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chapter25 持ち得る全てを

 槍を飛ばしてくる(エネミー)は特段珍しい存在じゃない。ゲームによってはそこらを闊歩してる雑魚敵でさえ普通に飛ばしてくるし、それこそシャドダンでは定番中の定番だ。

 こっちが視認できるギリギリの距離から超速で的確に狙撃してくる、スナイパーみたいな奴も居たからな。

 想像してみろよ。どう考えても無理だろって所から、ぶっとい槍が頭めがけて飛んでくる光景を。


 アノマスと同じく痛覚再現とか実装されてたら、あれの衝撃で病んでる奴は5万と居たはずだ。

 それに比べればダムドが操る槍の速度はそこまでじゃない。だからこそ育ち切っていないアノマスのキャラでも捌けるし、躱せる。……が。


 「ちっ! まぁ、そんな簡単じゃねぇよな……!」

 「我を甘く見過ぎだ、影人」


 突撃ついでに双剣で斬りつけるが、奴の周りに漂っていた槍でアッサリと防がれてしまった。それはいい、想定内だ。

 そのままダムドを飛び越えて奴の背後へ移動。俺を追ってきていた槍の大群に貫かせてあわよくば同士討ちをという狙いも、無情にも無駄に終わった。


 槍はダムドを避けて、確実に俺だけを追う動きを見せる。これがシャドダンとの大きな違い。とにかく誘導性能がバカ高いのだ。

 槍には意思が宿っていると言われたら納得しちまうレベルである。しかしその線は無いと俺は踏んでいる。


 「ととっ、おっとぉ!」

 「まったく、よく動く」

 「そりゃ、それが強みだからなぁ!」


 必死に足を動かして、地を蹴り壁を蹴り宙を舞い。尽くを躱していく。皮一枚のところを通り過ぎていく切っ先に冷や汗が止まらねぇ。

 1ミスも許されないこの状況で、それでも俺はダムドを観察した。そうして確信したのだ。


 (仮に槍が自動追尾機能持ちなら、手っ取り早く一緒に攻めてくればいい話だ。それをして来ないってことは、槍の遠隔操作中は動けないと推測できる。

 俺が動き回ってる最中、一度だって俺から目を離さず、右手で指示を出すような動きをしてるのがいい証拠だ。おそらくはかなりの集中が必要な筈……なら!)


 未だ仮説の域を出ないが、それを信じて方向転換。


 「おぉぉぉらぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 「どこに逃げようと同じことだ。我が槍からは逃れられんぞ」


 壁を伝い上へ上へと逃げる。ステータス強化の恩恵で一定の距離なら壁走りも可能。

 そうして目標地点まで来たところで壁に手を付けた後、今度は一気に降りる。それは読めてると言わんばかりに下から槍が襲ってきたが、好都合だ。


 「よっ、ほっ、とっ! 足場作ってくれてあんがとよ!」

 「ちっ……!」


 落下ダメージを回避する為に着地を工夫しなきゃならなかった訳だが、槍を躱すついでに足場代わりとして利用させてもらった。秘技、槍渡りってな。良い子は真似しないように。基本出来ないけど。


 「ほい着地ぃ! さぁてお次は! 闇ノ一閃!」


 受け身を取りつつ着地した後、間髪入れずに双剣による闇ノ一閃を放つ。暗黒の刃は真っ直ぐにダムドへと向かっていくが、まぁ当然の如く何十という槍が盾となり防いでしまった。

 届くなんて初めから思っちゃいない。次に俺がとった手段は……。


 「愚かな。無駄だというのが分からぬのか」

 「そいつはどうかなぁ!」


 再び正面からの特攻。もちろん勝負を捨てた訳じゃあないぜ?

 壊れかけていた双剣を思い切り投擲。それが防がれたのを確認しつつ、新たに取り出したのは奴と同じく槍だ。


 「滅びろ!」

 「うるせぇ骨野郎! 闇ノ帳(やみのとばり)!」

 「ぬっ!?」


 格好つけてダムドに向かって指パッチン。一瞬の間の後、どこからともなく黒い霧のようなものが発生。霧はあっという間にダムドだけを飲み込んだ。


 ポイント消費して新たに習得した新スキル。闇ノ帳。

 効果は有効範囲内の敵の視界を一定時間阻害するというシンプルさ。リキャストタイムは60秒でボス相手には数秒の効果しか発揮しない。まぁ、大抵のプレイヤーなら選ばないハズレスキルと言っていいだろう。

 対象も一体のみだから集団戦にも向かない上、リキャストタイムの長さに対する恩恵があまりに小さく、逃げに使うにも使い勝手が悪い。


 ならば何故そのスキルを選んだのか? もちろん、俺にとっちゃ数秒でさえ絶好の攻撃タイミングになり得るからだよ!


 「おらぁ!」

 「ぐっ、卑怯な……!」

 「お前に卑怯と言われる筋合いねーよっとぉ!」


 こちらが見えていないダムドへ槍による猛攻開始。それすらも防御されちまってるが、先程まで正確無比だった槍の動きは一変。明らかに制御しきれていない。防御もかなり甘くなってやがる。どうやら俺の考えは正しかったようだ。

 背後から迫ってきていた筈の槍も動きを止めて宙に浮いているだけ。そりゃそうだ、見えないまま突撃させれば、下手すりゃ自分も穿くかもしれないもんなぁ? そりゃ止めざるを得ないよなぁ?


 「さらに新スキル発動! 影牙(えいが)【槍術】!」

 「ぐぅぅがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 数秒間とは言えダムドは防御一辺倒。つまりは隙だらけ。ならば攻めて攻めて攻めまくる。


 影牙【槍術】の効果は、実体を持つ影の分身体を創り出し、短時間こちらとまったく同じ動きを投影させるスキルだ。名前の通り槍装備時限定のスキルではあるものの、単純に火力二倍の効果は絶大。

 その分リキャストタイムは1分半となかなかに長いが、ここぞという場面で使うのだから実質欠点は無い。


 必死こいて突きまくり、ダムドもまた必死に槍を操って防御する。しかし視界を奪われた状態で圧倒的に増えた手数に対処し切るのは奴とて不可能。

 事実、既に何撃かはダムドの胴体を捉えている。槍自体がボロだから貫通には至らない。やはりダメージ自体は皆無と言っていいが……構うものか。本命はこれじゃないからなぁ!


 「っ、影人ぉ!」

 「とぉっ!? 効果切れか!」


 闇ノ帳の効果が切れると同時に、影牙【槍術】の効果時間も終了。分かっちゃいたけどどっちも短っ。

 防御から一転、ダムドの槍が一斉に攻撃態勢へと移った。その様を見て、俺は人知れずほくそ笑む。


 「遊びはこれまでだ! 再び失せるがいい悪夢よ!」

 「うっひぃ! やっば!」


 先程の比ではない槍の嵐が俺に襲いかかる。回避は……いや、まだだ。チャンスは一度きり、失敗は許されない。ギリギリまで引き付けて、見極めなければ。


 正面から、背後から。俺を串刺しにせんと迫る槍の切っ先全てに全神経を集中。持っていた槍を収納して双剣へと持ち替える。


 「すぅ……っ!」


 短い呼吸。グッと床を踏みしめて、一番近くまで迫ってきていた槍をジャストパリィ。次も、次も、そのまた次も。絶え間なく襲い来る槍を尽く弾く。

 流石に全てを迎撃することは叶わず、数本が俺の体を掠めて傷をつけていった。地味に、しかしゴリゴリと確実に磨り減っていく体力にも気を配りつつ、そのまま双剣を振るい続ける。


 「っっの! オラオラあ゛ぁぁぁぁぁっ!!!」

 「化け物めっ……!」

 「い゛っっってぇぇ!! あっ!? クソがぁっ!」

 「だが所詮、貴様の刃では我を降すこと叶わず。今こそその首、斬り落とす!」


 傷だらけとなり、どう見ても満身創痍な俺。更には度重なるパリィの末に双剣が砕けるオマケ付きだ。

 その姿を見て好機と見たダムドが、ついに直接仕掛けようと動きを見せた。それと同時に俺に迫っていた槍達も動きを止める。


 今の奴はもう、俺しか見えていない。ただでさえ槍の操作にも神経を使っていたんだ、今更他に注意を向けることも無いだろう。だからこそ、ここが攻め時――!


 (あ~痛ぇ……ハッ、いいのかなぁ? 俺ばっかり見てて)

 「覚悟――」

 (穿てよ、黒刺!)


 スキルの発動と同時に鈍い音が教会に響き渡る。だがその音にすら反応を示さず、ダムドは俺を狩ろうと全ての意識をこちらに向けっぱなしだ。


 まぁ、そうだよな。お前からすればこの状況、奇襲に近い攻撃をしてきた敵が、逆に追い詰められてるようにしか見えないもんな。そんでソイツが負傷してる状態且つ自分が圧倒的優位となれば、そりゃとどめを刺そうと踏み出すのは当然のこと。


 否定はしないさ。俺だって基本的には同じ行動をする。だが、そうやって功を焦り返り討ちに遭ってきたプレイヤーを、自分含めて俺は腐るほど見てきた。今のお前はまさにそれだ。


 何の為に上へ逃げたと思う?

 何の為に無謀にも正面に立ったと思う?

 何の為に槍から逃げずこの場に留まり続けてると思う?


 全ては、お前を俺に釘付けにして、ドデカイ一撃を確実に叩き込むための布石だからだよ!


 「くはっ。頭上注意ってな」

 「なに……? っ!!?」


 今更気付いてももう遅い。俺の呟きにダムドが上を見上げた瞬間、頭上から馬鹿でかいシャンデリアが落下。そのまま轟音を響かせてダムドを押し潰した。


 防御も間に合っていなかった。間違いなくクリーンヒット。奴が操っていた槍も、力なくガシャガシャと床に落ち、沈黙がその場を支配する。


 決まった。完璧に。


 何故、突然シャンデリアが落ちてきたのか?

もちろん俺が仕込んだからである。

 実を言うとこの教会に入った時から、ダムドの頭上にクソデカシャンデリアがあることには気付いていた。その時は単なる豪華なインテリアとしてしか見ていなかったが、よくよく考えればあの質量だ。十分武器になる。


 斬って落とせば済む話……なのだが、当然ながらあれだけ巨大な物を支えている部分の強度は高いと予想。が、シャンデリアを含め教会内はどこもかしこも経年劣化していて酷い有様だ。

 ならばと当たりをつけて壁を走り、連結部分を確認したら案の定錆び付いていた。十分破壊可能と判断して、即座に角度調整をしつつ壁に黒刺を配置。

 黒刺の刃はダムドの鎧を容易く貫通していたので、錆びた鉄程度ならば容易に切り裂くだろうと考えて施した即席トラップ。


 仕掛けは上々。あとは上への警戒を解かせる為に正面に陣取り、ヘイトを俺に一点集中させればいい。

 ミスれば仕掛けを発動する前に串刺しで終わってたが、それくらいのリスク覚悟でやらねばコイツは倒せなかっただろう。鉄のスケルトンの長剣なら攻撃は通るものの、動きの制限がある以上は絶対勝てるとも言えなかったしな。

 かと言って黒ノ一閃のみでゴリ押すのも無理があった。コイツには確かな知能がある。同じ攻撃を繰り返せば、学んでカウンター……なんて事態になっていただろうことは想像に難くない。


 とまぁそんなわけで、相手が一番油断するタイミング――すなわち勝利を確信する瞬間を待って黒刺を発動。

 狙い通り刃は鉄を切り裂き、哀れダムドはサンドイッチされたってわけだ。


 リアルを重視しているアノマスだからこそ実現出来た攻撃方法である。他ゲーじゃこうはいかないだろう。

 オブジェクトは所詮オブジェクト。やりたいと思っても実現できないのが普通のゲームだ。アノマスの仕様に救われたぜ。


 「……」


 さて、戦利品の回収を! ……と無警戒に近付くほど俺も馬鹿じゃない。勝利の瞬間に油断するのはこちらも同じこと。

 悪いが俺は見逃してないぜ? (エネミー)を倒した際に表示されるはずの取得ポイントが出ていないのには気付いてる。つまり、奴はまだ生きてる。


 (なんだ……?)


 埃が舞う中、目を凝らしてシャンデリアを見ていると、隙間から飛び出ていたダムドの手が、ゆっくりと何かを握り込むような動きを繰り返していることに気付いた。

 また槍の操作か。そう思って周りを警戒するも、辺りに散乱した槍はピクリとも動かない。


 ならば意味の無い行動か? 身動きが取れないから、とりあえず手を動かしているだけ?


 (――な訳あるかよ)


 ダムドから感じた明確な敵意と激しい憎悪。それだけ俺を目の敵にしている奴が、足掻きもせずにやられる筈が無い。

 何かやるつもりだ。何なのかは分からなくとも、何かをやる。不思議とそう確信できた。


 まだ見せていない手札があってもおかしくはないのだから。


 (握っている……? いや、どちらかと言えば手招きっぽい仕草だよな)


 握っては開き、握っては開き。そんな動作を繰り返すダムドの手。挙動バグだろうか? 倒した敵が急にヘニャヘニャと訳の分からん動きをし始めるのはゲームあるあるだ。

 シャンデリアを落とされるという、とんでもない衝撃でバグが引き起こされた可能性もあるだろう。


 「特に何か起こるでも無し……ホントに終わりか?」


 完全に警戒を解いた訳ではないが、一先ずとどめを刺さねば。そう思い、一歩を踏み出した瞬間だった。


 (っっっ!!!? あぁっ、そういうことか……!)


 全身を襲う恐怖の感覚。死が目前に迫っていることを警告するように、とてつもない寒気が駆け抜ける。

 瞬時に理解した。奴の動作はバグなんかじゃない。まさしく手招きなんだと。俺に対するものじゃなく、俺の遥か後方へ向けたもの。教会の外……無数の槍を遠隔操作する前にずっとずっと遠くへとダムドが投擲した一番槍!


 即座に反転行動に移る。対象を満足に視認できていない状態でのパリィは俺でも無理だ。まして育っていないキャラなら尚更のこと。

 だからこそ防御に徹する選択をした。インベントリから迷うことなく取り出したのは、(くろがね)の長剣。


 剣身を向けて防御の形を取った次の瞬間、とてつもない衝撃が体中を駆け抜けた。


 「ぎっ……!!!」


 先程まで捌いていた槍の比じゃない。エゲツない一撃だ。しかし防いで見せた。とりあえずこれで直撃は免れたが――。


 (っ!!? マジ、かっ……!)


 訂正。免れてなんぞいない。確かにこの一撃はダムド戦で一番の攻撃力だと言える。しかし考えが甘かった。

 それ以上を想定していなかった俺のミス。視界の端でゴリゴリと削られていく長剣の耐久値を見た瞬間、ダムドの攻撃はまだ終わっていないと悟った。

 この槍はまだ生きている。防がれようが関係ないと言わんばかりに……!


 「っっの、いぎっ……!!?」


 俺が持っていた武器の中で、鉄の長剣は圧倒的に耐久値が高い。にも関わらず、アッサリと砕けやがった。

 防御という形で一息置けたおかげもあり、迫る槍を寸前で身を捩って躱すことは出来たが……完璧にではない。


 槍の切っ先は俺の脇腹を切り裂き、決して浅くはない傷をつけた。


 「終わりだ、影人ぉぉおおおおっ!!!」

 「っ、卑怯と言いつつ騙し討ちかよ! いい性格してんなおい!」


 通過した槍をダムドが掴み取り、力任せにシャンデリアを持ち上げて肉迫してきた。左腕、左脚は共にひしゃげ、見るからに瀕死だ。そんな状態で無理やりに攻めようとする姿勢には寒気すら覚えるが、満身創痍なのは間違いない。……いや、それは俺も同じか。


 大した執念だよ。見事な一手だ。こっちはバランスを崩し、更には負傷している。対してダムドも負傷はしているが、体勢的にも圧倒的有利。

 加えてこの近距離。もはや打つ手無しだ。反応が遅れて防御することしか出来なかった俺の完全なミス。あれを躱せていたなら、弾けていたなら、或いは結末は変わっていたかもしれない。



 ――……なーんて、普通のプレイヤーならここで諦めるんだろうな。



 「出血大サービスだ! 持ってけ泥棒!」

 「なん、だとっ……!?」


 回避も防御もパリィも間に合わないなら? 取れる手段が限られている中、俺が選んだ選択は……所持している全武器の大放出である。


 特別なことは何もしていない。ただインベントリに突っ込んでいた武器を、全て俺とダムドの間に山になるよう放り出しただけ。


 そうして出来上がった簡易的な防波堤。ダムドの槍はそれに阻害され、切っ先が俺に届くことはなかった。

 思わぬ反撃に今度はダムドがバランスを崩す。この展開を予想できていれば、或いは二撃目を即座に打てたのかもな。だが残念、今回は俺が一枚上手だったようだぜ?


 「黒刺、穿てぇ!」

 「がっ……!!? っぐ、ぁ……」


 既に床へと手を置いていた俺は、ダムドの槍が遮られたと同時に黒刺を仕掛け、即発動させた。

 狙い違わず、刃はダムドの顎下から後頭部にかけて見事に貫通。どう見ても倒したようにしか見えないが、それでもダムドは一歩を踏み出そうとしている。


 「か……げ……び、とぉ……貴様、は……だ……れ……」


 槍の切っ先を向けたまま、ジリジリと俺へ伸ばすも届くことは叶わず。瞬間、ダムドは膝から崩れ落ちた。


 俺が出した武器達の上に覆い被さるように倒れ込み、ダムドの頭部がサラサラと塵になって朽ちていく。そうして残されたのは、奴が着ていた鎧と無数の槍だけ。

 屍の上に浮かび上がった500ptの表記を見た途端、ドッと疲労感に襲われてたまらず俺はその場に腰を下ろした。


 「ぶはぁぁぁ……! あぁぁぁクッッッッソ痛ぇぇぇぇっ!!!」


 勝利を自覚した途端、最後の最後に手酷くやられた傷の痛みに悶えた。

 本当に笑えないレベルで痛い。鉄のスケルトン戦の時に感じたものと比べるまでもない激痛だ。ヒリヒリ……いや、焼けるような痛みか。リアルで刺されてもこんな感じなんだろうか。ヤベェな。


 ご丁寧に流血表現まで超絶リアルだ。全身もれなく血塗れである。グールの血を被った時とは違い今回は正真正銘俺の血なだけに、ちょっとした焦燥感に駆られた。


 「あとちょっとズレてたら全ロスしてたかもなー。……あぁいや、蘇生アイテム使ってるから1回は大丈夫だったわ。忘れてた」


 チラリと見た自分の体力は残り僅か。いくら蘇生アイテムがあるとは言え、あと少し長引いていたら結果は分からなかったかもしれない。


 「パリィし過ぎて手も痛ぇし、再現が細か過ぎんだよ。……まぁ、今回はその細かさに救われたようなもんだけど」


 そう言って見上げた天井。本来シャンデリアがあった場所を見つめて、俺は大きなため息をついた。


 (たぶんシャンデリアアタックで大半の体力は削れてたんだろうな。黒刺の一撃がダメ押しになった感じか、それともやっぱ頭への攻撃は必殺級なのか……まぁいいや)


 敵の体力表示が無いとそういう部分の見極めが難しい。プレイヤー側に体力ゲージがあるのだから、当然(エネミー)にもあるとは思うが……うーん、まだまだ謎だらけだ。


 「いつつ、この傷治るのかな……」


 というか治ってもらわなければ困る。少しでも回復する為に、調理した際に残しておいた暗黒キノコの丸焼きをインベントリから取り出す。

 味わうこともせずにバクバクと雑にいくつか食べれば、僅かに体力が回復。完治とはいかないものの、血は止まった。とりあえず一安心。


 「戦利品回収しねぇとな。あーあ、もったいな」


 無残にも床に転がる真っ二つにされた鉄の長剣を眺めて、再びため息。たぶん直せるとは思うが、確か修理には鍛冶スキルが必要だった筈。

 とりあえず鉄の長剣と、ぶちまけた武器達をインベントリに収納して、物言わぬ骸となったダムドに近付く。


 ポイント表記も出たし、頭も塵になったから大丈夫な筈。それでも当たり前のように騙し討ちをしてきた相手なので、その辺に落ちてた槍でツンツンしておくのを忘れない。


 「……おし、死んでんな」


 入念に確かめて、ようやく物色開始だ。


 「いっちばん気になってた~、そう、これっ」


 鎧だけになっても未だ握り続けていた手を無理やりにこじ開けて、手に取り掲げたのはダムドの槍。


 『 処刑人の斬首槍 』


 「うっはぁ、ケルファが持って来た槍とは全然ちげぇ。まさに何がなんでも相手を殺すを前提に作られたような槍だな。よし、装備可能」


 試しにその場で何度か振るってみたが、いやはや馴染む馴染む。低レアの物と比べるまでもなく振れば分かるこの違い。

 間違いない、鉄の長剣よりも遥かにレアだ。耐久値も倍以上。更に――。


 「ワンチャン、ダムドが使ってた槍の遠隔操作とか出来るようになったり……お? 特殊効果付きか。なになに」


 《特殊効果 斬華(ざんか)

 首に対する攻撃が全てクリティカルヒットになる。首への攻撃でトドメを刺した場合、耐久値を10%回復。


 「おぉ! めちゃくちゃ有用な効果じゃねーか! 流石は処刑人の名を冠するだけあって斬首への拘りすげーな。

 しかも貴重な耐久値回復持ち! この一振りだけでコイツと戦った甲斐があったってもんだ!」


 高耐久且つ首への攻撃に集中してりゃ、実質無限回復で壊れない優れもの。十分メイン武器として使っていけるだろう。しばらくは槍一択だなー。

 習得した影牙【槍術】も今後に活かせるし。くぅぅぅ! これだよこれ! 強敵とのバトルを楽しんだ末に得る報酬! やっぱこうでなきゃな!


 (ぬっふふふ~。ついでに他の槍も全回収しとくか。何だかんだで武器のストックも減らされちまったし。あとダムドの鎧も忘れずに……いや、待てよ?)


 内心ホクホクで散らばった槍を回収。その途中、ふと思い出した。右手の中指に装備した隷従の指輪と、塵となって消えてしまい鎧だけとなったダムドを交互に見つめる。


 1体限定で敵を復活させて仲間にする効果。


 試してみたい。そこはかとなく試してみたいのだが、ボスに対しても有効なのか、何度でも使える効果なのか。

 その辺の詳しい情報が記載されていないからどうしても渋ってしまう。防魔の指輪もそうだったけど、もうちょい説明してくれてもよくね?


 (1回使ったら指輪ぶっ壊れますとかが一番嫌だしな……いやぁ、でも試したい。仮にボスに対しても使えるなら、ダムドの戦力はかなり貴重だ。

 基本ソロプレイなのは変わらずとも、強敵と一対一の戦いをしたい時とか、雑魚のヘイトを稼いでくれる存在は欲しい。うぅぅぅ~~~~ん……)

 「……姉……こ……!」

 「……し……った……!」

 「ん?」


 使おうか使わまいか、うんうんと悩む俺の耳に僅かに届いた何者かの声。まさかこのタイミングで新手かと警戒しつつ、振り向くと――。


 「居たーーーーーっ!!!」

 「ナナシ様! ご無事で!」

 「いやお前らかい」


 破壊された教会の入口から顔を覗かせるや否や大声を張り上げたのは、ロロとケルファだ。小うるさいのが来ちまったので、とりあえず指輪のことは後回しにしておくことにした。

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