表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/26

chapter13 一時の日常へ

 迎えた翌朝。


 あの後すぐに眠りについた俺は、寝坊することもなく無事に登校。もちろん体調は万全とは言えず、もう何度目かも分からないあくびを噛み殺した。


 その間も頭の中をグルグルと回っているのはアノマスのことばかりだ。

 色々とヤバイ点はあれど、まず間違いなく今まで俺がプレイしてきたゲームとは一線を画す神ゲーなのは間違いない。


 あれを試したい。これも試したい。そんな欲求が湧き出て来るのを止められない。何だかんだと文句を言いつつも、すっかりハマってるのだから、俺ってつくづくゲーマーなんだなぁ。


 「はよ~ハル。……って何かご機嫌じゃん?」

 「おーす清鷹。まぁゲーム関連でちょっとな」


 少し早めの登校となり、自分の席でアノマスのことを考えていたそこへ清鷹の登場だ。

 別にニヤついてた訳でもないのに機嫌が良いと見抜く清鷹の観察眼は凄まじい。ゲーム内でも「目が俺の武器」と言うくらいだから、やっぱそっち方面に特化してるんだろう。


 「シャドダン?」

 「そんなとこ」


 アノマスについては他言無用。ぶっちゃけ、違法な仕様をふんだんにぶち込んでるヨハネに、仕返しも兼ねて清鷹へ全部ぶちまけてもよかった。……が、報復が怖いので無難にシャドダンということにしておいた。


 「そっか。あっ、そうそう昨日さ、リベンジってことで俺も影の王にソロで挑んでみたんだよ。

 ハルを参考にしてありったけの武器とアイテム。それに貯め込んだ金で蘇生アイテムも買えるだけ買ってさ」

 「記録更新したか? それとも倒しちまったとか?」

 「はは、まさか。分かってはいたけど、あれはソロで挑むもんじゃないって。結果的に記録更新だけで終わった。2分だけな」

 「それでも進歩だ、誇れよ。

 まぁとは言え、清鷹と影の王はそもそもの相性がクソ最悪だし、倒せるか? と聞かれれば俺は自信を持ってNOと答えるけど。

 遠距離武器絶対許さないキングだもんなぁ影の王(アイツ)

 「ほんとそれ。少し離れた瞬間にほぼ回避不能の範囲攻撃。運良く避けた途端に剣飛ばして即殺」

 「基本的にはタンク役の誰かがヘイト買って、隙見てチマチマがセオリーらしいからな。

 それでも他ボスとは比べ物にならねぇほど強いって話だが」

 「それをソロで倒しちまうハルって……バケモノだよ」

 「へへ、よせやい褒めんなよ」

 「ハルにとっては褒め言葉だったかー」


 事実、影の王をソロ討伐したのは確かなのだ。今ならどんな言葉だって褒め言葉にしかならねーってもんよ。


 「目標のソロ討伐は達成したんだし、今度はマルチでやらないか? ここまで来たらどんな形であれ討伐したくてさ」

 「そりゃ構わないが、あれ? 清鷹ってまだ影の王倒してなかったっけ?」

 「野良マルチで幾度となく挑戦してたけど、どいつもこいつも突っ込むことしか考えない脳筋バカヤローばかりで連携もクソもなくて……泣きそう」

 「わー御愁傷様」


 実際、シャドダンは野良でパーティを組むもんじゃない。1人の判断ミスでパーティ全員道連れなんて、あのゲームじゃ特別珍しいことではないのだ。


 たまたま良い野良を引き当てたとしても、フルパとは比べ物にならないほど難しいだろう。

 俺も前に、別ボスで気紛れに野良マルチをやったことはあるが、思い出したくもないレベルで酷いものだった。


 そもそものプレイヤースキルが足りてないだけならまだしも、それを棚に上げて暴言を吐いてくるしょーもない奴も居たっけ。奴は今頃どうしてるだろうか。

 早々に諦めてヌルゲーに逃げてる方に100円賭けよう。


 「どうせやるなら小春も誘おう。ヘイト押し付けて喚いてる姿を拝もうぜ」

 「ろくでもなっ。ミニハルにいったい何の恨みが」

 「毎日毎日キャンキャン吠えるから、たまには痛い目に見てもらわないとな」

 「ハル、そんなんだとモテないぞ」

 「モテなくて結構。恋愛なんぞゲーム攻略において何のプラスにもなりゃしないんだから。で、その肝心要の小春は――っと噂をすればだ」


 教室の扉を開けて小動物代表(小春)が登場。普段ならこっちに向かって鬱陶しく笑顔を振りまきながら突撃してくるところだが、何やら様子がおかしい。

 俺達の存在に気付くと、目に見えて不機嫌そうに眉をひそめながら静かに近付いてくる。


 まさかさっきの会話を盗み聞きされてたか! と臨戦態勢になるが、昨日と同じく逆向きで椅子に座り、そこからブスっと頬を膨らませたまま動かなくなった。


 「どしたよミニハル」


 ただならぬ様子に思わず清鷹が尋ねた。すると、不機嫌顔はそのままにスマホをいじり始め、とある画面を俺達に見せてくる。


 「あ? ネットニュース?」

 「お、見ろよハル。影の王がソロ討伐されたって記事だ。たぶんハルのことだぞ」

 「大げさだねぇ。確かに快挙だが、わざわざ記事にする程の事でもないだろうに」

 「三春の活躍が取り上げられてること自体はうちも嬉しい。でも問題は……これ」

 「ん?」


 再びスマホを操作して、改めて画面を見せられる。次に映し出されていたのは、その記事のコメント欄だった。



 "どうせチートだろ"


 "同じ奴かどうかの確証無いけとコイツ他のゲームでも見かけたわ。100%黒w"


 "いたいた。遠目から見たけどチートでしかあり得ないような動きしてたぞ"


 "キッショwフルダイブ型でチートとか必死過ぎw"


 "対人ゲーに出没してないだけまだマシだけど、それでもダサいわな"


 "そんなに言ってやるなよ。ゲーム内でしか自分を主張できないかわいそうなキッズかもしれないじゃん"


 "主張方法がチートの時点でアウト"


 "今見てきたけどシャドダンの全ボスソロ討伐やってるわ。しっかりランキング上位"


 "露骨過ぎんだろw"


 "とりあえず運営に通報しといた。そのうちBANされんじゃね?"



 「わー、すんげぇ言われよう」


 荒れに荒れてるコメント欄。まぁ言いたい気持ちも分かる。それだけ影の王ってのはバグを疑うレベルのボスだし、それをソロでなんて信じられないのも無理はない話だ。

 影の王に限らず、シャドダンのボスはその全てがマルチ前提の難易度だから、疑われるのはもはや必然と言ってもいい。


 しかしなるほど。これで小春の機嫌が悪い理由が分かった。


 「うちはキレたよ。たぶん過去一で。三春のこと何にも知らない他人がネットで好き勝手言いたい放題。

 こんなの正妻として黙ってられないよね」

 「どさくさ紛れに意味不明の奥さん発言すんな」

 「む~。三春は悔しくないの? こんなこと言われてさ」


 確かに気持ちの良いものでは決してない。苦労してボスを倒したにも関わらず、待っていたのは周りからの懐疑的な眼差しと来れば萎え一直線だろう。


 がしかし、それくらいのことで落ち込むほど柔な精神をしていないのが俺という存在だ。そのレベルの道はとうの昔に通り過ぎた。


 「自分達に出来ないことを他人が達成してるのが悔しくて仕方ないんだろ。

 妬むしかないから、安全なネットでギャーギャー喚くしかない。まったく弱者共はこれだから……は~滑稽滑稽。まったくもって愉快痛快ですな。米が進むわー」

 「流石ハル、まったく動じてない」

 「そもそもシャドダンの運営はやたらとチートにはうるさいことで有名だろ? その運営が黙ってランキングに俺を残してんだから、名無しが白だってことの何よりの証拠じゃねーか」

 「まったくもってその通り。てわけだからミニハル、あんまり目くじら立てる必要も無いんじゃないか? 言いたい奴には言わせておけば」

 「その言われっぱなしがうちは気に食わないの! 何とかしてギャフンと言わせないと納得できない!」

 「そういう奴等はこっちが何やっても受け入れないかわいそうな生物なんだよ小春。

 お前もいい加減アホ共に付き合うだけ時間の無駄ってことを…………あ゛?」


 何を言われたところで柳に風。清鷹の言う通り、言いたい奴には言わせておけばいいのだ。どうせ直ぐに飽きて、また別の誰かを玩具にするのだから。

 だから俺も心穏やかに、いやむしろ、どんなケチを書き込んでるのか楽しみながらコメント欄を見ていた。そんな時。


 ふと一つのコメントを見た途端、ビキッと額に青筋が浮かぶのを感じた。



 "チートとかしょーもね~。こいつの親の顔が見てみたいわ。どうせ子供に似て卑怯な生き方してんだろうけど"



 「……」

 「ぴっ!? み、三春……? 何か急に怖い顔になってるけど……」

 「何か見つけたのか? どれどれ……あっちゃ~、こりゃ完全にハルの地雷踏み抜いてるコメントだな。胸糞過ぎる」


 このコメントを見た瞬間に小春のスマホをぶん投げたくなり、それを必死に堪えた俺を誰か褒め称えてくれ。

 胸糞……ああ、確かにその通りだ。俺個人に対してあれやこれや好き勝手に言うのは一向に構わない。だが、よりにもよって親を馬鹿にされた。女手一つで俺を育ててくれた母親を、何も知らないクソ野郎が貶しやがった。


 影の王の理不尽な強さに怒りを覚えた時とは比べ物にならない程の憤怒が、自分の奥底から噴き出して来るのを感じる。


 これは、抑えておくにはあまりに大き過ぎるるものだ。


 「……清鷹。シャドダン内の回復アイテムと蘇生アイテム。それと武器、どれくらい残ってる?」

 「影の王とやり合ってかなり減らされたけど、課金倉庫に突っ込んでるのがまだそれなりにあるかな。

 って、それを聞くってことは、もしかしなくてもやる気だな? ハル」

 「ああ。母親までコケにされちゃ黙ってられねぇ。自分の弱さを棚に上げて相手を見下すことしかできねー馬鹿共にソロでの戦いを見せつけてやるよ」

 「三春! うちも力になるからね! 何が必要か言ってよ!」

 「よく言った小春。それでこそ俺のペットだ」

 「でしょ! …………って誰がペットじゃい!」


 小春のノリツッコミには反応せず、未だ燻る怒りに薪を焚べ続ける。


 今日は色々とヨハネに質問をぶつけてやろうと思ってたんだが、まずこのコメントをした奴を黙らせる対策を練らないと気が済まねぇ。


 だからと言ってもう一度普通にソロ討伐してランキングに載ったところで、再びチートだ何だと言われる可能性大。いや絶対そうなる。

 その可能性を潰すためにも、癪だが小春の協力が必要不可欠だ。


 「頼りにしてるぞ小春。いや、今回の場合、ゲーム配信者のオリネコ(・・・・)への正式な依頼だ」

 「へ?」


 俺の言葉に小春がポカンとアホ面を晒す。その表情は次第に焦りの色へ。やがて分かりやすく取り繕うと、視線をこれでもかと泳がせながら言い訳を並べ始めた。


 「な、何を言ってるんだよう三春。うちがオリネコなわけないじゃーん」

 「おい清鷹。コイツ本気でバレてないと思ってたらしいぞ」

 「流石に無理あるよな。幼馴染じゃない俺でも一発で気付いたのに」


 ゲーム配信者オリネコ。1年ほど前から動画投稿サイトにてデビューした、今や知る人ぞ知る大人気の配信者だ。

 配信するゲームは多岐に渡り、主なジャンルはアクションゲーム。その実力もプロに通用するレベルであり、一部界隈ではアイドル扱いされてたりするが、まぁ今はどうでもいい。


 そんなオリネコだが、たまたまオススメに流れてきた動画を見たのがきっかけとなり、俺と清鷹は早い段階で正体に気付いた。


 性格、声、プレイスタイル。そして何よりも名前。織音 小春。春の部分だけ取ればオリネコの完成である。


 たまたま小春に性格が似てて、たまたま小春と声質が同じで、たまたま小春とプレイスタイルが被ってて、たまたま似たような名前でと……ここまで偶然が重なればもはや必然。


 気づいて以来、気が向いた時に暇つぶし程度でアーカイブを拝見することもちょくちょくあった。それを重ねていくうちに、俺達の読みは確信へと変わったのだ。


 あ、コイツ小春だわって。


 「配信内でその日の出来事を話してることもあっただろ。名前は出さずとも俺と清鷹のことも話してたし、それで気付かれないとでも? バカなの?」

 「だ……だってだって! まさか見てるとは思わないじゃん! 何で見てるのさ!」

 「お、自白した」

 「何でって言われてもな。偶然オススメに流れてきたことを呪えとしか言えない」

 「右に同じく。結構前から知ってたんだ。すまんねミニハル」

 「うあぁぁぁぁぁ!! はっっずかし! 身内に見られてたなんて! うち変なこと喋ってないよね!?」

 「基本的に変じゃんお前」

 「ひどい! 変じゃないよ!」


 いや変だよ。普通の女子高生は男友達相手でもロケット頭突きなんてしません。ちょっと前に鳩尾にくらって吐きかけた恨みは忘れんぞ。


 「まぁそんなことはどうでもいいとして、お前がオリネコってことは既にバレてんだ。

 その事実を公表されるのが嫌なら俺の報復に協力してもらおうか」

 「交渉以前に脅しってどういうこと!?」

 「今更だミニハル。ハルは基本的にこういう男じゃないか」

 「その通り」

 「誇るな! もーー! 分かったよやるよ! やればいいんでしょ!」

 「逆ギレすんな。そもそもお前がこんな記事見せてきたのが悪い。お前が始めた物語なんだから最後まで責任持て」

 「むぅぅぅぅぅ!!!」


 見るからに納得できてない様子の小春。しかしそんな些末なことなどクソほどどうでもいい。

 名前は出してなくても、勝手に俺と清鷹を配信で話題に上げたテメェにも十分罪はあるのだ。甘んじて受けろバカめが。



 さて、これで小春の協力は得られたわけだが、ぶっちゃけこれだけでは心許ない。やるからには盛大に。もう少し影響力のある奴にも手を貸してもらう必要がある。


 と言っても俺の交友関係ってびっくりするほど狭いんだよな。顔見知りは多くとも、小春や清鷹レベルの距離感の奴は他にまず居ないと言っていいだろう。

 しかも小春以上に影響力のある奴となれば、自ずと選択肢は限られるわけで……。


 「……ダメ元で連絡してみるか」


 奴の協力を得られるかは賭け。いや、こちらにも手札がある。それを使って協力させればいい。帰るまでと言わずに、どうせなら今連絡してみようか。


 膨れっ面の小春を清鷹がからかっている様子を尻目に、俺は制服の内ポケットに潜ませたもう一台のスマホに意識を向けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ