかそれが教会だったとは思いませんでしたが」


 へー。じゃあ外を闊歩してる(エネミー)は元々此処を襲った奴等の成れの果てってことか。

 グールイーターは分からんが、グールとスケルトンはたぶんそうだろう。


 「そもそもですね! その時の闇人様は力が弱まっていた状態だったと聞いてますし、本来であればあんな奴に負ける筈なんてないんですよ!

 弱っていたタイミングを見計らった奴等が卑怯なんです! 腹が立ちますよまったく!」

 「あー、その時の俺がどんな状態だったかはどうでもいい。つーか弱ってようが何だろうが負ける方が悪い」

 「う……ご本人に言われると何も言い返せません」


 だが今の話で死霊達が何故これ以上入ってこないのかは大体分かった。他ゲーじゃ「いやそんな訳あるかよ。妄想乙」で片付けられる事も、このアノマスならばあり得る。

 要するに死霊達は自分達を殺した相手の親玉が怖いのだろう。そんでもって俺を追っかけてた理由も、ただ闇人だからと追いかけたのではなく……。


 「此処に連れて来ようとしたってところか……?」


 そう考えてみると、此処に来るまでにこいつ等が取った行動にも納得がいく。教会に向かって逃走していた時、俺が多少道を逸れた瞬間に死霊達は横合いから襲い掛かってきた。

 今思えばあれは、軌道修正させようとしてた……とも捉えられる。なら何故そうまでして俺を此処に導きたかったのか? なんてことはない、つまりはだ――。


 「仇討ち。或いはリベンジを果たしてほしかったんだろうな、たぶん」

 「ふむ、なるほど」

 「え、だとしたら闇人様!」

 「あぁ。こいつ等に言葉が通じるかどうかは分かんねーけど、まぁ試してみるか」


 言葉だけでは不十分かもしれないので、わざわざインベントリから処刑人の斬首槍を取り出して、これみよがしに掲げた。

 すると、死霊達が分かりやすく動揺し始めたではないか。身を震わせる奴、頭を抱える奴、喉を掻き毟る奴と様々だ。


 槍を見せただけでこれとか、どんだけ恨まれてんだダムド(アイツ)……いやまぁ自分達を殺した奴等の親玉なんだから当たり前なんだろうけど。


 さて、本番はここからだ。


 「よう、死に損ないのクソッタレ共」

 「ちょっ、闇人様!?」

 「何を――」


 まさかの第一声にロロとケルファが驚きの声を零すが、手を挙げてそれを制す。


 「これくらいの悪態は許せよ。お前等にどんな意図があったにせよ、俺を追いかけ回した事実は変わらねーんだ。文句は言わせねぇ」

 「……」

 「よろしい。んじゃ本題だ。お前等、未だにこの世に留まっているのは未練か? だとするなら何を求めてる? 俺に何をさせたい?」

 「……」


 死霊達は答えない。ただ静かに俺の言葉を聞き届けているだけだ。いや、やっぱり言葉なんて通じないのかもしれないが……まぁ、それは最後まで続ければ分かること。


 「もしもお前等の望みが……そうだな、自分達の仇討ちだとするならだ。この槍がその結果だ」

 「……!」


 やはり槍には明確に反応する。意思はあると見るべきかな。


 「お前等を――……いや、俺達の領土を好き勝手に踏み荒らし、あまつさえ罪も無いお前等を理不尽に蹂躙した処刑人ダムドは、俺が滅ぼした」

 「「……!」」

 「あの日、護ってやれなくて悪かったな。随分と遅くなっちまったが、こうして無念は晴らしてやったぞ。

 だからもう、苦しむ必要は無え。嘆く必要も無え。ただ眠れ。安らかに」


 こいつ等の望みがダムドの討伐だと仮定して、出来るだけ心に響くような言い回しで伝えてみたが……これで違ったら赤っ恥である。

 ロールプレイなんて柄じゃないってのに。的外れだったらケルファの毛を毟ろう、うん。


 そんな不安を抱える俺を余所に、死霊達に変化が起きた。さっきまでどいつもこいつもカピカピのミイラだった筈なのに、スゥッと変化して人の姿へ。

 半透明なのは相変わらずなものの、ニコリと小さく微笑んで次々と消えていく。


 「消えてく……」

 「当たりか」

 「私が生まれるずっと前から、この人達は彷徨い続けてたんですよね……ずっと、闇人様を待ってたのかな」

 「そうであろうな。そして、この日その願いは成就した。眠れ、我が同胞達よ」


 やがてほとんどの死霊が消え去り、残ったのは――。


 「あれ? まだ残ってますよ?」

 「ふむ、妙だな」


 2人組の男女。どこにでも居るような容姿をした死霊2人が、意味深に俺を指差してパクパクと口を動かしている。

 何かを伝えたいのだろうか。そう思い少しだけ近付いてみると、蚊の鳴くような声が僅かに聞き取れた。


 「……ヮ」

 「……ュ……ヮ」

 「あ? ……指輪?」


 微かにそう聞こえた。無意識に装備している隷従の指輪を掲げてみたが、それではないと言いたげに首を振られた。


 この指輪のことではないとすると、俺が持っている指輪はもうアレしか無い。直ぐにインベントリから防魔の指輪を取り出して2人に見せた、その瞬間。


 「おわっ!?」


 指輪から半透明の何かが飛び出して2人に抱き着いた。小さな女の子の死霊だ。

 子供と知って直ぐに思い浮かんだのは、防魔の指輪を見つけた小屋で1人寂しく事切れていた屍。もしかしなくても、ずっとこの指輪に取り憑いていたのだろうか。


 こんな場面でも考察する俺を置いて、3人となった死霊は改めて俺の方へ向き直り、眩しい笑顔を浮かべながら消えていった。


 「……親子、でしょうか」

 「だろうな。ダムドのせいか知らんが、両親の方はあの子の元に帰れずずっと彷徨ってたんじゃないか?

 俺が持ち出した指輪に子供が取り憑いてたのは流石に予想外だったが……あん?」


 ふと、その指輪に視線を落としてみると、いつの間にやら錆びついていた見た目から一変、真新しく銀色に輝いていた。

 クエストを進めた結果アイテムが変化するのは定番中の定番。調べてみると案の定、指輪の説明文にも変化が起きていた。



 『 防魔の指輪 改 』

 "魔法による被ダメージを20%カット"



 おお! あやふやだった説明文が分かりやすくなってる! しかも魔法耐性はかなりありがたい!

 今のところ魔法らしき攻撃をしてくる敵とは出会ってないが、持ってて損をすることは無いだろう。魔法攻撃に弱い分コイツは重宝しそうだ。


 「装備装備~っと」

 「それでナナシ様、これからどうなさるおつもりで? 生贄の日はもう間もなく。某としては更に力を付けて、来たるべき日にロロと共に御方に挑む所存なのですが」

 「随分と前向きになったなケルファ。止めるんじゃなくて共闘か?」

 「私が持ち掛けたんですよ。その……まぁ、一応仲直りはしたので、一緒に戦うのも有りかなって……」

 「ほーん。そう言う割には微妙に距離が空いてる気がすんだけど?」

 「いやぁ……今まで毛嫌いしてた分ちょっと気まずくって。それに――」

 「何を言うロロ! 某はもう気にしておらぬ! だから遠慮せずこの胸に飛び込んできてもよいのだぞ! この姉の胸に! さぁ!」

 「ご覧の通り姉さんも姉さんでちょっとおかしいというか、気持ち悪いので」


 確かに少し鬱陶しくはある。ロロとの確執が取っ払われたことで若干情緒がおかしくなってるとかだろうか。


 「……御方、ね」


 絶賛キモい状態のケルファは置いといて、少しばかり考えてみる。

 コイツ等がちょくちょく言ってた御方とやら。そいつが生贄を求めてる張本人ってのは確かなんだろう。しかし何でまたそんな奴のことを御方(・・)なんて呼び方してんだ?

 どこか敬意を払っているような、そんな印象を受けるが……ん? ってそうだよ! そいつが居るじゃん!


 「なぁ、その御方って奴は強いのか?」

 「正確なことは私にもサッパリです。ただ、いつだったか長老が、今の自分が全力で戦って勝てるかどうかとは言ってましたね」

 「うむ。それは某も聞いて戦慄したことがある」


 長老って、あのちっさい人狼だよな? あれの全力とか言われてもいまいちピンと来ないんだけど……。

 いやいや、あのサイズでボスクラスの強さを有してた敵はシャドダンでも腐るほど居たのだ。決めつけはよくない。

 それに強さの片鱗なら、他の人狼が俺に襲い掛かろうとしたあの時に見たからな。強者の1人ではあると見るべきか。


 「ふーん。ちょっとは期待できるか……。ん? でも墓所内じゃダムドより強い奴居ないんじゃ?」

 「あ、はい。それは間違いないと思います。あのクソ野郎は私達の住処の奥深くに居るので」

 「……あぁ、そういうことね」


 なんとなく、本当になんとなくだが、御方とやらの正体が分かった気がする。


 「よっしゃ。そんじゃ次の目標……ってか最初からそいつ目当てだったが、とりあえず準備だけはしっかりしとくか」

 「再び墓所内を周りますかな?」

 「そうだな。ぶっちゃけダムドの件で探索って気分でもなかったが、ぶっ倒す相手の為と思えば訳ねーや。

 まだ遭遇してない敵も居るし、どうせなら拝んでかにゃ勿体無いってもんだ。そうと決まれば……と、その前に」


 そこまで言って振り返る。視線の先には教会……いや、正確にはダムドだった者。


 「闇人様?」

 「ちっと試したいことがある。やっぱ気になるからな」


 装備した隷従の指輪を撫でながら、再び俺は教会内へと足を踏み入れた。

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