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chapter11 長と長老 其の二

 大乱闘勃発寸前というところで謎の老人が介入。それにより一触即発だった空気は霧散し、そして何故か件の老人が跪いて俺に深々と頭を下げている現状。


 頼む、誰か説明してくれ。


 「長老が頭を下げたぞ……」

 「バカな。長にさえ強気に出れる唯一の方が」

 「何者なんだあの人間」


 本当にね。自分が、というより俺が使ってるキャラはいったい何者なんだろう。まぁ、そういう設定のキャラではあるんだろうけど、それにしたって説明が無いから発言のしようもない。


 助けを求める形でケルファを見ても、あんぐりと口を開けてアホ面晒してるだけで使い物にならなそう。


 頼れるのはいつだって自分、か。


 「とりあえず顔上げてくんない?」

 「ほっほっほっ、しばらくお目にかかれなんだ間に随分と丸くなられましたな影人様。

 理不尽に足蹴にされていたあの頃が懐かしいですじゃ」


 ホントにどんなキャラなの俺!? こんな整った顔して暴力キャラだったの!?

 いやいや待て、落ち着け。どうやらこの人狼はかなりの高齢っぽいし、ボケから来る人違いの可能性も十分あり得る。


 くそったれ。こういう時に選択制なら楽なのに。俺がコミュ障だったらガチで詰んでたぞこれ。


 「爺さん、あんた誰かと勘違いしてるんじゃないか? 俺は影人なんて知らないが」

 「はて、そんな事はあり得ぬでしょう。主の顔を見間違えるほどボケてはおりませぬぞ」

 「主って……あー、だから、その……そうっ、何も覚えてないんだよ」


 そういう事にしておいた。実際何も知らないのだから嘘は言ってない。


 「なんと、まさか記憶が……いや、十分にあり得る事ですじゃ。あれだけの深手を受け、長い眠りに入られたのです。

 そういった障害も起こって然るべきでしょう」

 (苦し紛れの適当発言だったが、何か勝手に解釈して納得してくれてる。面倒だからそういう事にしておこう)

 「ふむふむ……これ皆、整列せんか。ウルガもいつまで腰をぬかしておる。シャンとせいシャンと」

 「は、はいっ」


 俺からしてみれば、この爺さんの方が何者なんだよって感じだ。

 あれだけ殺気立っていた人狼達がおとなしく隊列を組み、王もまた改めて玉座に座った。


 「爺さん、あんた」

 「ほっほっ、儂のことをクソジジイと呼んでおられた影人様が爺さんですか。本当に丸くなられた」

 「あー……過去の俺がすまん」

 「よいのですじゃ。認識されておるだけでも嬉しゅうございましたので」


 クソジジイ呼びを喜ぶ奴も早々居ないだろうに。って待て! この爺さんさっき150年とか何とか言ってなかったか!? その頃からクソジジイ呼びって、コイツ今いくつ!?


 「おい、おいケルファ」

 「は、はっ。何でしょう」

 「人狼族の寿命ってどれくらいだ」

 「実のところ人間と然程変わりませぬ。長老がやたらと長命なのは……某達にとっても、長老だからと納得せざるを得ない程度には謎の存在でして」

 「それでいいのかよ……マジで何者なんだ」

 「某としてはナナシ様の方こそ何者なのか気になるところですが。あの長老が他者に頭を下げるなど本来あり得ぬ光景故」

 「何者って言われてもなぁ。闇の精霊と人間のハーフってことくらいしか俺も知らん」

 「え……?」

 「え?」

 「ももももも申し訳ありませぬぅぅぅぅぅ!!! まさか、まさかっ、闇人(・・)様だとは露知らず! これまでの無礼な態度、どうか! どうかご容赦をぉぉぉぉぉぉ!!!」

 「急にどした!?」


 ハーフだと伝えた途端、会った時と同じく地面に顔を叩きつけるケルファ。いきなり過ぎて理解が追いつかず、そうこうしている間に周りもザワザワと騒ぎ始めた。


 「闇人様だって!?」

 「あのお方が!?」

 「まさか、伝説は本当だったというのか!?」

 「ぜ、全員跪け! 機嫌を損ねれば魂を刈られてしまうぞ……!」

 『ハハァーッ!!!』


 揃いも揃って人狼達が俺に頭を下げている。心なしか体は震えており、どう見ても怯えている様子だ。


 「ほっほっ、そういえば若い者には影人よりも闇人の方が馴染み深かったですかな」

 「なんだよ、その影人とか闇人って。説明してくれ」

 「儂らは太古の時代より闇の精霊様を崇拝してきた身ですじゃ。その精霊様と他種族との間に生まれたお子を影人、或いは闇人と呼ぶのです。

 儂らは代々影人様に仕えてきた身。故に貴方様は、儂らを束ねる真なる支配者と言えるでしょう」

 「お、おぅ……」


 あれか、教団みたいなものだろうか。でも精霊を崇拝してるのに、ハーフの方に仕えるのは何でだ?

 そもそもアノマスにおける精霊ってのがどういう存在なのかもまだ分かってない。意思疎通の出来る相手なのか、或いは自然現象的な実体を持たない存在なのか。うーん……まだちょっと世界観を掴みきれないな。


 「ウルガよ」

 「はい、親父殿」

 「お主の()に今の影人様はどのように映っておる?」

 「……とても、恐ろしく見えます。魂が幾重にもなっているような、暗く、底が見えない深淵と言ったところでしょうか」

 「うむ、上出来じゃ。じゃがそれも随分と小さくなられてしもうた。さて影人様、知っての通り儂ら人狼は強者による支配を望む者。

 であればこそ、今の影人様に仕えるだけの価値があるのかを見極めなければなりませぬ。

 無礼なのは重々承知。ですが、相手が影人様と言えど弱者に頭を垂れ続けるほど儂らは物分りが良い方ではありませぬ故に、どうかご理解いただきたい」


 老人のくせに……いや、長い時を生きた老人だからこそか。その鋭い眼光が俺を射抜く。

 この展開もまぁ予想の範囲内だ。リアルでもポッと出の新人に仕切られるのは嫌だって人は多いだろうし。


 分かる、うんうん分かる。けどな。


 「あのさ、別にこっちは仕えてもらわなくて結構なんだよ。そもそも此処に来たのは、ケルファが死ぬほど鬱陶しく頼み込んできたからであって俺の意思で来た訳じゃない。いやまぁセーフエリア目的だから俺の意志と言えなくもないが……。

 まぁ何にしても仕える仕えない云々で揉められても正直知ったこっちゃない事だ。勝手に話を進めないでくれ」

 「……ふむ、確かにそうですな。ケルファよ、何故影人様をお連れしたのじゃ」

 「は、はい! それはその……某の妹を、お救いいただけないかと思い……その……」

 「あー、よいよい。理解したわい」

 「ケルファ、お前の妹であるロロは大事な生贄だ。御方の怒りを鎮める為、その願いは諦めろと散々言い含めてきた筈だが?」

 「で、ですか長! 某はやはり納得できませぬ! 確かに生贄を捧げれば災いは免れましょう!

 しかしそれも一時凌ぎ! 時が空けば再び新たな生贄を捧げて、そんな事をこの先も続けていくと言われるのですか!」

 「従わねば滅ぶのは我らだ。受け入れよ」

 「くっ……長はっ、長はそればかりではないですか!」

 「くどい! そもそも本人は生贄になる事を望んでいる! その意思を否定する事こそ、ロロの覚悟を踏みにじっているのではないか!」

 「死にに行く覚悟などくだらない! 強者の意志に従わねばならぬと言うのなら、此処に居られるナナシ様にこそ従うべきだ!

 ナナシ様は鉄のスケルトンを単独で見事討伐した存在! 果たして長に同じ事ができますか!」


 いやだから従える気なんて無いし、助けるとも言ってないのよ。


 「だからそれが信じられぬと! ……あ、あの闇人様、ケルファの話していることは……」


 ケルファと言い争っていた長がいきなり俺に話しかけてきた。ケルファとの対応の落差に思わず転けそうになるのをグッと堪えた俺を誰か褒めてくれ。


 長の威厳台無しじゃねーか。ケルファと話してる時も俺の方チラチラ見ながらずっとビクビクしてるし……そういや爺さんが()とか言ってたな。もしかしなくても長には他の奴には見えない何かが見えている? ……まぁいいや。


 事細かにスケルトン戦を説明するのは流石に面倒くさい。なので、手っ取り早く討伐の証を見せてやることにした。

 お察しの通り鉄のスケルトンからかっぱらった長剣である。


 手早くインベントリから取り出すが、重過ぎて持ち続けるのは無理なので地面に突き立てた。途端、再び周りがざわつき始める。


 「おいあれ!?」

 「あぁ、間違いないぜ。奴の剣だ」

 「ってか今、どっから出した……?」

 「鉄の長剣……! 本当にあれを倒したというのか。信じられん」

 「ちと苦戦したけどな」

 「ご覧の通りです長! 某もこの目でナナシ様がスケルトンにとどめを刺す瞬間を目撃しております! だからこそお連れした!」

 「ぬぅ……」


 人狼達の分かりやすい狼狽え方から察するに、どうやら鉄のスケルトンとはそれだけの存在だったらしい。

 プレイヤーにとっちゃ単なる中ボスでも、NPCにとってはとんでもない脅威だったのだろう。あの恐怖デバフ以外は割と普通だったけどなー。


 「長! どうかご再考を! ナナシ様がいらっしゃれば、長年続く負の連鎖を断ち切れるやも――」

 「こら待てバカ」

 「キャン!?」


 肝心の俺を置いてけぼりにしてガンガン話を進めていくケルファの暴走を止めるべく、後ろから尻尾を鷲掴みにしてやった。

 何となくで掴んでみたが、ヘロヘロと腰をぬかして蹲ったのを見る限り、どうやら尻尾は人狼の弱点らしい。覚えとこう。


 「勝手に話を進めんなって言ったばかりだろうが。俺は一言も協力するなんて言った覚えは無い」

 「そ、そんな……ナナシ様、何故……!」

 「何故も何もお前が勝手に暴走してるだけ――って、そんな世界の終わりみたいな顔するなよやりづれぇな」


 ケルファにとって俺は唯一の希望なのだろう。それこそ藁にも縋る思いなのかもしれない。

 だけど俺だって聖人君子ではないし、誰彼構わず助けまくる脳内お花畑なアニメの主人公ですらない。こちらに利が無いなら受ける理由も無い。


 これが単なるNPC相手ならゲームと割り切って脳死でクエスト了承してたんだろうが、意思疎通も自由自在なアノマスなら話は別だ。

 絆とやらが攻略の鍵になっている以上、それを更に強固にする為にもここで受けてはいけない。


 まずはこちらの意思をハッキリと伝える。


 「第一に、お前の妹を救うにあたって俺にメリットが無さ過ぎる。

 第二に、考え無しで了承するにしても今の俺だと実力が不足している可能性がある。

 第三に、俺は悪党じゃないが、善人ってわけでもない。

 以上の事からお前の依頼を受けるべきではないと判断した。俺が失敗すればお前だって立場を悪くするだろうし、下手をすればお互いに損をするだけだ」

 「……」


 言葉を重ねる毎にケルファがどんどん縮こまっていく。長に対してあれだけ吠えていた姿は今や見る影もなし。


 落ち込むのは勝手だが、人の話は最後までちゃんと聞くように。


 「そこでだ。お前には相応の報酬を用意してもらいたい」

 「報酬、ですか?」

 「タダより高い物はないって言うだろ? 見返りを求めず助けてやろうなんて言う奴は、この世で一番信用できないもんだ。

 だからこその報酬だ。お前を助ける代わりに……そうだな、寝床に食事、あとは武器の提供をしてもらいたい。とりあえず当面はそれで何とかなるだろうし、どうだ?」

 「も、もちろんです! 用意できる物で最高の物を提供いたします!」

 「決まりだな。そんで、人狼族の長さんよ」

 「は、はいぃ!」

 「そんなビビんなよ……。肝心のアンタの了承を得ない事には始まらない。ケルファの依頼を達成する為にも、此処に居る許可を貰いたいんだ。

 まぁ断らないよな? 長剣を見せた時の反応から察するに、俺はアンタ達の言うところの強者ってやつらしいし」

 「と、当然です。好きなだけ寛いでもらって構いません。親父殿もそれでよろしいですか?」

 「ほっほっ。今の長はウルガじゃ。長の決定に従うのは当然じゃて」

 「では、そのように。ケルファ、闇人様を部屋に案内して差し上げろ。くれぐれも粗相のないようにな」

 「は、はい! ありがとうございます!

 ナナシ様も、このご恩は一生かけてでもお返しいたします故!」

 「まだ何も解決してないのに気が早いっつの。とりあえず案内してくれ。あー、あと何か食べる物があるとありがたい。いろいろと限界だ」

 「おまかせください!」


 空腹ゲージも真っ赤。あと何よりも現在時刻がもうじき深夜2時になる。いい加減に寝ないとリアルの俺がヤバイ。


 でも、とりあえず最低限の環境は確保できたと言っていいだろう。交渉一つでこの成果。他のゲームじゃこうはいかない。

 NPCと自然な会話を実現できてるアノマスならではの方法だな。もう少し欲張ってもよかった気もするが、それで絆とやらに溝が出来ては意味が無い。時には我慢も大事だ。


 ……さて、残る問題はケルファの依頼だが。



 『 メインクエスト 人狼族の苦悩を開始しました 』



 視界に浮かび上がる文字にため息を一つ。

 言ってみれば現状は挨拶を済ませた程度。ここからが本番なんだが、ケルファと遭遇した時の会話を思い出すとどうしても乗り気になれなかった。


 (妹ちゃんを負かして結婚。しかも相手は人狼だろ? ……無いなぁ)


 次なる障害をどう切り抜けるか。今のうちに考えとかないとな。初っ端のメインクエストが恋愛絡みとか胃もたれするっつの。


 こんな事なら前に小春に勧められた恋愛漫画を読んでおくべきだったぜ。

 まぁ、相手が人狼の時点で参考もクソも無かっただろうが。俺にそっちの気は無いのだ。


 「腹括るかぁ」

 「ナナシ様?」

 「何でもねーよ。それより案内頼むぞケルファ」


 悩んでても仕方ない。超リアルとは言えアノマスだってゲームなのだ。伊達に数々のゲームを制覇してきたわけではないのだから、何とかなるだろ、うん。

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