表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/18

第03話 訓練場の現実と傲慢

本日は3話更新です。

15時、17時、19時に三話更新します。

 召喚から一週間、王都の訓練場では今日も勇者たちが歓声を浴びていた。

 稲葉亜蓮(いなばあれん)が剣を振るい、魔法の光を纏いながら木製の標的を叩き割る。

 その後ろで、加藤理奈(かとうりな)が神官服を翻し、癒しの光で彼の肩の傷を瞬時に治した。


「やっぱ俺たち、最強じゃね?」

「ふふん、当たり前じゃない。神の加護を授かったんだから」


 互いに笑い合いながら、誇らしげに手を振る二人。

 兵士たちは拍手を送り、神官たちは跪いて祈りを捧げている――だけど、私にはその光景がまるで悪夢に見えた。


(……一週間で、ここまで酔うのか)


 力を与えられた子どもほど、扱いを誤る。

 それを何度、現実の戦場で見てきただろう。

 訓練場の隅で腕を組み、私は勇者たちを眺めていた。

 亜蓮が剣を振り、理奈が光を操り、茜が支援魔法を展開する。

 周囲の兵士たちは称賛し、神官たちは神の奇跡と讃えていた。


 ――だが、誰も気づいていない、その瞳に宿り始めた傲慢を。


「……彼ら、まるで子どもみたいだね」


 隣から声がしたので振り向くと、斎藤望(さいとうのぞむ)が立っていた。

 分厚い魔導書を抱え、冷めた目で訓練場を見下ろしている。


「まぁ、子どもだからな……お前もだろう、望?」

「はは、そうですね」


 柔らかく笑うその声に、どこか芯のない響きを感じる。

 私は短く答えた。


「力を与えられた人間が最初にするのは、敵を倒すことじゃない――自分の力を試すことだ」


 望は小さく口角を上げる。

 穏やかな笑みなのに、どこか観察者めいていた。


「……美咲さんは、見えてますね?」

「何がだ?」

「ここにある危うさですよ。でも、僕は嫌いじゃない、人が慢心していく姿を見るのって……面白いですから」


 その言葉に、私は眉をひそめた。

 彼の声は優しい。

 けれど、その奥に潜むのは、好奇心か、あるいは――狂気か。


(一番危ないのが、やっぱり望だな)


 そう思いながらも、言葉にはしなかった。


   ▽


「王国兵との連携訓練、開始!」


 訓練官の号令に、空気が熱を帯びる。

 勇者班と兵士隊が陣を組み、模擬戦が始まった。


「亜蓮、前に出るな。まず陣形を整えろ。補給線を確保して――」


 私は冷静に声をかける。

 だが返ってきたのは、鼻で笑う声だった。


「うるせぇな。戦いのことなら俺に任せとけよババア」


 理奈も笑いながら光の魔法を構える。


「現実の戦争と違うんだし、もっと派手にいこうよ!」


 茜だけが小さく眉を寄せた。


「でも……一応、藤堂さんの言ってることも――」

「茜、あんたまであのおばさんの味方すんの?」


 理奈の声が鋭く響く。

 茜は唇を噛んで黙り込んだ。


「行くぞ、突撃だ!」


 亜蓮の叫びと同時に、光が弾けた。

 轟音、爆風、そして結界を突き破る閃光――模擬のはずの戦場が、瞬く間に【現実】へ変わる。

 砂煙、焦げた匂い、そして聞こえてくる悲鳴。

 灼けた鉄と血の臭気が鼻を突いた。


(まただ……結局、どの世界でも戦場は変わらない)

「や、やべ……そんなつもりじゃ――!」

「亜蓮!後ろ見て!」


 理奈の声が裏返る。

 地面に倒れた兵士の肩には、木片が深く突き刺さっていた。

 赤い色がじわりと石畳に広がっていく。

 私は考えるより先に走っていた。

 膝をつき、布を裂き、血を押さえつける。


「大丈夫動かないで。すぐ圧迫する」


 声は冷静だった。

 けれど、胸の奥では心臓が痛いほど鳴っている。

 何度も繰り返した動作――でも、救った命より救えなかった顔の方が記憶に残る。


「……あの人、本当に何者なんだ?」

「軍医のようだな……」


 周囲がざわめく。

 けれど、輪の外から理奈の叫びが響いた。


「この人が余計なこと言うからよ!私たち、調子狂ったじゃない!」


 震える声。恐怖と責任の色が混じっている。

 茜が口を開きかける。


「でも……彼女の言ってた通りにしていれば――」

「黙ってて!」


 理奈の怒声に、空気が一瞬で冷えた。

 私は何も言わず、ただ血を押さえる手に力を込めた。

 焦げた空気の中で、血の温度だけが妙に生々しい。


(……これが、【勇者】か)


 遠くで神官たちが記録を取っている。

 無機質な目、まるで死体の数でも数えるように。


(多分、きっとそろそろ私はいらない存在になるだろうな)


 そう思った時、背後から声がした。


「……やっぱり、美咲さんは綺麗だよ」


 突然の声に、振り返る。

 そこに望が立っていた。

 淡い光を背に、静かに笑っている。


「戦ってる時の美咲さんが、一番綺麗だ」


 その言葉で指先が止まる。

 その声は優しいのに、底が見えない。

 壊れていくモノに恋するような眼をしていた。


「望……今は、そういう話をしてる場合じゃない」

「いや、僕はあなたがどう壊れていくのか、ちゃんと見ておきたくて」

「何を――」


 言いかけた瞬間、空気が止まった。

 世界の音が消え、望の姿が別の何かに見える。

 瞳が、氷のように光を失っていた。


「……僕は戻りますね、美咲さん」


 柔らかく笑い、背を向ける。

 その笑みが、ひどく冷たく感じた。

 私は深く息を吐く。

 手の中の血の温度だけが、私を現実につなぎ止めていた。

 だが、沈黙を破るように背後から声が落ちた。


「すまない、君……名は?」


 振り返ると、銀髪の青年が立っていた。

 紺のマントに王家の紋章を刻み陽光を背に受けている。

 その姿は絵画のようで、近づく風さえ息を潜めた。


「……藤堂美咲です。ミサキで構いません」

「そうか――君のような人を、もっと早く知りたかった」


 その声は、まるで救いのように響いた。

 けれど、私は知っている。

 優しさの裏にこそ、世界を変える力が潜んでいることを。

 兵士たちがひざまずき、神官が祈りを捧げる。

 夕陽の赤が、白い城壁を染めた。


(ああ……やっぱり)


 その光は、戦場の火と同じ色だ。


(……戦場に戻るのは、嫌だなぁ)

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!

ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ