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三題噺もどき4

事情

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくさんじゅう。

 




 細い三日月が浮かんでいる。

 うっすらと雲が覆っているが、所々に光る星はよく見える。

 最近はいい天気が続いていて気持ちがいい。

「……」

 時計の針はもう既に真上を過ぎている。

 この時間にこの住宅街を歩いている人間はほとんどいない。

 居るのは猫くらいで、人影が見えても大抵はこの世のものではない。

「……」

 マンションの玄関ホールを出で、特に行き先も決めずに歩いている。

 雨が降ったり、仕事が押したりしない限りは、毎日行っている散歩だが、案外その度に新しい発見というモノがあったりする。

 まぁでも、今年は結構な頻度で公園に行ったり、たまに墓場にも行ったりしていたから、割と行き先は決まっていたことがほとんどかもしれない。

「……」

 今日はそのどちらにも行く予定はない。

 墓場はもともとそんなに頻繁に行くところではないし、公園も一昨日行ったので今日はなしだ。昨日は買い物がてらだったから、24時間営業のスーパーに行った。

 相変わらずあの店員がいたが、新しく入ったと言っていた顔は見なかった。やめたのだと。まぁ、色々あるのだろう。事情が。

「……」

 人間だれしも、事情というのを抱えている。

 適当に歩きながら、散歩がてら並ぶ家を見ているだけでも、様々な事情が見えてくる。

 ある家には、こんな時間でも電気のついた部屋がある。私のような夜型なのか、それとも学生が夜更かしでもしているか。はたまた勉強をしているのか。

「……」

 ある家には、庭に小さな小屋がある。

 その中には首輪でつながれた犬が小さく寝息を立てて眠っている。ときおり耳が動き、あたりを探るような仕草を見せる。鼻がひくひくと動いたと思えば、突然ぱちりと目が合う。

「……やぁ」

 賢い犬なのか、吼えはしないが、目を離しもしない。

 あの公園にいる犬もこれくらい警戒心と賢さがあればいいのだけど。

 ……まぁ、あの犬はそもそも存在してはいけないものだから、いる事自体がおかしいのだけど。遊べると気づかせた私が悪いからな。

「……」

 その少し先の塀には猫が歩いていた。

 首輪はついてないから野良だろう。それとも地域猫というやつだろうか。野良の割には毛艶がいいし、痩せてもいない。しかし色が黒いから、こう暗い夜だと影に隠れてしまうな。それもそれで、自己防衛にはなるのか。カメレオンと同じように。

「……」

 また別の家には、ベランダに洗濯物が干されていた。

 夜風に揺れるその姿は、見間違えたら幽霊にでも見えるかもしれない。

 白いシャツだからなおの事、月の光に絶妙に中てられてゆらりと揺れている。

 我が家は洗濯を浴室乾燥で済ませるから、ああいう景色は見れないな。見れなくてもいいが。

「……」

 更に歩を進めると、花の咲き誇る家がある。

 季節ごとに植え替えているのか、それとも自然と生えてくるのか。色とりどりの花が季節問わず咲いている印象がある。

 しかしこれは植えたものだろう……立派な向日葵が咲いている。今は夜だから、下を向いているけれど、あの黄色は案外月光でも映えるものだ。

「……」

 そろそろ夏も終わる頃だろうか。

 この向日葵も種を落として、小さく萎んでいくのだろう。

 蝉ではない虫の声も聞こえだしている。このまま、すんなりと秋になってくれればいいが。

 そう簡単にも行かないのだろう。

「……」

 しかしまぁ、まだ暑さは残るものの。風は確かに涼しくなりつつある。

 季節は移り、抱えた事情も案外終わりを迎えるかもしれない。

 他の何かに移るだけかもしれないが、それはそれ。その時に動くのだろう。人間というのは生きて生き抜くのは上手い。

「……」

 さて。

 私も帰って、生活するために仕事をしなくては。





「ただいま」

「おかえりなさい」

「――何を作ってるんだ?」

「お楽しみです」










 お題:カメレオン・時計・洗濯

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