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chapter18 大物は溜め込みがち

 最初に仕掛けたのはグールイーターからだ。その巨体からは想像もつかないほどの速度で飛び出し、俺めがけて突っ込んできた。


 確かに速いし、おそらく当たれば即死レベル。だが、来ると分かっていれば避けるのもそう難しいことじゃない。

 実際、三度目以降の突進は余裕を持って回避することが出来ている。なるべくケルファ達の方へ突っ込まないよう誘導しつつ、避けては誘い、避けては誘いの繰り返し。


 そうやって何度も何度も観察した。


 (なるほど。突撃の瞬間に肉団子の中から一際でかい手が出てきてる。あれで巨体を撃ち出して超スピードを実現してるってわけか)


 一瞬過ぎるからよく観察しないとまず気付かない存在。本体の一部なのか、或いは食ったグールで作った仮初の腕なのか。どちらにせよあれを何とかしない限り突進攻撃は止まないだろう。


 「よっと! どうしたよ肉団子! もっと頑張らねーと飯にはありつけねーぞ!」


 ロロに注意が向かないよう、定期的にグールの血を被ってグールイーターのヘイトを稼ぎ続ける。

 あっちこっちへ跳ばれたらそれこそ戦いにくいからな。


 さて、しかしどうするか。確実に俺だけを狙うよう仕向けてはいるが、コイツに少しでも知能がある場合はいつまでも通じる手じゃない。となれば次の段階へ移るのみ。


 「うっひぃ! あっぶねぇなぁ!」


 突進攻撃を体を捻って紙一重で避けつつ、装備したナイフを突き立てた。突進の勢いに任せてそのまま奴の体を斬り裂いたはいいものの、ロロの言う通り斬ったそばから再生を始めてしまう。


 かなりレベルの高いリジェネ効果だ。確かに生半可な攻撃は効かなそうである。なら次だ。

 今度はこちらから奴へと接近。ものは試しと肉団子から飛び出しているグールの頭部へ攻撃を加えてみた。


 再生は……していない。どうやらリジェネ効果は本体にのみ作用するものらしい。だからと言って本体以外に攻撃したところでダメージは望めないだろう。


 「ほい! とぉっ危ねっ! コイツも持ってけ!」


 飽きもせず突進を繰り返すグールイーターめがけて、何度もナイフを投擲した。ケルファのおかげで在庫は十分なので惜しみなく使い捨てることができる。


 グールイーターは飛んでくるナイフなど意に介さず、それがどうしたと言わんばかりにケロリとした様子だ。

 しかし、ただ一点。すれ違いざまに投げたナイフを、明らかな回避の動きで避けたのを俺は見逃さなかった。


 (避けるってことはつまり、そこを攻撃されちゃマズいってか?)


 我、勝機得たり! 最後に投げたナイフの軌道は、奴の腕が生えてきた場所に向かっていた。

 パッと見ただの肉壁でも、おそらくそこだけは周りに比べて肉の層が薄い。俺はそう推測した。


 確信を得るために、今度は意識してその部位を集中的に狙ってみた。その結果は――。


 「おいおい、どうしたよミートボールくん。明らかに突進頻度が減ってんじゃねーか。そんなに背後を取られたくねーってか?」


 奴の腕が生えてくる場所は、背面の下側。そこへナイフによる集中攻撃を繰り返していくうちに、奴の行動パターンに変化が見えた。


 いや、もうハッキリ言おう。そこを狙われるのを嫌がってんな?


 「分かりやすい反応どうも。おかげで勝ち筋が見えたわ」


 どんな敵だろうと弱点は存在するもの。あの影の王すら、超接近戦ならばプレイヤーに僅かながら分があるというまさかの弱点があったくらいだ。

 見つけちまった以上、当然そこを狙って攻撃すんのがプレイヤーってもんである。


 問題は、あそこをどうやって攻撃するかだ。


 本格的に攻撃を加えるには奴はデカ過ぎるし動き過ぎる。どうにかして動きを止められないものか。

 わざと建物に突っ込ませて瓦礫に埋もれさせるか。いや、直ぐに這い出して来る。ならロロ達に協力を申し出るか……論外だ。ボスでもない相手を攻略するのに他者の力を借りるなんて死んでもごめんである。


 あれもダメ、これもダメ。突進を避けつつ考え続けて、ようやく()の俺では無理だと悟った。


 「仕方ない。打てる手は全部打つぜ」


 止まることなく動き続けながら素早くメニュー画面を表示。そこからスキルツリーへと移動して、貯まったポイントを使って自己強化。

 指先に迷いは無かった。グールイーターを倒す為に必要な強化を即座に選択して、メニュー画面を閉じた。


 「ぶっつけ本番!」


 真っ直ぐに突進してくるグールイーターの下をスライディングで潜り抜ける際、バチンと地面を叩いて反対側へ。

 視界の端に映ったのは、正常にスキル(・・・)が発動したことを証明するリキャストタイムの表示。


 「大博打と洒落込みますか。行くぜ肉団子!」


 俺の目論見が外れれば即死は免れない。だが、これまでアノマスで目の当たりにしてきたあらゆる要素を信じるのであれば、必ず上手く行くはず。


 お互いほとんど同時に突撃。みるみるうちに距離が縮み、コンマ1秒後には衝突するであろう位置まで超接近したその瞬間。俺は高らかに声を上げた。


 「穿て!」


 スキル発動! 黒刺!

 スライディングした際に地面に仕込んでおいた罠スキルだ。


 黒い円陣が広がり、その中から数十本の暗黒の刃が上を通過するグールイーターめがけて飛び出した。


 他のゲームであればスキルによるダメージを与えて、はいそこで終わり。倒しきれなかった敵はダメージ判定を受けつつも、それがどうしたと言わんばかりに容赦なく突き進んでくるだろう。

 だが、極限までリアルに作り込まれてるアノマスならば、貫いた敵をその場に縫い付けることだって――。


 「可能!!! しゃあ読み通り!」


 刃は肉壁に深々と突き刺さり、グールイーターの突進を見事に止めてみせた。

 思わずガッツポーズを取ろうとしてしまったが、グっと我慢。それは奴を完璧にぶっ倒した後に取っておくもんだ。


 いつまた動き出すか分からない。即座に地を蹴り加速。グールイーターの真下に陣取って見上げれば、そうはさせんとばかりに例の腕がお出迎えだ。


 「オ゛ォオ゛ォォォォォォォォッ!!!」

 「うっは、手のひらに口あんのかよ。どこまでも気持ち悪ぃ野郎だ」


 ズルリと出てきた腕が俺を押し潰そうと迫る。が、遅い。どれだけ巨体を撃ち出す力があろうが、これだけ全体を見渡せるなら俺が反応できない道理は無い!


 ジャストパリィする必要も無い大振りな一撃をジャンプで回避。地面に激突した腕の上へ着地する前に、壊れかけの長剣をインベントリから引っ張り出し、そのまま手の甲へ思い切り突き刺した。


 「ア゛アァァァァア゛ァァァァァッ!!!?」

 「おぉっとと! 敏感肌にはちと刺激が強かったか? だが残念、これで終わりじゃないんだなぁ。おぉぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 柄を両手でしっかりと握り締め、前へと力いっぱい押し出した。

 グールイーターの腕を斬り裂きながら前進。駆け登れるだけ駆け登って、そのまま一気に斬り払う!


 「ギャア゛ァァァァァァァァァァァッ!!!」

 「手応えあり! ってグロ!?」


 長剣を深々と突き刺して盛大に斬り裂いた傷口から、内臓やらグールの死体やらが大量に飛び出してきた。

 グロ耐性のある俺でもそれなりに衝撃を受けたわ。つか何で腕から内臓が……。


 「はーん? さてはお前、その腕が本体だな? それに肉団子の方とは違って再生もされてねぇし……へぇ~? ほぉ~?」


 なんてことはない。勝手に本体の一部だと思っていたが、腕そのものがグールイーターの本体だったと考えれば、こんな状況にも納得がいく。

 巨体を揺らしてビチビチと暴れまくる姿に、俺はニヤリと真っ黒い笑みを浮かべながら更なる一撃を加えんと長剣を振り上げた。


 「再生しないなら好都合。散々暴れてくれたんだ。この程度で済むと思ってんなら大間違いだぜ? 食ったもん全部吐いてもらおうか!」

 「グガオ゛ォォォォォォォォッ!!!?」


 鬱憤を晴らすが如く、何度も何度も長剣を振るいグールイーターを斬り刻んでいく。

 動けないならただの的。これ幸いと根本に長剣を突き立てて、抉るように斬り裂いた。イメージとしては貝柱を切る感覚だろうか。グロさは断然こっちのが上だが。


 噴き出す血飛沫で全身が濡れることもお構いなし。グールイーターの断末魔が響き渡る中、ついに本体と肉団子が分離した。


 「はっはー! こうデカいと斬り落とすだけでも一苦労だなー!」

 「ギ……ゴ……オ゛ォォ」

 「だけどダメだな、ぜんっぜんダメだ! お前程度じゃ俺の相手は務まらねぇよ! 俺を殺りたきゃお仲間100体連れてこい! まぁそれでも勝つけどなぁ!」

 「……」


 気付けば、あれだけ藻掻いていたグールイーターはピクピクと痙攣するだけになってしまっていた。

 本体から分離した肉団子の方は、どういう訳かドロドロに溶け始めてるし。今思えば本体との繋がりありきな胃袋みたいなもんだったのかもしれない。


 やがてピクリとも動かなくなった後、静かに表示された1000ptの数値。……って1000!? うっひょおぉぉぉぉ! アホみたいにグールを食いまくって蓄えてたせいか知らんが、大量獲得じゃねーか!

 鉄のスケルトンより弱かったくせに上等な報酬だ! そんでもって、コイツにもアノマスの仕様が適用されるのなら、10体目まではポイントも貰えるはず!


 こんなのがそこら辺にゴロゴロ居るとは考えにくいが、居てくれたらマジでラッキーだな。一気にポイント稼ぐのに最適だ。


 撒き餌みたいにグールの血を撒き散らせば寄って来るかな? 試してみようかなぁ。あー、でもケルファとロロが居ると巻き込んじまう可能性があるのか……じゃダメだ。これだからソロの方が何かと便利なんだよねぇ。


 あ、そうだよ。その肝心の2人はどうなったんだろう?

 パーティメンバーの詳細を見た限り、2人の体力はほとんど減ってないから死んではいないだろうが。


 グルリと辺りを見渡してみても瓦礫ばかりで2人の姿は見受けられない。グールイーターと戯れるのに夢中でそれなりに移動してしまったようだ。


 「はぁ……めんどくせ。まぁあいつ等ならグールとかスケルトンにも遅れは取らないだろうし、俺はゆっくり戦利品物色してから合流するか」


 一番初めにスケルトンと戦闘した時は、ケルファの乱入で満足に戦利品確認もできなかった。でも今は違う。

 グールイーター本体もドロドロに溶けて跡には何も残らなかったが、肉団子の方は取り込んでいた物が溶けずに残ってくれている。


 「おお! 武器じゃん!」


 グールを取り込む際に巻き込まれたものだろうか、パッと見ただけでも直剣が数本ある。性能面は度外視して片っ端からインベントリにぶち込み、ふと武器以外にも何かがあることに気付いた。


 瓦礫に紛れて淡く光る謎の石。ただの石、なんて訳もなく、手に取ってみると読み通りアイテム名が表示された。



 『 蘇生石 』



 「うぉぉぉぉ! 蘇生アイテムきたー!」


 まさかまさかの蘇生アイテム! ヨハネが言うには(エネミー)からのドロップは低確率らしいが、それを引いちゃう辺りやっぱ俺って持ってんなー! いやぁ儲け儲け。


 「えーっとなになに……砕けば忽ちその身に生命力が溢れ、失われし命を再び蘇らせる。使用方法は……予め砕いておくのか。

 死に直結するダメージを受けるまで効果は永続。ログアウトしても効果は持続する。NPCには使えない、と。なるほどなー」


 シャドダンの蘇生アイテムは身代わり人形だった。文字通りプレイヤーが死ぬようなダメージを受けると、それを肩代わりしてくれるありがたいアイテムである。

 反面、アノマスの蘇生アイテムは事前使用大前提。この仕様に気付かないまま死ぬ奴とかも居そうだよなぁ。これだからアイテムの説明はしっかり読んでおくに限る。


 にしても、効果が発揮されるまで永続というのは、かなりありがたい仕様だ。戦闘前でなくとも、とりあえずいつでも使用さえしていれば不意打ちによる一撃死も免れることが可能ってことだろ?

 初見殺しの罠だとか待ち伏せだとか、ああいうのを高難易度要素と認めていない俺からすれば凄く助かる。シャドダンにも腐るほどあったからなぁ……あれだけは擁護のしようが無いクソ要素だ。


 「永続効果なら早速。おおっ」


 手の中に収まる蘇生石は軽く握っただけで儚く砕けて消えた。代わりに体全体が一瞬だけ淡く光り、視界内のUIに蘇生石使用中を表すマークが表示された。


 「持ってるだけで発動しないのはマイナス点だが、まぁこれくらいは許容範囲だな。

 他にそれっぽいドロップ品も無いし……戻るか」


 保険をかけたことで心に余裕もできた。本音を言えばこのまま探索と行きたいところではある。が、ケルファ達を放っておくわけにもいかない。

 強制的だったとはいえ現在は同じパーティ。ここで放っぽってどこかへ行こうものなら単なるクズ野郎だろう。生憎とそこまで落ちちゃいないからな。絆を深める為にも道徳的な行動を心がけるべきだ。

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