第14話 セドリオの警告
夕暮れの庭に、子どもたちの声が響いていた。
空の色は茜に染まり、噴水の水面が金色に揺れている。
「ママー! 見てて! 新しい魔法、覚えたよ!」
ルシアンが木の枝を杖代わりに振り回し、庭石を相手にエア戦闘をしている。
動きが大げさすぎて、どう見ても芝居がかっているけれど――本人はいたって真剣だ。
子どもの成長は、目に見える。
姿勢も言葉遣いも整ってきたし、生活のリズムも安定してきた。
いつの間にか、魔王の息子ではなく普通の子供のように楽しく、無邪気に遊んでいる。
(悪くない……というか、けっこう幸せだ、これ)
私は木陰のベンチに腰かけ、小さく目を細めた。
背中にあたる夕陽のぬくもりが心地よい。
ルシアンの笑い声が聞こえる。
このまま、ずっとこんな日が続けばいい――そう思った、その矢先だった。
「失礼……少し、お時間を。」
低い声に、私は顔を上げた。
木々の影から、セドリオが歩いてくる。
いつもの穏やかな笑みはなく、目元がわずかに険しい。
その手には封書――魔王直属の報告文書が握られていた。
胸の奥で、わずかに冷たいものが広がる。
「……嫌な顔してるな。何の用だ?」
「用件は簡潔に……緊急度は中、重要度は高です。」
セドリオは視線だけで子どもを避けるように促した。
私はすぐに察し、ベンチを離れる。
「ママ、どうしたの?」
「ごめん、ちょっとそこで待っていてくれる?」
「うん!」
笑顔で返事をするルシアンを見ながら、私は離れた場所に移動する。
人の気配が途切れた場所で、セドリオは小さく息をつき、声を落とす。
「あなたが追放された国で【再召喚】の儀式が行われたようです。」
その言葉を聞いた瞬間、空気が変わった。
胸の奥で、何かが“きりり”と音を立てて切り替わる。
「……また、日本から?」
「そうですね……確認は未了ですが、召喚座標の記録は貴女のいた世界と一致しています」
「なんでまた……」
思わず、奥歯を噛んだ。
喉の奥に、あの頃の鉄の味が蘇る。
セドリオは視線を落とし、淡々と続ける。
「前回の召喚者の一部が、消息不明です。処理されたか逃げたか……いずれにせよ、儀式の目的そのものが再構築されている可能性が高い。」
「……つまり次の勇者ってわけね。」
そう口にした瞬間、風が一瞬止んだように感じた。
セドリオは静かに頷く。
「そして――その動きが、こちらに向かってくる可能性も否定できません。」
「……そう、か」
短く答える声が、自分でも驚くほど低かった。
背筋が自然と伸び、指先の震えが消える。
表情から柔らかさが抜け落ち、視界が冴える。
――戦場に戻る準備をする体。
長年の訓練が、反射のように心を引き締めていく。
「……次は、守る側で戦う。」
ぽつりと呟いたその声には、もう迷いはなかった。
誰かの命令でも義務でもない。
これは私自身の意志。
前の世界で、守れなかった命がある。
だからこそ――今度こそ。
胸の奥で、あの少年の顔がよぎる。
――斎藤望
(……あんたは今、どこで何をしてるんだろう。)
あの目、あの声。
戦場の夜明けに見た、あのまっすぐな瞳を思い出す。
もし、また相まみえることがあるなら――
「……その時は迷わない。」
言葉が、静かに風に溶けた。
誰に聞かせるでもなく、ただ自分の芯に刻むように。
夕陽がゆっくりと沈みはじめる。
茜色が、夜の青に溶けていく。
穏やかだった日常に、ひとすじの影が差し込んだ。
その影は、もうすぐ嵐に変わるかもしれない。
けれど私は、もう逃げない――守るために、生きる。
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